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85.既に敗者であった
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あの声が聞こえたか、僕は夢を見ているような気持ちになっていた。何が現実かなんてわかる訳もなくて、目の前の敵を、自分の障害を斬り捨てていただけだ。それがもう半年になるだろうか、それともそれ以上か。
例のことを聞いた今僕の中にあるのは「これからどうなるのか」ということだけだ。一年未満の激闘の末に勝利か敗北か、それ自体が問題よりはその先を心配していた。
剣がなまくらになったら研いで、鍛冶屋に預けたり、それでも寿命がやってくれば捨てるように、僕がECFの兵器ならばいずれ捨てられる時間がやってくるのだろう。それはいつだ?僕たちの勝利の時か?勝利の後に残るものは何だ?皆の言うNO.1.00世界に戻ることができるとかそういったものか。
知らない記憶が欲しいか?僕はそれが怖い。ナノから記憶を返してもらう時に僕自身がとうなるのか。
「どうしたオトメ、大の字でベッドに広がって。鬱か?それなら上に俺から言っておく、それは重症だからな、俺のカスみたいな回復魔法では治せない……冗談だ。やはりお前も、流石の最強兵器PE様さまでも最終決戦は怖いか?」
午後のルーム210にサイケンがやってきて缶コーヒーを投げてよこした。缶コーヒーはあまり好きではないと言うと「黙れ、かなり貴重なんだぞ」と言われた。
「ありがとう」
「誰でも終わりは怖いさ」
「僕はよく分からない。今では自分を騙してここに所属して戦っている。けど生まれた時から僕はPEを持っていて『君は記憶がない』と言われて、気づいたら……」
「誰が始めたんだかな」
サイケンが珈琲をグイッと一口滑らせたあと一呼吸。
「俺はな、少しだけ前の記憶がある」
「……!」
多分僕は目を見開いて起き上がり前かがみになっただろう。サイケンは僕と向かい合わせになるようにベッドに座る。
「俺の脳みそは優秀だったらしい。勉学ができるとかそういったことではなく、この世界に来るタイミングでの記憶障害への耐性だ。だから言葉において疑問にもつことはなかった」
「よく分からない……」
「例えば、ビルってわかるか?」
僕の頭の中に映像が映る。しかしそれはざらついてハッキリしない。知っているようで知らない。何かモヤがかかっている。
「聞いたことがあるかも……しれない」
「実際ここにもビルはある。今度の作戦地点にも散々あるそうだぞ」
「見れば、多分」
「俺からすると、何も無いオトメはそれはそれで羨ましいところもあるぜ。前提知識もなくこの世界で第二の人生。悪くないだろ?でもそういかなかっただな。不幸というべきかなんとやら」
「不幸と思ったことはあんまりないな」
「そうか?」
無い。実際戦いを積み上げてECFにいるから出会えた仲間もいるのだ。
「サイケンとかと出会えただろ?記憶が始まって一年もしてないけど、それは嬉しいことなんだ」
「そ、そうか……」
ゴクリと珈琲を飲み干してゴミ箱へ投げ入れた。カンカンカンと音を立てて着地、次は僕が話を振る。
「負けるのは嫌だからな、そりゃ最善を尽くすよ。したいことも、なりたいものも見つけられぬまま。それでも僕は満足だ。死に場所を探すわけではないけれど、ようやく一つのゴールを見つけた。後は覚悟決めて記憶を取り戻すだけさ」
「ナノさんは気まぐれだからな。記憶を戻すか、そんな所業どうやるか知らんが、そこまでは死ねないな」
「あぁ」
僕も飲み干してゴミ箱へ投げ入れた。外した。しょうがないから歩いて入れた。
「そうだ、一つ」
「なんだ」
「サイケンは僕が最強兵器だと思う?」
サイケンは顔を曇らせてから呆れたように言った。僕もその答えを期待していたし、分かっていた。訊く意味すらなかった。
「さぁな」
この一言で十分だ。
ずっと思っている。
僕がいなくてもECFは強い。変わらない。
それでも僕がいる理由はどこにあるのだろうか、今回の作戦で最後だ、何も残らなくても悔いは残したく無い気持ちがあった。
僕はリフレッシュのため廊下に出て甲板に向かう。ちょうど曲がり角で誰かにぶつかった。五感を放棄したように歩いていたからか、壮大にコケて数秒のラグの後他立ち上がり謝罪から入った。
「あの、すみません」
「……はぃ?あははは、ごめんなさぃいねぇ?」
「は……あの」
「大丈夫ですよ、僕は大丈夫。あなたこそ大丈夫ですか?」
「え、ええ僕は……」
前の男は指で頭をつんつんとつついてニッコリ笑う。口は笑ってるのに目が死んでいる。ひきつって見えて不気味さを出していた。
「違いますよ。貴方の中身の方です。ではなくてですね、作戦の方です」
「は」
急に男が僕の耳元に接近し、一言呟いた。周りには数人いたが、誰もこちらを見ていない。
「キリカさん、殺させないでくださいねぇ?その時は……僕が貴方殺しちゃいます」
男が顔を話すと、環境音が戻ってきたように意識を取り戻した。あんな人間は初めてだ。似ているのはキリカの兄のヒノキ。感じたのは不気味さ。あんな人間がECFにいたのか。
『ミチル』Green
相対レベル:6(回避補正:-5)
武器:白打(耐久Lv.2)
防具:倫理委員会戦闘対応制服(白)
アクセサリー:白魔石の首飾り(星型、効果無し)
他スキャンを実行していません。
身長が180センチありそうな細身の肉体に少し長い髪の毛。基色が白で襟足ともみあげだけが黒い。もう少し脂肪つけた方がいいと思う。シロカミの人だろうか。
「キョウスケ、あいつ」
「危険人物です」
キョウスケが確定したように危険人物と言ったのは初めてのように聞こえた。ECFに変人は多いが、できるだけ接触しないようにしよう。
僕は足を進めて甲板に出た。広がるのは殺風景な荒野。茶色。太陽は見えるが常に曇りのようなどんより天気で気分も下がる。たまに快晴になるとアガる。
同じように休憩に来た人がまちまちいる。僕は数日前のナオヒト本部長の言葉、その後の作戦会議を思い出していた。
「あと二日か」
目的地は『パララミロー』他の街とは一線を画す未来都市だ。大都市のマラサより小さい。発見はナオヒト本部長からの発表三日前。開拓地のコミュニティから外れた人の街を見つけるのはザンゲノヤマ以来で、他にもあるのではないかと予想されるようになった。怖いのは『未来都市』という響きだ。常識の範疇にないことをされると必ず犠牲が増える。
ここはただの通過地点で目的地はその奥にあるらしい。パララミロー自体がライヴの巣窟らしいがただの街に変わりないとツルギさんは言う。
その奥、未開拓地、広大な平地があるとされている。
「名前は『マルエルの楽園』」
殺しに行く。殺しに行く。甘えなしに殺しに行く。持ち得る最大を持ってライヴを根絶やしにするのだ。今回の正義はなんだろう。きっと理性を置いていった方がいいかもしれない。
「オトメ、私はオトメと24時間いるので分かりますが、最近メンタルに非常に大きな負担がかかっています。もしものことがあれば……」
「はいはい。分かったよ」
別に何も分かっていないのだけど、キョウスケは心配しすぎ。これが終われば、終わる。それまでは精神なんてどうだっていい。
「誰か僕を……殺してくれ」
例のことを聞いた今僕の中にあるのは「これからどうなるのか」ということだけだ。一年未満の激闘の末に勝利か敗北か、それ自体が問題よりはその先を心配していた。
剣がなまくらになったら研いで、鍛冶屋に預けたり、それでも寿命がやってくれば捨てるように、僕がECFの兵器ならばいずれ捨てられる時間がやってくるのだろう。それはいつだ?僕たちの勝利の時か?勝利の後に残るものは何だ?皆の言うNO.1.00世界に戻ることができるとかそういったものか。
知らない記憶が欲しいか?僕はそれが怖い。ナノから記憶を返してもらう時に僕自身がとうなるのか。
「どうしたオトメ、大の字でベッドに広がって。鬱か?それなら上に俺から言っておく、それは重症だからな、俺のカスみたいな回復魔法では治せない……冗談だ。やはりお前も、流石の最強兵器PE様さまでも最終決戦は怖いか?」
午後のルーム210にサイケンがやってきて缶コーヒーを投げてよこした。缶コーヒーはあまり好きではないと言うと「黙れ、かなり貴重なんだぞ」と言われた。
「ありがとう」
「誰でも終わりは怖いさ」
「僕はよく分からない。今では自分を騙してここに所属して戦っている。けど生まれた時から僕はPEを持っていて『君は記憶がない』と言われて、気づいたら……」
「誰が始めたんだかな」
サイケンが珈琲をグイッと一口滑らせたあと一呼吸。
「俺はな、少しだけ前の記憶がある」
「……!」
多分僕は目を見開いて起き上がり前かがみになっただろう。サイケンは僕と向かい合わせになるようにベッドに座る。
「俺の脳みそは優秀だったらしい。勉学ができるとかそういったことではなく、この世界に来るタイミングでの記憶障害への耐性だ。だから言葉において疑問にもつことはなかった」
「よく分からない……」
「例えば、ビルってわかるか?」
僕の頭の中に映像が映る。しかしそれはざらついてハッキリしない。知っているようで知らない。何かモヤがかかっている。
「聞いたことがあるかも……しれない」
「実際ここにもビルはある。今度の作戦地点にも散々あるそうだぞ」
「見れば、多分」
「俺からすると、何も無いオトメはそれはそれで羨ましいところもあるぜ。前提知識もなくこの世界で第二の人生。悪くないだろ?でもそういかなかっただな。不幸というべきかなんとやら」
「不幸と思ったことはあんまりないな」
「そうか?」
無い。実際戦いを積み上げてECFにいるから出会えた仲間もいるのだ。
「サイケンとかと出会えただろ?記憶が始まって一年もしてないけど、それは嬉しいことなんだ」
「そ、そうか……」
ゴクリと珈琲を飲み干してゴミ箱へ投げ入れた。カンカンカンと音を立てて着地、次は僕が話を振る。
「負けるのは嫌だからな、そりゃ最善を尽くすよ。したいことも、なりたいものも見つけられぬまま。それでも僕は満足だ。死に場所を探すわけではないけれど、ようやく一つのゴールを見つけた。後は覚悟決めて記憶を取り戻すだけさ」
「ナノさんは気まぐれだからな。記憶を戻すか、そんな所業どうやるか知らんが、そこまでは死ねないな」
「あぁ」
僕も飲み干してゴミ箱へ投げ入れた。外した。しょうがないから歩いて入れた。
「そうだ、一つ」
「なんだ」
「サイケンは僕が最強兵器だと思う?」
サイケンは顔を曇らせてから呆れたように言った。僕もその答えを期待していたし、分かっていた。訊く意味すらなかった。
「さぁな」
この一言で十分だ。
ずっと思っている。
僕がいなくてもECFは強い。変わらない。
それでも僕がいる理由はどこにあるのだろうか、今回の作戦で最後だ、何も残らなくても悔いは残したく無い気持ちがあった。
僕はリフレッシュのため廊下に出て甲板に向かう。ちょうど曲がり角で誰かにぶつかった。五感を放棄したように歩いていたからか、壮大にコケて数秒のラグの後他立ち上がり謝罪から入った。
「あの、すみません」
「……はぃ?あははは、ごめんなさぃいねぇ?」
「は……あの」
「大丈夫ですよ、僕は大丈夫。あなたこそ大丈夫ですか?」
「え、ええ僕は……」
前の男は指で頭をつんつんとつついてニッコリ笑う。口は笑ってるのに目が死んでいる。ひきつって見えて不気味さを出していた。
「違いますよ。貴方の中身の方です。ではなくてですね、作戦の方です」
「は」
急に男が僕の耳元に接近し、一言呟いた。周りには数人いたが、誰もこちらを見ていない。
「キリカさん、殺させないでくださいねぇ?その時は……僕が貴方殺しちゃいます」
男が顔を話すと、環境音が戻ってきたように意識を取り戻した。あんな人間は初めてだ。似ているのはキリカの兄のヒノキ。感じたのは不気味さ。あんな人間がECFにいたのか。
『ミチル』Green
相対レベル:6(回避補正:-5)
武器:白打(耐久Lv.2)
防具:倫理委員会戦闘対応制服(白)
アクセサリー:白魔石の首飾り(星型、効果無し)
他スキャンを実行していません。
身長が180センチありそうな細身の肉体に少し長い髪の毛。基色が白で襟足ともみあげだけが黒い。もう少し脂肪つけた方がいいと思う。シロカミの人だろうか。
「キョウスケ、あいつ」
「危険人物です」
キョウスケが確定したように危険人物と言ったのは初めてのように聞こえた。ECFに変人は多いが、できるだけ接触しないようにしよう。
僕は足を進めて甲板に出た。広がるのは殺風景な荒野。茶色。太陽は見えるが常に曇りのようなどんより天気で気分も下がる。たまに快晴になるとアガる。
同じように休憩に来た人がまちまちいる。僕は数日前のナオヒト本部長の言葉、その後の作戦会議を思い出していた。
「あと二日か」
目的地は『パララミロー』他の街とは一線を画す未来都市だ。大都市のマラサより小さい。発見はナオヒト本部長からの発表三日前。開拓地のコミュニティから外れた人の街を見つけるのはザンゲノヤマ以来で、他にもあるのではないかと予想されるようになった。怖いのは『未来都市』という響きだ。常識の範疇にないことをされると必ず犠牲が増える。
ここはただの通過地点で目的地はその奥にあるらしい。パララミロー自体がライヴの巣窟らしいがただの街に変わりないとツルギさんは言う。
その奥、未開拓地、広大な平地があるとされている。
「名前は『マルエルの楽園』」
殺しに行く。殺しに行く。甘えなしに殺しに行く。持ち得る最大を持ってライヴを根絶やしにするのだ。今回の正義はなんだろう。きっと理性を置いていった方がいいかもしれない。
「オトメ、私はオトメと24時間いるので分かりますが、最近メンタルに非常に大きな負担がかかっています。もしものことがあれば……」
「はいはい。分かったよ」
別に何も分かっていないのだけど、キョウスケは心配しすぎ。これが終われば、終わる。それまでは精神なんてどうだっていい。
「誰か僕を……殺してくれ」
応援ありがとうございます!
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