30 / 36
第4章 国の発展
書物部屋にて
しおりを挟む
アルが隣国へ出発してから早二週間が経った。
どこか寂しく落ち着かなかったロゼの日々も昨日で終わり、帰国してくるアルを迎えるべく、ロゼたちは城門前に整列していた。
視界にアルたちを乗せた馬車が入ると、ロゼの心はどこか嬉しく感じた。
「お帰りなさいませアル様」
「お帰りなさいませ」
周りに習いロゼも頭を下げる。次に顔を上げた時に見えたのはアルの笑顔だった。どこか晴れ晴れしく、仕事を終えた清々しさを持った笑顔だった。隣に座るエドは相変わらず書類を眺めており、向かいに座るイザベラはこちらに向かって手を振ってくれていた。
馬車から降りてきたアルたち一行は、笑顔で手を振りながら城内の方向へと歩いて行った。その途中、ロゼはアルと目が合った。
「また後でな」
そういう風にアルは口を動かした。ロゼは微笑んでそっと頷き返した。
****************
その日の夜、仕事終わりにロゼは読み終えた5冊の本を持って書物部屋へ向かっていた。
昼間に会えるかと思っていたアルとは仕事がお互い忙しく会えないままになっていた。帰国するまでの二週間、とても重要な話し合いをしてきたのだろう。それは隣国のお祭りの時の様子を思い浮かべれば安易に想像できた。その話し合いの結果や今後のスケジュールなどを考えるとなると会う時間もないのが当然だ。
ロゼは自分のわがままを飲み込んで今日会うのは諦めようと決めた。なにしろ相手は一国の王子だ。今更のように感じるがごく一般のメイドがほいほい会いに行っていい相手じゃないのはわかっている。
出会った当初の身分も知らない距離感と、この城に来てから嫌という程実感させられてきた地位の距離感に、ロゼは少しだけ悲しさを感じていた。
「失礼します」
書物部屋の扉を開けるといつものゲーテルおじさんが顔を見せた。
「ロゼくんか。仕事はもう終わったのかい?」
「はい。本を返しに来たんですけどまだ大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃよ」
ゲーテルおじさんは5冊の本を受け取ると返却の手続きを慣れた手つきで済ませた。
「あとは本棚に戻すだけだから戻って大丈夫じゃよ」
「あ、私が戻してきますよ。5冊と言っても厚い本ばかりですし。それに少し他の本も眺めていきたいので」
ゲーテルおじさんは「そうかい。じゃあお願いしようかね」と言ってロゼに5冊の本を渡した。
ロゼは本を手に元あった本棚のところへ歩いて行った。
本棚の場所まで着くと、ロゼの目に一人の見覚えのある青年が映った。
「ギルさん?!」
それは約二週間前、ロゼが城内案内を担当した新兵のギルだった。
「あ!ロゼさん!お久しぶりです!」
ギルは相変わらずの笑顔でロゼの方を振り返った。
「ギルさんどうしてここに?」
「私はまだ新兵なので夜間の仕事はまだ受け持ってないんです。それで本でも読もうかと思ってここに来て…って、それローカル・メイデンさんの本ですか!そういえば読んでるっておっしゃってましたもんね。全部読み切ったんですか?」
「はい。夜寝る前に少しづつ読んでたのでかなり時間かかっちゃったんですけど、なんとか読み終わりました」
「重くないですか?今戻しますね」
ギルはそう言ってロゼから5冊の本を受け取ると本棚へと戻した。
「ありがとうございます」
ロゼは微笑んで礼を言った。
「感想聞かせてください!約束でしたからね!」
ギルは急かすようにロゼに言った。同じ作品を知る者同士、テンションが上がっているようだ。
「えっと…。じゃあまず孤島のシンデレラから」
ロゼは最初に手に取った小説を思い出し、そっと感想を語り出した。
「それでこの主役の少女の抑えられない気持ちの葛藤が…」
「あー!わかります!こっちまでうずうずしちゃいますよね!」
ロゼたちは時間を忘れて感想を語り合っていた。その時だった。
「ロゼ」
ずっと聞きたかった声がロゼの耳に届いた。
「アル!」
「え?!アル王子?!」
二人は今まで話し合っていた感想のことも忘れ、同時に声のした方向を見た。
そこには見間違えようのない、一国の王子が立っていた。
どこか寂しく落ち着かなかったロゼの日々も昨日で終わり、帰国してくるアルを迎えるべく、ロゼたちは城門前に整列していた。
視界にアルたちを乗せた馬車が入ると、ロゼの心はどこか嬉しく感じた。
「お帰りなさいませアル様」
「お帰りなさいませ」
周りに習いロゼも頭を下げる。次に顔を上げた時に見えたのはアルの笑顔だった。どこか晴れ晴れしく、仕事を終えた清々しさを持った笑顔だった。隣に座るエドは相変わらず書類を眺めており、向かいに座るイザベラはこちらに向かって手を振ってくれていた。
馬車から降りてきたアルたち一行は、笑顔で手を振りながら城内の方向へと歩いて行った。その途中、ロゼはアルと目が合った。
「また後でな」
そういう風にアルは口を動かした。ロゼは微笑んでそっと頷き返した。
****************
その日の夜、仕事終わりにロゼは読み終えた5冊の本を持って書物部屋へ向かっていた。
昼間に会えるかと思っていたアルとは仕事がお互い忙しく会えないままになっていた。帰国するまでの二週間、とても重要な話し合いをしてきたのだろう。それは隣国のお祭りの時の様子を思い浮かべれば安易に想像できた。その話し合いの結果や今後のスケジュールなどを考えるとなると会う時間もないのが当然だ。
ロゼは自分のわがままを飲み込んで今日会うのは諦めようと決めた。なにしろ相手は一国の王子だ。今更のように感じるがごく一般のメイドがほいほい会いに行っていい相手じゃないのはわかっている。
出会った当初の身分も知らない距離感と、この城に来てから嫌という程実感させられてきた地位の距離感に、ロゼは少しだけ悲しさを感じていた。
「失礼します」
書物部屋の扉を開けるといつものゲーテルおじさんが顔を見せた。
「ロゼくんか。仕事はもう終わったのかい?」
「はい。本を返しに来たんですけどまだ大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃよ」
ゲーテルおじさんは5冊の本を受け取ると返却の手続きを慣れた手つきで済ませた。
「あとは本棚に戻すだけだから戻って大丈夫じゃよ」
「あ、私が戻してきますよ。5冊と言っても厚い本ばかりですし。それに少し他の本も眺めていきたいので」
ゲーテルおじさんは「そうかい。じゃあお願いしようかね」と言ってロゼに5冊の本を渡した。
ロゼは本を手に元あった本棚のところへ歩いて行った。
本棚の場所まで着くと、ロゼの目に一人の見覚えのある青年が映った。
「ギルさん?!」
それは約二週間前、ロゼが城内案内を担当した新兵のギルだった。
「あ!ロゼさん!お久しぶりです!」
ギルは相変わらずの笑顔でロゼの方を振り返った。
「ギルさんどうしてここに?」
「私はまだ新兵なので夜間の仕事はまだ受け持ってないんです。それで本でも読もうかと思ってここに来て…って、それローカル・メイデンさんの本ですか!そういえば読んでるっておっしゃってましたもんね。全部読み切ったんですか?」
「はい。夜寝る前に少しづつ読んでたのでかなり時間かかっちゃったんですけど、なんとか読み終わりました」
「重くないですか?今戻しますね」
ギルはそう言ってロゼから5冊の本を受け取ると本棚へと戻した。
「ありがとうございます」
ロゼは微笑んで礼を言った。
「感想聞かせてください!約束でしたからね!」
ギルは急かすようにロゼに言った。同じ作品を知る者同士、テンションが上がっているようだ。
「えっと…。じゃあまず孤島のシンデレラから」
ロゼは最初に手に取った小説を思い出し、そっと感想を語り出した。
「それでこの主役の少女の抑えられない気持ちの葛藤が…」
「あー!わかります!こっちまでうずうずしちゃいますよね!」
ロゼたちは時間を忘れて感想を語り合っていた。その時だった。
「ロゼ」
ずっと聞きたかった声がロゼの耳に届いた。
「アル!」
「え?!アル王子?!」
二人は今まで話し合っていた感想のことも忘れ、同時に声のした方向を見た。
そこには見間違えようのない、一国の王子が立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる
ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。
「運命の番が現れたから」
その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。
傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。
夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。
しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。
「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」
*狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話
*オメガバース設定ですが、独自の解釈があります
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる