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38.見えない
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思考より身体は動く、ポテンシャルは発揮される。
しかし、斬撃はその鎧を斬り裂くほどに鋭利ではなかった。
「何でだよキョウスケ!」
「攻撃力不足」
「おらおらそんなもん?」
相手はジャミングでSEが使えないというハンデがあるのに、こうして何回も攻撃が当たっているのに、手応えがない。
「それっよ!」
ゴールドグリップの56連撃も全て回避する。
僕ばかりが疲労していく。
「いい加減……斬れろ!!」
後方からキリカが追加攻撃。
ゴールドグリップもスタミナが無くなってきたのか、これは回避できない。
僕の攻撃よりはダメージが入っているみたいだ。それでも鈍器で殴打程度。
「硬い」
「斬れねぇ」
「ハハ……弱いねぇ弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱いねぇえ!」
ゴールドグリップの拳のオーラが大きさを増す。
「魔力濃縮……?」
「お前の仲間から少し参考にさせてもらったぜ」
予測が消えた。
「え」
拳はまるでツルギさんのような移動で僕の身体を捉えた。
胴体に拳が直撃。
キリカはその動きに、ガラスを思い出していた。
次に拳からオーラが増加、僕は何か精気を奪われたような気分になった。
一度縮んたオーラは破裂する。
衝撃波は無く、体に魔法属性攻撃と物理攻撃、双方が漏れなく入ってくる。
「……ガッ……ア!」
「HP、大丈夫かなぁ?」
「オトメ君!」
殴打の痛みは勿論悶絶位だ。その上濃縮された魔力によってエーテル場が攪乱される。
いくら僕のエーテル場が安定しまくっていても、アレを直撃はマズイ。
身体の神経がおかしくなって、快楽と焦燥の麻痺に晒されているみたいだ。視界が狭まっては白く映る。
HP-27 CP-59
「CP危険値」
「(分かってんだよ!)」
僕は下に悶え倒れる。吐きそう。
「お嬢ちゃん、まだ来る?PE無しの君じゃあねー?」
もう怒りでしか刀を握っていない。
「死晒せよ、クソ野郎」
「はハHA刄!可愛い割に言うこと汚ぇな」
「誰だってそうよ、私は取り繕ってるわけじゃないの」
「強い女性だねぇ!」
言語が滅茶苦茶になったキリカは青の剣閃から連撃を試みる。
空を斬る、髪を切る、鎧を掠める、髭を捉える。どれもあと一歩足りない。
キリカも一度に攻撃し過ぎたため、動きが鈍くなる。
「よっこい」
ゴールドグリップは慣れた動きでキリカの首を一蹴り。変な音を立てて地面に体を叩きつけ、数メートル体を擦った。
ポケットに手を入れながらの余裕を見せている。
吹き飛ばされたキリカは路上で痛みと天を見ていた。
「痛い……ツルギさん……」
「ツルギ?」
僕は少し回復したが、まだ立てない。
「キ……リカ」
「奥でカワセミが戦闘中」
頭をカワセミに向ける。
彼も苦戦しているようだ。
「クレイ、遊びはその辺にしとけ」
「押忍、師匠!」
「なんじゃその動きは!」
移動速度が上がり過ぎて、目で追えない。
そこからの攻撃にカワセミは対応できていない。
「カワセミ……!」
「虚しいな、仲間っての……まぁいいか、チェックメイトだ」
再び拳のオーラが巨大化していく。
一つ前より大きい。
「キリカ!逃げろ!」
「……できない」
キリカは何とか立ち上がる。
すると、納刀してしまった。
抜刀術か、いや、そんなふうには見えない。
「降参か!」
ゴールドグリップはまたしても魔力濃縮攻撃、魔法攻撃を仕掛ける。
「ごめんオトメ君。私ってよわ────」
拳がキリカを捉える前に青い何かが割り込んだ。
「……言わせない!」
青い髪の少女、覚えは一人、ヒエンだけだ。
打ち込まれた拳は光を放ち少女に衝撃を与える。
その拳をヒエンは掴み、離さない。
「ヒエン!」
「どうして……ヒエン、何故貴様が?」
「……禁忌、『サクリファイス』使用、代償選択……残りのHP全て……能力選択、発動……!」
ここまで言い終わると周囲の空気が凍ったように変わる。
まるでそう。
「時間が止まった?」
ゴールドグリップの拳もヒット後から動かない。
「少し違うが正解だキリカ、よく……やった……あ」
ヒエンはダメージで倒れてしまう。
無理もない、疲労と先の攻撃は僕の身体でも耐えることができない。
「しっかりして!」
「……キリカ、お前に……渡したいものがある」
ヒエンの右手がキリカの右手を掴む。
握られていたのは青の宝剣。
ゴールドグリップの拳によって半分以上破壊されているが、再生を始めていた。
「私の……いや、我の半分だ。君に……貴女やろう。あげる」
「え?」
ヒエンは倒れたまま、ただ青い無音の空を見る。
時間の流れを感じない世界で、ただ眺める僕は、二人しかいない小さな世界が美し過ぎて、それを永遠に見ていたかった。
「私は今まで何をしていたのだ?この剣を振るだけだ。それ以外無い」
呼吸は乱れ始めた。
目の光は霞んでいく。
「そんな無気力な力は、お前ならもっと有益に使えるだろう」
「……死にたかったの?」
「そんなんじゃない、理由ができた。記憶は無くなるが、そもそも私自身にほとんど記憶は無い、大したことじゃない」
キリカは青の宝剣を掴む。
ヒエンの手は無気力に垂れ下がる。
「上手くやれよ?あと、自分を弱いと言うな。大切な人を守れなくなるぞ……」
「ごめんありがとう……でもどうしてなの?」
「初めて会った人間に命をささげるなんて普通出来ない。そう言いたいのは分かる……大丈夫だ私がキリカを助けたいからやったのだ」
「こ、困ったな……なんて言っていいか分かんない」
「そうだな……ただこっちに事情があっただけだ。頼む……継承術をPE……」
体は冷めていく。
過呼吸のように体を揺らし始めたヒエンの目が黒と青で点滅し始める。
「あの日見たものをまだ覚えている?あぁ会いたかった。私ね会いたかったの。忘れてたくなんてなかった。ねぇ助けて?私を一人にしないで?ずっと見ていたかった──────」
子供のようにキリカにすがった。焦点が合っていない。腕はキリカを包むようにしているが力がどんどん抜けていき、腕が垂れ下がってくる。
ヒエンの身体が青い明るい色に包まれていく。
ほとんど身体の輪郭が分からなくなった時、ヒエンは涙を一つ下に落として、微笑みを一瞬、粒子になってキリカの身体に吸収されていく。
手に持つ宝剣は流体の起動をして、キリカの右腕に吸収される。
それが終わると同時に時間ロックは解除、ゴールドグリップは動き出す。
「ビビったぜ!止められてる間に首跳ねられると思った」
「ホント?それより辛いかもよ?」
「あ?あれ、ヒエン……?」
キリカは抜刀する。
青の剣閃を発動する。
それは今までのオーラとは一味違うものであった。
強く青色を放ち、周りの大気を歪めている。
「エーテル場の甘いお前が何で……?」
「ヒエン、ありがとう。有難く使わせてもらう」
第一振目、レンジを長くして、ゴールドグリップに切り掛る。
強化されたスキルはいとも簡単に鎧を斬り裂いた。
「マジか……覚醒やつかー」
出血しているゴールドグリップはストレージから小さな瓶を取り出した。
「師匠ー!」
「どんなもんじゃい!」
カワセミはボロボロになりながらもクレイを突き飛ばした。
やはりルーム210の人間は頑丈だった。
「それは?」
「作っちゃイケない薬って知ってる?」
言い放った後、ゴールドグリップはそれをキリカに投擲する。
反射で切り落としてしまっ瓶から液体が散布する。
それは一瞬で気化し、キリカの周りを漂った。
「うわあぁあ!」
「どうしたキリカ!」
僕もようやく起き上がる。足はヨロヨロだけど。
「スキャンの結果、エーテル攪乱の薬品です。倫理的に製作は禁止されているもの」
「そんなものが……?」
キリカを黒色の靄が漂い始めた。青い色は黒紫色になり、邪気を感じる。
「クレイ!一旦引くぞ!」
「押忍!師匠!」
ゴールドグリップは後退しようとする。
しかし、キリカはそれを良しとせず、黒紫色の剣閃を放つ。
「待ちやがれよぉ!!」
ゴールドグリップはニヤリと笑う。
まるでそれを待っていたようだった。
「きたきた!」
振り下ろされた剣は人を斬ることはなく、ただ目の前を斬り裂いた。
そう、目の前、おおよそ空間を斬り裂いた。
「そんな暴走魔力、空間斬るのには最高だな!」
黄金の男、その弟子は、既に視界からは消え、もう追うことはできないだろう。
「キリカちゃん!」
「カワセミ君、あなたは……サイケンに合流して!こっち来ないで!飲み込まれそう!」
斬り裂かれた空間は傷口のようにその姿を見せた。
中は渦を巻く漆黒。
何故か引力を持っている。
近くの僕とキリカはそれに吸い込まれそうになっていた。
「……」
「カワセミ?返事しろ!」
「……」
カワセミが止まって見えた。おい何黙ってんだ。
「既に空間は切り離されています。こちらの速度はカワセミ側の数十倍、推奨行動、ダイブ」
「言われなくても……そうなりそうだ!」
引力は徐々に力を強くしていく。
キリカの足が浮く、僕は踏ん張ったが、抵抗虚しく飲み込まれてしまった。
四肢が千切れそうな感覚だ。
内蔵を掻き回され、血液は今にも気化しそうだ。
しかし、それはたった二秒で終わった。
目を覚ますのはもっと先かもしれないが。
「キリカちゃん?オトメ?」
ただ一人残されたカワセミの目の前にはもう何もなかった。
「置いてかれた……んじゃい!」
しょうがない、報告がてらサイケンを探すことにした。
この後、ライヴは撤退を始めた。
ゴールドグリップとその弟子は姿を消し、この戦いはすぐに終わった。
ガラスは無事に回復。
カワセミの報告でツルギは無表情だった。
「あぁそうか、行方不明だな」
カワセミはツルギの今までの発言で、何か仕組んでいたのではないか、そう疑うようになった。
しかし、相手は世界最強と言ってもいいツルギ、二日程度でその疑いは無くなっていた。戦闘で疲れていたのかもしれない。
戦果は無し、損出が三小隊、キリカとオトメだった。
次に意識が戻った時、そこは知らない森だった。
しかし、斬撃はその鎧を斬り裂くほどに鋭利ではなかった。
「何でだよキョウスケ!」
「攻撃力不足」
「おらおらそんなもん?」
相手はジャミングでSEが使えないというハンデがあるのに、こうして何回も攻撃が当たっているのに、手応えがない。
「それっよ!」
ゴールドグリップの56連撃も全て回避する。
僕ばかりが疲労していく。
「いい加減……斬れろ!!」
後方からキリカが追加攻撃。
ゴールドグリップもスタミナが無くなってきたのか、これは回避できない。
僕の攻撃よりはダメージが入っているみたいだ。それでも鈍器で殴打程度。
「硬い」
「斬れねぇ」
「ハハ……弱いねぇ弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱いねぇえ!」
ゴールドグリップの拳のオーラが大きさを増す。
「魔力濃縮……?」
「お前の仲間から少し参考にさせてもらったぜ」
予測が消えた。
「え」
拳はまるでツルギさんのような移動で僕の身体を捉えた。
胴体に拳が直撃。
キリカはその動きに、ガラスを思い出していた。
次に拳からオーラが増加、僕は何か精気を奪われたような気分になった。
一度縮んたオーラは破裂する。
衝撃波は無く、体に魔法属性攻撃と物理攻撃、双方が漏れなく入ってくる。
「……ガッ……ア!」
「HP、大丈夫かなぁ?」
「オトメ君!」
殴打の痛みは勿論悶絶位だ。その上濃縮された魔力によってエーテル場が攪乱される。
いくら僕のエーテル場が安定しまくっていても、アレを直撃はマズイ。
身体の神経がおかしくなって、快楽と焦燥の麻痺に晒されているみたいだ。視界が狭まっては白く映る。
HP-27 CP-59
「CP危険値」
「(分かってんだよ!)」
僕は下に悶え倒れる。吐きそう。
「お嬢ちゃん、まだ来る?PE無しの君じゃあねー?」
もう怒りでしか刀を握っていない。
「死晒せよ、クソ野郎」
「はハHA刄!可愛い割に言うこと汚ぇな」
「誰だってそうよ、私は取り繕ってるわけじゃないの」
「強い女性だねぇ!」
言語が滅茶苦茶になったキリカは青の剣閃から連撃を試みる。
空を斬る、髪を切る、鎧を掠める、髭を捉える。どれもあと一歩足りない。
キリカも一度に攻撃し過ぎたため、動きが鈍くなる。
「よっこい」
ゴールドグリップは慣れた動きでキリカの首を一蹴り。変な音を立てて地面に体を叩きつけ、数メートル体を擦った。
ポケットに手を入れながらの余裕を見せている。
吹き飛ばされたキリカは路上で痛みと天を見ていた。
「痛い……ツルギさん……」
「ツルギ?」
僕は少し回復したが、まだ立てない。
「キ……リカ」
「奥でカワセミが戦闘中」
頭をカワセミに向ける。
彼も苦戦しているようだ。
「クレイ、遊びはその辺にしとけ」
「押忍、師匠!」
「なんじゃその動きは!」
移動速度が上がり過ぎて、目で追えない。
そこからの攻撃にカワセミは対応できていない。
「カワセミ……!」
「虚しいな、仲間っての……まぁいいか、チェックメイトだ」
再び拳のオーラが巨大化していく。
一つ前より大きい。
「キリカ!逃げろ!」
「……できない」
キリカは何とか立ち上がる。
すると、納刀してしまった。
抜刀術か、いや、そんなふうには見えない。
「降参か!」
ゴールドグリップはまたしても魔力濃縮攻撃、魔法攻撃を仕掛ける。
「ごめんオトメ君。私ってよわ────」
拳がキリカを捉える前に青い何かが割り込んだ。
「……言わせない!」
青い髪の少女、覚えは一人、ヒエンだけだ。
打ち込まれた拳は光を放ち少女に衝撃を与える。
その拳をヒエンは掴み、離さない。
「ヒエン!」
「どうして……ヒエン、何故貴様が?」
「……禁忌、『サクリファイス』使用、代償選択……残りのHP全て……能力選択、発動……!」
ここまで言い終わると周囲の空気が凍ったように変わる。
まるでそう。
「時間が止まった?」
ゴールドグリップの拳もヒット後から動かない。
「少し違うが正解だキリカ、よく……やった……あ」
ヒエンはダメージで倒れてしまう。
無理もない、疲労と先の攻撃は僕の身体でも耐えることができない。
「しっかりして!」
「……キリカ、お前に……渡したいものがある」
ヒエンの右手がキリカの右手を掴む。
握られていたのは青の宝剣。
ゴールドグリップの拳によって半分以上破壊されているが、再生を始めていた。
「私の……いや、我の半分だ。君に……貴女やろう。あげる」
「え?」
ヒエンは倒れたまま、ただ青い無音の空を見る。
時間の流れを感じない世界で、ただ眺める僕は、二人しかいない小さな世界が美し過ぎて、それを永遠に見ていたかった。
「私は今まで何をしていたのだ?この剣を振るだけだ。それ以外無い」
呼吸は乱れ始めた。
目の光は霞んでいく。
「そんな無気力な力は、お前ならもっと有益に使えるだろう」
「……死にたかったの?」
「そんなんじゃない、理由ができた。記憶は無くなるが、そもそも私自身にほとんど記憶は無い、大したことじゃない」
キリカは青の宝剣を掴む。
ヒエンの手は無気力に垂れ下がる。
「上手くやれよ?あと、自分を弱いと言うな。大切な人を守れなくなるぞ……」
「ごめんありがとう……でもどうしてなの?」
「初めて会った人間に命をささげるなんて普通出来ない。そう言いたいのは分かる……大丈夫だ私がキリカを助けたいからやったのだ」
「こ、困ったな……なんて言っていいか分かんない」
「そうだな……ただこっちに事情があっただけだ。頼む……継承術をPE……」
体は冷めていく。
過呼吸のように体を揺らし始めたヒエンの目が黒と青で点滅し始める。
「あの日見たものをまだ覚えている?あぁ会いたかった。私ね会いたかったの。忘れてたくなんてなかった。ねぇ助けて?私を一人にしないで?ずっと見ていたかった──────」
子供のようにキリカにすがった。焦点が合っていない。腕はキリカを包むようにしているが力がどんどん抜けていき、腕が垂れ下がってくる。
ヒエンの身体が青い明るい色に包まれていく。
ほとんど身体の輪郭が分からなくなった時、ヒエンは涙を一つ下に落として、微笑みを一瞬、粒子になってキリカの身体に吸収されていく。
手に持つ宝剣は流体の起動をして、キリカの右腕に吸収される。
それが終わると同時に時間ロックは解除、ゴールドグリップは動き出す。
「ビビったぜ!止められてる間に首跳ねられると思った」
「ホント?それより辛いかもよ?」
「あ?あれ、ヒエン……?」
キリカは抜刀する。
青の剣閃を発動する。
それは今までのオーラとは一味違うものであった。
強く青色を放ち、周りの大気を歪めている。
「エーテル場の甘いお前が何で……?」
「ヒエン、ありがとう。有難く使わせてもらう」
第一振目、レンジを長くして、ゴールドグリップに切り掛る。
強化されたスキルはいとも簡単に鎧を斬り裂いた。
「マジか……覚醒やつかー」
出血しているゴールドグリップはストレージから小さな瓶を取り出した。
「師匠ー!」
「どんなもんじゃい!」
カワセミはボロボロになりながらもクレイを突き飛ばした。
やはりルーム210の人間は頑丈だった。
「それは?」
「作っちゃイケない薬って知ってる?」
言い放った後、ゴールドグリップはそれをキリカに投擲する。
反射で切り落としてしまっ瓶から液体が散布する。
それは一瞬で気化し、キリカの周りを漂った。
「うわあぁあ!」
「どうしたキリカ!」
僕もようやく起き上がる。足はヨロヨロだけど。
「スキャンの結果、エーテル攪乱の薬品です。倫理的に製作は禁止されているもの」
「そんなものが……?」
キリカを黒色の靄が漂い始めた。青い色は黒紫色になり、邪気を感じる。
「クレイ!一旦引くぞ!」
「押忍!師匠!」
ゴールドグリップは後退しようとする。
しかし、キリカはそれを良しとせず、黒紫色の剣閃を放つ。
「待ちやがれよぉ!!」
ゴールドグリップはニヤリと笑う。
まるでそれを待っていたようだった。
「きたきた!」
振り下ろされた剣は人を斬ることはなく、ただ目の前を斬り裂いた。
そう、目の前、おおよそ空間を斬り裂いた。
「そんな暴走魔力、空間斬るのには最高だな!」
黄金の男、その弟子は、既に視界からは消え、もう追うことはできないだろう。
「キリカちゃん!」
「カワセミ君、あなたは……サイケンに合流して!こっち来ないで!飲み込まれそう!」
斬り裂かれた空間は傷口のようにその姿を見せた。
中は渦を巻く漆黒。
何故か引力を持っている。
近くの僕とキリカはそれに吸い込まれそうになっていた。
「……」
「カワセミ?返事しろ!」
「……」
カワセミが止まって見えた。おい何黙ってんだ。
「既に空間は切り離されています。こちらの速度はカワセミ側の数十倍、推奨行動、ダイブ」
「言われなくても……そうなりそうだ!」
引力は徐々に力を強くしていく。
キリカの足が浮く、僕は踏ん張ったが、抵抗虚しく飲み込まれてしまった。
四肢が千切れそうな感覚だ。
内蔵を掻き回され、血液は今にも気化しそうだ。
しかし、それはたった二秒で終わった。
目を覚ますのはもっと先かもしれないが。
「キリカちゃん?オトメ?」
ただ一人残されたカワセミの目の前にはもう何もなかった。
「置いてかれた……んじゃい!」
しょうがない、報告がてらサイケンを探すことにした。
この後、ライヴは撤退を始めた。
ゴールドグリップとその弟子は姿を消し、この戦いはすぐに終わった。
ガラスは無事に回復。
カワセミの報告でツルギは無表情だった。
「あぁそうか、行方不明だな」
カワセミはツルギの今までの発言で、何か仕組んでいたのではないか、そう疑うようになった。
しかし、相手は世界最強と言ってもいいツルギ、二日程度でその疑いは無くなっていた。戦闘で疲れていたのかもしれない。
戦果は無し、損出が三小隊、キリカとオトメだった。
次に意識が戻った時、そこは知らない森だった。
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