青の王国

ウツ。

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第1章 出会い

優しさ

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「ロゼの部屋はここよ。空き部屋だったところだから気負わずに使っていいわ」
イザベラに案内された部屋を見てロゼは驚いた。
「こんなに大きな部屋…いいんですか?!」
そこは一人部屋にしては広すぎる部屋だった。
「城内では小さい方に入る部屋よ。落ち着かないかもしれないけどそこは慣れてちょうだい」
「ありがとうございます!」
ロゼは礼を言うと部屋の中を見渡した。
豪奢なクローゼットに天蓋付きベッド、天井にはシャンデリア。バルコニーからは綺麗な海が良く見える、まるでお姫様の部屋のようだった。
城へ入る前までは気づかなかったがこの城は海に隣接しており、波の音が心地よく聞こえていた。
「私の部屋は斜め向かいにあるから何かあったら呼んで頂戴。仕事でいないことが多いけど見張りの衛兵たちはいつもいるから」
「わかりました」
「じゃあ私は仕事に戻るわね」
イザベラはロゼに優しく手を振ると、歩いてきた方向へ戻っていった。
その背中を見送ったロゼはそっと部屋の扉を閉めた。一人になってみるとより一層波の音が大きく聞こえてくる。その波の音にどこか懐かしさを感じながらロゼはベッドへ座った。
ロケットを開き、家族写真に目を落とす。

持ってこられたのはこれだけ。たくさんあった思い出の物は全て焼け落ちてしまった。

一人感傷に浸っていると扉を叩く音が響いた。
「はい」
ロゼが扉を開けるとそこには優しそうなメイドが立っていた。
「私この城のメイド長をしているアレッサと申します。アル様から事情はお聞きしております。今日のアフタヌーンティー用に焼いたクッキーなんですがお召し上がりになりますか?紅茶もございますよ」
そう言って差し出されたのは可愛いハートや星型のクッキーだった。カートに乗せられたポットからは紅茶のいい香りが溢れている。
「わぁ…!いただきます!実はお昼から何も食べていなくって」
ロゼは部屋のテーブルに着くと紅茶を注いでもらい、クッキーを置いてもらった。
「ではまた夕食の時に参りますね。ごゆっくり」
アレッサはお辞儀をすると部屋を後にした。

ロゼは紅茶を一口飲んだ。優しいアールグレイの香りが口いっぱいに広がる。いざ何かを口にしてみるとお腹が空いていることに改めて気付かされた。
食べるのが惜しくなるほど可愛いクッキーを静かに口へ運ぶ。サクッとした食感と共に甘さが広がる。まるで高級菓子を食べてるかのようだった。
ロゼは海を眺めながら今までの出来事を忘れてしまうようなひと時を過ごした。



   ****************



日が落ち、時計の針は午後7時を指した。その瞬間ぴったりに再び扉が叩かれた。
「アレッサです。失礼します」
アレッサは一礼すると夕食の乗ったカートを押しながらロゼの元へ現れた。
「ずっと海を見ていらしたのですか?」
アレッサはロゼがテーブルから動いていないことに気づき、驚いたように尋ねた。
「はい。海を見ていると不思議と落ち着いて」
アレッサはロゼの綺麗な横顔を見ながらクッキーの入っていた食器とポットを下げ、代わりに夕食のセットをテーブルに置いた。
「ではまた片付けの際に参りますね。失礼します」
アレッサは静かにそういうと部屋を去っていこうとした。
「え?!アル様?!」
しかしその去り際、アレッサは驚いたような声をあげた。ロゼはその慣れ親しんだ名前に思わず振り返った。
そこには夕食のセットを手にしたアルが立っていた。
「よっ!元気か」
アルはロゼの部屋へ勝手に入るとロゼと向かい合うようにテーブルに着いた。
「アレッサ、ちゃんと他の人たちには許可を得てるから心配するな」
「は、はい…」
アレッサは一瞬唖然とすると慌てたように部屋を後にした。

「本当は王族はみんなで食事をするのがマナーなんだけど、ロゼを一人にするのはどうかと思って。ちょっとわがままを言ってきた」
アルはそう言って笑った。
「ありがとう。私のために。本当はちょっと、寂しかった」
ロゼはそう言って顔を伏せた。
「いいんだって。さ、夕食冷める前に食べよう」
「うん。いただきます」
「いただきます」
二人は両手を合わせると、ほかほかと湯気を立てる美味しそうな料理を口に運んだ。
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