仮想世界β!!

音音てすぃ

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33.奇襲

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 僕らツルギ隊は飛空艇に第一陣として乗り込み、転送を待つ。
 一塊になって、装備を確認したり、ポーションの数を確認したり、喋ったり。

 僕はミセットをスキャンしていた。

『ミセット』Green
相対レベル49(回避補正:45)
・白打(耐久性LV.3、黒、刀)
・倫理委員会戦闘対応制服(深蒼色)
・医療バッグ
他スキャンを実行していません。

 黒髪のショートヘア。
 小柄な体のどこにレベル49の差があるのか。
 目はツルギと一緒、何にも動じないあの目。目で人を殺していそう。
 ポーカーフェイスには理が感じられた。

「ミセットさん、オトメです、この前のブリーフィングでも会いましたね、よろしくお願いします。多分、僕が一番怪我すると思うので!」
「……えぇ?PEとして、一番怪我をするというのは考えられないけど」
「経験則ですね。腕とか、ちぎれましたし……はい……」

 やっぱり喋らない人だ。ツルギさんが女性なら多分こんな感じ。

「そろそろ出る」

 ツルギの声に7人以外も黙る。転送が始まる。
 一瞬で移動した先は、ミルザンドの上空らしいが、船内で見えない。
 耳から声がする。

「ステルスモードに移行します」

 本部のオペレーターの声の後、飛空艇は環境色を取り込み、透明になる。

 それが三隻、衝撃波を空に描きながら南に向かう。
 それは約160ノット(時速約300キロ)に相当する速さで進む。
 甲板には出たら、きっと吹き飛ばされる。
 しかし、僕はそれを覚悟して外に出る。
 何故かというと、先客がツルギさんだったからだ。

「どうだ?」
「どうもこうも……全然風強くないです」
 
 僕らにとってはそよ風のようなものだった。
 飛空艇を取り囲む、球型の膜のようなものが張ってある。
 おそらくは「バリア」系魔術の類。

「速いな」
「速いです」

 緩やかな船上と、高速ロードされていく景色のギャップを感じていた。
 そこへ船内のキリカ達が現れて、皆で景色を眺めていた。

「あれ、カワセミは?」

 ガラスが親指で後ろを指す。

「吐いてる」

 船酔いするんだ。
 確かに揺れる揺れる。
 これは気持ち悪いかも。

「ねぇねぇオトメ君、あれじゃない?」
「なんだあのデカい魚のふん……え、島?」

 キリカの指さす先は小さな点。キョウスケのズーム機能を使用してみると、そこは街だった。

「あれだ。今回俺たちのターゲット。スイセンドウだ。あと少しで着く。全員、SEの通信をオンにしてステルスをつけろ」

 ツルギの指示で全員の気持ちが締まる。
 制服はステルス効果を付与することができる。
 誰が誰が分かるように、キョウスケが委員の輪郭を表示してくれる。

「全員、隊ごとに固まって散開、ライヴ及び管理者達を発見次第躊躇なくぶっ殺せ。予測地点がSEでわかるはずだ。じゃあ俺は先に行く──────」

目標まであと数百メートルで減速開始、それと同時にツルギは瞬間移動した。

「ツルギ隊長は気が早いな」

 とサイケンのその目は尊敬の目だ。

「減速してるけど、止まるわけじゃないから。スイセンドウ上空付近で降下して。他の隊長方も先導してあげてね、ツルギ隊長は出来ないけど……」

 アリエさんの指示の後、後二秒で完全に上空、高度は500メートルくらい。
 全員が甲板から飛び降りる。
 当然パラシュートなんて贅沢なものは無いから、全員が必修の魔術がある。

『ループアウト』

 落下地点での即死級ダメージをほぼ無効化する。
 至って単純な魔術、原理はツルギのエーテルステップに近い。
 エーテルステップは構造不明だが、説として、空間を入れ替えるとされている。
 しかし、そんな高等テクニックは常人では真似出来ないので、その場で衝撃を和らげ、かなりの近距離(0.1ミリ)に空間移動する。続けて魔力消費で落下速度を死なない程度に抑える。スギ博士の解説の方が分かりやすいが長いので割愛。身体強化も必須。

 僕の場合、かなり魔力総量が少ないので、使用には身体の50パーセントの魔力を使う。
 到着後は、自然回復を待つしかない。エーテル場が強いから速いけど。

 空中、落ちている。
 人によってバリア系の魔術を張るのかもしれないが、僕にそんなのもはない。
 辺り一面の大海原と地平線、ただただ、眼下の廃墟が大きくなっていった。

「怖いぃいいい!」
「降下まで、3、2、1……」
「ループアウト!よろしくキョウスケ!」

 無事衝撃を和らげて着地、しかし、体には全身の何十倍もある体重が乗っているようだった。
 グエェ……骨に響く。

 CP-10

「何とか降下成功だな……」

 CP+6

「訓練の成果ですね」
「あぁ、だいぶ体力着いた気がする」
「これ以上のステルス効果継続はエーテルを攪乱します、気を付けてください」

 そう、制服のステルス効果は一時的なものだ。
 長期の使用は体に悪い。
 早速キョウスケに切ってもらう。

 広い海の上、低層ビル群の中に一人の蒼と翡翠色の戦闘員が姿を現す。
 他の委員も色を選ぶ権利はあるが、基本は深蒼色を選ぶ傾向にある。
 理由は、目立ちにくいから。
 個人的にはオリーブドライブがいいと思う。
 その中で、世界に嫌われた最終兵器は、赤ではなく、青と緑の特別待遇だ。

「終わらせよう、キョウスケ」
「了解、オトメ。がんばってね」

 UIのマップ上、ツルギ隊は水色のポイントで表示される。
 皆無事に降下出来た見たいだ。
 僕らは散開後、一度集まるようにしながら索敵を行う。
 その時に活躍するのはまたまた制服。
 SEからの命令で環境色に擬態できる。
 見つかりにくいと思う。
 しかし、相手側の「ライヴ」兵士もSE使いが多いと予測される。
 油断は出来ない。

 僕も移動する。足に取り付けた装備を確認する。
 左太股には『HG45E1』
 右太股には『試作品FS21E:ver0.1』

 基本は左手でハンドガンを撃つ。
 初めは当たらないと思ったが、これがなんと良く当たる。練習した。
 フックショットは使うか分からない。

 とりあえず近くの水色ポイントまで……三人いや、十人いる。
 黒いと緑色のコートを着た集団だ。その中には丈夫な鎧を纏ってそうだ。薄くて丈夫なやつ。
 味方ではないだろう。むしろ「ライヴ兵」だ。

 集音機能を使う。

「今日の警備、会議って聞いてたけど、ホントにあの重鎮達が集まるわけ?」
「不思議だよな。俺なんて顔見たことないぜ?」
「何から守れってんだよまったく。倫理でも攻めてくるわけでもなかろうーに」
「いや、倫理委員の線は十分に疑えと言われているはずだ。いざという時、お前は戦えるのか?」
「だってよ、あの向こうを見てみろよ。海海海海、ねぇよ」
「だな……けど、警戒を緩めてはいけない。あのツルギが瞬間移動で目の前に来る可能性だってあるんだ」
「まぁな。でもー、俺は腕に自信あるしー」
「俺はこの最高の世界の維持に貢献できる幸せでいっぱいだよ」
「平和ボケ」

 そんな会話を聴きながら、十人全員をロックオン、マップに表示させる。

「誰も話さないけど、順調ですか?」

 耳元でキリカの声、SEによる通信だ。キリカもSE貰ったんだ。

「こちら順調」

 と、ミセットが言う。すると続けてマップ上に赤いマークが映る。索敵をしていたようだ。

「多いな」
「平均相対レベルは-20。大いにやりあえます」

 とにかく合流だ。
 水色の点は集合を始める。
 そして、全員が姿を確認できる程度の距離を保ちつつ、ビルの影に姿を隠している。

「まず、予測位置の内、一つを見てきたが……会議……そんなものは無かった。会議室でも用意しろ。オトメ、目の前の兵士を一人拘束しろ」

 ツルギさんの命令だ。サクッと済ませる。

 僕は廃ビルの三階に陣取っていて、下には先程の10人、隊列の一番後方を狙う。

 靴、もちろん疲れにくく、静音性が高い。
 これなら一気に捕獲できる。
 僕は通信で「行きます」と言い、隊列後方に三階から勢い良く飛び出す。
 同時にカワセミが金属製の机を道路に路地から放り投げる。

「ッ!アイツ!ドラム缶って言ったのに!」

サイケンがビルの屋上でARを構えながら呟くが、僕は注意の向いた絶好のチャンスを見失わない。

「何が起こっ……がはっあ!ああああぁ!」

 左腕で兵士を掴み、右でフックショットを起動、上を目掛けて放った先は見事弧を描きビル屋上へ突き刺さる。
 ワイヤーを巻き取る。限界体重を更新するべきだ。
 重力で体がビルの外殻にぶつかりそうになるが、一度着壁し、もう一度跳躍した。ようやく屋上だ。
 彼ら兵士が気づいた頃には、一番後ろの彼は居ない。

 その隙を僕らツルギ隊は見逃さない。
 僕は屋上で殴打により、兵士のCPを三秒でゼロにする。
 下ではツルギさん、アリエさん、キリカが峰打ちで一秒も要らずに無力化した。
 驚いたな。
 キリカもアリエさんに負けず劣らずの刀捌きだ。

「ツルギィ……が……来た……」
「全員、ご苦労。一人づつお話を訊いてみようか?」

 まだ早朝、早速の尋問タイム。
 ミセット、ガラス、サイケンは銃を構えていたが、貢献するタイミングすらなかった。

「一人目はお前だな」
「ひぃ!」
「管理者達の居場所を教えろ」
「言えるか!」

 その言葉を聞いたツルギは即座に左腕に刀を振るった。
 千切られた腕はビルの二階の中で熱いダンスを踊ってた。

「いっでぁあ!!ツルギてめぇれ!!」
「これじゃあどっちが悪役が分からないな。もう一度訊こう、次は右腕、その次は足だからな?勿論一度に両足だ。時間が無いからな。あぁ、SEは抜いておいた」
「死神が!」

 刀は上を切り落としていた。切り口、いや断面。もう息はない。

「すまん、順番を間違えた」

 光景にガラスとカワセミ、サイケンが絶句する。
 僕は……ダメだった。

「ツルギさん!」
「どうしたオトメ、お前の仕事は外の見張りだ」
「どうしてアリエさんとミセットさんは見てるんですか?殺し……」
「オトメ君、優先順位を間違わないこと!彼らは敵なのよ!……ツルバ隊長もやり過ぎです、一旦深呼吸してください」

 言葉は強かった。
 美人女性のコトバは刺さるんだ。
 首を縦に振らせてしまう魔法のナイフのように鋭利だった。
 でも、僕は正義を決めて来た。
 今回はそれを曲げない。

「僕の……優先順位は、命……いや、記憶だ!僕の目の前では人を死なせない!」

 ツルギは黙ったまま、十秒考えて……頷いた。

「そうか、なら一人で、ここから東に三キロ、まだ探索していない所がある。鉄くずまみれで穴だらけ、そこに警備は薄いらしい。オトメ、お前に見てきてもらおう」
「死から目を背けさせるつもりですか?」
「もっと残酷かもしれんぞ?敵は人間とは限らん。人の手を離れてどれくらい経っている設定かわからな」
「探索……します!だから、一人でも殺さないでください……お願いします!!」

 僕は頭を下げていた。
 剣で人を斬ったし、人が死んだのも見た。
 もう、記憶が失われていくのを見たくない。

「お前の結果次第だ……」

「な」を聞く前に僕は西に移動を始めた。

「……ふー。少し休む。俺は多分緊張しているんだと思う」

 ツルギは深呼吸と共に瓦礫に座り込んだ。刀を持っていて、前に敵がいれば斬る。体に染み込み過ぎた技術だった。いづれ全員殺すにしても人に見せびらかすものではなかった。

ーーーーーー

「これで……少しは記憶が……」
「オトメ、泣いているのですか?」
「お前、キョウスケは目だろ?一番分かるはずだが?」
「道、逆です」
「……本気で東西間違った……恥ずかし」

 僕はどれだけ走ったのか、一面からビルが消えた円形状の平野に来ていた。
 ここは地面というか、足場が水に浸かっていない。ただ水溜まりが多い。泥が綺麗に水と別れて、太陽を反射していた。
 とても綺麗だった。絵画にしたい。

「人以外……原生生物とか?というか、何故ツルギさんはここへ?」

 伝達──────

 耳元が五月蝿い。

「ハクバ隊……私以外は……全滅。各隊長に告ぐ……ゴールドグリップが出現!がっ……何を!」

 その後、厚く鈍い音がした後、水が落ちる音がした。

「はぁーい、倫理の皆さん、今はSEを乗っ取って喋っている。上を見ろ」

 快楽と傲慢に満ちた男の声が耳に届く。
 おそらくECF全員が上を見た。
 ロケットか、はたまた飛空艇か、上へ登り続ける飛行物体が飛んでいる。

「あれ……は?というか、この声は?」
「黄金の拳、ゴールドグリップです」
「ゴールドグリップ?」

 それ以降に通信は無かった。
 そう、本当に無かった。

 上の飛行物体は爆発、周囲にを散布した。
 僕は何ともない。
 そう、僕だけ……いや、後もう一人。

「キョウスケ、後ろ」
「会敵、スキャンします」

『ヒエン』Enemy!!
相対レベル21(回避補正:無効)
・武器:青の宝剣
・防具:剣聖の服
・NO.S5:personal eyes!
他スキャンを実行出来ません。

 青い髪と、蒼い目の少女。物語の主人公のようなマントをなびかせて剣を抜いた。
 彼女は、PE持ちだった。


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