魔法少女♂とヤンデリオ

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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嫉妬型ヤンデレ、八雲チアキの場合

嫉妬型ヤンデレ、八雲チアキの場合②-1

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 それは、今から遡ること約一年前。八雲チアキが高校に入学して間もない頃の出来事だ。

 彼らが通う夢見ヶ丘高校は、このあたりではそこそこ有名な全寮制の男子校である。中高一貫の私立高校だが、持ち上がり組と高校からの編入組の割合は半々ほどで、自由な校風から人気が高い。
 中学生の頃、己がゲイであると確信を持ったチアキは、ここが全寮制の男子校であるというだけで受験を決めた。「男子校では女代わりにされてモテる男がいる」なんていう、ネットで読んだ嘘か本当かもわからない話を真に受けて、運良く恋人でも作れないものかと――それが無理でも、似たような思考のお仲間くらいは見つかるかもしれないと。そんな期待をして入学してきた。
 実際、入学してみれば、ネットの噂話やエロ漫画にあるような露骨な展開は一切なかったが、それでもチアキは諦めなかった。片思いだっていい、青春らしい恋をしてみたい。そんな思いからあちこちの部活動を見学して、出会いを探してみたりもした。
 たった一、二歳年上というだけなのに先輩たちはとても大人びて見えて魅力的で、どの部もそれなりに楽しそうではあったものの、決め手に欠けて入部届を出せずにいるうちに、体験入部の期限である一ヶ月はあっという間に終わろうとしていた。
 このまま適当に決めた部活に入ってしまうか、あるいは、だらだらと成り行き任せで帰宅部になるのか――そんなことを考えていた矢先、彼は、晶水ノブユキに出会ってしまった。


 最初は、一目惚れだった。
 たまたま通りがかった校舎裏で、小さな花壇の世話をしている男がいた。彼はすらりと背が高く、学生服越しでも鍛えられているのがわかる細マッチョ体型で、男らしい雰囲気のイケメンで、チアキの好みドストライクだったのだ。爽やかなスポーツ選手のような見た目の彼が、花壇の世話をしながら、小さな蕾に向けて微笑みながら話しかけている。そのギャップに思わずときめいてしまい、その場で足を止めてしまった。
『よしよし……今日も元気に育ったな。花が咲くまでもうすぐか? 焦らず、ゆっくり頑張ろうな……』
(……ヤバいっ、あの人、超かっこいい……! それに花? に話しかけてるとか、クールな感じのイケメンなのに可愛い……っ! これがギャップ萌ってヤツなのか!?)
 思わず凝視していれば、彼は、視線に気づいた様子で振り返る。太陽のような眩しい笑顔を向けられ、チアキの心臓が大きく跳ねた。
『……ん? 君、新入生か。お花が見たいんなら、そんな遠くじゃなくてこっちに来ていいぞ!』
『え……っ、あ、は、はい! すみません……!』
 好みのイケメンに手招きされ、あたふたと慌てながらも、チアキは彼の隣まで近付いた。花壇の中を覗きこめば、青紫色の小さな蕾がついたツル状の植物が植えられていた。
『えと……す、すみません。ジロジロ見ちゃって……』
『謝ることないだろう。植物、好きなのか?』
『そ、その……あんまり詳しくはないんですけど。こんな日陰に花壇あるんだ、って気になって……』
『はは、知らないと驚くよな? 植物というと、日当たりのいい場所でしか育たないように思うかもしれないが、実は日陰を好むような種類もあるんだ。これもそういう品種のお花で――』
 嬉しげに語りだした彼は、ハッと我に返ると、照れくさそうに顔を赤らめる。
『……っと、すまない。お花のことになると、ついアツくなってしまって……』
『いえ!! ……先輩は、園芸部……なんですか?』
『いいや。本当は部活動や同好会にしたいんだが、部員の数が集まらなくてな……。美化委員会の活動ってことにして、ほぼ、勝手に世話してるみたいな感じだよ』
 照れ笑いをする彼の姿に、チアキは、胸の高鳴りを抑えられなかった。もっと彼のことを知りたいと、湧き上がる好奇心と淡いときめきに身を任せ、衝動的に言葉を紡ぐ。
『……あのっ、俺、部活動どうするか悩んでて。もし園芸部作るんなら、おれも入りたいです!』
『本当か!?』
 チアキの言葉を受けて、彼は、子供のように瞳を輝かせる。クールに見える顔が喜び一色に染まったのを前に、チアキは、己が恋に落ちてしまったことを確信した。
『よし……それなら、他にも部員を集められないか、声をかけてみるか。……ああそうだ、俺は2年2組の晶水あきみ。晶水ノブユキだ。君は……?』
『い、1年3組の、八雲チアキです!』
『八雲、また来週あたりにここで会えるか? 部活にできるよう、メンバー集めて、先生に相談してみるから。それに、来週ならこいつらも開花して、もっと綺麗になってるだろうから……』

 そうして、二人は知人となり――人が集められずに園芸部の話自体は無くなってしまったが、チアキは美化委員会に入り、ノブユキと共に花壇の世話をするようになった。


 ノブユキと知人になり、その人柄を知るたびに、チアキの恋慕は深まっていった。
 クールな見た目とは裏腹に可愛いものが好きなこと。ガーデニングが昔からの趣味で、将来の夢は『お花屋さん』であること。スポーツ万能で運動部からの勧誘がひっきりなしにあるが、夢のため、花屋でのバイトをしているからと断っていること。単刀直入な物言いはぶっきらぼうにも見えるが、実際は、他人思いでとても親切な性格なこと……。
 時には、自分の夢や趣味を「男らしくない」などと揶揄されることがあっても気にせず、堂々と胸を張って自分らしく生きるノブユキは、チアキにとって太陽のような存在だった。

 勧誘を断られたバスケ部の部員が、吐き捨てるように、『男が庭いじりとかダセェだろ、おまえみてえな厳ついヤツには似合わねえよ!!』などと言ったときにも、彼は怒ることなく優しく諭していた。
「? 男とか女とか、関係ないだろう。好きなものを好きでいるのに、性別や立場なんか関係ないと、俺は思う」
「な、なんだよ偉そうに……」
「俺の趣味がこの容姿に不釣り合いだと、似合っていないと言ってきた人は以前にもいた。だが、それを決めるのは他人じゃない。何が俺に似合うことで、何が俺のやりたいことなのかは俺が決める。部活勧誘に必死なのはわかるんだが……さっきみたいな言い方だと、良くない印象を与えてしまうかもしれないぞ? 入部してやれなくて申し訳ないが……他の人を勧誘するときには、言葉遣いに気をつけることをおすすめする」
 その言葉に、チアキはひどく衝撃を受けた。自分の性質――性的指向をひた隠しにして、本当の自分を押し殺して生きるチアキにとって、誰になんと言われようとも己を貫くノブユキの姿はとても眩しく映ったのだ。その姿は、自分とたった一歳しか違わないのに大人びていて、そして自分に自信があるからこその言葉であるようにチアキは思った。
(先輩は……やっぱりすごい、カッコいい……! 片思いをコソコソ隠して、ゲイだってことも言えずにいるおれとは全然違う……。おれに無いものをたくさん持ってて、キラキラしてて、カッコよくて。そんな貴方だから――おれは――)
 自尊心の低いチアキは、自分がノブユキのように堂々と生きることはできない、と思った。それでも、己にないものを持つ彼に憧れ、惚れ込み、側にいたいと思うようになっていた。
 その願いが自信のなさと結びついてしまった結果、直接思いを告げることもできず――いつしかノブユキの周囲をストーカーのように調べ上げ、偶然を装い同じバイト先に務めるなどして、『1番仲の良い後輩』のポジションを手に入れるに至ったのだ。

(ごめんなさい、先輩……。先輩にはおれなんか不釣り合いだってわかってる。けど、好きだって気持ちが止められないんだ。絶対……絶対、先輩の邪魔はしないから。迷惑になることはしないから。だから……一番近くで、ただ、後輩として側にいるのを許して欲しい――)

 そんな細やかな願いは、じわじわとチアキの心を蝕んでいき。やがて――闇の魔法使い、『ヤンデリオ』に目をつけられたのである。
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