仮想世界β!!

音音てすぃ

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59.殺意

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 エイルはカルマ家の書庫で『遠影』を眺めていた。
 オトメとキリカの剣と刀を鍛えてから余った時間でこの短剣を鍛えていた。
 鍛えるといっても修復が主であった。
 リーラの修復魔術と材料で再生、追加材料で強化、これには鍛錬が必要らしく、エイルはあまり関われず、隣で見ていることがほとんどだった。
 余った材料をもらって短剣を強化、見よう見まねだが上手く出来た気がする。
 ライラ先生からも「エイルは才能がある、エーテルさえ安定すればねぇ……」と言われたことがある。
 そのエーテル場問題は性別女を取り戻したことによって全て解決した。
 今なら攻撃魔法「カシロ・ライト」を完全に制御できるし、クニテツの「爆連:バジ・ヘルフレア」も完コピできる自信がある。遠くで見てたし。
 魔力切れなんてないだろうし、体調不良にもならない。

「オトメさんには感謝しないとな……でも、どうしてオトメさんはあの時一人で戦ったんだろう?私に彼を殺す勇気が無かったから?確かに迷っていたところはある。マトモに魔物すら殺せないし……」

 短剣をくるくる回して上に投げる、朝日が窓辺を貫通して短剣の影を本棚に投影する。

「とどめをさせなかったのは……悔しい?」

 落ちて来る。

「いや、本当は殺したくなんてなかった……コトバ通りの覚悟なんてなかったんだきっと。もしかしてオトメさんにはバレていて、私の代わりに?そんなことね、ないね」

 取る。
 少し魔力を込めてみる。
 炎を付けてみた、まるでフランベルジュのようだった。

「使う機会は来るだろうか?来ないほうがいいのかな?」

 火を消した。

『人を殺せなかったと苦悩するなんて滑稽だ、普通逆じゃないか?』

 エイルの前に一言書かれた紙が置かれた。
 何もないところからどうして?

「なに?」
『ここだ』

 現れたペンから接触している部分から姿を現していく。
 そこにいたのはカエデ、ステルス効果を使っていたらしい。

「もしかしてオトメさんの言っていたカエデさんですか?」

 カエデは頷く。
 不法侵入に近いがエイルはそれ以上驚きはしない。

『すまない、筆談しかできない』
「聞きました、声が出せないんですよね?……えぇと、お墓を破壊した件なんですが……」
『すまない』

 紙の上に同じ文字が並んだ。
 カエデにはこれしかできない、誤解なんてことばで許されない。

「ああぁと、そうじゃなくて、私……その……変かと思われるかもしれませんが、か、かかかかか……感謝してるんです!」

 思いもよらない言葉にカエデはペンを止めた。
 感謝ってなんで?と感じていた。

「二年の月日が経ってここに帰ってきて、お墓を見つけて、最初は正直嬉しかったです。刻まれた名前は全て私の大切な家族で、なんだかもう一度会えた気がしたんです。でも、その時に私は生涯執着しそうだと直感しました。だから……目の前で破壊されたときは正直悲しかったです。でもそこで何か解放された気持ちになりました。どうしてかはまだ人に説明できるほど成ってませんが……」
『君はナゾな性をもっているな』

 カエデのためらうようなペンと、風景を思い出すエイル、きっと彼女の一射は希望の一撃だったのだろう、それがたとえ万人の希望でなくても、小さな少女の鎖を破壊する弾丸であった。

「だからですね、そんなに気にしないでくださいね!これから仲間なんですよね、よろしくお願いします、私エイルっていいます、しょーもない魔術師です!」
『カエデだよろしく、良い笑顔だな』

 カエデは自分が殺してしまったかもしれない人がこうして生きていて良かったと思った。
 まさか感謝されるとは思わなかったが。
 カエデは「またあとで」と口パクし、ステルス効果で消えた。

「オトメさんは屋根にいるって言っていたっけ?後で梯子使ってみようかな……」

 呟きつつ、短剣をしまい、カエデと少し話し合えたことが嬉しかった。
 結構緊張していたのだ。
 でも聞く話と狙撃したこと、そんな悪そうな人に見えなかった。
 「良い笑顔と」言っていたが、カエデも相当良い笑顔だったとエイルは思う。
 自分に家族はいない、もういない、けど希望は捨てない。

 オトメとキリカの知る伝説のミルザンド、ライラ先生の出身地、どんなに遠くてもたどり着いてみせる、そこに記憶がなくても、元家族がいると信じて。
 一目見るだけでいい。

「本でも読もうか」

 サモンウィリット家の魔導書っぽいものは大体読んだことがある。
 カルマ家のはまだ読破していない。
 まぁ一日中使えるなら一週間あれば読めるかな。

「なわけねーだろ……わからんぜぃ……ってね」

 ちょって真似てみた。
 似てないな。

ーーーーーー

 10時間くらい前、客間、真っ暗。

「オトメ君出ていったな」

 お風呂に入って、ご飯を食べて、それから……おにぎり作り手伝って(二個しか作っちゃ駄目ってなんで?)どうした?
 そうだ、オトメ君がそれもってリーラちゃんに「梯子はどこ?」って訊いてたな。

 パジャマのような服を着て、寝る格好。
 オトメ君の言う「和」というものらしく、敷布団だ。
 その上から窓を見ている。
 ここからは月が見える。三日月だった。
 今は部屋に一人、エイルちゃんはトイレか何かかな?

「オトメ君に話損なったな」

 カエデの奇襲が無ければきっと今頃は内のことを全て話してもっと分かり合えたはずだった。
 別にカエデに恨みがあるわけではないけれど、どうしても屋根のことが気になってしょうがない。

「上、何やってんのかな?───あぁもう、初対面だっての!」

 変な想像をした。
 カエデは私たちの好意を拒みぎみだ。
 そういうのはオトメ君が放っておかない。と思う。

「思い出すな……昔のこと」

 一旦オトメ君のことを考えることは止めた、おかしくなりそうだった。
 その代わり、憎悪たぎる昔を思い出す。
 困ったときはこれを思い出す、今までそうしてきた。

 忌まわしき兄、愛おしかった家族、鮮血の記憶と血塗られた手と視界、メイドにかれた髪は白かったこと。
 そう、あのころから私は決めていたんだ。
 誰にも負けない剣聖になって、兄さんに会う、そして……必ず。

「ころしてやる」

ーーーーーー

 部屋の外、エイルはその台詞を聞いて、硬直してしまった。
 ちょうど戻ってきたところだったのだろう。
 ガラッとドアを開けて半分涙目でキリカに飛びついた。

「ど、どうしたのエイルちゃん?」
「ころすなんて……どうしちゃったんですか?怖いんですか?私も怖いですよ色々と……」
「え、え?なに?」

 キリカは状況が掴めずにエイルの頭を撫でてみる。
 妙に呻く小さな体はずっとキリカに訴える。

「う、ううぅ……」
「な、な、何か悲しいことでもあった?そうね色々あったしね、泣きたいときに泣いていいんだよ」

 服をギュって掴まれた後、エイルはボロボロの顔をこちらに見せた。
 少し袖で涙を拭いてやった。

「泣いていいのはキリカさんの方です!私なんて……大丈夫ですよ、大丈夫ですからね」

 よくわからないなぁ……でも少しエイルが落ち着いたからいいや。
 もしかして、私の台詞を聞いていたのかも?まさかね。

 時間と共に泣き止んで寝てしまった。
 エイルの布団に入れて、自分は少し外を見てから布団に入る。


「泣いていい……か、か?」


 アバンドグローリーでの戦闘の後、片腕で包んでもらった記憶が蘇った。
 もう一回、やってほしいなんて……アホみたい。

「今のオトメ君、良い感じに筋肉野郎だからなぁ……ブッ……何言ってるんだろ寝よ」


 私はいつでもMVPとやらになりたかった。
 意味は知らない、けど、良いそうな意味だってしってる。

 彼女が銃なら私は剣である。
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