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来た五月
12話 暗キャンプ
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「さむい……」
麗乃が体を両腕で抱きしめながらバンから降りる。
内藤先生がLEDランプを点灯させて全員にテントを2張り立てるように言った。
僕以外全員初心者で、手助けしながらテントを張ると、先生が焼き台を設置、火を起こし始めた。
「焼き」
「いいだろ?先生やりたかったんだ」
「ハルくんには新鮮に映る?」
「そうですね、僕あんまりアウトドア派ではありませんし」
新入生は緊張が解けないのか、主に会話を展開するのは二年の二人、僕は肉を焼くので精一杯だった。
「米も炊けたぞ」
「いつの間に!」
ある程度焼けたところで「いただきます」をしてから早速食べる……美味い。
美味い!
「……では僕の疑問点を話してもよろしいですか?」
雑談の中で僕が会話の種をまいた。
どうしてか、僕らは新聞部であり、この合宿の意味をあまり感じていなかったし、何よりも先生の動向が不信であった。
だから助手席に乗ったし、人ばかりをみて会話をしようとしなかった。
ただの楽しい会とは思っていなかった。
「どうした、急に。疑問なんて」
「先生、再度訊くようですが、どうしてこんな合宿を設けたんです?親睦を深めるとか、新歓、とか、まぁ分かりますけど以前の僕達はもっと雑に自由でしたよね」
「……まぁな」
「だからですね、言いたいのは、『他に理由があるでしょう?』ということなんですが……」
僕がここまで言うと、先生は吹き出したように笑い、まぁまぁすまんと言い、正直に話してくれた。
「そうだな、これはもう少ししたら言うことだったんだがもう言ってしまうことにする。俺は化学の教員であり新聞部の顧問だ。お前らの活動、先輩の活動を見てきた。そして周りの評価を加味した上でお前らが普通の部活動をしていないことも知っている。葛城の姉のせいだがな。俺は未だにチェーンソーだのリッパーだの信じてはいないが……教員というよりも一人の人間の個人的興味としてお前らが面白い。そして……」
長い前置きを踏まえ、僕はその次の言葉を待った。
この人はどこまで僕らが『新聞部』で『オカルト研究部』なのか、どこまでラインを付けているのか知れるとも思った。
教員に幽霊の話をすることは異常かもしれないが、一年間ここにいて、すでにその抵抗は薄れてしまった。
「お前らをここに連れて来たかった。ここから少し外れた所が有名な心霊スポットで、以前葛城優乃が『とっ捕まえてやる』と挑戦した場所でもある。不謹慎だと思うが、見ていて面白かったから放っておいたら失敗したと言っていたんだ。だから後輩のお前らと妹の葛城麗乃の六人ならば……何か……と」
「……あれです、とても教員とは思えません」
「先生そんなこと考えてたんですか?」
一年生は神田以外ポカンとしていて、補足してやろうかと思ったが、面白いから止めておいた。
「一年生には言ったのか?」
「いえ」
「というかなんで先生が都市伝説みたいなこと知ってるんですか?」
「いやお前ら結構有名だそ」
身内話が過ぎたところで間が手を挙げた。
「あの、私はあんまり確かな理由があって入ったわけじゃないんすけど、どうして『心霊スポット』とか『葛城さんの名前』とかが出てくるんです?新聞作るだけの部活じゃないんすか?」
そこで麗乃が焼き鳥の串を咥えて立ち上がる。
ブラウンの手振りを真似て自己紹介をした。
「我々の名前は『新聞部』だが裏では『オカルト研究部』と呼ばれた由緒正しき正義の味方!己の自己保身と探究心は忘れずに幽霊のことについて日々研究を重ねる部活なのだ!」
「色々間違ってるけど」
間が唾を飲んだような気がした。
そりゃ、神田が心配で入った部活がこんな怪しい部活だったなんて、僕も嫌だった。
けど、それは知らなかったで済まされるには悲しい出来事だ、僕は四月でそれを学んでいる。
安心はして欲しいな、これから危険なことなんて起きるはずがないし、僕も麗乃もハルもいるし。
「先輩たちって……よく言えねぇです」
間はガッカリしたように肉をつまみ始めた。
「なぁ櫻、なんでお前こんな部活入ったんだ?」
もしかして神田、託世くんの蘇生のこと言うのか!?
「それは……ね?今日のテントでいい?」
「あぁ」
上手く逃げたな。
僕は安心だよ、間のような人がいれば頼れるし、受け入れてくれそうだし。
僕もあんな関係に憧れてしまった。
「……で、てめぇは何でだ!」
「え僕……」
「つーか僕って何だよ合わねぇよ!俺でいけよ!」
「それは……なんでその話?」
間が持ち前の突っかかりでブラウンを攻撃し始めた。
いいぞ、ブラウンは不思議でいっぱいだ、かき乱せ!
「では、俺の入部理由ですね。それは……自分の頭がなぜこうなのか、それと失ったであろう記憶を取り戻すためです」
「難解だよな……てか先生どう思います?」
僕は米をかきこんで言った。
「俺は忙しいからな、そこはお前らでどうにかしなさい」
「……へぇへぇ」
当てにならんな先生は。
「それにしても入部理由が、新聞かきたいという人が一人もいない。オカルトな話となると……理由としては正しい。間、お前も神田のこと頼むぞ」
「い、言われなくても大丈夫っすよ」
それでも、麗乃でも間でも、神田の面倒を見きれるのは最終的に僕なのだ。
荒い仕事は僕だけでいい。
そうして不可解なことを解決した上で、男女に別れてテントに入った。
何故か先生は車中泊、許さない。
「寝袋、寒い」
僕たちは三人男でモソモソと寝袋に入った。
「では恋話でも」
「しねぇよ」
ブラウンの一言を僕が殺した。
「しないんですか廻君!」
「お前は出来るのかハル!」
ただでさえ虫が湧きそうなのに呑気にしてられない。
もう心は限界よ。
「俺が思うにですね」
「一人称変えたのね」
「音希田先輩と麗乃先輩は仲いいなと思うわけですよ」
「は?」
?
後輩の思いもよらない言葉、否定は出来なかった。
「な、な、仲がいいように見えたなら!それはいい事だよね?一年くらい部活してるわけだから!?それを言ったらハルだって……」
「僕は彼女いますから」
年初めすでに5ヶ月以上経っているが、こんなに驚き、気づかなかったのは初めてだ。
もしや葛城じゃないよな?
「ははは……画面の向こうとかじゃないよね」
「全然三次元です」
「殴っていいか?じゃなくて……その人は僕が知ってる人か?」
「さてどうでしょう」
「ぐ……う」
ぐうの音も出ない、いや出た。
一体誰なんだ!
当てずっぽうなのか、当てずっぽうなのか!
「音希田巡……」
「違いますよ廻君。それは何かこう、心に来ます。だって廻君のことお兄さんって言わないといけないじゃないですか」
それは嫌だな。
妹とハルが……想像したら嫌な気分になった。
はい次!
「生田目紫重ちゃん……」
「違いますよ」
もしそうだったとしたら……要くんよりもどこがハルなのか知りたい!
「神田櫻……」
「違いますよ、どうしてこう直ぐに後輩に手を出すんです?」
そうだな、間が許すわけない。
私より強い奴じゃないと彼氏にしない、そういう人だ。
「間麻緋……」
「違いますよ、会ったばかりじゃないですか」
そりゃそうですね。
「海鳴秋……」
「違いますよ、僕あまり接点ないです」
「えぇと、ニノ月梛……」
「違いますよ、彼女もまた、接点が花火大会くらいです」
「もしかして……僕の母さん!」
「違いますよ!どうしてそうなるんですか!」
「そうか」
僕はどうして最後の一人を言わないのか。
聞きたくなかったのだろう。
「音希田先輩、どうして」
僕はブラウンの顔を凝視した。
「葛城先輩のこと言わないんですか?」
ゆっくりと顔をハルに戻す。
「……葛城麗乃」
「違いますよ、どうしてそうなるんです」
「じゃ誰よ」
僕が投げやりになると、ブラウンがある提案をした。
「では明日から、音希田先輩と葛城先輩の仲を深め……ではなくて、ハル先輩の彼女当て推理ゲームをしましょう」
「……うん」
正直気になる。
どうしてハルがいるんだ。
僕だって……なんでもない。
明日から森でのフィールドワークが始まるだろう。
僕の仕事は川釣りと神田の見張り、そして……推理ゲームになるのかもしれない。
麗乃が体を両腕で抱きしめながらバンから降りる。
内藤先生がLEDランプを点灯させて全員にテントを2張り立てるように言った。
僕以外全員初心者で、手助けしながらテントを張ると、先生が焼き台を設置、火を起こし始めた。
「焼き」
「いいだろ?先生やりたかったんだ」
「ハルくんには新鮮に映る?」
「そうですね、僕あんまりアウトドア派ではありませんし」
新入生は緊張が解けないのか、主に会話を展開するのは二年の二人、僕は肉を焼くので精一杯だった。
「米も炊けたぞ」
「いつの間に!」
ある程度焼けたところで「いただきます」をしてから早速食べる……美味い。
美味い!
「……では僕の疑問点を話してもよろしいですか?」
雑談の中で僕が会話の種をまいた。
どうしてか、僕らは新聞部であり、この合宿の意味をあまり感じていなかったし、何よりも先生の動向が不信であった。
だから助手席に乗ったし、人ばかりをみて会話をしようとしなかった。
ただの楽しい会とは思っていなかった。
「どうした、急に。疑問なんて」
「先生、再度訊くようですが、どうしてこんな合宿を設けたんです?親睦を深めるとか、新歓、とか、まぁ分かりますけど以前の僕達はもっと雑に自由でしたよね」
「……まぁな」
「だからですね、言いたいのは、『他に理由があるでしょう?』ということなんですが……」
僕がここまで言うと、先生は吹き出したように笑い、まぁまぁすまんと言い、正直に話してくれた。
「そうだな、これはもう少ししたら言うことだったんだがもう言ってしまうことにする。俺は化学の教員であり新聞部の顧問だ。お前らの活動、先輩の活動を見てきた。そして周りの評価を加味した上でお前らが普通の部活動をしていないことも知っている。葛城の姉のせいだがな。俺は未だにチェーンソーだのリッパーだの信じてはいないが……教員というよりも一人の人間の個人的興味としてお前らが面白い。そして……」
長い前置きを踏まえ、僕はその次の言葉を待った。
この人はどこまで僕らが『新聞部』で『オカルト研究部』なのか、どこまでラインを付けているのか知れるとも思った。
教員に幽霊の話をすることは異常かもしれないが、一年間ここにいて、すでにその抵抗は薄れてしまった。
「お前らをここに連れて来たかった。ここから少し外れた所が有名な心霊スポットで、以前葛城優乃が『とっ捕まえてやる』と挑戦した場所でもある。不謹慎だと思うが、見ていて面白かったから放っておいたら失敗したと言っていたんだ。だから後輩のお前らと妹の葛城麗乃の六人ならば……何か……と」
「……あれです、とても教員とは思えません」
「先生そんなこと考えてたんですか?」
一年生は神田以外ポカンとしていて、補足してやろうかと思ったが、面白いから止めておいた。
「一年生には言ったのか?」
「いえ」
「というかなんで先生が都市伝説みたいなこと知ってるんですか?」
「いやお前ら結構有名だそ」
身内話が過ぎたところで間が手を挙げた。
「あの、私はあんまり確かな理由があって入ったわけじゃないんすけど、どうして『心霊スポット』とか『葛城さんの名前』とかが出てくるんです?新聞作るだけの部活じゃないんすか?」
そこで麗乃が焼き鳥の串を咥えて立ち上がる。
ブラウンの手振りを真似て自己紹介をした。
「我々の名前は『新聞部』だが裏では『オカルト研究部』と呼ばれた由緒正しき正義の味方!己の自己保身と探究心は忘れずに幽霊のことについて日々研究を重ねる部活なのだ!」
「色々間違ってるけど」
間が唾を飲んだような気がした。
そりゃ、神田が心配で入った部活がこんな怪しい部活だったなんて、僕も嫌だった。
けど、それは知らなかったで済まされるには悲しい出来事だ、僕は四月でそれを学んでいる。
安心はして欲しいな、これから危険なことなんて起きるはずがないし、僕も麗乃もハルもいるし。
「先輩たちって……よく言えねぇです」
間はガッカリしたように肉をつまみ始めた。
「なぁ櫻、なんでお前こんな部活入ったんだ?」
もしかして神田、託世くんの蘇生のこと言うのか!?
「それは……ね?今日のテントでいい?」
「あぁ」
上手く逃げたな。
僕は安心だよ、間のような人がいれば頼れるし、受け入れてくれそうだし。
僕もあんな関係に憧れてしまった。
「……で、てめぇは何でだ!」
「え僕……」
「つーか僕って何だよ合わねぇよ!俺でいけよ!」
「それは……なんでその話?」
間が持ち前の突っかかりでブラウンを攻撃し始めた。
いいぞ、ブラウンは不思議でいっぱいだ、かき乱せ!
「では、俺の入部理由ですね。それは……自分の頭がなぜこうなのか、それと失ったであろう記憶を取り戻すためです」
「難解だよな……てか先生どう思います?」
僕は米をかきこんで言った。
「俺は忙しいからな、そこはお前らでどうにかしなさい」
「……へぇへぇ」
当てにならんな先生は。
「それにしても入部理由が、新聞かきたいという人が一人もいない。オカルトな話となると……理由としては正しい。間、お前も神田のこと頼むぞ」
「い、言われなくても大丈夫っすよ」
それでも、麗乃でも間でも、神田の面倒を見きれるのは最終的に僕なのだ。
荒い仕事は僕だけでいい。
そうして不可解なことを解決した上で、男女に別れてテントに入った。
何故か先生は車中泊、許さない。
「寝袋、寒い」
僕たちは三人男でモソモソと寝袋に入った。
「では恋話でも」
「しねぇよ」
ブラウンの一言を僕が殺した。
「しないんですか廻君!」
「お前は出来るのかハル!」
ただでさえ虫が湧きそうなのに呑気にしてられない。
もう心は限界よ。
「俺が思うにですね」
「一人称変えたのね」
「音希田先輩と麗乃先輩は仲いいなと思うわけですよ」
「は?」
?
後輩の思いもよらない言葉、否定は出来なかった。
「な、な、仲がいいように見えたなら!それはいい事だよね?一年くらい部活してるわけだから!?それを言ったらハルだって……」
「僕は彼女いますから」
年初めすでに5ヶ月以上経っているが、こんなに驚き、気づかなかったのは初めてだ。
もしや葛城じゃないよな?
「ははは……画面の向こうとかじゃないよね」
「全然三次元です」
「殴っていいか?じゃなくて……その人は僕が知ってる人か?」
「さてどうでしょう」
「ぐ……う」
ぐうの音も出ない、いや出た。
一体誰なんだ!
当てずっぽうなのか、当てずっぽうなのか!
「音希田巡……」
「違いますよ廻君。それは何かこう、心に来ます。だって廻君のことお兄さんって言わないといけないじゃないですか」
それは嫌だな。
妹とハルが……想像したら嫌な気分になった。
はい次!
「生田目紫重ちゃん……」
「違いますよ」
もしそうだったとしたら……要くんよりもどこがハルなのか知りたい!
「神田櫻……」
「違いますよ、どうしてこう直ぐに後輩に手を出すんです?」
そうだな、間が許すわけない。
私より強い奴じゃないと彼氏にしない、そういう人だ。
「間麻緋……」
「違いますよ、会ったばかりじゃないですか」
そりゃそうですね。
「海鳴秋……」
「違いますよ、僕あまり接点ないです」
「えぇと、ニノ月梛……」
「違いますよ、彼女もまた、接点が花火大会くらいです」
「もしかして……僕の母さん!」
「違いますよ!どうしてそうなるんですか!」
「そうか」
僕はどうして最後の一人を言わないのか。
聞きたくなかったのだろう。
「音希田先輩、どうして」
僕はブラウンの顔を凝視した。
「葛城先輩のこと言わないんですか?」
ゆっくりと顔をハルに戻す。
「……葛城麗乃」
「違いますよ、どうしてそうなるんです」
「じゃ誰よ」
僕が投げやりになると、ブラウンがある提案をした。
「では明日から、音希田先輩と葛城先輩の仲を深め……ではなくて、ハル先輩の彼女当て推理ゲームをしましょう」
「……うん」
正直気になる。
どうしてハルがいるんだ。
僕だって……なんでもない。
明日から森でのフィールドワークが始まるだろう。
僕の仕事は川釣りと神田の見張り、そして……推理ゲームになるのかもしれない。
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