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選考

手の内

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脳筋の男は闘技場で痩せ型の男を目の前にしながら、相変わらず説得をしようとしていた。
痩せ型の男を既に相手にしておらず、ウォーミングアップをしていた。
「勝負になるのかな。」
リョーの隣で虎丸は少し退屈そうに呟いた。
虎丸の言う通り、パッと見た感じは勝負は一瞬でカタがつきそうであった。
残念ながら、その予想はよく漫画やアニメであるような展開ではない。
脳筋の男が勝つであろうと虎丸も思ってる様であった。
両者、武器を手にし、向き合うとリョーは開始の合図を出した。
脳筋の男は手にしていた手斧を少し振りかぶり、そのまま痩せ型の槍に小手調べ的に当てると、槍は地面に落ち、そのまま痩せ型は後ろに尻餅をついて、負けを認めた。
猿芝居を目の前で見せられた気分ではあったが、それに対して何も言うつもりもなかった。
見てた観客は一瞬、ザワッとしたが、直ぐに静まった。
他に闘技場に降りていた者達の中には少し顔を曇らせた者も居たが、目の前で行われた茶番に呆れた表情を浮かべる者の方が多かった。
そして、次は誰かを選ぶのかとリョーの方を見ていた。
リョーは少し面倒くさそうに。
「0~10の好きな番号を選んで、同じか近い数字の相手とでいいよ。………あっ、もし同じ数字が三人以上だったら、その中で一枠を奪い合ってもらう。」
つまりは最悪、この中で一人になるかもしれない。
その結果、意外と上手くバラけてくれた。
茶番だったのは最初だけで、他の5試合はそれなりに見れるものであった。
明らかに実力差があり、可哀想に感じるモノはあったが。
その試合を見ていた脳筋の顔色は良くなかった。
茶番で勝ち上がった所で余計に強い相手と戦う事になるとは考えなかったのかと少し心の中で呆れていた。
「では、他に希望者がいないなら……後日の選考会で。」
リョーはそういって、切り上げようとしたが、観覧席の一人から。
「仕える人の実力も少しくらい見せて貰いたいな。本当に仕えるのに値する人物なのか。」
リョーは顔色一つ変えずに。
「その発言は看過できないな、近衛騎士への推薦者を選考するこの場で。」
観客席の男は吐き捨てるように。
「そんな建前は良いんだよ。本来の目的はイグランド家の戦力強化なんだろ。」
リョーはその男を見ずに。
「囀るな。何を勘違いされてるのか知らぬが、目的はあくまでも近衛騎士へ推薦に値する人物を選考する事である。」
一度、そこで言葉を区切ると。
「そんなに焦らずとも、もう少し人数が絞れれば……実力を見せてもらう機会もあるかもしれぬ。」
その言葉に先程まで退屈そうにしてた虎丸の眼が光った。
リョーは心の中で。
“いゃ、虎丸には言ってないよ。……そんな目を輝かしても……。”
リザードマン達には協力してもらうつもりだったが、虎丸やルドラに協力してもらうつもりは全くなかった。
だが、虎丸が協力する時点でルドラだけを除外する訳にもいかなくなった。
リョーはやり場のない怒りを抱えながら。
「……それともこの場で決闘でも申し込んでくれるのか?」
怒気を込めた眼差しを向けた。
観覧席の男は急にしどろもどろになり。
「だ、誰もそんな事は………。」
イグランド家の次期当主に決闘を挑む程の度胸がある訳もなく、黙り込んでしまった。
「なら、今回はこれでお開きにする。」
リョーはその言葉を残し、その場から立ち去った。
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