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第3章 隣国へ
昔話
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「ごちそうさまでした!」
ロゼたちは手を合わせてそういうと席を立った。
「とても美味しかったです、ガナルさん。あの、このお店の場所が書いてある物とかってありますか?」
ロゼはお店を出る途中店長のガナルに尋ねた。
「あるよ。本店のチラシ」
そう言ってガナルは奥から一枚の紙を持ってきた。そこには本店の場所とメニューが書かれている。
「ありがとうございます。オーブン焼きとても美味しかったので、またこの国に来ることがあったら寄ろうと思います!」
「気に入ってもらえて良かった。今度は他の料理も是非食べていってよ」
「はい!」
ロゼは笑顔でそういうとアルたちとともに店を後にした。
しばらく通りを歩いていると、噴水のある広場に出た。
「ごめん、ちょっとエリスと話をしてきていいか?」
アルは唐突にそう言った。ロゼはそういえばさっきの店で相談したいことがあるって言ってたなと思い、イザベラを見た。イザベラもそのことは聞いていたようで「いいわよ。私たちはこっちで待ってるから」と言ってロゼを連れアルたちから少し離れた場所へ歩いて行った。
「エド、書記を頼む」
「はい」
「クロード大臣も」
「わかりました」
アルたちはそれぞれ書記担当の者を一緒に連れて行くと噴水の側で立ち話を始めた。
「ベンチとかあればいいのにね」
イザベラが広場を見渡して言った。
「そういえば最初の挨拶以来クロード大臣は全然話してなかったですね」
ロゼは先ほどの返事で久々に口を開いた大臣を思い出した。
「あー、きっと緊張してるんだわ」
「緊張ですか?」
「私たちの国ではアルより大臣の方が地位的には上だけど、この国では国をまとめているのがエリス様だからね。王子二人に私たち側近、唯一自分より地位の低いロゼには前の会議で失礼をしたし、あまり顔が上がらなかったのかもしれないわね」
「楽しめているんでしょうか?」
「そればっかりは私にはわからないわね。時に地位は人を圧迫してしまうこともある」
ロゼはアルたちを見つめた。二人は真剣な顔つきで話している。
「それにしても国を治める立場も大変ですね。こんな時まで国民のことを思って動かなきゃいけないなんて…」
「そうね」
「そういえばずっと前から思っていたんですけど、エドさんはアルに敬語を使っているのに、イザベラさんは使っていませんよね?それって何か理由があるんですか?」
イザベラは建物の壁に寄り掛かると「じゃあちょっと昔話をしましょうか」と言って語り出した。
「私がアルの側近になったのはエドより早くて。私の家は代々剣士の家系でね、自慢じゃないけど父は国王の側近をしていたのよ」
「国王の側近…」
ロゼは驚いた。
「そう。だから私も側近として次期国王をお守りできるように育てられてきた。私の家は男の子ばっかりでね、生まれた当初は女の子だって結構騒がれたらしいわ。でも父は兄たちと変わらず私に剣術を教えてくれた。私は女だけど兄たちに負けないくらい剣は強いのよ」
イザベラは自慢げに言った。
「それで、兄たちは貴族たちの護衛とかに出て行ったんだけど、剣の腕が立つ私は父直々にアルの側近になるよう薦められたの。私その時は父に憧れてたからすごく嬉しかったわ」
しかしそこでイザベラは少し曇った表情になる。
「昔は街の視察っていう仕事が国王にあったの。ある日その視察に出かけた国王と側近たちは、国王を恨んでいる街人に襲われてね…。その中に矢の使い手がいたの。矢を相手にするのにはみんな慣れてなくて、一本の矢が国王の方に飛んで行ってしまったのよ。それを庇って私の父は…亡くなったわ」
ロゼは思わず口を押さえた。
「それを聞いた私は悲しさと自分がいずれこうなってしまうんじゃないかっていう不安に駆られてね、一時期は側近をやめようとも思ったのよ。でもそんな私を励ましてくれたのがアルだった。アルは私に父のようにはさせない。お前が俺の背中を守るように、俺もお前の背中を守ってやるって言ってくれてね。それで私一人で戦っていくわけじゃないんだって思えたの」
イザベラは微笑んで言った。
「いつかこの話はしなきゃいけないと思ってたわ。ロゼも両親を亡くしているけれど、ロゼは一人じゃないのよ。アルはあの時の私のようにロゼのことも思っていると思うから」
ロゼはその言葉に胸が熱くなった。一人じゃないというものがどれだけ心強いか、ロゼにはわかる。
「前置きが長くなったわ。ロゼの質問に答えましょう。私がアルに敬語を使わないわけ」
イザベラは笑いながら語った。
「これは本当にくだらない理由なんだけどね。アルは昔今よりずっと堅い人でね。どうにか肩の力を抜いてあげられないかと冗談半分で呼び捨てで呼んでみたのよ。そしたら一瞬驚いたような顔をしてたけどすごく気に入ってくれたみたいで。それからは敬語じゃなくていいって言ってくれたのよ」
「へぇ。冗談から今の関係が生まれたんですね」
「そういうこと」
「でもエドさんはそうはいかないんですか?」
ロゼは真剣に書類にメモを取っているエドを見つめた。
「エドは私の後に入ってきた側近でね。なんでも剣の英才教育を受けてきたそうよ。そのせいかいつも真面目であまり冗談も言わない、ちょっと堅い人ね。全然悪い人じゃないんだけど衛兵たちの中では苦手とする人もいるみたい。それに剣の英才教育を受けてきてるのにあの人剣があまり好きじゃないみたいで。日頃から秘書として率先して動いているのもそのせいらしいわ。アルはエドのことも理解して絶対的な信頼を置いているから敬語というものがあったって、関係の距離は変わらないと思ってるわ」
ロゼは側近二人のことを今までより理解できたようで少し嬉しかった。その時、話が終わったのかアルたちがこちらに手を振りながら歩いてくるのが見えた。
「待たせたな。なんの話をしてたんだ?」
「ちょっと世間話を」
イザベラは笑いながらそう答えた。
ロゼたちは手を合わせてそういうと席を立った。
「とても美味しかったです、ガナルさん。あの、このお店の場所が書いてある物とかってありますか?」
ロゼはお店を出る途中店長のガナルに尋ねた。
「あるよ。本店のチラシ」
そう言ってガナルは奥から一枚の紙を持ってきた。そこには本店の場所とメニューが書かれている。
「ありがとうございます。オーブン焼きとても美味しかったので、またこの国に来ることがあったら寄ろうと思います!」
「気に入ってもらえて良かった。今度は他の料理も是非食べていってよ」
「はい!」
ロゼは笑顔でそういうとアルたちとともに店を後にした。
しばらく通りを歩いていると、噴水のある広場に出た。
「ごめん、ちょっとエリスと話をしてきていいか?」
アルは唐突にそう言った。ロゼはそういえばさっきの店で相談したいことがあるって言ってたなと思い、イザベラを見た。イザベラもそのことは聞いていたようで「いいわよ。私たちはこっちで待ってるから」と言ってロゼを連れアルたちから少し離れた場所へ歩いて行った。
「エド、書記を頼む」
「はい」
「クロード大臣も」
「わかりました」
アルたちはそれぞれ書記担当の者を一緒に連れて行くと噴水の側で立ち話を始めた。
「ベンチとかあればいいのにね」
イザベラが広場を見渡して言った。
「そういえば最初の挨拶以来クロード大臣は全然話してなかったですね」
ロゼは先ほどの返事で久々に口を開いた大臣を思い出した。
「あー、きっと緊張してるんだわ」
「緊張ですか?」
「私たちの国ではアルより大臣の方が地位的には上だけど、この国では国をまとめているのがエリス様だからね。王子二人に私たち側近、唯一自分より地位の低いロゼには前の会議で失礼をしたし、あまり顔が上がらなかったのかもしれないわね」
「楽しめているんでしょうか?」
「そればっかりは私にはわからないわね。時に地位は人を圧迫してしまうこともある」
ロゼはアルたちを見つめた。二人は真剣な顔つきで話している。
「それにしても国を治める立場も大変ですね。こんな時まで国民のことを思って動かなきゃいけないなんて…」
「そうね」
「そういえばずっと前から思っていたんですけど、エドさんはアルに敬語を使っているのに、イザベラさんは使っていませんよね?それって何か理由があるんですか?」
イザベラは建物の壁に寄り掛かると「じゃあちょっと昔話をしましょうか」と言って語り出した。
「私がアルの側近になったのはエドより早くて。私の家は代々剣士の家系でね、自慢じゃないけど父は国王の側近をしていたのよ」
「国王の側近…」
ロゼは驚いた。
「そう。だから私も側近として次期国王をお守りできるように育てられてきた。私の家は男の子ばっかりでね、生まれた当初は女の子だって結構騒がれたらしいわ。でも父は兄たちと変わらず私に剣術を教えてくれた。私は女だけど兄たちに負けないくらい剣は強いのよ」
イザベラは自慢げに言った。
「それで、兄たちは貴族たちの護衛とかに出て行ったんだけど、剣の腕が立つ私は父直々にアルの側近になるよう薦められたの。私その時は父に憧れてたからすごく嬉しかったわ」
しかしそこでイザベラは少し曇った表情になる。
「昔は街の視察っていう仕事が国王にあったの。ある日その視察に出かけた国王と側近たちは、国王を恨んでいる街人に襲われてね…。その中に矢の使い手がいたの。矢を相手にするのにはみんな慣れてなくて、一本の矢が国王の方に飛んで行ってしまったのよ。それを庇って私の父は…亡くなったわ」
ロゼは思わず口を押さえた。
「それを聞いた私は悲しさと自分がいずれこうなってしまうんじゃないかっていう不安に駆られてね、一時期は側近をやめようとも思ったのよ。でもそんな私を励ましてくれたのがアルだった。アルは私に父のようにはさせない。お前が俺の背中を守るように、俺もお前の背中を守ってやるって言ってくれてね。それで私一人で戦っていくわけじゃないんだって思えたの」
イザベラは微笑んで言った。
「いつかこの話はしなきゃいけないと思ってたわ。ロゼも両親を亡くしているけれど、ロゼは一人じゃないのよ。アルはあの時の私のようにロゼのことも思っていると思うから」
ロゼはその言葉に胸が熱くなった。一人じゃないというものがどれだけ心強いか、ロゼにはわかる。
「前置きが長くなったわ。ロゼの質問に答えましょう。私がアルに敬語を使わないわけ」
イザベラは笑いながら語った。
「これは本当にくだらない理由なんだけどね。アルは昔今よりずっと堅い人でね。どうにか肩の力を抜いてあげられないかと冗談半分で呼び捨てで呼んでみたのよ。そしたら一瞬驚いたような顔をしてたけどすごく気に入ってくれたみたいで。それからは敬語じゃなくていいって言ってくれたのよ」
「へぇ。冗談から今の関係が生まれたんですね」
「そういうこと」
「でもエドさんはそうはいかないんですか?」
ロゼは真剣に書類にメモを取っているエドを見つめた。
「エドは私の後に入ってきた側近でね。なんでも剣の英才教育を受けてきたそうよ。そのせいかいつも真面目であまり冗談も言わない、ちょっと堅い人ね。全然悪い人じゃないんだけど衛兵たちの中では苦手とする人もいるみたい。それに剣の英才教育を受けてきてるのにあの人剣があまり好きじゃないみたいで。日頃から秘書として率先して動いているのもそのせいらしいわ。アルはエドのことも理解して絶対的な信頼を置いているから敬語というものがあったって、関係の距離は変わらないと思ってるわ」
ロゼは側近二人のことを今までより理解できたようで少し嬉しかった。その時、話が終わったのかアルたちがこちらに手を振りながら歩いてくるのが見えた。
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イザベラは笑いながらそう答えた。
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