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ストーカー系狂信者、阿神ケイの場合
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思わぬ声音に顔を上げれば、コウヤは、怒るでも恐れるでもなく、ただ、優しい笑みを浮かべていた。僅かに困惑しているようにも見えたが、それもどこか嬉しげな雰囲気の困り顔に見えて、ケイは己の目を疑った。
「そもそも、君とヤりたかったのはおれの勝手だぜ? っていうか、こっちも逆レイプ紛いのやり方で搾り取っちゃったしねぇ。君が責任感じることはないし、それに、ストーカーの件もびっくりしたけど嫌じゃなかったから、そんなに謝らないでよ」
「ッ……!? う、そ。嘘だ……っ、そんな、わけ……!」
「だって、こーんなド好みの男が、おれのこと四六時中見てくれてたワケだろ? あーんな姿やこーんな姿まで……♡ アハッ、想像しただけで興奮しちまう♡♡ 露出プレイみたいだね♡」
「ッッ!?!?」
想像だにしない、常識を遥かに逸脱したコウヤのリアクションに、ケイは返す言葉を失っていた。コウヤの顔に浮かぶのは好色な笑みで、慰めや誤魔化しなどではなく、本気で言っているのだとひと目でわかってしまう表情をしている。
「お……、怒らないんすか、オレのこと……?」
「ん~……、まあ、世間一般的には犯罪なんだろーけど。おれが気にしてないんだし、良いんじゃない? てか、そんなに気になるならおとなしくおれに付き合ってくれよ♡ ヤらせてくれるんなら、今後もストーカーして構わねえからさ♡♡」
「え、えぇえ……!?」
呆れたくなるほどあっさりと、コウヤはケイのストーカー行為を受け入れ、なんなら好意的な反応さえ示していた。
ケイとて、長年のストーキングの果てに彼の淫乱ぶりは承知している。控えめに言っても非常識なレベルで好色で、性に奔放で、おまけに細かいことを気にしない人だとは知っていた――盗撮越しに見て理解した気になっていたが、まさかここまでだとは想定外だ。驚きこそすれど、その程度では恋慕が揺るがないあたり、ケイもイカれ具合では似たりよったりではあるのだが、この場にそれを指摘できる人間はいなかった。
相変わらずぽかんとしているケイへ、コウヤは、わははと豪快に笑ってみせる。
「まま、難しく考えず、気楽に行こうや♡ ただのセフレ、お互いオナニーの代わりにセックスするだけ。もちろん、ついでに友達になれたら嬉しいけどさ? 暇なときに、性処理付き合ってくれりゃあそれでいいから♡」
(そ、そんな――そんな都合のいい話があっていいのかっ!? いや、まあコウヤ様ならありえる……のか? ありえるかも、だってコウヤ様だし……。でも、だとしてもオレ……どうしたら……)
「もー、難しいカオすんなよ♡ 楽しく生きようぜ~? なにも結婚するってワケでもないし、おれで童貞捨てちゃったんだから、あとはもう何しても一緒だってえ♡」
(っ、そ、そうだよな!! コウヤ様にとってはただのセフレ……いや、性処理奴隷にすぎないんだ。なら、むしろ気後れするほうが失礼なんじゃ!? コウヤ様のお望みを叶えるためなら……中身がこんなクソ野郎でも、この見た目と体を気に入ってもらえるなら……!)
苦悩していたケイだったが、コウヤの軽薄すぎる態度のせいで、覚悟が決まったようだった。様々な出来事が起こりすぎてパニックになっていた、とも言えるだろう。
ケイは、神妙な面持ちで頷くと、元気よく返事の声を上げる。
「っ……、こ、コウヤ様が……それを、望むなら!! オレッ、コウヤ様の専用チンポになりますっ! コウヤ様のために……この身体、好きに使ってくださいっ!!」
「ぶはっ! なんだそりゃ!! ケイちゃん、ほんと面白いなぁ~♡」
やたらと張り切った返事がツボだったのか、ひとしきり笑い転げてから、コウヤはふと思い出したようにスマホを取り出した。
「さて、ほんじゃとりあえず……連絡先でも交換しとく? ケイちゃん、スマホ持ってるよね?」
「……あ゛ーッ!! あのっ、あのですねっ、それはっ!!」
その瞬間、ようやくケイは思い出した。彼に魔法使いとしての力を与えた張本人、ヤンデリオのボスたる魔法使いフレンジィの言葉……『闇の魔法使いは、素性がばれてはいけない』という約束のことを。
変身すると姿が変わるのも、変身中は別の名前――ファナティックを名乗るのも(今日はコウヤの存在に慌ててすっかり忘れていたが)、どちらも闇の魔法使いの素性を隠すためだと教えられていた。そして、もしも仲間以外に正体がバレてしまえば、魔法の力を剥奪することもあるかもと脅されていたのだ。
あの得体のしれないボスとはいえど、四六時中監視されているわけではない――監視や盗聴といった魔法はケイがもっとも得意とするため、自分が他人から監視されると感覚でわかるのだ――とは思うし、ケイが全力で魔法を頑張れば『自分以外にコウヤを監視させない』くらいのことはできるだろう。だが、さすがにスマホにやり取りの履歴が残るとなると誤魔化しきれない。
今日、うっかり本名バレをしてしまったことを隠すためにも、コウヤにこれ以上自分の素性を明かさないためにも、連絡先を交換するのは憚られた。ちなみにそれらの理由以外にも、自身が本当は高校生であることを知られたくないだとか、仮にもファンとして憧れのアーティストの個人的な連絡先を知るわけにはいかないだとか、そういった個人的な感情もあるのだがそれは置いておく。
「あ、あの……っすね、コウヤ様。コウヤ様のご意思に反するとかマジでありえねーってわかってるんスけど……その。ちょっとワケがありまして……その、連絡先は、伝えられなくて……」
「ありゃ? 電話もメールも、メッセージも駄目?」
「……サーセン。ってか、あの、ほんとはオレ……名前もバレちゃいけなくて。詳しくはオレも知らねえんスけど、ボス……上司が言うには、あんまり素性が知れ渡ると魔法が使えなくなる……かも、しれなくて……」
「…………ふむん?」
しかし、連絡が取れなくてはセフレもなにもあったものではない。どうしたものかと考えている様子のコウヤに、恐る恐る、ケイは提案する。
「えっとお……その、と、盗聴許してくれるんなら……、コウヤ様のご都合がいいときに呼んでくれたら、その、魔法で飛んでくるんで。それじゃ駄目……っすかね……?」
「うっそぉ!? そんなんできんの!?」
コウヤの食いつきは思った以上に好反応だった。子供のように目を輝かせている。
「なにそれ、すっげー便利だね!? え、マジでいいの? おれにばっか都合良い気がするけど……」
「ほっ、本望ですッ!! コウヤ様のお役に立てるなら、都合の良い棒にしてくれて構わねえっす!! むしろ、そうでもしないと釣り合いが取れねえっつーか……!!」
「えー、んなことないのになぁ。自覚ないかもしれないけど、ケイちゃんはすっげえイイ男だよ~?」
クスクスと笑いながら、コウヤは、そのまま軽くケイに口づけた。
「……んっ♡ ほんじゃ、ヤりたくなったら呼ぶから……おれのことたーくさん見て、聞いてなきゃ駄目だよ♡♡ おれに遠慮しないで、盗聴も盗撮も好きなだけしてくれていいから……おれにも監視プレイ愉しませてね♡♡」
「へっ!?!? な、なな、何言ってるんですか!?」
「だって、お互い満足できなきゃセフレって呼べなくない? 別に一方的に脅して性奴隷にしようってワケじゃあないしさあ……、あ、いや、プレイとしてならアリだけどね?」
さらっとストーカーを公認どころか煽るようなことを言った上に、一方的に使われるだけでいい、というケイの考えを見抜いたようにコウヤは笑う。
「おれは、気軽に呼べてカラダの相性バツグンで、しかも監視プレイもしてくれる君と仲良くなりたい♡ 君は、おれ公認でストーカーできるしエッチもできちゃう♡ 悪い話じゃないと思うけど?」
艶やかに微笑む彼の発想は、ことごとく、ケイの常識を越えていた。決して触れてはならないと思っていた相手だったはずなのに、とうのコウヤ自身がケイとの繋がりを乞い、ストーカー行為さえ容認してくれている。自身が恋した人の、常識外れだがあまりにも懐の広い愛情を前にして、ケイは改めてコウヤへの愛を――崇拝と信仰心を深めていた。
「コウヤ様……!! な、なんて深く広い愛なんだ……。オレみたいな凡人とは格が違う……! そんなところもカッコいいっす……!!」
「ほんとぉ? へへっ、ありがとね~」
神に祈りを捧げるように崇められても、コウヤはへらへら笑っているだけだ。頭のネジが外れた規格外同士、相性がいいことは確かなのだろう。
「んじゃ、これからよろしくね? ……って改まって言うのもなんかおかしいけど」
「は、はいっ!! コウヤ様公認ストーカーとしてっ、は、恥じない振る舞いをします!!」
「あっはっは!! ほんと面白いなあ、君!!」
それから数十分ほど、二人は、他愛もない雑談を交わして過ごした。というのも、ヤりすぎて足腰が立たなくなっていたからだ。激しいセックスのせいで二人の体やベッドもベタベタに汚れてしまったが、それは、ケイが魔法で頑張ってなんとか綺麗にした。
雑談と言っても、ケイは学生だとバレたくなかったので話せることは闇の魔法使いとしての活動のことくらいだったし、コウヤに至っては日々のオナニー事情ばかり語るという酷い有様だったが、それでも二人の間にはどこか砕けた雰囲気が生まれていた。
ある程度体も動かせるようになった頃、ふと、ケイは時計を見てあることに気がつく。
「あ……、コウヤ様、あと一時間くらいでテレビ局の打ち合わせのお時間じゃないっすか? オレ、そろそろ帰ったほうがいいですよね」
「そ、そうだけど……なんで知ってんの? どこまでストーカーしてたの!? おれのこと詳しすぎない!?」
「っ、す、すいませんっ!! あの、つい、我慢できなくて……」
「いやいいけどね~。なんたって君、おれの公認ストーカーだから」
「っ!! そっ、すか……へへっ、えへへ……♡」
ツッコミどころしかない会話であったが、当人らはいたってほのぼのとしているので問題はない。よっこいせ、などと言いつつ立ち上がり、出かけるための身支度を始めながら、コウヤは言う。
「そうだねえ、おれは20分後くらいには出るかなぁ。ケイちゃんは、帰りどーすんの? 魔法?」
「あっ、はい。こう……ビュンッてワープできるんで……」
「マジでめっちゃ便利だねえ、魔法。いいなぁ~、おれもその力欲しいよぉ」
羨ましいなあと気の抜けた声で言ってから、コウヤは、はたと思い出した様子で付け加えた。
「……あ、そだ。帰る前に一個だけ。ケイちゃんなら大丈夫そうだけど……おれとこういう仲になったことは、できたら、誰にもバレないようにしてほしいんだよね。もちろん、他の魔法使いの人にも」
「え? もちろんそのつもりでしたけど……魔法使いの仲間にも、ですか?」
片思いでさえ自室に隠していた彼は、当然、他の誰にもコウヤとの関係を明かすつもりはなかった。本名バレの件もあるので、特にボスには絶対にバレてはならない。
それでも、自身の恋バナを笑わず聞いてくれた友人――チアキには、全ては明かせずとも、少しだけ進展があったことくらいは言ってしまうかもなと思っていたので、ケイは聞き返す。
真面目な面持ちでコウヤは言った。
「うん、君の仲間がどんな人かは知らないけど……パパラッチ対策だね。噂ってどこから漏れるかわかんないから、念の為。……君って、素性がバレるとマズいんだろ? 万が一にも、おれのせいで君の存在が目立っちゃうなんてことは避けないと。おれも、この部屋以外で君の名前呼ばないようにしておくし」
「こ……コウヤ様っ!! オレのためにそこまで……! お心遣いありがとうございますッ、気をつけるっす!!」
「ははっ、まあ、お互いのためだから。おれもスキャンダルは慣れてるけど、週刊誌に張り付かれると面倒だからさ~」
相変わらず適当そうな笑みを浮かべているが、たしかに、芸能人との恋愛やセックスというのはそれだけでスキャンダルだ。ケイは、魔法使いファナティックとしては『街を襲う怪物を生み出す危険人物』だし、本来の彼も高校生だしで、とにかくバレてしまえばコウヤの経歴にも傷をつけてしまう。その重みをしっかり胸に刻みつけ、ケイは、この関係を隠し通すことを固く誓った。
「ほんじゃ、引き止めてごめんね。また、会いたくなったら呼ぶから♡ ケイちゃんも、会いたければいつでもおいでよ。この部屋に一人でいるときで、作曲作業中でさえなけりゃ、いつでも相手するからさ」
「……身に余る光栄っす!! ありがとうございます!! ……そ、それじゃ……またっ!!」
照れと喜びで顔を真っ赤にしながら、ケイは、ワープの魔法を使って寮の自室へと帰還した。
……その後、今日の『仕事』、つまりはジャネープを発生させることをすっかり忘れていたのを思い出し、大慌てで街に繰り出し直したのはご愛嬌である。
その日のジャネープは急ごしらえの激弱仕様だったので、魔法少女が出てくる間もなく自壊し、被害もほとんどなかったのだが、コウヤとの夢のようなひとときの余韻に浸る彼はちっとも気にしていなかったそうだ。
「そもそも、君とヤりたかったのはおれの勝手だぜ? っていうか、こっちも逆レイプ紛いのやり方で搾り取っちゃったしねぇ。君が責任感じることはないし、それに、ストーカーの件もびっくりしたけど嫌じゃなかったから、そんなに謝らないでよ」
「ッ……!? う、そ。嘘だ……っ、そんな、わけ……!」
「だって、こーんなド好みの男が、おれのこと四六時中見てくれてたワケだろ? あーんな姿やこーんな姿まで……♡ アハッ、想像しただけで興奮しちまう♡♡ 露出プレイみたいだね♡」
「ッッ!?!?」
想像だにしない、常識を遥かに逸脱したコウヤのリアクションに、ケイは返す言葉を失っていた。コウヤの顔に浮かぶのは好色な笑みで、慰めや誤魔化しなどではなく、本気で言っているのだとひと目でわかってしまう表情をしている。
「お……、怒らないんすか、オレのこと……?」
「ん~……、まあ、世間一般的には犯罪なんだろーけど。おれが気にしてないんだし、良いんじゃない? てか、そんなに気になるならおとなしくおれに付き合ってくれよ♡ ヤらせてくれるんなら、今後もストーカーして構わねえからさ♡♡」
「え、えぇえ……!?」
呆れたくなるほどあっさりと、コウヤはケイのストーカー行為を受け入れ、なんなら好意的な反応さえ示していた。
ケイとて、長年のストーキングの果てに彼の淫乱ぶりは承知している。控えめに言っても非常識なレベルで好色で、性に奔放で、おまけに細かいことを気にしない人だとは知っていた――盗撮越しに見て理解した気になっていたが、まさかここまでだとは想定外だ。驚きこそすれど、その程度では恋慕が揺るがないあたり、ケイもイカれ具合では似たりよったりではあるのだが、この場にそれを指摘できる人間はいなかった。
相変わらずぽかんとしているケイへ、コウヤは、わははと豪快に笑ってみせる。
「まま、難しく考えず、気楽に行こうや♡ ただのセフレ、お互いオナニーの代わりにセックスするだけ。もちろん、ついでに友達になれたら嬉しいけどさ? 暇なときに、性処理付き合ってくれりゃあそれでいいから♡」
(そ、そんな――そんな都合のいい話があっていいのかっ!? いや、まあコウヤ様ならありえる……のか? ありえるかも、だってコウヤ様だし……。でも、だとしてもオレ……どうしたら……)
「もー、難しいカオすんなよ♡ 楽しく生きようぜ~? なにも結婚するってワケでもないし、おれで童貞捨てちゃったんだから、あとはもう何しても一緒だってえ♡」
(っ、そ、そうだよな!! コウヤ様にとってはただのセフレ……いや、性処理奴隷にすぎないんだ。なら、むしろ気後れするほうが失礼なんじゃ!? コウヤ様のお望みを叶えるためなら……中身がこんなクソ野郎でも、この見た目と体を気に入ってもらえるなら……!)
苦悩していたケイだったが、コウヤの軽薄すぎる態度のせいで、覚悟が決まったようだった。様々な出来事が起こりすぎてパニックになっていた、とも言えるだろう。
ケイは、神妙な面持ちで頷くと、元気よく返事の声を上げる。
「っ……、こ、コウヤ様が……それを、望むなら!! オレッ、コウヤ様の専用チンポになりますっ! コウヤ様のために……この身体、好きに使ってくださいっ!!」
「ぶはっ! なんだそりゃ!! ケイちゃん、ほんと面白いなぁ~♡」
やたらと張り切った返事がツボだったのか、ひとしきり笑い転げてから、コウヤはふと思い出したようにスマホを取り出した。
「さて、ほんじゃとりあえず……連絡先でも交換しとく? ケイちゃん、スマホ持ってるよね?」
「……あ゛ーッ!! あのっ、あのですねっ、それはっ!!」
その瞬間、ようやくケイは思い出した。彼に魔法使いとしての力を与えた張本人、ヤンデリオのボスたる魔法使いフレンジィの言葉……『闇の魔法使いは、素性がばれてはいけない』という約束のことを。
変身すると姿が変わるのも、変身中は別の名前――ファナティックを名乗るのも(今日はコウヤの存在に慌ててすっかり忘れていたが)、どちらも闇の魔法使いの素性を隠すためだと教えられていた。そして、もしも仲間以外に正体がバレてしまえば、魔法の力を剥奪することもあるかもと脅されていたのだ。
あの得体のしれないボスとはいえど、四六時中監視されているわけではない――監視や盗聴といった魔法はケイがもっとも得意とするため、自分が他人から監視されると感覚でわかるのだ――とは思うし、ケイが全力で魔法を頑張れば『自分以外にコウヤを監視させない』くらいのことはできるだろう。だが、さすがにスマホにやり取りの履歴が残るとなると誤魔化しきれない。
今日、うっかり本名バレをしてしまったことを隠すためにも、コウヤにこれ以上自分の素性を明かさないためにも、連絡先を交換するのは憚られた。ちなみにそれらの理由以外にも、自身が本当は高校生であることを知られたくないだとか、仮にもファンとして憧れのアーティストの個人的な連絡先を知るわけにはいかないだとか、そういった個人的な感情もあるのだがそれは置いておく。
「あ、あの……っすね、コウヤ様。コウヤ様のご意思に反するとかマジでありえねーってわかってるんスけど……その。ちょっとワケがありまして……その、連絡先は、伝えられなくて……」
「ありゃ? 電話もメールも、メッセージも駄目?」
「……サーセン。ってか、あの、ほんとはオレ……名前もバレちゃいけなくて。詳しくはオレも知らねえんスけど、ボス……上司が言うには、あんまり素性が知れ渡ると魔法が使えなくなる……かも、しれなくて……」
「…………ふむん?」
しかし、連絡が取れなくてはセフレもなにもあったものではない。どうしたものかと考えている様子のコウヤに、恐る恐る、ケイは提案する。
「えっとお……その、と、盗聴許してくれるんなら……、コウヤ様のご都合がいいときに呼んでくれたら、その、魔法で飛んでくるんで。それじゃ駄目……っすかね……?」
「うっそぉ!? そんなんできんの!?」
コウヤの食いつきは思った以上に好反応だった。子供のように目を輝かせている。
「なにそれ、すっげー便利だね!? え、マジでいいの? おれにばっか都合良い気がするけど……」
「ほっ、本望ですッ!! コウヤ様のお役に立てるなら、都合の良い棒にしてくれて構わねえっす!! むしろ、そうでもしないと釣り合いが取れねえっつーか……!!」
「えー、んなことないのになぁ。自覚ないかもしれないけど、ケイちゃんはすっげえイイ男だよ~?」
クスクスと笑いながら、コウヤは、そのまま軽くケイに口づけた。
「……んっ♡ ほんじゃ、ヤりたくなったら呼ぶから……おれのことたーくさん見て、聞いてなきゃ駄目だよ♡♡ おれに遠慮しないで、盗聴も盗撮も好きなだけしてくれていいから……おれにも監視プレイ愉しませてね♡♡」
「へっ!?!? な、なな、何言ってるんですか!?」
「だって、お互い満足できなきゃセフレって呼べなくない? 別に一方的に脅して性奴隷にしようってワケじゃあないしさあ……、あ、いや、プレイとしてならアリだけどね?」
さらっとストーカーを公認どころか煽るようなことを言った上に、一方的に使われるだけでいい、というケイの考えを見抜いたようにコウヤは笑う。
「おれは、気軽に呼べてカラダの相性バツグンで、しかも監視プレイもしてくれる君と仲良くなりたい♡ 君は、おれ公認でストーカーできるしエッチもできちゃう♡ 悪い話じゃないと思うけど?」
艶やかに微笑む彼の発想は、ことごとく、ケイの常識を越えていた。決して触れてはならないと思っていた相手だったはずなのに、とうのコウヤ自身がケイとの繋がりを乞い、ストーカー行為さえ容認してくれている。自身が恋した人の、常識外れだがあまりにも懐の広い愛情を前にして、ケイは改めてコウヤへの愛を――崇拝と信仰心を深めていた。
「コウヤ様……!! な、なんて深く広い愛なんだ……。オレみたいな凡人とは格が違う……! そんなところもカッコいいっす……!!」
「ほんとぉ? へへっ、ありがとね~」
神に祈りを捧げるように崇められても、コウヤはへらへら笑っているだけだ。頭のネジが外れた規格外同士、相性がいいことは確かなのだろう。
「んじゃ、これからよろしくね? ……って改まって言うのもなんかおかしいけど」
「は、はいっ!! コウヤ様公認ストーカーとしてっ、は、恥じない振る舞いをします!!」
「あっはっは!! ほんと面白いなあ、君!!」
それから数十分ほど、二人は、他愛もない雑談を交わして過ごした。というのも、ヤりすぎて足腰が立たなくなっていたからだ。激しいセックスのせいで二人の体やベッドもベタベタに汚れてしまったが、それは、ケイが魔法で頑張ってなんとか綺麗にした。
雑談と言っても、ケイは学生だとバレたくなかったので話せることは闇の魔法使いとしての活動のことくらいだったし、コウヤに至っては日々のオナニー事情ばかり語るという酷い有様だったが、それでも二人の間にはどこか砕けた雰囲気が生まれていた。
ある程度体も動かせるようになった頃、ふと、ケイは時計を見てあることに気がつく。
「あ……、コウヤ様、あと一時間くらいでテレビ局の打ち合わせのお時間じゃないっすか? オレ、そろそろ帰ったほうがいいですよね」
「そ、そうだけど……なんで知ってんの? どこまでストーカーしてたの!? おれのこと詳しすぎない!?」
「っ、す、すいませんっ!! あの、つい、我慢できなくて……」
「いやいいけどね~。なんたって君、おれの公認ストーカーだから」
「っ!! そっ、すか……へへっ、えへへ……♡」
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「そうだねえ、おれは20分後くらいには出るかなぁ。ケイちゃんは、帰りどーすんの? 魔法?」
「あっ、はい。こう……ビュンッてワープできるんで……」
「マジでめっちゃ便利だねえ、魔法。いいなぁ~、おれもその力欲しいよぉ」
羨ましいなあと気の抜けた声で言ってから、コウヤは、はたと思い出した様子で付け加えた。
「……あ、そだ。帰る前に一個だけ。ケイちゃんなら大丈夫そうだけど……おれとこういう仲になったことは、できたら、誰にもバレないようにしてほしいんだよね。もちろん、他の魔法使いの人にも」
「え? もちろんそのつもりでしたけど……魔法使いの仲間にも、ですか?」
片思いでさえ自室に隠していた彼は、当然、他の誰にもコウヤとの関係を明かすつもりはなかった。本名バレの件もあるので、特にボスには絶対にバレてはならない。
それでも、自身の恋バナを笑わず聞いてくれた友人――チアキには、全ては明かせずとも、少しだけ進展があったことくらいは言ってしまうかもなと思っていたので、ケイは聞き返す。
真面目な面持ちでコウヤは言った。
「うん、君の仲間がどんな人かは知らないけど……パパラッチ対策だね。噂ってどこから漏れるかわかんないから、念の為。……君って、素性がバレるとマズいんだろ? 万が一にも、おれのせいで君の存在が目立っちゃうなんてことは避けないと。おれも、この部屋以外で君の名前呼ばないようにしておくし」
「こ……コウヤ様っ!! オレのためにそこまで……! お心遣いありがとうございますッ、気をつけるっす!!」
「ははっ、まあ、お互いのためだから。おれもスキャンダルは慣れてるけど、週刊誌に張り付かれると面倒だからさ~」
相変わらず適当そうな笑みを浮かべているが、たしかに、芸能人との恋愛やセックスというのはそれだけでスキャンダルだ。ケイは、魔法使いファナティックとしては『街を襲う怪物を生み出す危険人物』だし、本来の彼も高校生だしで、とにかくバレてしまえばコウヤの経歴にも傷をつけてしまう。その重みをしっかり胸に刻みつけ、ケイは、この関係を隠し通すことを固く誓った。
「ほんじゃ、引き止めてごめんね。また、会いたくなったら呼ぶから♡ ケイちゃんも、会いたければいつでもおいでよ。この部屋に一人でいるときで、作曲作業中でさえなけりゃ、いつでも相手するからさ」
「……身に余る光栄っす!! ありがとうございます!! ……そ、それじゃ……またっ!!」
照れと喜びで顔を真っ赤にしながら、ケイは、ワープの魔法を使って寮の自室へと帰還した。
……その後、今日の『仕事』、つまりはジャネープを発生させることをすっかり忘れていたのを思い出し、大慌てで街に繰り出し直したのはご愛嬌である。
その日のジャネープは急ごしらえの激弱仕様だったので、魔法少女が出てくる間もなく自壊し、被害もほとんどなかったのだが、コウヤとの夢のようなひとときの余韻に浸る彼はちっとも気にしていなかったそうだ。
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