花嫁の魔方陣

そらうみ

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第1章

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 気分転換に散歩に出たマーカスは、城の中庭へとたどり着いていた。
 そこではちょうど、城の騎士たちが訓練を行っていて、その騎士たちの中心に、ひと際目立つ人物がいた。
 その人物は、燃えるような赤い髪をしていて、遠くからでもすぐに分かる。
 髪色のせいで目立っているのかと思ったが、大勢の騎士たちの中心でも凛とした態度で立っており、外見だけではない、何か特別なものがあるように思えた。
 ちょうど今、一対一での手合わせをしていたが、赤い髪の人物は動きに無駄がなく、剣を握らないマーカスでもその人物が強いのだと分かった。

 マーカスが遠くからその人物を眺めていると、何故か向こうもマーカスの視線に気づいたようで、手合わせを止め、マーカスの方へと歩いて来る。
 マーカスは自分に向かってやってくる人物を見て、どこか懐かしいという気持ちがした。けれど、実際に出会った記憶はなく、ただじっとやって来る人物を見つめていた。
 赤い髪の人物はマーカスの目の前で立ち止まると、優しい笑顔をマーカスに向けた。
「こんにちは、弟の花嫁さん。こんなところでどうしたんだい?」
 彼はこの国の第一王子であるディルク王子で、マーカスと直接話すのはこれが初めてだった。
「少し気分転換に散歩を」
「気分転換?弟と何かあったのか?」
「いや…例の魔方陣の解除が思ったよりも難しくて…」
「君は本当に弟の花嫁ではないのか?」
「違いますね」
 即答するマーカスを、ディルクがじっと見つめる。マーカスは嘘ではないと言うように目を逸らさない。
 ディルクはしばらくマーカスを見つめていたが、やがて再び口を開く。
「この場所から、私の訓練の様子を見ていたようだが?」
「ええ。武器に魔力を込めるのがお上手ですね」
 マーカスがそう言うと、ディルクは少し驚いた様子で真剣にマーカスを見つめる。
「…他には?」
「魔力の使い方が面白い。色々と試しているのだなと思いました」
 すると、ディルクの表情が揺らいだ。
「君は正直者なんだな」
「え?はぁ、そうですかね?」
「君が弟の花嫁として召喚されたことを、父上も私も、とても喜んでいるんだ」
「…だから俺は花嫁じゃないってーーー」
 すると、ディルクはマーカスに近づき、顔を寄せて耳元で囁いた。
「君は弟の花嫁ではないと言ったが…私としては、ぜひともこの城に残ってもらいたい」
「は?」
「何か困ったことがあれば遠慮なく言ってくれ。私に出来ることがあれば、なんでも協力するよ」
 ディルクはそう言うと、マーカスから背を向けてその場を離れた。



 「昨日、兄上と何を話していたんだ?」
 次の日、書庫で机に向かっているマーカスに、フィリップが傍に立って話しかけてきた。
 マーカスは気にすることなく、作業を進めながら答える。
「特に?」
「何も話してない訳ではないだろう。中庭にいた騎士の者たちが、兄上とお前が親し気に話していたと言っている」
「親し気って…会話したの一瞬だぞ?本当にたいしたことは話してないって。
 魔方陣の解読が難しいとか…そんなことだけれど?」
「…」
 マーカスがフィリップに視線を向けると、そこには疑うような目のフィリップがいた。

 ディルクが俺に、弟の花嫁として現れたのが嬉しいと言われたことは…言いたくないな。

 マーカスは話題を変えようと、ふと思いついたことを尋ねる。
「なぁフィリップ、お前の兄も、あの魔方陣を使ったんだろ?」
「あぁ」
「それで召喚された人と結婚したのか?」
「そうだ。マリア姉上だ。辺境の地の貴族出身で…とても美しく、優しい方だ」
 そう言って、フィリップの視線が下を向く。
 そんなフィリップに気にすることなく、マーカスが質問を続ける。
「そのマリアって人は兄とは仲が良いのか?」
「もちろんだ。兄上と姉上は仲が良い…というより、2人を見ていると互いに必要としあっているような、尊敬し合っているような感じがする」
「へぇ、じゃあ両親も仲が良いのか?両親も召喚で出会ったんだろ?」
「そうだ。父上と母上も2人にしかないような…2人だからこそのような特別な雰囲気がある。
 代々、召喚によって結ばれた者たちは、本当に幸せになったと言われていたんだ…だから…」

 あー…フィリップはだいぶ花嫁に期待していたようだな。けれどその話を聞いて、ますますこの魔方陣が不思議なものに思える。一体どういう召喚なんだ?

 マーカスが大人しくなっているフィリップに声を掛ける。
「まぁ、世の中に絶対なんてないしな。今回の召喚は何か条件が悪かったんだろう。
 それにフィリップの両親や兄夫婦だって、見えないところで喧嘩したことだってあるかもしれないし…」
 フィリップが顔を上げ、ぐっとマーカスを睨んだ。
「それは…あるのかもしれない。けれど、今の私たちの様ではなかったはずだ」
「なんだよ。俺たちだって、喧嘩するほど仲良しかもしれない」
「おい。本気で言ってるのか?」
「嘘です。今のは間違えた」
「…解除の方はどうなんだ?」
「まだ時間がかかる。正直、魔方陣の独創性が酷くて分かりにくい」
「ではやはり…解けないのか?」
「いや、足掛かりさえ分かれば、あとは一気に解析出来るんだ。もう少し時間をくれ」
「…」
 フィリップは何も言わずにその場を立ち去る。再び一人になったマーカスは、天井を見上げながら考える。

 もし、魔方陣にフィリップの理想の花嫁が現れていたのなら…あいつはどんな顔をしていたのだろうか?
 きっと、今の俺に対して睨むようなことはなかったはずだ。きっと、あの顔で嬉しそうに笑ってーーー。

 「あいつ…笑えるのか?」

 無意識に口に出していたマーカスは、別に気にしないといった様子で再び作業へと戻っていった。
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