タロット・コンバッティメント

ウツ。

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第5章 思考

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戦闘終了時に脳内に響いたあの言葉がフラッシュバックする。
沙織があのかすり傷で敗北したのは、自分の能力「即死攻撃」が発動したせい…。
僕は…
「相手を殺すしか勝つ方法がないんだ…」
戦闘不能になるまで相手を追い詰めようにも、能力が発動してしまえば沙織のようにかすり傷程度でも相手は死亡してしまう。

最悪の能力だった。

「ここは喜ぶべきだと思うけどな。相手に大きなダメージを与えられなくても、君は勝てる可能性があるんだから」
モルテは愉快そうに笑う。そんなモルテにもう怒りも苛立ちも感じなかった。
デスゲームの盤上。
自分は殺人鬼だ。
「うああああああ…!」


**************



時を刻む音が耳に響く。
横を見るとモルテが暇そうに大鎌をいじっていた。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。よく分からないが、日はとっくに沈み、部屋は暗闇に包まれていた。
時計を確認する。そろそろ優花が帰ってくる時間だ。
拓人は重い足を動かし、夕食の支度をするためキッチンへ向かった。
途中、モルテに話しかけることも、モルテが話しかけてくることもなかった。

「お兄ちゃんどうしたの?顔色悪いよ?」
夕食時、優花が心配そうに拓人の顔を覗き込んだ。拓人は作り笑顔を浮かべることすらできず、優花の言葉を聞き流した。
優花にタロット・コンバッティメントのことを話したところで冗談だと笑われるかもしれない。いや、優花のことだから信じてくれるかもしれない。しかし、信じてもらえたところで何も解決はしない。むしろ巻き込むようなことは絶対にしたくない。
優花は拓人が何も言わないのに対し文句一つ言わず、たった一言「いつでも相談してね」とだけ言って夕食の席をたった。
その言葉に拓人は不意に泣きそうになった。いつだって妹はこういうやつだ。優しくて面倒見が良く、時にどちらが年上なのかわからなくなることさえある。

勇気も覚悟もない自分とは正反対の人。

優花ならこのゲームをどう思うのだろう。
口からこぼれそうになった言葉を拓人はそっと飲み込んだ。

「落ち着いたか?」
暗がりの中、部屋に入るなりモルテがそう聞いてきた。
「まあ少しは」
「そうか」
拓人は部屋の明かりもつけずベッドへ倒れこんだ。ベッドの端に座っていたモルテは気を使ってか、拓人の机の椅子へと居場所を変えた。
「まだ話してないことがあるんだが…って言っても余談に近いんだが、今話しても大丈夫か?」
「うん」
聞く気も聞かない気もなかった。聞きたくはないが、どうせいつかは聞かなければならないことなのだろう。それに話せと願ったのは自分だ。
「このタロット・コンバッティメントには当たり前ではあるが小アルカナ所持者も存在する。小アルカナは大アルカナに比べ能力が小さい。だから大アルカナを引いた君はツイていたのさ」
「そうか」
自分が殺される運命と、人を殺す運命、どちらが良かったのだろう。
自分はただ平和に生きていきたかっただけだ。
拓人は顔も上げず、そのまま眠りについた。

モルテは拓人を見て考える。
この少年は耐えることができるだろうかと。
何度と見たあの光景を思い出しながら…。

小アルカナ所持者はすでにだいぶ減っている。
カードの人物は残り何人のカード所持者がいるのか把握できる。
このことを拓人に話さなかったのは、ゲームについてのことではなく、カード自身のことだったからだ。
拓人の願いの落とし穴であった。
そしてカードと全く異なる自分の容姿を見つめた。
あの子は今、どうしているのだろう。
懐かしい面影を思い、降り始めた雨を見つめた。
優しいあの子はまだ戦っているかもしれない。最悪の結末だけは考えたくない。
でないと自分がカードに封印されてる意味がなくなってしまう。
自分の過去は、拓人にすら話すことはないだろう。
そして、拓人自身にも知らなくていいことだった。

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