青の王国

ウツ。

文字の大きさ
22 / 36
第3章 隣国へ

昔話

しおりを挟む
「ごちそうさまでした!」
ロゼたちは手を合わせてそういうと席を立った。
「とても美味しかったです、ガナルさん。あの、このお店の場所が書いてある物とかってありますか?」
ロゼはお店を出る途中店長のガナルに尋ねた。
「あるよ。本店のチラシ」
そう言ってガナルは奥から一枚の紙を持ってきた。そこには本店の場所とメニューが書かれている。
「ありがとうございます。オーブン焼きとても美味しかったので、またこの国に来ることがあったら寄ろうと思います!」
「気に入ってもらえて良かった。今度は他の料理も是非食べていってよ」
「はい!」
ロゼは笑顔でそういうとアルたちとともに店を後にした。

しばらく通りを歩いていると、噴水のある広場に出た。
「ごめん、ちょっとエリスと話をしてきていいか?」
アルは唐突にそう言った。ロゼはそういえばさっきの店で相談したいことがあるって言ってたなと思い、イザベラを見た。イザベラもそのことは聞いていたようで「いいわよ。私たちはこっちで待ってるから」と言ってロゼを連れアルたちから少し離れた場所へ歩いて行った。
「エド、書記を頼む」
「はい」
「クロード大臣も」
「わかりました」
アルたちはそれぞれ書記担当の者を一緒に連れて行くと噴水の側で立ち話を始めた。
「ベンチとかあればいいのにね」
イザベラが広場を見渡して言った。
「そういえば最初の挨拶以来クロード大臣は全然話してなかったですね」
ロゼは先ほどの返事で久々に口を開いた大臣を思い出した。
「あー、きっと緊張してるんだわ」
「緊張ですか?」
「私たちの国ではアルより大臣の方が地位的には上だけど、この国では国をまとめているのがエリス様だからね。王子二人に私たち側近、唯一自分より地位の低いロゼには前の会議で失礼をしたし、あまり顔が上がらなかったのかもしれないわね」
「楽しめているんでしょうか?」
「そればっかりは私にはわからないわね。時に地位は人を圧迫してしまうこともある」
ロゼはアルたちを見つめた。二人は真剣な顔つきで話している。
「それにしても国を治める立場も大変ですね。こんな時まで国民のことを思って動かなきゃいけないなんて…」
「そうね」
「そういえばずっと前から思っていたんですけど、エドさんはアルに敬語を使っているのに、イザベラさんは使っていませんよね?それって何か理由があるんですか?」
イザベラは建物の壁に寄り掛かると「じゃあちょっと昔話をしましょうか」と言って語り出した。
「私がアルの側近になったのはエドより早くて。私の家は代々剣士の家系でね、自慢じゃないけど父は国王の側近をしていたのよ」
「国王の側近…」
ロゼは驚いた。
「そう。だから私も側近として次期国王をお守りできるように育てられてきた。私の家は男の子ばっかりでね、生まれた当初は女の子だって結構騒がれたらしいわ。でも父は兄たちと変わらず私に剣術を教えてくれた。私は女だけど兄たちに負けないくらい剣は強いのよ」
イザベラは自慢げに言った。
「それで、兄たちは貴族たちの護衛とかに出て行ったんだけど、剣の腕が立つ私は父直々にアルの側近になるよう薦められたの。私その時は父に憧れてたからすごく嬉しかったわ」
しかしそこでイザベラは少し曇った表情になる。
「昔は街の視察っていう仕事が国王にあったの。ある日その視察に出かけた国王と側近たちは、国王を恨んでいる街人に襲われてね…。その中に矢の使い手がいたの。矢を相手にするのにはみんな慣れてなくて、一本の矢が国王の方に飛んで行ってしまったのよ。それを庇って私の父は…亡くなったわ」
ロゼは思わず口を押さえた。
「それを聞いた私は悲しさと自分がいずれこうなってしまうんじゃないかっていう不安に駆られてね、一時期は側近をやめようとも思ったのよ。でもそんな私を励ましてくれたのがアルだった。アルは私に父のようにはさせない。お前が俺の背中を守るように、俺もお前の背中を守ってやるって言ってくれてね。それで私一人で戦っていくわけじゃないんだって思えたの」
イザベラは微笑んで言った。
「いつかこの話はしなきゃいけないと思ってたわ。ロゼも両親を亡くしているけれど、ロゼは一人じゃないのよ。アルはあの時の私のようにロゼのことも思っていると思うから」
ロゼはその言葉に胸が熱くなった。一人じゃないというものがどれだけ心強いか、ロゼにはわかる。
「前置きが長くなったわ。ロゼの質問に答えましょう。私がアルに敬語を使わないわけ」
イザベラは笑いながら語った。
「これは本当にくだらない理由なんだけどね。アルは昔今よりずっと堅い人でね。どうにか肩の力を抜いてあげられないかと冗談半分で呼び捨てで呼んでみたのよ。そしたら一瞬驚いたような顔をしてたけどすごく気に入ってくれたみたいで。それからは敬語じゃなくていいって言ってくれたのよ」
「へぇ。冗談から今の関係が生まれたんですね」
「そういうこと」
「でもエドさんはそうはいかないんですか?」
ロゼは真剣に書類にメモを取っているエドを見つめた。
「エドは私の後に入ってきた側近でね。なんでも剣の英才教育を受けてきたそうよ。そのせいかいつも真面目であまり冗談も言わない、ちょっと堅い人ね。全然悪い人じゃないんだけど衛兵たちの中では苦手とする人もいるみたい。それに剣の英才教育を受けてきてるのにあの人剣があまり好きじゃないみたいで。日頃から秘書として率先して動いているのもそのせいらしいわ。アルはエドのことも理解して絶対的な信頼を置いているから敬語というものがあったって、関係の距離は変わらないと思ってるわ」
ロゼは側近二人のことを今までより理解できたようで少し嬉しかった。その時、話が終わったのかアルたちがこちらに手を振りながら歩いてくるのが見えた。
「待たせたな。なんの話をしてたんだ?」
「ちょっと世間話を」
イザベラは笑いながらそう答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。 「運命の番が現れたから」 その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。 傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。 夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。 しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。 「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」 *狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話 *オメガバース設定ですが、独自の解釈があります

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...