青の王国

ウツ。

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第1章 出会い

心強い味方

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夕食後、アルとロゼはベッドに座り海を眺めていた。
「明日もう一度、家のあった場所に行こうと思う」
アルはその言葉に驚きの表情を浮かべた。
「どうして…。あの場所に行くのは辛いだろ?」
「辛いけど、やっぱり両親のお墓をちゃんと作ってあげたい。今日は逃げ出すようにアルに甘えてここに来ちゃったけど、現実から逃げるのは違うと思う。それにあの場所に両親が放置されてるなんてそっちの方が辛いし、考えたくない」
そう言ってロゼはロケットを握りしめた。その時、その手の上に雫が一つ、静かに落ちた。
「ロゼ…」
「アル…私…本当は辛いよ。あの幸せだった日々は戻ってこないんだって…。わかって、前を向かなきゃって…。でもそんなの、できないよ…。お母さんとお父さんに会いたい…。一人にしないで…」
アルは肩にロゼを寄りかからせると静かに言った。
「無理に前を向かなくていい。ロゼは我慢しすぎなんだよ。泣きたい時は泣けばいいし、辛い時は誰かに頼ってもいい。それにロゼを一人になんかさせないさ」
「アル…」
「いいよ。泣き止むまでここにいるから」
月明かりが照らす中、ロゼの涙はしばらく止まらなかった。



   ****************



「アル、ロゼは?」
「今泣き疲れて眠ったところ」
アルはロゼの部屋の前で待っていたイザベラに告げた。
「そう。あの子無理して笑ってたから心配してたのよ」
イザベラは安心したように微笑んだ。そこへちょうど廊下の奥からエドが姿を現した。
「エド、ちょうどよかった。明日の予定、全部却下してもらえるか?」
「はい…って、え?!ダメですよ!今日の盗賊事件についての処罰決定会議が…」
エドはわたわたと書類をめくる。
「その会議明後日に回して」
「アル、それはどうしてなの?」
戸惑うエドとは対称にイザベラが冷静に尋ねた。
「ロゼが家に戻って両親のお墓を作ってあげたいって言ってて。俺もついていこうと思う」
「心配なら衛兵を何人か一緒にお連れすれば…」
「エド、俺は自分の意思で行くと言ってるんだ」
「しかし…」
「エド、アルはこういったら下がらないわよ。会議は明後日にするよう私もお願いしに行くから」
エドは渋々といった感じに引き下がった。
「明日力作業が向いている衛兵を何人か集めておいてくれ」
「了解」
「了解しました」
イザベラとエドは揃って頭を下げた。



   ****************



次の日の朝、ロゼは眩しい朝日で目を覚ました。ベッドの上から体を起こし、昨日のことを思い出す。
「昨日私…あ、アルの前で泣いて…弱音まで吐いて…!」
ロゼは自分の情けなさに顔を赤くした。そしてその顔を両手で一度叩くと、今日やるべきことをしっかりと思い出す。
「お母さん、お父さん待ってて」
ロゼはロケットを握りしめると部屋を出た。
「おはようロゼ」
「ひゃあああ!」
扉を開けた瞬間目の前にいた人物に、まだ情けなさを見せた恥ずかしさが抜けきらないロゼは思わず変な声をあげた。
「何そんな赤くなってんだよ」
「だ、だって昨日…私アルに…」
「アルが何かしたの?」
「い、イザベラさん…!」
廊下の奥からやってきたイザベラはアルを睨みつける。
「いやいやいや!俺何もしてないって!」
「イザベラさん!違います!私が勝手に泣き出しちゃって!アルは話を聞いてくれて…!」
ロゼは昨日のことを話そうとするが、話せば話すほど自分の羞恥を広めてるようでどうしていいかわからなくなってきた。
「ふふ、わかってるわよ。アルへの信用はこれでもあるつもりよ」
「じゃあ最初っから変に捉えないでください!」
ロゼは顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。
「あ、エドが来たわ」
イザベラの声に廊下を見やるとエドがこちらへ走ってくるところだった。
「エド、他の人たちの許可もおりたわね?」
「はい」
ロゼは二人が何を話しているのか理解できなかった。
「あ!こんなことしてる場合じゃない!あの、昨日アルには話したんですが、私今日自分の家に一度戻ろうと思って。夕方には帰ります!」
駆け出そうとするロゼの肩をアルはつかんだ。
「まあそう焦るな。お前一人じゃ心配だ」
「え?」
ロゼはきょとんとアルを見つめた。
「俺たちもついていく」
「えええ?!いいです!本当に!王子様は仕事もあるでしょう?!」
アルはエドの持っていたスケジュール管理表をロゼに見せた。そこには全てに却下の文字が書かれている。
「俺たちだけじゃない。力のある衛兵も何人か連れていく。その方が両親も…すぐ助け出せるだろうしな」
両親の遺体は諦めて、家の灰を集めてお墓にしようと思っていたロゼは、その言葉に思わずまた泣き出しそうになった。
しかし、涙は流さなかった。
「ありがとうございます」
ロゼは自分が言える精一杯のお礼を述べた。
「いいのいいの。アルのわがままだから」
イザベラが優しく笑う。
「行こうぜ、ロゼ」
「うん!」
アルに導かれ、ロゼは自分の家に向かうべく、その一歩を踏み出した。

その後ろ姿を眺める影が一つ。
その視線に気づく者はいなかった。
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