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第8章 裏切り
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「フィールドは展開しないって言ったじゃないですか!」
拓人は吹雪の中、見失った弓実に叫ぶ。
「これが戦車のカード能力か…」
モルテはそう呟き、マントで自らの体を覆った。
拓人も腕をさするようにして辺りを見渡した。
「弓実がコートを着たのはこういうことか…」
戦車のカード能力はおそらく自分の思う環境へフィールド内を変化させることなのだろう。吹雪にすると決めていたのなら弓実が唐突にコートを着た理由にも納得がいく。現に拓人の体は寒さに震えている。
「あー…言うのを忘れていたわ。あなたの願いが私の願いよりも大きなものだったらフィールド展開はしない」
吹雪の中、うっすらと現れた少女は拓人を見下すように言い放った。右手には湾曲した細身の剣が握られている。その背後には杖を持っていないカッロが出会った時と変わらぬ真面目顔で立っていた。
「戦闘する気満々だぜあいつ…。拓人!」
モルテが大鎌を投げるように拓人に渡した。その柄は拓人の手に収まり、一本の剣へと形を変える。しかし拓人はその剣を雪の中へ投げ捨てた。
「何してんだ拓人!」
「僕は人を殺したくなんかない!」
「そんな悠長なこと言ってる場合か!殺らなきゃ死ぬぞ!」
わかっていた。剣を放棄するのは自殺も同然。拓人の体は色々な意味で震えていた。
「僕は人を殺した罪を背負って生きていける気がしない。それだったら死を選ぼうと、同じことだろう?」
「拓人!」
「うるさい!」
「両親が泣くぞ!」
「…っ」
拓人はもう亡き両親の顔を思い浮かべた。
「両親の敵を取るどころか、君が同じ殺され方をするんだぜ?!そんなの…そんなの駄目だろ!」
その声に拓人は雪に埋もれかけた剣に手を伸ばした。しかしその行動はもはや意味を持たなかった。
弓の剣はかがんだ拓人の絶好の位置を捉える。
「あなたの願いはこのゲームにふさわしくない」
その言葉を最後に拓人は冷たい地面へ倒れこんだ。その真っ白な地面は瞬く間に真っ赤に染まっていく。
「拓人!」
目を見開いたまま、拓人が動くことはなかった。
「なぜ?なぜフィールドが消えない!私の勝ちでしょう?!」
「落ち着いてください。…来ます」
弓実はカッロの言葉でその場を飛び退いた。その瞬間、弓実がいた場所に無数の何かが降り注ぎ、雪煙が巻き起こった。
「何?!」
「侵入者です。弓実、お気をつけて」
「ガリーレ」
その侵入者は拓人の首元に手をかざすとそう呟いた。
「かはっ!」
「拓人!」
「モルテ…?」
拓人は真っ先に飛び込んできた光景に息を飲んだ。
「これ…っ、全部僕の血?!でも僕は…」
「あの少女が回復能力を付与してくれたんだ」
拓人は視線を上げた。そこには白い世界の中、対照的な黒を纏う少女が立っていた。風景に同化してしまいそうなその髪は、どこか儚さを思わせた。
「あなた誰?!そいつの仲間なの?!」
吹雪の中、姿の見えない弓実の声が響く。
「仲間…ではないわね。初対面よ」
「初対面で命をかけてまで参戦してくるなんて、お人好しもいいところね」
「見たところ、彼女のカード能力は回復だと思われます。しかも強力です。拓人は死には至っていなかったものの、首を切られたのにすでに意識を取り戻しています。」
「わかってるわよ!こんなことならちゃんと殺しておけばよかった…!」
「あの子、カード能力は強力なんだけど攻撃力が低くてね…。君、助けてもらったお礼として戦ってやってくれないかな?」
「え?!だ、誰ですか?!」
背後から唐突にかけられた声に、拓人は間抜けな声をあげた。
「私はリーチェ。あの子の所持カード、女帝よ」
拓人はリーチェの姿を眺め、その言葉に納得した。白い異国のような服、輝く王冠。その姿は女帝のカードそのものだ。
「僕は…」
拓人は剣を眺めて顔を伏せた。
「こっのおお!」
吹雪の中、弓実の怒りの声と剣の交わる音が響く。
「あなたの願いは何?!私の願いに勝るものなの?!」
「あなたの願いに興味はないわ。私もあなたに教える気はない」
「このゴスロリ少女がああああ!」
普段の弓実からは想像もできないほどの変容ぶりだった。二人の剣が何度も交わる。初めは少女も引けを取らなかったが、その回数を重ねるにつれ、明らかに少女の方の動きが鈍ってきていた。寒さのせいか、リーチェの言う「攻撃力の低さ」すなわち「戦闘に不向き」なのか。
「拓人、救われた恩を仇で返すのか?」
モルテの問いかけに返事ができない。ここで自分が動かなければおそらく少女は死ぬ。彼女の回復能力を持ってしても、弓実の戦闘慣れには追いつかないだろう。
「フィールド展開しないって言ったくせに…!」
「乗せられたな。もともとあいつは相手の願いを聞き出すのが目的だったんだろうよ」
「くそがああああ!」
モルテの言葉を背に、拓人は剣を手に走り出した。手の震えも剣の重さも感じなかった。ただひたすら恨みを晴らすために、目の前の敵を倒すことだけを考えていた。足が雪に埋もれて何度も転びかける。しかしそんなことは気にならない。拓人は生きた体で、死んだ心で駆けていた。
「おりゃあああ!」
「2対1とか卑怯でしょう?!」
横から割り込むようにして剣を振りかざした拓人だったが、とっさの判断で弓実に回避され、分厚いコートもあってか、そのダメージは腕の切り傷にとどまっていた。幸か不幸か、拓人の能力は発動しなかった。
「動けるようになったのね」
「はい。お礼は後できちんと言わせていただきます」
拓人と少女は弓実から一度距離を取り、コンタクトをとり合う。
「この環境だとこちらが二人といえど、時間が経てば経つほど相手の方が有利になるわね…。長期戦は避けたいわ」
「じゃあ、援護をお願いします」
「え?!ちょっ…あなた何を言っているの?!」
拓人は少女の言葉を聞かぬまま弓実へと突進した。
あの少女は初心者かどうかはわからないが、明らかに戦闘力が自分と同じだ。
でも自分には即死攻撃という能力がある。あの少女ががむしゃらに攻撃するより、自分が攻撃した方が勝率は高いだろう。
弓実が剣を構え直し、再び拓人に迫った。足が埋もれる雪の中でその攻撃を避ける術を拓人は知らない。
弓実の剣が拓人の左胸を的確に狙う。
しかし拓人はそれを分かった上で避けなかった。
キィンッと甲高い音が響く。それは剣同士の音ではない。
「ちょっと、意味がわからないのだけど…!」
あからさまに少女が不機嫌そうな表情で呟いた。拓人の足元にはその少女から今放たれたものが転がっていた。
小さな星…そう、沙織が放っていたものと同じ占い師特有のもの。しかし、その大きさは沙織の3分の1にも満たない。攻撃力としてはないも同然だが、今はそれでいい。
思わぬ攻撃に弓実が一瞬体勢を崩す。拓人はその一瞬を逃さなかった。
風を切る音が響く。
「っああああ!」
弓実は叫びをあげながら剣を取り落とした。右腕から流れる赤が白い地面を染めていく。先ほど拓人自身が見た光景と同じ光景だ。
能力は発動しなかった。怒りのままに動いていた体も、冷静さを取り戻しつつある。
「弓実っ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫よカッロ…。まだ左手があるもの…っ」
血の伝う右腕を放棄し、弓実は左手に剣を握った。止まらない戦いが、止めさせない世界が、無情に時だけを進めていく。
勝敗はすでに明らかだった。
拓人はそんな弓実を見て、一瞬だけ憐れみの目を向ける。お前が悪いんだ。お前がフィールド展開したからだと。しかし、その後押し寄せてきたのはやはり罪悪感だった。自分の負わせた傷が痛々しくその目に突き刺さる。謝りたくなる衝動。今すぐにでもこの剣を捨ててしまいたい。
拓人の心は相変わらず揺れていた。
「何をしてるの、今がチャンスでしょ」
弓身と対峙したまま動かない拓人に、少女が声をかけた。
拓人はその声に思考を振り払い、剣を強く握りしめた。今の状況なら弓実にトドメを刺すことも可能だろう。一撃で勝負をつけるか、能力の発動を待つか。
戦闘不能になるまで傷を負わせる生殺しのようなこと、拓人にできるはずもなかった。
破けたコートのせいか、傷のせいか、弓実の手は尋常ではないほど震えていた。
「弓実さん…ごめんなさいっ!」
拓人は剣を構え、弓実へ再び突進した。狙っているのは左胸。
拓人は苦しめるより一瞬の死という選択肢を選んだ。
「い、いや!死にたくない…っ!」
顔を涙でぐしゃぐしゃにし、叫びながら剣をがむしゃらに振り回す弓実。拓人は目を瞑り、覚悟を決める。…しかし、体は正直だった。
心臓を狙っていた剣は弓実に触れる瞬間、刃先を逸らした。
刃先は標的を逃し、弓実の左腕を切り裂いた。
呆然とその場を見つめる拓人。それは背後に立つ少女も同じだった。
「な、何…?なんなの?私を…馬鹿にしているの?!」
真っ先に弓実が我にかえり、拓人に向かって暴言を吐く。そして力の入らない両手で剣を握りしめると、背を向けたままの拓人に振りかざした。
「…っ!」
背中に何度も振り下ろされる剣を、拓人は動くことなく受け止めていた。
情けない。情けない。情けない。
剣の痛みよりも心が痛かった。自分は覚悟ひとつできないのだと。
「ちょっと!何してるのよ!」
少女が慌てたようにカード能力を発動させる。拓人の傷は少しずつ治癒していった。弓実が与えるダメージよりも、少女の能力の方が強力なのだ。
「そこの死神さん、あの人の能力は何なの?」
振り返る少女にモルテは表情を曇らせる。その意味を理解した少女は静かに告げる。
「私はあの人とは戦わないから。教えて」
「戦わない…?」
「ええ。パートナー希望よ」
その言葉にモルテはハッと顔を上げる。そしてその少女に拓人の能力名を告げた。
「発動型、確率即死攻撃だ」
拓人は吹雪の中、見失った弓実に叫ぶ。
「これが戦車のカード能力か…」
モルテはそう呟き、マントで自らの体を覆った。
拓人も腕をさするようにして辺りを見渡した。
「弓実がコートを着たのはこういうことか…」
戦車のカード能力はおそらく自分の思う環境へフィールド内を変化させることなのだろう。吹雪にすると決めていたのなら弓実が唐突にコートを着た理由にも納得がいく。現に拓人の体は寒さに震えている。
「あー…言うのを忘れていたわ。あなたの願いが私の願いよりも大きなものだったらフィールド展開はしない」
吹雪の中、うっすらと現れた少女は拓人を見下すように言い放った。右手には湾曲した細身の剣が握られている。その背後には杖を持っていないカッロが出会った時と変わらぬ真面目顔で立っていた。
「戦闘する気満々だぜあいつ…。拓人!」
モルテが大鎌を投げるように拓人に渡した。その柄は拓人の手に収まり、一本の剣へと形を変える。しかし拓人はその剣を雪の中へ投げ捨てた。
「何してんだ拓人!」
「僕は人を殺したくなんかない!」
「そんな悠長なこと言ってる場合か!殺らなきゃ死ぬぞ!」
わかっていた。剣を放棄するのは自殺も同然。拓人の体は色々な意味で震えていた。
「僕は人を殺した罪を背負って生きていける気がしない。それだったら死を選ぼうと、同じことだろう?」
「拓人!」
「うるさい!」
「両親が泣くぞ!」
「…っ」
拓人はもう亡き両親の顔を思い浮かべた。
「両親の敵を取るどころか、君が同じ殺され方をするんだぜ?!そんなの…そんなの駄目だろ!」
その声に拓人は雪に埋もれかけた剣に手を伸ばした。しかしその行動はもはや意味を持たなかった。
弓の剣はかがんだ拓人の絶好の位置を捉える。
「あなたの願いはこのゲームにふさわしくない」
その言葉を最後に拓人は冷たい地面へ倒れこんだ。その真っ白な地面は瞬く間に真っ赤に染まっていく。
「拓人!」
目を見開いたまま、拓人が動くことはなかった。
「なぜ?なぜフィールドが消えない!私の勝ちでしょう?!」
「落ち着いてください。…来ます」
弓実はカッロの言葉でその場を飛び退いた。その瞬間、弓実がいた場所に無数の何かが降り注ぎ、雪煙が巻き起こった。
「何?!」
「侵入者です。弓実、お気をつけて」
「ガリーレ」
その侵入者は拓人の首元に手をかざすとそう呟いた。
「かはっ!」
「拓人!」
「モルテ…?」
拓人は真っ先に飛び込んできた光景に息を飲んだ。
「これ…っ、全部僕の血?!でも僕は…」
「あの少女が回復能力を付与してくれたんだ」
拓人は視線を上げた。そこには白い世界の中、対照的な黒を纏う少女が立っていた。風景に同化してしまいそうなその髪は、どこか儚さを思わせた。
「あなた誰?!そいつの仲間なの?!」
吹雪の中、姿の見えない弓実の声が響く。
「仲間…ではないわね。初対面よ」
「初対面で命をかけてまで参戦してくるなんて、お人好しもいいところね」
「見たところ、彼女のカード能力は回復だと思われます。しかも強力です。拓人は死には至っていなかったものの、首を切られたのにすでに意識を取り戻しています。」
「わかってるわよ!こんなことならちゃんと殺しておけばよかった…!」
「あの子、カード能力は強力なんだけど攻撃力が低くてね…。君、助けてもらったお礼として戦ってやってくれないかな?」
「え?!だ、誰ですか?!」
背後から唐突にかけられた声に、拓人は間抜けな声をあげた。
「私はリーチェ。あの子の所持カード、女帝よ」
拓人はリーチェの姿を眺め、その言葉に納得した。白い異国のような服、輝く王冠。その姿は女帝のカードそのものだ。
「僕は…」
拓人は剣を眺めて顔を伏せた。
「こっのおお!」
吹雪の中、弓実の怒りの声と剣の交わる音が響く。
「あなたの願いは何?!私の願いに勝るものなの?!」
「あなたの願いに興味はないわ。私もあなたに教える気はない」
「このゴスロリ少女がああああ!」
普段の弓実からは想像もできないほどの変容ぶりだった。二人の剣が何度も交わる。初めは少女も引けを取らなかったが、その回数を重ねるにつれ、明らかに少女の方の動きが鈍ってきていた。寒さのせいか、リーチェの言う「攻撃力の低さ」すなわち「戦闘に不向き」なのか。
「拓人、救われた恩を仇で返すのか?」
モルテの問いかけに返事ができない。ここで自分が動かなければおそらく少女は死ぬ。彼女の回復能力を持ってしても、弓実の戦闘慣れには追いつかないだろう。
「フィールド展開しないって言ったくせに…!」
「乗せられたな。もともとあいつは相手の願いを聞き出すのが目的だったんだろうよ」
「くそがああああ!」
モルテの言葉を背に、拓人は剣を手に走り出した。手の震えも剣の重さも感じなかった。ただひたすら恨みを晴らすために、目の前の敵を倒すことだけを考えていた。足が雪に埋もれて何度も転びかける。しかしそんなことは気にならない。拓人は生きた体で、死んだ心で駆けていた。
「おりゃあああ!」
「2対1とか卑怯でしょう?!」
横から割り込むようにして剣を振りかざした拓人だったが、とっさの判断で弓実に回避され、分厚いコートもあってか、そのダメージは腕の切り傷にとどまっていた。幸か不幸か、拓人の能力は発動しなかった。
「動けるようになったのね」
「はい。お礼は後できちんと言わせていただきます」
拓人と少女は弓実から一度距離を取り、コンタクトをとり合う。
「この環境だとこちらが二人といえど、時間が経てば経つほど相手の方が有利になるわね…。長期戦は避けたいわ」
「じゃあ、援護をお願いします」
「え?!ちょっ…あなた何を言っているの?!」
拓人は少女の言葉を聞かぬまま弓実へと突進した。
あの少女は初心者かどうかはわからないが、明らかに戦闘力が自分と同じだ。
でも自分には即死攻撃という能力がある。あの少女ががむしゃらに攻撃するより、自分が攻撃した方が勝率は高いだろう。
弓実が剣を構え直し、再び拓人に迫った。足が埋もれる雪の中でその攻撃を避ける術を拓人は知らない。
弓実の剣が拓人の左胸を的確に狙う。
しかし拓人はそれを分かった上で避けなかった。
キィンッと甲高い音が響く。それは剣同士の音ではない。
「ちょっと、意味がわからないのだけど…!」
あからさまに少女が不機嫌そうな表情で呟いた。拓人の足元にはその少女から今放たれたものが転がっていた。
小さな星…そう、沙織が放っていたものと同じ占い師特有のもの。しかし、その大きさは沙織の3分の1にも満たない。攻撃力としてはないも同然だが、今はそれでいい。
思わぬ攻撃に弓実が一瞬体勢を崩す。拓人はその一瞬を逃さなかった。
風を切る音が響く。
「っああああ!」
弓実は叫びをあげながら剣を取り落とした。右腕から流れる赤が白い地面を染めていく。先ほど拓人自身が見た光景と同じ光景だ。
能力は発動しなかった。怒りのままに動いていた体も、冷静さを取り戻しつつある。
「弓実っ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫よカッロ…。まだ左手があるもの…っ」
血の伝う右腕を放棄し、弓実は左手に剣を握った。止まらない戦いが、止めさせない世界が、無情に時だけを進めていく。
勝敗はすでに明らかだった。
拓人はそんな弓実を見て、一瞬だけ憐れみの目を向ける。お前が悪いんだ。お前がフィールド展開したからだと。しかし、その後押し寄せてきたのはやはり罪悪感だった。自分の負わせた傷が痛々しくその目に突き刺さる。謝りたくなる衝動。今すぐにでもこの剣を捨ててしまいたい。
拓人の心は相変わらず揺れていた。
「何をしてるの、今がチャンスでしょ」
弓身と対峙したまま動かない拓人に、少女が声をかけた。
拓人はその声に思考を振り払い、剣を強く握りしめた。今の状況なら弓実にトドメを刺すことも可能だろう。一撃で勝負をつけるか、能力の発動を待つか。
戦闘不能になるまで傷を負わせる生殺しのようなこと、拓人にできるはずもなかった。
破けたコートのせいか、傷のせいか、弓実の手は尋常ではないほど震えていた。
「弓実さん…ごめんなさいっ!」
拓人は剣を構え、弓実へ再び突進した。狙っているのは左胸。
拓人は苦しめるより一瞬の死という選択肢を選んだ。
「い、いや!死にたくない…っ!」
顔を涙でぐしゃぐしゃにし、叫びながら剣をがむしゃらに振り回す弓実。拓人は目を瞑り、覚悟を決める。…しかし、体は正直だった。
心臓を狙っていた剣は弓実に触れる瞬間、刃先を逸らした。
刃先は標的を逃し、弓実の左腕を切り裂いた。
呆然とその場を見つめる拓人。それは背後に立つ少女も同じだった。
「な、何…?なんなの?私を…馬鹿にしているの?!」
真っ先に弓実が我にかえり、拓人に向かって暴言を吐く。そして力の入らない両手で剣を握りしめると、背を向けたままの拓人に振りかざした。
「…っ!」
背中に何度も振り下ろされる剣を、拓人は動くことなく受け止めていた。
情けない。情けない。情けない。
剣の痛みよりも心が痛かった。自分は覚悟ひとつできないのだと。
「ちょっと!何してるのよ!」
少女が慌てたようにカード能力を発動させる。拓人の傷は少しずつ治癒していった。弓実が与えるダメージよりも、少女の能力の方が強力なのだ。
「そこの死神さん、あの人の能力は何なの?」
振り返る少女にモルテは表情を曇らせる。その意味を理解した少女は静かに告げる。
「私はあの人とは戦わないから。教えて」
「戦わない…?」
「ええ。パートナー希望よ」
その言葉にモルテはハッと顔を上げる。そしてその少女に拓人の能力名を告げた。
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