仮想世界β!!

音音てすぃ

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106.生き残った人たち

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 パララミローを中心とした最終作戦は本腰を入れる前に失敗した。先遣隊のほとんどが壊滅。街の三分の一が更地になり、オトメが行方不明となった。ECFがPEの座標を追跡しようにもマップから消滅しているらしい。オトメに何か施されたのか、死亡したのか、様々な意見が挙げられた。
 増援という名前の救助隊は10人のECF隊員を救い出し、到着するはずだった総勢200名のほとんどがは戦場に到着せずにノアオルタへ帰還した。
 上位戦力の先遣隊が壊滅状態だったが、相対的被害はライヴの方が上であることは確かであり、導入した人数が最小で済んだことは喜ぶことであった。一つ、オトメが行方不明ということを除いて。

「ハッ……あ?なんじゃい、ここ?」

 ゆっくり目が覚めて、見慣れない天井を見つめた2秒後、カワセミは体を震わせて体を起こした。上手く喋れない。体に色んな器具が付いている。邪魔くさい、さっさと外した。

「あの後だ、どうなった?」

 まるで病人の姿で医務室のベッドにいる。SEも外されている。体も重い、誰か来てほしい。
 荒野が見える窓から来るぼやけた影が見える。隣にもカワセミと同じ境遇の誰かがベッドで寝ていたようだ。起き上がって外を眺めていたその人は、肩まで延びた真っ白い髪狭い肩幅、見覚えがある、キリカじゃない、後ろ姿ははっきりと覚えている。だがそんな髪色をしていなかったはずだった。

「ガラスか?……なあ!ガラスか?」

 ベッドからのろのろと立ち上がってその顔を覗こうとする。ふらついた足でガラスの前の床に転がってしまった。

「いってー。なあガラス、返事くらいしてほしいんじゃい……」

 視界に入ったのにガラスはずっと窓の奥を向いたまま。患者衣姿でずっと見つめている。

「おーい。そりゃ傷つくんじゃ……」

 ゆっくり立ち上がると、窓に映る自分が横眼に見える。患者衣の上には少し伸びた黄緑色の髪の毛があった。

「は?」

 噓だと思って何度か確認してみるが、明らかに髪の毛の色が変わっている。前までもっと深い緑色だったのに!

「まさか……俺ハゲになったか!?」

 勿論毛は後退していない。と、冗談を大声で言ってみると、ガラスの視線がこっちを向いた気がする。

「なんか、お前鈍いな」

 焦点の合っていないガラスの顔の前で手を振ってみる。

「ガラス、見えないか?……聞こえるか?見えるか?」

 間違いなくガラスは視覚と聴覚がほとんど機能していない。頭の悪い俺でもわかる。

「おいおい棒のお前がさらに細くなってんじゃい……畜生」

 ゆっくりと体のバランスを取って、ガラスの隣に座る。ベッドが揺れる。それを感知してガラスはカワセミの方を向いた。

「スギ博士?」

 耳元に「ちげぇよ、俺じゃい!」と言ってやると、ガラスの焦点の合わない目からぽつっと涙が流れた。

「あっ……え?ほんと?そこにいるの?カワセミ?」
「あぁ俺じゃい。助けてくれてありがとうな。ちゃんと覚えてるぜ!」
「よかった、本当に良かった……!」

 カワセミが体を確かめるようにガラスを抱きしめる。静かに患者衣から温度を感じる。大丈夫、俺らは生きている。
 ガラスはずっと泣くのを堪えていたのだろう、ずっとカワセミの腕で震えていた。

ーーーーーー

「趣味が悪いですよスギ博士」

 キリカがノアオルタ病室、入り口前でニヤニヤしているスギ博士に注意する。

「そんな目で見ないでくれよキリカ君。今入ろうとしていたところなんだ。でもカワセミ君が目を覚ましてね……なんて驚かせてやろうかと考えた結果、入るタイミングを逃してね」
「で?いつ入るんです?」
「今はやめておこう。彼らにも友情を確かめる時間は必要だろう……それにもう少し時間がかかると思ったけど、ツルギさんの部下は丈夫だね。予定よりも一か月早い」
「もう、あれから一か月ですね」

 キリカは両手を見つめて感覚を確かめる。帰還時に再生水によって失った腕を取り戻してした。

「あぁ……記録を何度も確かめたよ。人の命の価値を下げるわけじゃないけど、やはり精鋭たちの死は……受け入れるに堪える。隊長で生き残ったのはツルギさんとギンジ隊長だけだろ?ふざけてるだろぉ……いつ考えてもあの化け物じみた隊長たちが死んだ?未だに受け入れられん」
「私も……です」
「君はなぜか魔力汚染でのエーテル場の歪みが少なかったし、生き残った人数も人数だったからね、割く再生水のリソースは多かった。それにしても元気だよねー私なんかテンション取り戻すのに今日までかかったのによぉ」

 スギ博士はため息と一緒に壁に体重をかけてずるずると膝を抱えて座り込んだ。

「ギンジさんは相変わらずの丈夫さでもう訓練してるし、ツルギさんとアリエさんはほぼ無傷、でも」

 病室を横目でのぞきこんでまたため息をついた。

「カワセミ君は重度の魔力汚染によって意識不明、ガラス君はそれ以上……内部がズタボロだった。文字通りの命を削った魔力酷使をしたんだろう。まったく、おかげで視覚と聴覚のほとんどを失っているようだし、とりあえずエーテルの安定を待つしかないんだよねぇ」
「そうじゃないと再生水も、再生魔術や回復魔術も使えないんですよね?」
「そう。結局全部エーテルを通すからね。今やったら彼は死ぬよ。今生きてるのも不思議なくらいだ」
「……じ、じゃあ私訓練いくんで、いつまでもそこいないでくださいよ」
「あ?あぁ。長話、もう終わった話をしてもね。ささ、私も仕事に戻るよ」

 キリカが病室前で二人を一瞬視界に入れて、予定された訓練室へ向かう。スギは膝に手を当てて勢いよく立ち上がる。二人は互いに背中を向けて動き始めた。

「本当にキリカ君は強いねぇ、そんなにオトメ君が大切なんだろうね。安心してくれ、君の靴についていたオトメ君の血、これでなんとかしてみせる」


ーーーーーー


「美味いな……ありがとう」
「ども」

 談話室カエデがツルギにコーヒーを淹れた。だがカエデは嬉しくなかった。一年以上前の話だが、ツルギはブラックが好きと言っていた。今回怒られる覚悟で砂糖をスプーン5杯はいれた。

「……ツルギ隊長は甘党になりました?」
「え?」

 カエデは手が止まったのが分かった。
 隠し事がバレた時の心臓の痛みをツルギは感じていた。

「あ、あぁ、甘いものは美味しいよな……?」

 カエデがツルギに迫る。子供を心配する親のようだった。

「味!ちゃんと分かってます!?ツルギ隊長!」
「……」
「味覚障害ですね。帰還してからの調査で、魔力汚染された隊員は身体感覚が鈍くなると報告されています。でも、ふんだんに治療を受けたはずですよね?」
「もちろんだ、五体満足だ……お前が思っている通りだ。今俺は味というものがほとんど感知できない。きっとこれは甘いコーヒーなのだろう?お前の淹れる珈琲ならとおもったのだが、だめだった」

 ツルギは何度も自分の感覚を疑った。スギ博士に言わせればストレスがなんとか。自分ですらどこにストレスがあったか理解していない。

「あの、すみません、試すようなことしてしまって。謝罪します」
「いいや、お前の洞察力には頭が上がらない」

 カエデはもう一杯の珈琲を差し出して、甘い方と取り換えた。

「お詫びにこちらを……それとツルギ隊長にお話が。前回の作戦の生き残りである我々、内二人のカワセミとガラスは魔力汚染による脱色が見られました。エーテルの状態からして戦線復帰は訓練期間を考えてもあと2か月は必要だと思われます」
「ギンジは2か月と言っていたが、既に一か月経過しているぞ」
「訓練期間無しで戦場は無理です。特にガラスは……時間が必要です。次の作戦には参加できないと思います」
「そうか……」

 ツルギが一口珈琲を飲む。やはり何も感じない。水と違うのは分かる、それだけだ。

「……それと、これからが本題です。ツルギ隊長がキリカを救出している時、実は私も後を追いました。その後壁上の先まで観測しに近づきました」
「何がみえた?」
「荒野の先に微かに文明の栄えた街が観測できました。パララミローの3倍はあると思われます」
「なるほど。行方不明になったオトメもそっち側にいると考えることもできそうだな」
「はい、私もそう考えていました」
「パララミローより先、ライヴが絡んでいる可能性が高く、攻略にも更なるリソースを割く必要がある。向こうも防衛に渋々あの光を使ったと考えて、次も最大の防衛をしてくるだろう。さて……ジリ貧になってきそうだな」

 パララミロー攻略失敗から一か月、先遣隊を始め、失ったものは多かった。失った命の上に立ち、ECFは次の作戦に抜けて準備を進める。

 一方のオトメはわずか数時間で目覚めることになっていた。




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