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第4章 国の発展
孤島のシンデレラ
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次の日の昼食後、ロゼは予定通り書物部屋の掃除に来ていた。今日書物部屋の担当に当たるのはロゼと、同じメイドのカーラだ。
「失礼します」
二人は書物部屋の大きな扉を開けた。
「おやおや、今日は書物部屋の掃除なのかい?」
そう言って出迎えてくれたのはこの書物部屋で司書をしているゲーテルおじさんだ。ここの書物はゲーテルおじさんに許可証をもらえば借りていくこともできる。
「こんにちは、ゲーテルおじさん」
「こんにちは」
ロゼとカーラは揃って頭を下げた。
「ええっと…ロゼさん、だったかな」
「はい。ロゼです」
「よかったよかった。最近物忘れが酷くての。名前を覚えるのも一苦労なんじゃ。でもお前さんは青が印象的だったから覚えておるぞ」
「ありがとうございます」
ロゼは笑顔で礼を言った。
「今日はしばらくお邪魔しますね。どこか特に掃除してほしいところはありますか?」
カーラはゲーテルおじさんに尋ねた。
「そうじゃな…。奥の棚と上の部分をできれば掃除してほしいのぉ。最近は奥の方まで手が行き届かなくて。この歳だと高いところも不安でな」
ゲーテルおじさんは困ったように言った。
「わかりました。じゃあ私は右奥から、ロゼは左奥から掃除してくれる?」
「はい。わかりました」
ロゼとカーラはそれぞれ反対方向の本棚に向かって歩き出した。ロゼは改めて所狭しと並べられた本棚を眺める。具厚い本から薄めの本。歴史書から子供が読める絵本までが置かれている。掃除をしながらローカル・メイデンさんの本を探すつもりだが、こんなに本が多いと見つかりそうにない。最終的にはゲーテルおじさんに場所を聞いた方が良さそうだ。
ロゼは奥の本棚にたどり着くと、はたきで本の上を掃除し始めた。
****************
しばらくして、ロゼはある本が目に付いた。背表紙には「孤島のシンデレラ」と書かれている。
間違いない。ローカル・メイデンさんの本である。
奥から順に掃除を進めていて偶然見つけたものだ。ロゼはその幸運に思わず微笑んだ。
はたきを置き、そっとその本を手に取る。多く読まれているのか本自体は少し古びた感じがしていた。厚みはそこそこで、仕事中に読むわけにはいかないと、ロゼはページをパラパラとめくってみた。
中身を軽く見た感じもともと脚本であるからか、台詞が多く、とても読みやすそうだった。
ロゼはその横に並んでいる本も手に取った。著書はローカル・メイデンと書かれている。
全部で5冊ほど置いてあったその本を借りていこうとロゼはゲーテルおじさんのもとに本を持って行った。
「すみません。掃除終わった後にこれ借りて行きたいんですけどいいですか?」
「おお。ローカル・メイデンじゃな。城内でもこの本を借りていく人はよくみるわい。今許可証を書くからちょっとお待ちなさい」
そう言ってゲーテルおじさんは一枚の証紙を取りだした。
「ここにサインを。冊数は5冊。ローカル・メイデンじゃな」
本の名前と作者、冊数をゲーテルおじさんは慣れた手つきで書き、その証紙にサインをするようロゼに言った。ロゼはペンを取ると、ロゼと記入した。
「掃除が終わってから取りに来ます。それまでここに置いていても?」
「ああ。いいぞ」
その時、話し声を聞いていたのかカーラが顔を出した。
「ロゼって本読むの?」
「普段はあまり読まないんですけど、前隣国のお祭りに行った時にこの作者の劇をやっていたので」
「へぇ。面白かったら私も借りてみようかな」
カーラは本をめくって見つめた。
「じゃあ読み終わったら感想教えますね」
「うん。待ってる。さ、掃除掃除」
カーラとロゼは脱線した掃除を再開すべく、元の持ち場へ戻っていった。
****************
夜、寝る支度を終えたロゼは借りてきた本の一冊を手に取った。やはり最初に読むのは「孤島のシンデレラ」だ。
ロゼはテーブルの電気をつけ、ページをめくった。
しばらくして、ロゼは読んでいた手を止めた。気づけば目には涙が浮かんでいる。
そのページは王子が少女の元を離れ、隣国へ渡るシーンだった。
少女は不安と悲しみで泣きそうになる気持ちを必死に堪えている。
明日からアルは隣国へ滞在する。
たった二週間の間だが、我慢していた気持ちをこの本が代弁してくれているようでロゼの心の突き刺さったのだ。
時計を見るともうすぐ10時を指している。
ロゼは本に付属の栞を挟むと部屋を出た。
アルはまだ起きているだろうか。
ロゼは早まる気持ちでアルの部屋へと向かった。
その途中、ロゼは探していた人物と遭遇した。
「ロゼ?」
「アル!」
ロゼはアルの元へ駆け寄った。
「おい、どうしたんだよロゼ」
「ごめ…。私、アルが明日からしばらくいないんだって思ったら、急に寂しくなって…っ。だってアルは当たり前のように、そばに、い…いてくれたから」
アルは少し驚いたように泣いているロゼを見つめると、辺りを見渡した後、そっとを抱きしめた。
「あ…アル…?!」
「ごめん。少しだけ」
「う、うん…」
ロゼは高鳴る心臓を押さえつけ、そっと身を委ねていた。流れていた涙が止まっていくのがわかる。
「俺も寂しい。今からちょうどロゼに会いに行こうと思ってたんだ」
ロゼはアルの言葉を静かに聞いていた。
「大丈夫。たった二週間。すぐ戻ってくるよ。そしたらいっぱい話そうな」
「うん」
アルはそっと抱きしめていた手を離した。月明かりに照らされた顔は双方とも少し赤く染まっている。
「もう遅いし部屋まで送っていくよ」
「大丈夫。私一人で戻れる」
「いいの。俺がロゼと一緒に居たいんだ」
その言葉にロゼは再び顔を赤くした。それを見てアルも恥ずかしそうに頬を赤らめる。
「アルのそういう素直なとこ私好きだよ」
ロゼはアルに聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟いた。
「失礼します」
二人は書物部屋の大きな扉を開けた。
「おやおや、今日は書物部屋の掃除なのかい?」
そう言って出迎えてくれたのはこの書物部屋で司書をしているゲーテルおじさんだ。ここの書物はゲーテルおじさんに許可証をもらえば借りていくこともできる。
「こんにちは、ゲーテルおじさん」
「こんにちは」
ロゼとカーラは揃って頭を下げた。
「ええっと…ロゼさん、だったかな」
「はい。ロゼです」
「よかったよかった。最近物忘れが酷くての。名前を覚えるのも一苦労なんじゃ。でもお前さんは青が印象的だったから覚えておるぞ」
「ありがとうございます」
ロゼは笑顔で礼を言った。
「今日はしばらくお邪魔しますね。どこか特に掃除してほしいところはありますか?」
カーラはゲーテルおじさんに尋ねた。
「そうじゃな…。奥の棚と上の部分をできれば掃除してほしいのぉ。最近は奥の方まで手が行き届かなくて。この歳だと高いところも不安でな」
ゲーテルおじさんは困ったように言った。
「わかりました。じゃあ私は右奥から、ロゼは左奥から掃除してくれる?」
「はい。わかりました」
ロゼとカーラはそれぞれ反対方向の本棚に向かって歩き出した。ロゼは改めて所狭しと並べられた本棚を眺める。具厚い本から薄めの本。歴史書から子供が読める絵本までが置かれている。掃除をしながらローカル・メイデンさんの本を探すつもりだが、こんなに本が多いと見つかりそうにない。最終的にはゲーテルおじさんに場所を聞いた方が良さそうだ。
ロゼは奥の本棚にたどり着くと、はたきで本の上を掃除し始めた。
****************
しばらくして、ロゼはある本が目に付いた。背表紙には「孤島のシンデレラ」と書かれている。
間違いない。ローカル・メイデンさんの本である。
奥から順に掃除を進めていて偶然見つけたものだ。ロゼはその幸運に思わず微笑んだ。
はたきを置き、そっとその本を手に取る。多く読まれているのか本自体は少し古びた感じがしていた。厚みはそこそこで、仕事中に読むわけにはいかないと、ロゼはページをパラパラとめくってみた。
中身を軽く見た感じもともと脚本であるからか、台詞が多く、とても読みやすそうだった。
ロゼはその横に並んでいる本も手に取った。著書はローカル・メイデンと書かれている。
全部で5冊ほど置いてあったその本を借りていこうとロゼはゲーテルおじさんのもとに本を持って行った。
「すみません。掃除終わった後にこれ借りて行きたいんですけどいいですか?」
「おお。ローカル・メイデンじゃな。城内でもこの本を借りていく人はよくみるわい。今許可証を書くからちょっとお待ちなさい」
そう言ってゲーテルおじさんは一枚の証紙を取りだした。
「ここにサインを。冊数は5冊。ローカル・メイデンじゃな」
本の名前と作者、冊数をゲーテルおじさんは慣れた手つきで書き、その証紙にサインをするようロゼに言った。ロゼはペンを取ると、ロゼと記入した。
「掃除が終わってから取りに来ます。それまでここに置いていても?」
「ああ。いいぞ」
その時、話し声を聞いていたのかカーラが顔を出した。
「ロゼって本読むの?」
「普段はあまり読まないんですけど、前隣国のお祭りに行った時にこの作者の劇をやっていたので」
「へぇ。面白かったら私も借りてみようかな」
カーラは本をめくって見つめた。
「じゃあ読み終わったら感想教えますね」
「うん。待ってる。さ、掃除掃除」
カーラとロゼは脱線した掃除を再開すべく、元の持ち場へ戻っていった。
****************
夜、寝る支度を終えたロゼは借りてきた本の一冊を手に取った。やはり最初に読むのは「孤島のシンデレラ」だ。
ロゼはテーブルの電気をつけ、ページをめくった。
しばらくして、ロゼは読んでいた手を止めた。気づけば目には涙が浮かんでいる。
そのページは王子が少女の元を離れ、隣国へ渡るシーンだった。
少女は不安と悲しみで泣きそうになる気持ちを必死に堪えている。
明日からアルは隣国へ滞在する。
たった二週間の間だが、我慢していた気持ちをこの本が代弁してくれているようでロゼの心の突き刺さったのだ。
時計を見るともうすぐ10時を指している。
ロゼは本に付属の栞を挟むと部屋を出た。
アルはまだ起きているだろうか。
ロゼは早まる気持ちでアルの部屋へと向かった。
その途中、ロゼは探していた人物と遭遇した。
「ロゼ?」
「アル!」
ロゼはアルの元へ駆け寄った。
「おい、どうしたんだよロゼ」
「ごめ…。私、アルが明日からしばらくいないんだって思ったら、急に寂しくなって…っ。だってアルは当たり前のように、そばに、い…いてくれたから」
アルは少し驚いたように泣いているロゼを見つめると、辺りを見渡した後、そっとを抱きしめた。
「あ…アル…?!」
「ごめん。少しだけ」
「う、うん…」
ロゼは高鳴る心臓を押さえつけ、そっと身を委ねていた。流れていた涙が止まっていくのがわかる。
「俺も寂しい。今からちょうどロゼに会いに行こうと思ってたんだ」
ロゼはアルの言葉を静かに聞いていた。
「大丈夫。たった二週間。すぐ戻ってくるよ。そしたらいっぱい話そうな」
「うん」
アルはそっと抱きしめていた手を離した。月明かりに照らされた顔は双方とも少し赤く染まっている。
「もう遅いし部屋まで送っていくよ」
「大丈夫。私一人で戻れる」
「いいの。俺がロゼと一緒に居たいんだ」
その言葉にロゼは再び顔を赤くした。それを見てアルも恥ずかしそうに頬を赤らめる。
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