如月デッドエンド

音音てすぃ

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004.2/17

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 今日は朝から雪が降っていて一日中校庭に日光が射し込むことはなかった。結露した窓ガラスを眺めながら僕の一日は夕方を迎えた。授業なんてそれどころではなかった。
 寒い廊下をこえて渡り廊下を行く。結局今日は脛まで積もったみたいだった。
 部室に着いてみると部屋はひんやりしていて一番乗りだった。
 はぁと息を吐いてストーブを付けた。
 椅子を引いて勢いよく座った。ポケットに手を入れながらもう一度息を吐く。
 白い息は天井に登る。照明付けるのわすれてたわ。
 その後二時間座りっぱなしで時間を潰した。誰も部室にはこなかった。
 暗い部屋のストーブを消して帰宅、夕食を食べてから高校近くの工場跡地へと向かった。

「倉庫ね、葛城優乃さんがこっちにいた頃はまだ動いてたのかな」

 送られてきた座標は高校から川を挟んで向こう側。21:00に家を出てこっそりと侵入した。多少積もった雪は誰の足跡もないことを教えてくれた。

「30分早く来ちゃった……どうしよ」

 黙っているだけで寒い!
 高校生の補導時間が近いので変な緊張で余計震えた。いいやこれはただの武者震いだと信じたい。

「ブーブー」
「電話?」

 体育館の半分程の大きさの倉庫の真ん中に侵入したところで携帯が鳴った。見慣れない番号だったがそれは葛城優乃だと分かった。実はお昼にメッセージアプリで場所を教えてもう目的で番号を麗乃に予め伝えていた。

「ハイ、音希田廻です」
「お早い到着関心するな。ご機嫌麗しゅう音希田廻君。葛城優乃でーす」
「準備は出来てますどこにいるんですか?」
「そう急ぐな。第一関門だと言っただろ?ひとます向かってもらったのは『燃えない男』彼を倒せない限り次はない。殺すつもりで来るだろうから君もそのつもりで。安心していいよ彼は人じゃないから」
「……はぁ?」

 今回の葛城麗乃に校外で接触してはないらない。という葛城優乃のお願い。これを破棄することのできるルールが設けられていた。それは『葛城優乃との直接対決で勝つこと』だった。僕はてっきり今日が優乃さんとの対決だと思って覚悟を決めてきた。だが今日は前哨戦らしい。

「なめてかかるなよ。ソイツは幽霊じゃないからな」

 車通りがピタリと止んだ。月明かりが工場跡地とその倉庫の中を照らしてくれている。無音に聴覚が研ぎ澄まされる。

「健闘を祈る」

 ガチャりと電話が切れて水の音がする。無意識にアタックαを装備した。

ーーーーーー

 男は両手にポリタンクを持って倉庫の前に来ていた。錆び付いた機械たちを見回して一つを置いた。
 そして一つポリタンクを開けて、頭上から水を、麗しくも粘性のある音を立てながら浴び始める。
 空になるとそれを投げ捨て懐からマッチを付ける。
 小さい火花は一瞬青い光を立てると、男の身体の液体に着火し体が燃え始める。
 足元の雪は次第に溶けてゆく。全身が炎に包まれた男はゆっくりと倉庫へ近づいて行き、大きなシャッターの前でとまった。
 そして高熱の拳を鉄のシャッターへ突き刺した。その正拳突きは軽々と貫通し穴を開けた。そこからメリメリと音を立てて穴を広げて中へ侵入してきた。

「貴様が音希田廻だな」

ーーーーーー

 まるでホラー映画のような光景だった。
 真っ赤に染まり始めたシャッターは金属音と共に貫通し、ゆっくりとこじ開けられた。目の前にいるのは全身が炎に包まれた男だった。彼の服は燃えていないし皮膚も無事に見える。彼は炎を纏っているのだと直感的に理解した。そしてその不可解さに胸が高まったと同時に一筋縄ではいかないと思った。

「マジかよ……マジで燃えてるぜ」
「授かった名は『燃えない男』葛城優乃の命令により貴様を殺す。覚悟」

 雪のない倉庫内を歩いてくる。足の一部は燃えていなかった。
 コートを投げ捨ててファイティングポーズを取った。

「所詮人じゃない。さっさとやられろよ!」

 ゆっくり近づいてくる男に先制攻撃を仕掛ける。炎を感じる前に拳で撃ち抜いてしまえは良いのだ。
 男の左側にスイスイとステップでたどり着き貯めたストレートを放った。

「吹き飛べ!」

 狙うは顎一点。
 それは陶器を割った様な衝撃だった。右拳から伝わる感触は「手応えあり」だった。
 だが、僕の予想を遥に上回った男はカウンターに腹部へカウンターを入れてきたのだった。それは僕の体を軽々と吹き飛ばして倉庫の壁に壁打ちのように打ち付けた。

「こんなものか。いい拳だがそれだけでは我を討ち取るまでに至らん」
「───ウェぇぇ……クソッ」

 時速40キロメートル程で背中から激突、起き上がるのが精一杯だった。全身に痛みがはしり嘔吐感も込み上げてきた。

「そしてめちゃくちゃ熱い……」

 男のパンチは正に赤い鉄球だった。

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