青の王国

ウツ。

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第4章 国の発展

これからの話

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「こほん、えっと…話がずれたな。それで話っていうのは隣国に滞在した時に決まったことで…」
アルはわざとらしい先払いで平常心を取り戻すと本題を語り始めた。
「まず、ロゼは補助金政策を出すということは知っているよな」
ロゼは一ヶ月前の苦い記憶を思い出してそっと頷いた。
「ギルはまだ知らないよな。実はこの国では貧富の差があって、その差を無くすために補助金政策を出すことに決めたんだ」
「貧富の差…。補助金政策…。知りませんでした。幸せなことに私は貴族出身で何不自由なく過ごせていましたから」
ギルは自分の幸せを噛み締めるようにそう言った。
その後アルは滞在先でエリスと話し合って決まった詳しい内容を簡単に報告してくれた。
「それでその政策を明日発表してその次の日に対象の国民には資金が支給されるんだけど、その支給日に例の家族を訪問しようと思うんだ。あれから政策決行に一ヶ月もかかってしまったしな。そのお詫びも兼ねて行こうと思っている」
例の家。それはまぎれもないケイがいる家を指していた。やはりアルにとってはあまりイメージのいい家ではないらしい。しかしわざわざ訪問を決意したのはここまで貧富の差に気付けなかった自分自身に責任を感じているからだろう。
「そこでだロゼ。ロゼも一緒に行かないか?」
ロゼはいきなりの提案に一瞬考え込んだ。私が行けばなおさら親父さんや奥さんはさらに気まずい思いをするのではないか。そう思ったのだ。                                       
「あの少年、ロゼに会いたがっているんじゃないかな。ロゼを助けに行った時、両親に対してどこか反抗的な目をしていたし。少年はロゼのこと大切に思っていたんじゃないかな?」
ロゼはそう言われてケイのことを思い出した。確かに囚われて目が覚めた時、ケイの反抗する声が聞こえていたような気がする。
あんな目にはあったけれどケイにはもう一度会いたいと思った。
「うん。行くよ」
アルはその返事を聞いて満足げに微笑んだ。
「じゃあ決まりだな。置き去り状態でごめんなギル。次の話は衛兵である君に関係がある話なんだ。君はまだ城に入ったばかりで知らないかもしれないが、昔は王族と衛兵が城下町を回る視察という仕事があったんだ。今は理由があってその仕事はなくなっていたんだが、さっきの話の通りやはり視察は必要だということになって、その仕事を再開することになったんだ」
ロゼはそれを聞いてお祭りの時にイザベラから聞いたことだと思い出した。
「そうだな…。今日ここで君にあったのも何かの縁だ。今度補助金支給日に同時に行う第一回目の視察、ギル、君に同行願いたい」
「え?私ですか?!」
ギルは思いもよらぬ言葉に思わず大きな声を出した。ロゼたちは揃って静かに問いうジェスチャーを取る。ここは夜中の書物部屋内だ。他に誰もいないとはいえ、静かにするのがマナーだ。
「し、失礼いたしました。しかし私はまだ衛兵として未熟でございます。他の先輩方に任された方が安全かと…」
その言葉にアルはただ微笑んでいた。
「ギルさん、アルはあなたを信用してこう言っているんです。いい経験だと思って引き受けてみませんか?それに城下町はとても楽しいところですよ」
ロゼはそう言って微笑んだ。ギルはしばらく困ったように二人を見つめていたが、決意を固めたように強く頷いた。
「わかりました。精一杯頑張らせていただきます」
「ありがとう。よろしく頼むよギル。もう一人は先輩のアーロンが来る予定だから。朝礼でも改めて説明があると思う」
「はい!」
ギルは大きな仕事が決まったからかどこか嬉しそうだった。
「最後は前隣国で行っていた催し物を自国でもすることになった」
「本当?!」
ロゼは思わず笑顔がこぼれた。あの楽しかった思い出は一生の思い出になるだろう。それを自国で行ってもらえるなんて嬉しい事この上ない。
「催し物ですか?」
「ああ。お祭りのようなものだな。まだいつ行うかは未定だがお店を呼んで、メイドや衛兵たちも交代制で休みが取れるように調整するつもりだ」
「わぁ!楽しみ」
「それは素敵ですね」
三人は笑顔でしばらくその話で盛り上がった。

しばらくして時計を見た三人は慌てて席を立った。気付けばもう10時。ゲーテルおじさんもさすがに仕事をあがる頃だろう。
「私は本を借りてから戻るのでお二人は先に戻ってください」
「わかった。視察の日、よろしく頼むな」
「ギルさん、お休みなさい」
ロゼたちはギルに挨拶をすると書物部屋を後にした。

「おかえり、アル」
月明かりの差す廊下でロゼはアルを見て微笑んだ。
「どうした急に」
「ちゃんとおかえりって言ってなかったから」
「そうか。ただいま、ロゼ」
アルもそう言ってロゼに微笑んだ。
その時、ロゼの手にアルの手が触れた。
「部屋に着くまで」
そう言ってアルはロゼの手を握った。
二週間、会えなかった寂しさを埋めるように。
その手は暖かった。
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