32 / 36
第4章 国の発展
これからの話
しおりを挟む
「こほん、えっと…話がずれたな。それで話っていうのは隣国に滞在した時に決まったことで…」
アルはわざとらしい先払いで平常心を取り戻すと本題を語り始めた。
「まず、ロゼは補助金政策を出すということは知っているよな」
ロゼは一ヶ月前の苦い記憶を思い出してそっと頷いた。
「ギルはまだ知らないよな。実はこの国では貧富の差があって、その差を無くすために補助金政策を出すことに決めたんだ」
「貧富の差…。補助金政策…。知りませんでした。幸せなことに私は貴族出身で何不自由なく過ごせていましたから」
ギルは自分の幸せを噛み締めるようにそう言った。
その後アルは滞在先でエリスと話し合って決まった詳しい内容を簡単に報告してくれた。
「それでその政策を明日発表してその次の日に対象の国民には資金が支給されるんだけど、その支給日に例の家族を訪問しようと思うんだ。あれから政策決行に一ヶ月もかかってしまったしな。そのお詫びも兼ねて行こうと思っている」
例の家。それはまぎれもないケイがいる家を指していた。やはりアルにとってはあまりイメージのいい家ではないらしい。しかしわざわざ訪問を決意したのはここまで貧富の差に気付けなかった自分自身に責任を感じているからだろう。
「そこでだロゼ。ロゼも一緒に行かないか?」
ロゼはいきなりの提案に一瞬考え込んだ。私が行けばなおさら親父さんや奥さんはさらに気まずい思いをするのではないか。そう思ったのだ。
「あの少年、ロゼに会いたがっているんじゃないかな。ロゼを助けに行った時、両親に対してどこか反抗的な目をしていたし。少年はロゼのこと大切に思っていたんじゃないかな?」
ロゼはそう言われてケイのことを思い出した。確かに囚われて目が覚めた時、ケイの反抗する声が聞こえていたような気がする。
あんな目にはあったけれどケイにはもう一度会いたいと思った。
「うん。行くよ」
アルはその返事を聞いて満足げに微笑んだ。
「じゃあ決まりだな。置き去り状態でごめんなギル。次の話は衛兵である君に関係がある話なんだ。君はまだ城に入ったばかりで知らないかもしれないが、昔は王族と衛兵が城下町を回る視察という仕事があったんだ。今は理由があってその仕事はなくなっていたんだが、さっきの話の通りやはり視察は必要だということになって、その仕事を再開することになったんだ」
ロゼはそれを聞いてお祭りの時にイザベラから聞いたことだと思い出した。
「そうだな…。今日ここで君にあったのも何かの縁だ。今度補助金支給日に同時に行う第一回目の視察、ギル、君に同行願いたい」
「え?私ですか?!」
ギルは思いもよらぬ言葉に思わず大きな声を出した。ロゼたちは揃って静かに問いうジェスチャーを取る。ここは夜中の書物部屋内だ。他に誰もいないとはいえ、静かにするのがマナーだ。
「し、失礼いたしました。しかし私はまだ衛兵として未熟でございます。他の先輩方に任された方が安全かと…」
その言葉にアルはただ微笑んでいた。
「ギルさん、アルはあなたを信用してこう言っているんです。いい経験だと思って引き受けてみませんか?それに城下町はとても楽しいところですよ」
ロゼはそう言って微笑んだ。ギルはしばらく困ったように二人を見つめていたが、決意を固めたように強く頷いた。
「わかりました。精一杯頑張らせていただきます」
「ありがとう。よろしく頼むよギル。もう一人は先輩のアーロンが来る予定だから。朝礼でも改めて説明があると思う」
「はい!」
ギルは大きな仕事が決まったからかどこか嬉しそうだった。
「最後は前隣国で行っていた催し物を自国でもすることになった」
「本当?!」
ロゼは思わず笑顔がこぼれた。あの楽しかった思い出は一生の思い出になるだろう。それを自国で行ってもらえるなんて嬉しい事この上ない。
「催し物ですか?」
「ああ。お祭りのようなものだな。まだいつ行うかは未定だがお店を呼んで、メイドや衛兵たちも交代制で休みが取れるように調整するつもりだ」
「わぁ!楽しみ」
「それは素敵ですね」
三人は笑顔でしばらくその話で盛り上がった。
しばらくして時計を見た三人は慌てて席を立った。気付けばもう10時。ゲーテルおじさんもさすがに仕事をあがる頃だろう。
「私は本を借りてから戻るのでお二人は先に戻ってください」
「わかった。視察の日、よろしく頼むな」
「ギルさん、お休みなさい」
ロゼたちはギルに挨拶をすると書物部屋を後にした。
「おかえり、アル」
月明かりの差す廊下でロゼはアルを見て微笑んだ。
「どうした急に」
「ちゃんとおかえりって言ってなかったから」
「そうか。ただいま、ロゼ」
アルもそう言ってロゼに微笑んだ。
その時、ロゼの手にアルの手が触れた。
「部屋に着くまで」
そう言ってアルはロゼの手を握った。
二週間、会えなかった寂しさを埋めるように。
その手は暖かった。
アルはわざとらしい先払いで平常心を取り戻すと本題を語り始めた。
「まず、ロゼは補助金政策を出すということは知っているよな」
ロゼは一ヶ月前の苦い記憶を思い出してそっと頷いた。
「ギルはまだ知らないよな。実はこの国では貧富の差があって、その差を無くすために補助金政策を出すことに決めたんだ」
「貧富の差…。補助金政策…。知りませんでした。幸せなことに私は貴族出身で何不自由なく過ごせていましたから」
ギルは自分の幸せを噛み締めるようにそう言った。
その後アルは滞在先でエリスと話し合って決まった詳しい内容を簡単に報告してくれた。
「それでその政策を明日発表してその次の日に対象の国民には資金が支給されるんだけど、その支給日に例の家族を訪問しようと思うんだ。あれから政策決行に一ヶ月もかかってしまったしな。そのお詫びも兼ねて行こうと思っている」
例の家。それはまぎれもないケイがいる家を指していた。やはりアルにとってはあまりイメージのいい家ではないらしい。しかしわざわざ訪問を決意したのはここまで貧富の差に気付けなかった自分自身に責任を感じているからだろう。
「そこでだロゼ。ロゼも一緒に行かないか?」
ロゼはいきなりの提案に一瞬考え込んだ。私が行けばなおさら親父さんや奥さんはさらに気まずい思いをするのではないか。そう思ったのだ。
「あの少年、ロゼに会いたがっているんじゃないかな。ロゼを助けに行った時、両親に対してどこか反抗的な目をしていたし。少年はロゼのこと大切に思っていたんじゃないかな?」
ロゼはそう言われてケイのことを思い出した。確かに囚われて目が覚めた時、ケイの反抗する声が聞こえていたような気がする。
あんな目にはあったけれどケイにはもう一度会いたいと思った。
「うん。行くよ」
アルはその返事を聞いて満足げに微笑んだ。
「じゃあ決まりだな。置き去り状態でごめんなギル。次の話は衛兵である君に関係がある話なんだ。君はまだ城に入ったばかりで知らないかもしれないが、昔は王族と衛兵が城下町を回る視察という仕事があったんだ。今は理由があってその仕事はなくなっていたんだが、さっきの話の通りやはり視察は必要だということになって、その仕事を再開することになったんだ」
ロゼはそれを聞いてお祭りの時にイザベラから聞いたことだと思い出した。
「そうだな…。今日ここで君にあったのも何かの縁だ。今度補助金支給日に同時に行う第一回目の視察、ギル、君に同行願いたい」
「え?私ですか?!」
ギルは思いもよらぬ言葉に思わず大きな声を出した。ロゼたちは揃って静かに問いうジェスチャーを取る。ここは夜中の書物部屋内だ。他に誰もいないとはいえ、静かにするのがマナーだ。
「し、失礼いたしました。しかし私はまだ衛兵として未熟でございます。他の先輩方に任された方が安全かと…」
その言葉にアルはただ微笑んでいた。
「ギルさん、アルはあなたを信用してこう言っているんです。いい経験だと思って引き受けてみませんか?それに城下町はとても楽しいところですよ」
ロゼはそう言って微笑んだ。ギルはしばらく困ったように二人を見つめていたが、決意を固めたように強く頷いた。
「わかりました。精一杯頑張らせていただきます」
「ありがとう。よろしく頼むよギル。もう一人は先輩のアーロンが来る予定だから。朝礼でも改めて説明があると思う」
「はい!」
ギルは大きな仕事が決まったからかどこか嬉しそうだった。
「最後は前隣国で行っていた催し物を自国でもすることになった」
「本当?!」
ロゼは思わず笑顔がこぼれた。あの楽しかった思い出は一生の思い出になるだろう。それを自国で行ってもらえるなんて嬉しい事この上ない。
「催し物ですか?」
「ああ。お祭りのようなものだな。まだいつ行うかは未定だがお店を呼んで、メイドや衛兵たちも交代制で休みが取れるように調整するつもりだ」
「わぁ!楽しみ」
「それは素敵ですね」
三人は笑顔でしばらくその話で盛り上がった。
しばらくして時計を見た三人は慌てて席を立った。気付けばもう10時。ゲーテルおじさんもさすがに仕事をあがる頃だろう。
「私は本を借りてから戻るのでお二人は先に戻ってください」
「わかった。視察の日、よろしく頼むな」
「ギルさん、お休みなさい」
ロゼたちはギルに挨拶をすると書物部屋を後にした。
「おかえり、アル」
月明かりの差す廊下でロゼはアルを見て微笑んだ。
「どうした急に」
「ちゃんとおかえりって言ってなかったから」
「そうか。ただいま、ロゼ」
アルもそう言ってロゼに微笑んだ。
その時、ロゼの手にアルの手が触れた。
「部屋に着くまで」
そう言ってアルはロゼの手を握った。
二週間、会えなかった寂しさを埋めるように。
その手は暖かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる
ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。
「運命の番が現れたから」
その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。
傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。
夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。
しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。
「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」
*狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話
*オメガバース設定ですが、独自の解釈があります
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる