6 / 22
第5章 思考
しおりを挟む
戦闘終了時に脳内に響いたあの言葉がフラッシュバックする。
沙織があのかすり傷で敗北したのは、自分の能力「即死攻撃」が発動したせい…。
僕は…
「相手を殺すしか勝つ方法がないんだ…」
戦闘不能になるまで相手を追い詰めようにも、能力が発動してしまえば沙織のようにかすり傷程度でも相手は死亡してしまう。
最悪の能力だった。
「ここは喜ぶべきだと思うけどな。相手に大きなダメージを与えられなくても、君は勝てる可能性があるんだから」
モルテは愉快そうに笑う。そんなモルテにもう怒りも苛立ちも感じなかった。
デスゲームの盤上。
自分は殺人鬼だ。
「うああああああ…!」
**************
時を刻む音が耳に響く。
横を見るとモルテが暇そうに大鎌をいじっていた。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。よく分からないが、日はとっくに沈み、部屋は暗闇に包まれていた。
時計を確認する。そろそろ優花が帰ってくる時間だ。
拓人は重い足を動かし、夕食の支度をするためキッチンへ向かった。
途中、モルテに話しかけることも、モルテが話しかけてくることもなかった。
「お兄ちゃんどうしたの?顔色悪いよ?」
夕食時、優花が心配そうに拓人の顔を覗き込んだ。拓人は作り笑顔を浮かべることすらできず、優花の言葉を聞き流した。
優花にタロット・コンバッティメントのことを話したところで冗談だと笑われるかもしれない。いや、優花のことだから信じてくれるかもしれない。しかし、信じてもらえたところで何も解決はしない。むしろ巻き込むようなことは絶対にしたくない。
優花は拓人が何も言わないのに対し文句一つ言わず、たった一言「いつでも相談してね」とだけ言って夕食の席をたった。
その言葉に拓人は不意に泣きそうになった。いつだって妹はこういうやつだ。優しくて面倒見が良く、時にどちらが年上なのかわからなくなることさえある。
勇気も覚悟もない自分とは正反対の人。
優花ならこのゲームをどう思うのだろう。
口からこぼれそうになった言葉を拓人はそっと飲み込んだ。
「落ち着いたか?」
暗がりの中、部屋に入るなりモルテがそう聞いてきた。
「まあ少しは」
「そうか」
拓人は部屋の明かりもつけずベッドへ倒れこんだ。ベッドの端に座っていたモルテは気を使ってか、拓人の机の椅子へと居場所を変えた。
「まだ話してないことがあるんだが…って言っても余談に近いんだが、今話しても大丈夫か?」
「うん」
聞く気も聞かない気もなかった。聞きたくはないが、どうせいつかは聞かなければならないことなのだろう。それに話せと願ったのは自分だ。
「このタロット・コンバッティメントには当たり前ではあるが小アルカナ所持者も存在する。小アルカナは大アルカナに比べ能力が小さい。だから大アルカナを引いた君はツイていたのさ」
「そうか」
自分が殺される運命と、人を殺す運命、どちらが良かったのだろう。
自分はただ平和に生きていきたかっただけだ。
拓人は顔も上げず、そのまま眠りについた。
モルテは拓人を見て考える。
この少年は耐えることができるだろうかと。
何度と見たあの光景を思い出しながら…。
小アルカナ所持者はすでにだいぶ減っている。
カードの人物は残り何人のカード所持者がいるのか把握できる。
このことを拓人に話さなかったのは、ゲームについてのことではなく、カード自身のことだったからだ。
拓人の願いの落とし穴であった。
そしてカードと全く異なる自分の容姿を見つめた。
あの子は今、どうしているのだろう。
懐かしい面影を思い、降り始めた雨を見つめた。
優しいあの子はまだ戦っているかもしれない。最悪の結末だけは考えたくない。
でないと自分がカードに封印されてる意味がなくなってしまう。
自分の過去は、拓人にすら話すことはないだろう。
そして、拓人自身にも知らなくていいことだった。
沙織があのかすり傷で敗北したのは、自分の能力「即死攻撃」が発動したせい…。
僕は…
「相手を殺すしか勝つ方法がないんだ…」
戦闘不能になるまで相手を追い詰めようにも、能力が発動してしまえば沙織のようにかすり傷程度でも相手は死亡してしまう。
最悪の能力だった。
「ここは喜ぶべきだと思うけどな。相手に大きなダメージを与えられなくても、君は勝てる可能性があるんだから」
モルテは愉快そうに笑う。そんなモルテにもう怒りも苛立ちも感じなかった。
デスゲームの盤上。
自分は殺人鬼だ。
「うああああああ…!」
**************
時を刻む音が耳に響く。
横を見るとモルテが暇そうに大鎌をいじっていた。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。よく分からないが、日はとっくに沈み、部屋は暗闇に包まれていた。
時計を確認する。そろそろ優花が帰ってくる時間だ。
拓人は重い足を動かし、夕食の支度をするためキッチンへ向かった。
途中、モルテに話しかけることも、モルテが話しかけてくることもなかった。
「お兄ちゃんどうしたの?顔色悪いよ?」
夕食時、優花が心配そうに拓人の顔を覗き込んだ。拓人は作り笑顔を浮かべることすらできず、優花の言葉を聞き流した。
優花にタロット・コンバッティメントのことを話したところで冗談だと笑われるかもしれない。いや、優花のことだから信じてくれるかもしれない。しかし、信じてもらえたところで何も解決はしない。むしろ巻き込むようなことは絶対にしたくない。
優花は拓人が何も言わないのに対し文句一つ言わず、たった一言「いつでも相談してね」とだけ言って夕食の席をたった。
その言葉に拓人は不意に泣きそうになった。いつだって妹はこういうやつだ。優しくて面倒見が良く、時にどちらが年上なのかわからなくなることさえある。
勇気も覚悟もない自分とは正反対の人。
優花ならこのゲームをどう思うのだろう。
口からこぼれそうになった言葉を拓人はそっと飲み込んだ。
「落ち着いたか?」
暗がりの中、部屋に入るなりモルテがそう聞いてきた。
「まあ少しは」
「そうか」
拓人は部屋の明かりもつけずベッドへ倒れこんだ。ベッドの端に座っていたモルテは気を使ってか、拓人の机の椅子へと居場所を変えた。
「まだ話してないことがあるんだが…って言っても余談に近いんだが、今話しても大丈夫か?」
「うん」
聞く気も聞かない気もなかった。聞きたくはないが、どうせいつかは聞かなければならないことなのだろう。それに話せと願ったのは自分だ。
「このタロット・コンバッティメントには当たり前ではあるが小アルカナ所持者も存在する。小アルカナは大アルカナに比べ能力が小さい。だから大アルカナを引いた君はツイていたのさ」
「そうか」
自分が殺される運命と、人を殺す運命、どちらが良かったのだろう。
自分はただ平和に生きていきたかっただけだ。
拓人は顔も上げず、そのまま眠りについた。
モルテは拓人を見て考える。
この少年は耐えることができるだろうかと。
何度と見たあの光景を思い出しながら…。
小アルカナ所持者はすでにだいぶ減っている。
カードの人物は残り何人のカード所持者がいるのか把握できる。
このことを拓人に話さなかったのは、ゲームについてのことではなく、カード自身のことだったからだ。
拓人の願いの落とし穴であった。
そしてカードと全く異なる自分の容姿を見つめた。
あの子は今、どうしているのだろう。
懐かしい面影を思い、降り始めた雨を見つめた。
優しいあの子はまだ戦っているかもしれない。最悪の結末だけは考えたくない。
でないと自分がカードに封印されてる意味がなくなってしまう。
自分の過去は、拓人にすら話すことはないだろう。
そして、拓人自身にも知らなくていいことだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる