電色チョコレートヘッド

音音てすぃ

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来た五月

17話 公園キャンプ

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「何を怒っているんだ廻君」

 掴んだままの服を離さない、これは確かに怒りだが、全力を尽くして当たるものではなかった。

「お見舞いに行っていたんだな。優麗高校に帰宅部みたいなものはほとんど存在しない。だから僕は毎日部室に行く。その時どうして5割程度の確率でハルが居ないのか疑問に持つべきだった」

 僕の台詞をハルが聞き届けると安心したような表情になっていた。
 僕は僕を責められない、どうして他人のことを心配する必要があるのか。それでも、それでも数少ない友人のために気遣いができたのだろうか。知らない事実は大したことではなかった、けど僕に言うことではないし、個人の範疇だ。

 それでも。

 それでもなんだろう。

「今まで気づいてやれなくてごめんな」

 僕は手を下ろして頭をかいた。
 照れというのか誰も悪くない、僕が脳無しだったということだ。

「いいえ、ありがとうございます」

 視線を落として少し覚悟した後、ハルに疑問と予想を告げた。

「あのさ、これは僕の勝手な予想なんだが、ハルが作っていた武器、アタックシリーズは以前から制作し続けていたものなんじゃ……」
「そうですよ」

 返答が速かった。
 僕の予想もバレているかもしれない。

「質問、新聞部がオカルト研究部だと知って入ったのか?」
「いいえ、知ったのは入部後のことです。ひどく……」

 次の言葉が予想できた。

「幸運だった」
「……僕の予想は……僕の……」

 ヒントはあった、それはハルがアタックシリーズを入部前から制作していたことについて。
 あれは幽霊に物理で対抗するためのもので、その目的のために作られたものだろう。
 元々ハルがオカルトマニアには見えない、少なくとも麗乃ほどではない。
 ならば理由は一つだ。

「あの武器は日向春樹さんのためのものだった……か?」
「その通りです、よくわかりましたね。なら……」
「僕が言えと言ったのはそのことだ。日向春樹さんは?」

ーーーーーー

 次の日の朝、合宿は残り四日になった。日曜日まで長いな。
 朝食を済ませた後、洗い物をしているハルの背中を叩いた。

「うわあ、何です?」
「僕が、いや、皆でどうにかしよう」
「……そうですね、ありがとうございます」

 昨日の晩、ハルからこのことは麗乃に全てを話してはいないと聞いた。具体的にはその本体、憑依体のことだ。
 だから時間を作って作戦でも立てようと僕が提案した。
 だがそう簡単に時間を作ることは出来なかった。

「解決するまで次の目的地には行かんぞ」

 今朝内藤先生から告げられたお言葉だ。心霊スポットでの出来事の真相を明かす。僕はここ一日半あの神社と公園にも行けてない、今日はそっちに回る。メンバーは僕と麗乃と神田。だらだらと作戦会議して日曜日をここで待つのは現代人として苦だろう。

「そろそろ風呂入りたいだろ?」

 ということだ。川で浴びるのは女性陣が嫌だろう。

ーーーーーー

「進捗を聞こう」
「私も気になります」

 神社に到着して僕と神田は右手を挙げた。

「調査結果!ダダダダダダ……」

 ドラムロールが始まった。頭で音が鳴る。

「ダン」

 麗乃は元気よく手を叩いた。

「ダン?」
「見る限りでわかることは無かった。やっぱり隣の公園のほうが気になる」

 指刺された方向を見る。もっと高度が低いところに小さな公園が存在した。遊具がある、鉄棒とブランコと謎のベンチ。

「気になるとは?」
「昨日、付近に札を貼って周ったの。といっても電池を貼ってつけた紙ぺらだけど。これを回収してハル君に見てもらったら公園がビンゴだった」
「すっからかんだったわけだ」

 理屈は知らないが幽霊や憑依体は電池の中身を吸うらしい。麗乃が言っていた。きっとあの姉の入れ知恵だろう。
 電池というのも小さな平たいボタンみたいな電池だろう。

「そう。でもね、いるのはわかったけどどこにいるのか……」
「ん?」

 公園にいるのにどこにいるのかわからない?なにを言っているのやら。やらやら。

「さてさて、相手の詳細が分からない上にいる範囲しかわかっていない状態でどうするのか……」
「どうするんだ?」
「最終手段が一応ある。けどまず他の手段、歴史調査、近所に人への事情聴取」
「後者はだめだね」

 神田が眉毛を上げてうーんと唸った。
 僕も聞く話とみすぼらしい周辺と自然の豊かさ、周辺の人気のなさを考えても最終手段が気になった。

「で、最終手段とは?」

 麗乃が口をもごもごさせてから言った。

「誰かに憑依させる」
「はぁ……一番手っ取り早いな」
「そうなんですか先輩?」

 少し呆れてから神田に説明した。

「周囲に人間がキャンプ人しかいないから、この心霊スポットのいい情報を得られる可能性がすくない。まぁもしここが有名な場所だったとしたら真っ先に麗乃が反応しているはずだ。そして僕らの内の誰かに目標を憑依させることができれば、その本体と会話できる可能性があるということだ」
「へぇ……ん?」

 神田が怯えたように一歩下がった。ああそうですか憑依経験者ですものね、殴ると思っていらっしゃいますね。

「違う、勘違いするな」
「そうですか」

 僕は一番の役を訊いた。

「その憑依体を受け入れる触媒は誰がやるんだ?」
「えっへへ」
「考えていないか。言っておくが、僕でもわかることがある、神田はダメだ。コイツの中にはアイツがいる。混同するのはマズイだろ?」


ーーーーーー


「推薦人、間麻緋」
「へい」

 両手にアタックαを装備して公園に仁王立ちする間麻緋。両手を後ろに回して縛られている僕。
 僕の提案で触媒は僕、もしもの攻撃役は間麻緋になった。動けない。

「さっさと憑依されな先輩!」
「お前は殴りたいだけだろ間!」

 相手に不足なし、間の戦闘力なら拘束されている僕が自我を失ってもあの武器でぶん殴ることですべて解決できる。殴られるのは僕以外考えられなかった。

「じゃあ、撤退しますか」
『はーい』

 皆帰っていった。ああそうか、憑依されるのを待っているのか。相手が分からないからしょうがないか。まるで僕が獲物を捕らえるための罠みたいだ。

「寂しい……」

 日が暮れてきた。どれだけ時間が経ったか忘れたけど、寒くなってきた。恰好が半袖短パンというやつなのでかなりくる。

「聞こえているか、あーあー」

 僕はとりあえず喋ってみた。多分相手は声を聞いている。

「数年前にここに厄介で元気で不気味で気持ち悪くて、とても強い女性が来たと思う、僕はその人の後輩だ。あんたがどんな奴か知らないけど、一回姿を現す気にはならないか?こっちはあんたの事情を知らないんだ。まぁちょっと僕らと話さないか、ということなんだが」

 喋り終えたときに背中になにかの存在を感じた。振り返っても何もいない。これで目標の存在がわかった。
 さて、さっさと憑依してくれ。

「……おいおいおいおい!」

 今回得た情報は、触媒無しでも出て来る幽霊もいるということだ。そしてそれはきっと強力な幽霊だろう。葛城優乃という人間最強のような存在を打ち破った幽霊だ。僕は穏便に……無理だろう、白兵戦で勝てるだろうか?


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