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第4章 ゲームの全容とカード能力
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世界に色が戻っていく。先ほどまで見当たらなかった人たちが平然と道を歩いていく。
沙織の刃が突き刺さったはずの壁も、傷一つなく元通りになっていた。
そしてこの部屋に残ったのは、未だ視線を動かせないでいる拓人と、剣から戻った黒い大鎌を持つモルテのみだった。
「沙織さんと…マットは…」
「占い師は死んだ。マットはそこ」
淡々と語るモルテの示した先に、タロットカードが一枚落ちていた。
「愚者のカード…」
「それは処分しな。煮るなり焼くなり…甘くしろ?なんだっけ?ま、いっか。別の人の手に渡るとまた戦わなきゃいけなくなるからさ」
拓人は愚者のカードを拾うと、聞こえなかったふりをしたあの言葉を口にした。
「沙織さん…死んだ?」
「そう、今回のゲームは君の勝ちだったからな」
モルテの平然とした態度に、拓人の思考はゆっくりと回りだした。
「死んだ」という漠然とした事実。沙織さんが攻撃してくるとわかっていたモルテ。当たり前のように大鎌を渡し、その剣で戦えと言った。そして戦闘後のこの態度。
「モルテ、お前、ゲームのルール知ってたな?」
「ああ」
「なんで教えてくれなかった!なんで知らないふりをした!答えろ!答えろよ!」
拓人はモルテにつかみかかった。自分にのしかかったのは罪か罰か。求めるのは現実か言い訳か。
自分は人を殺してしまったのか?!
モルテは拓人に顔を近づけ、そしてあの笑みで言い放った。
「ルールってやつ、そりゃあ知っていたさ。でもそれを初めに教えて何になる?このゲームは勝てば天国、負ければ地獄。勝者の願いと引き換えに敗者は死ぬのさ。で、君はどんな願いを叶えるのかな?」
「沙織さんを元に戻せ!生き返らせろ!」
「あーっと、その願いは叶えられないね」
「どういうことだ!?」
拓人は掴んでいる手に力を込めた。そうでもしないと今にでもモルテに殴りかかってしまいそうだったのだ。
「まあ、そうかっかするなよ。早死にするぞ?」
「下手すりゃさっき死んでたんだろ?」
「うまいね」
モルテは「くくっ」と笑った。
「俺、拓人のそういうところ好きだぜ。んじゃまず願い事の条件を教えよう。タイムリミットは20分だからね」
「願いが叶えられる時間か」
「そう。条件は単純。現実に起こりえない願いは無効となる。それだけ」
「なるほど。じゃあ大金持ちになりたいとか、そういう曖昧な願い事はどうなんだ?」
「その例でいくと、大金持ちになりたいっていう願いは叶わないけど、お小遣いを増やして欲しいって願いなら叶う」
「難しいな」
「まあ、願いを宣言して、その敗者のカードが光らなければ無効ってことだ」
「誰だよさっき煮るなり焼くなりとか言ったやつ…」
「いひひ」
拓人はモルテから手を離した。
「モルテ、君が知っているゲームについてのことをすべて話せ。それが僕の願いだ」
拓人はマットのカードが淡く光るのを確認した。
「へぇ、なるほど。そうくるのか」
「さあ、ここからは嘘も隠し事も聞かないぞ」
「わかってる。すでに口が勝手に語りだそうとしてるよ」
モルテはどこか悔しそうにそっぽを向くと、順を追って語り始めた。
「このゲームのルールは最初に言った通り、このタロットカード購入者だけが参加出来る、勝てば天国、負ければ地獄のデスゲームだ。選ばれるプレイヤー人数はタロットカードの枚数と同じ78人」
「このゲームの目的は何なんだ?」
「それは俺も詳しくは知らない。知っているのは全プレイヤーを倒した優勝者はさっきも言ったが、条件を破るような願い事も叶うってことだ。亡き者を生き返らせたり、不老不死だったり…」
拓人はその話を聞きながら考えた。自分がもし優勝者になったら何の願い事をするか…。
浮かんだのはいつしかの食卓。家族みんなで楽しく笑って過ごしたあの日々。
あの日を取り戻せるなら…。
人をも殺すのか?
誰かがそうささやいたような気がした。
「叶えたい願いがあるのか?君も」
「あるよ…。あ!何勝手に…っ!」
モルテは話しながら一冊の本を手に取っていた。それはあの赤い本ではなく、拓人の中学の卒業アルバムだった。
「それは両親に関するものか?」
モルテは視線を上げずに問いかけてきた。
「なんでわかる?」
「入学式は両親との写真があるのに、卒業式に両親はいない。君はふとした瞬間どこかを見つめて寂しそうな表情をしている時がある。大切な卒業式に両親ともに仕事を入れるなんてそうそうないと思ったからさ。事故か何かか?」
「殺されたんだ」
顔を上げずとも、モルテが驚いたのがわかった。
「中学三年の時、殺人事件に巻き込まれて…。犯人はまだ、捕まっていない…」
「犯人を憎んでいるのか?」
「うん」
「じゃあ犯人を殺すのが願いか」
「ちょっと待て!なんでそうなった?!」
モルテの洞察力に感心していた拓人は、その不意打ちに思わずツッコミを入れてしまった。
「だって憎んでるんだろ?じゃあ殺してしまえばいい。当然の報いだ」
「そうじゃなくて…。僕は人を殺す側にはなりたくない。…つもりだったんだけど…」
「君の願いや思いはどうあれ、これはデスゲームだからね。勝者になるには相手を倒すしかない」
「他に勝敗が決まる方法とかないのか?相手がギブアップするとか…」
拓人はモルテに話題を逸らされたことに気づかず、新たな問いを口にした。
「ギブアップはないね。戦闘フィールド…さっきの異次元空間が展開されたら勝敗がつくまで出られない。勝敗の決め手は相手を殺すか、戦闘不能状態へ追い込むか」
それを聞いて拓人はこのゲームの厳しさを改めて認識した。殺す、殺さないのどちらにせよ、相手を傷つけなければならないことに変わりはない。
「あっ、でも逆にフィールド内に入ってくることは可能らしいね。不意打ち攻撃には良さそうだ」
モルテが楽しそうに笑う。
「モルテたちは戦わないの?マットもそうだったけど、モルテたちは武器を渡して口頭指示のみだったよね?僕なんかよりモルテの方が強そうなのに…」
「俺たちが戦闘に直接手を下すのはタブーなんだ。それを行なった場合、そのカード所持者は死ぬ。俺たちは戦わないんじゃなくて戦えないんだよ」
「フィールド展開ってどうやったらできるの?する気は無いけど。あと逃れる方法とか」
「質問攻めだな。フィールド展開時に脳内に高い音が流れる感覚があっただろ?あれはカード所持者が10m以内に近づいた合図なんだ。その合図が聞こえている時にフィールド展開と言えば自動的にフィールドが展開される。それから逃れるにはフィールドが展開される前に相手から距離を取るしかないな。相手がどの方向にいるのか特定するのは不可能だからほぼ無理に近いね」
「カード所持者に会わないことを願うしかないのか…。迂闊に外も歩けないな」
「でもカード所持者に会わないと願いを叶える以前の問題だぜ?それに探しにくる奴だっているかも」
モルテはどうやら死神であるせいか、人の死にあまり関心がないらしい。
「人を殺してまで叶えたい願いなんてないよ。そんな願い、幸せでもなんでもないよ」
「俺、拓人のそういうとこ嫌いだ。面白くない」
「嫌いで構わないよ」
そっぽを向くモルテに拓人は再び疑問をこぼした。
「あまり聞きたくはないけど…沙織さんはなぜあのかすり傷で…負けたんだ?」
「そこだ。このゲームの勝敗を左右する鍵、カード能力」
「カード能力?」
拓人は何かのアニメのような言葉に疑問符を浮かべる。
「カードにはそれぞれそのカードに見合ったカード能力が付与されている。どんな能力が付与されているのかは対戦するまでわからない。でも一度発動すれば俺たちカード側の人物は直感でどういった能力か理解することができる。あの占い師は付与型の力の倍増だったな」
「付与型?」
「そう。能力には付与型と発動型がある。付与型は自分の意思で好きな時に能力の発動ができるタイプ。発動型は確率で能力が付与される運任せなタイプ。利便上は付与型の方がいいけど、発動型の方が能力自体は大きかったりする」
「へぇ…。え?じゃああの沙織さんが放ってきた星のかけらみたいなやつは能力じゃないの?」
拓人は沙織の攻撃を思い返し、今思えばあれは魔法のようだったと変な感想を抱く。
「あれは占い師が相当の占い実力者だったからできた技だ。占いとしての能力や霊力を持つ人は稀に武器以外の攻撃方法を身につけることができる。君がそんなベテランに勝てたのは運が良かったとしか言いようがない」
モルテは一瞬だけ拓人に感心の目を向けると、すぐに何かを企むようなにやけ顏に戻り、拓人にその能力名を告げた。
「君の能力は発動型、確率即死攻撃だ」
その能力は拓人を絶望へ突き落とすには十分すぎるものだった。
沙織の刃が突き刺さったはずの壁も、傷一つなく元通りになっていた。
そしてこの部屋に残ったのは、未だ視線を動かせないでいる拓人と、剣から戻った黒い大鎌を持つモルテのみだった。
「沙織さんと…マットは…」
「占い師は死んだ。マットはそこ」
淡々と語るモルテの示した先に、タロットカードが一枚落ちていた。
「愚者のカード…」
「それは処分しな。煮るなり焼くなり…甘くしろ?なんだっけ?ま、いっか。別の人の手に渡るとまた戦わなきゃいけなくなるからさ」
拓人は愚者のカードを拾うと、聞こえなかったふりをしたあの言葉を口にした。
「沙織さん…死んだ?」
「そう、今回のゲームは君の勝ちだったからな」
モルテの平然とした態度に、拓人の思考はゆっくりと回りだした。
「死んだ」という漠然とした事実。沙織さんが攻撃してくるとわかっていたモルテ。当たり前のように大鎌を渡し、その剣で戦えと言った。そして戦闘後のこの態度。
「モルテ、お前、ゲームのルール知ってたな?」
「ああ」
「なんで教えてくれなかった!なんで知らないふりをした!答えろ!答えろよ!」
拓人はモルテにつかみかかった。自分にのしかかったのは罪か罰か。求めるのは現実か言い訳か。
自分は人を殺してしまったのか?!
モルテは拓人に顔を近づけ、そしてあの笑みで言い放った。
「ルールってやつ、そりゃあ知っていたさ。でもそれを初めに教えて何になる?このゲームは勝てば天国、負ければ地獄。勝者の願いと引き換えに敗者は死ぬのさ。で、君はどんな願いを叶えるのかな?」
「沙織さんを元に戻せ!生き返らせろ!」
「あーっと、その願いは叶えられないね」
「どういうことだ!?」
拓人は掴んでいる手に力を込めた。そうでもしないと今にでもモルテに殴りかかってしまいそうだったのだ。
「まあ、そうかっかするなよ。早死にするぞ?」
「下手すりゃさっき死んでたんだろ?」
「うまいね」
モルテは「くくっ」と笑った。
「俺、拓人のそういうところ好きだぜ。んじゃまず願い事の条件を教えよう。タイムリミットは20分だからね」
「願いが叶えられる時間か」
「そう。条件は単純。現実に起こりえない願いは無効となる。それだけ」
「なるほど。じゃあ大金持ちになりたいとか、そういう曖昧な願い事はどうなんだ?」
「その例でいくと、大金持ちになりたいっていう願いは叶わないけど、お小遣いを増やして欲しいって願いなら叶う」
「難しいな」
「まあ、願いを宣言して、その敗者のカードが光らなければ無効ってことだ」
「誰だよさっき煮るなり焼くなりとか言ったやつ…」
「いひひ」
拓人はモルテから手を離した。
「モルテ、君が知っているゲームについてのことをすべて話せ。それが僕の願いだ」
拓人はマットのカードが淡く光るのを確認した。
「へぇ、なるほど。そうくるのか」
「さあ、ここからは嘘も隠し事も聞かないぞ」
「わかってる。すでに口が勝手に語りだそうとしてるよ」
モルテはどこか悔しそうにそっぽを向くと、順を追って語り始めた。
「このゲームのルールは最初に言った通り、このタロットカード購入者だけが参加出来る、勝てば天国、負ければ地獄のデスゲームだ。選ばれるプレイヤー人数はタロットカードの枚数と同じ78人」
「このゲームの目的は何なんだ?」
「それは俺も詳しくは知らない。知っているのは全プレイヤーを倒した優勝者はさっきも言ったが、条件を破るような願い事も叶うってことだ。亡き者を生き返らせたり、不老不死だったり…」
拓人はその話を聞きながら考えた。自分がもし優勝者になったら何の願い事をするか…。
浮かんだのはいつしかの食卓。家族みんなで楽しく笑って過ごしたあの日々。
あの日を取り戻せるなら…。
人をも殺すのか?
誰かがそうささやいたような気がした。
「叶えたい願いがあるのか?君も」
「あるよ…。あ!何勝手に…っ!」
モルテは話しながら一冊の本を手に取っていた。それはあの赤い本ではなく、拓人の中学の卒業アルバムだった。
「それは両親に関するものか?」
モルテは視線を上げずに問いかけてきた。
「なんでわかる?」
「入学式は両親との写真があるのに、卒業式に両親はいない。君はふとした瞬間どこかを見つめて寂しそうな表情をしている時がある。大切な卒業式に両親ともに仕事を入れるなんてそうそうないと思ったからさ。事故か何かか?」
「殺されたんだ」
顔を上げずとも、モルテが驚いたのがわかった。
「中学三年の時、殺人事件に巻き込まれて…。犯人はまだ、捕まっていない…」
「犯人を憎んでいるのか?」
「うん」
「じゃあ犯人を殺すのが願いか」
「ちょっと待て!なんでそうなった?!」
モルテの洞察力に感心していた拓人は、その不意打ちに思わずツッコミを入れてしまった。
「だって憎んでるんだろ?じゃあ殺してしまえばいい。当然の報いだ」
「そうじゃなくて…。僕は人を殺す側にはなりたくない。…つもりだったんだけど…」
「君の願いや思いはどうあれ、これはデスゲームだからね。勝者になるには相手を倒すしかない」
「他に勝敗が決まる方法とかないのか?相手がギブアップするとか…」
拓人はモルテに話題を逸らされたことに気づかず、新たな問いを口にした。
「ギブアップはないね。戦闘フィールド…さっきの異次元空間が展開されたら勝敗がつくまで出られない。勝敗の決め手は相手を殺すか、戦闘不能状態へ追い込むか」
それを聞いて拓人はこのゲームの厳しさを改めて認識した。殺す、殺さないのどちらにせよ、相手を傷つけなければならないことに変わりはない。
「あっ、でも逆にフィールド内に入ってくることは可能らしいね。不意打ち攻撃には良さそうだ」
モルテが楽しそうに笑う。
「モルテたちは戦わないの?マットもそうだったけど、モルテたちは武器を渡して口頭指示のみだったよね?僕なんかよりモルテの方が強そうなのに…」
「俺たちが戦闘に直接手を下すのはタブーなんだ。それを行なった場合、そのカード所持者は死ぬ。俺たちは戦わないんじゃなくて戦えないんだよ」
「フィールド展開ってどうやったらできるの?する気は無いけど。あと逃れる方法とか」
「質問攻めだな。フィールド展開時に脳内に高い音が流れる感覚があっただろ?あれはカード所持者が10m以内に近づいた合図なんだ。その合図が聞こえている時にフィールド展開と言えば自動的にフィールドが展開される。それから逃れるにはフィールドが展開される前に相手から距離を取るしかないな。相手がどの方向にいるのか特定するのは不可能だからほぼ無理に近いね」
「カード所持者に会わないことを願うしかないのか…。迂闊に外も歩けないな」
「でもカード所持者に会わないと願いを叶える以前の問題だぜ?それに探しにくる奴だっているかも」
モルテはどうやら死神であるせいか、人の死にあまり関心がないらしい。
「人を殺してまで叶えたい願いなんてないよ。そんな願い、幸せでもなんでもないよ」
「俺、拓人のそういうとこ嫌いだ。面白くない」
「嫌いで構わないよ」
そっぽを向くモルテに拓人は再び疑問をこぼした。
「あまり聞きたくはないけど…沙織さんはなぜあのかすり傷で…負けたんだ?」
「そこだ。このゲームの勝敗を左右する鍵、カード能力」
「カード能力?」
拓人は何かのアニメのような言葉に疑問符を浮かべる。
「カードにはそれぞれそのカードに見合ったカード能力が付与されている。どんな能力が付与されているのかは対戦するまでわからない。でも一度発動すれば俺たちカード側の人物は直感でどういった能力か理解することができる。あの占い師は付与型の力の倍増だったな」
「付与型?」
「そう。能力には付与型と発動型がある。付与型は自分の意思で好きな時に能力の発動ができるタイプ。発動型は確率で能力が付与される運任せなタイプ。利便上は付与型の方がいいけど、発動型の方が能力自体は大きかったりする」
「へぇ…。え?じゃああの沙織さんが放ってきた星のかけらみたいなやつは能力じゃないの?」
拓人は沙織の攻撃を思い返し、今思えばあれは魔法のようだったと変な感想を抱く。
「あれは占い師が相当の占い実力者だったからできた技だ。占いとしての能力や霊力を持つ人は稀に武器以外の攻撃方法を身につけることができる。君がそんなベテランに勝てたのは運が良かったとしか言いようがない」
モルテは一瞬だけ拓人に感心の目を向けると、すぐに何かを企むようなにやけ顏に戻り、拓人にその能力名を告げた。
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