電色チョコレートヘッド

音音てすぃ

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来た五月

18話 武道キャンプ

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「さぁてー」
「さぁて?何か見えるっすか葛城さん」
「麻緋ちゃんって、あんまり目良くない?」
「はい」
「ははは……ええとね、今廻君が対象を見ているよ」
「へぇー、遂に登場っすね、行っていいすか?」
「元気だね。でもダメダメ、まだまだ……」

 葛城麗乃と間麻緋が少し遠くから音希田廻のことを見ていた。麗乃は確実に補足した、あれは正面から戦ってはいけない類の幽霊だろう。
 完璧に予測は外れ、廻は憑依されず、武器もなく両手が塞がれた彼に勝ち目はない。

「これからどうなる!」
「葛城さん?同期が危機的なのに表情軽すぎです」

 麗乃がワクワクと廻の先を見ているのに対して、麻緋は好敵手の命を気にしていた。

「大丈夫か?」


ーーーーーー


「こ……」

 正面に現れたのは、一番わかりやすい表現で白い人だった。かつての友人、高丘真敷が初めて僕の目の前に現れた時の姿、白装束に良く似ている。彼女は最初、足が無かったが、目の前の彼は整然として存在する。色濃く、そこらの幽霊よりも存在感を感じる。
 髪は短く男性的。男だ。生前ならスポーツマンか軍人くらい強そう。

「こんにちは!」
「……」

 無言!まぁ正面のガキが拘束状態で現れたのだから絶句もしますか。

「キミは今、彼女の後輩だと言ったな」

 言葉は曖昧だったような気がするが、僕はそう聞こえた。ハッキリとした言葉でなくても伝わるものがある。

「……はい」

 やっば!怖い。

「彼女は今?」
「さ、さぁ。僕から言えることなんて大した無いです。でも……元気ですよ、少し前までは。もう街にはいないと思いますが」
「そうか……そういえば、ただの後輩にしては少し特殊だなキミ……いや彼女の後輩なのだから当然なのか?」

 心臓がドクンとする。強力な存在を前にして畏怖しているのだと思う。妙に体が固くて震える。寒い。
 彼が姿を現したのはおそらく僕が葛城優乃の話をしたからだと思う。彼女に興味深々ですからねぇ。

「あの、姿を見せてもらったところで、良かったらでいいんです、良かったらでいいんですが、三年くらい前の葛城優乃さんのこと知っていたら教えて欲しいです」
「……それが理由でキミはここにいるのか?」
「そんなところです。僕は、僕らは葛城優乃さんのことが知りたい。そうじゃないと……いえなんでもありません」

 内藤先生が解決しないと次の目的地に連れていかないと言ったのだ。そんなこと言えない!

「キミにも事情がある……分かった最近は暇だった。少し相手をしてもらおうか」
「ん?」
「話は少し聞いたのだろう?あの彼女が勝てなかった幽霊だと」
「……それは」
「さて、それでは後輩が先輩の尻拭いをするようで興ざめだが、暇なのならば仕方がない」
「嘘だろ?」

 後の拘束具が外れた、自然に腕が前に出る。どうやって外したんだ?

「あのー、無粋ですが無粋で申し訳ないです。相手とは?」
「ふむ、キミは彼女、葛城優乃を知っているのだろ?ならば話が早いと思っていたのだが……」

 最後の希望は潰えた。知っているとも。葛城優乃の得意分野は戦闘、喧嘩、いわゆる体を動かすこと全てだ。そしてあの知識とチートなまでの御札使いでもある。

「分かりました……僕は葛城優乃さんの後輩、音希田廻といいます」

 周りに人はいないな?

「おっしゃる通り、少々特殊でございます」
「音希田廻か。私は生前の記憶が乏しく、真の名前は知らぬ。だから彼女への勝利をもって、名をつけてもらったのだ。名を『白い刀』無粋なのはこちらの方だ。ねーむせんすとやらがないのだ彼女は」

 僕は顔を少し強めに叩いて気合いを入れた。あの葛城優乃よりも強い彼を打倒する。恩情は期待しない。武器が無い、これは……どうしよう。

「さて、どこからでもかかってきない音希田」

 周囲の雰囲気が随分と変わった。まるで外界からこの公園だけが切り離されたようで、音が聞こえなくなった。
 僕のもっている武器は拳ただ一つ。アタックα無き今、霊体の彼にダメージは入らないだろう。優乃さんはそれはそれは壮大に本気に御札を使ったでしょうね。
 彼は堂々と正面に立っている。僕の奇策を待っているのか、それとも?

「ふぅ……まずは……一撃だ!」

 本気で踏み込んで全力の拳を放つ。それは当然彼の胴体をすり抜けて僕は体勢を崩して背後に立つ。

「やっぱり大した手応え無しか」
「ふむ。かつての力があまりないな。体の動きはまぁそこそこだ。音希田、キミの力はそんなものではないだろう」

 周辺に数本の半透明の刀が現れて地面に刺さる。それが浮遊し、車のような速さで僕を刺して通り抜けた。血は出ない。しかし体に不快な痛みが走る。御札の攻撃と似ている。そうか、これが彼の攻撃か。

「チッ……油断したか。痛てて」

 刀が浮遊して、それから飛んでくるなんて、予想できるか!

「手は見せた。私はキミが死に際からの降参か、私に勝利。この二つしか認めない」

 面倒な幽霊だ。僕に勝ち目なんてほぼ無いのに。
 刀は数えて七本。それ以上に増えない。体が切断されないのが救いか。切り傷のような痛みがする。四肢の神経全てが切断されれば終わりと思っていいだろう。

「来ないか?ならば……」

 再び刀が浮遊した。飛んでくる。

「少し遅いな」

 横へステップ、ジャンプで回避、しかし、盲点からの斬撃を許した。

「クソッ」

 ほとんど音のしない刀が僕の左肩を貫いた。
 肩がガクンと震えて言うことをきかなくなる。さらに正面からもう一本、右手で叩くように刀を弾くふりをした。どうせ触れられない、そんな予想は大ハズレだった。

「なに?」

 重く触れた刀は僕の左側へ勢いそのまま地面に刺さる。僕は素早くそれを拾い上げようと掴む。

「やっぱり」
「ほう」

 幽霊の武器を僕は掴んだ。刀は重くもなく軽くもない。気を抜いたら刀が消えてしまうそんな気がした。

「私の刀を奪い、自らの武器にするとは、さすが彼女の後輩だ」
「仕組みは分からん。けど武器は手に入れた。これならあなたと戦える!」

 何となく、この武器は僕の生命を吸ってまだ形を保っている、そんな気がした。


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