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そして歯車は動き出す
②-2
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コウヤの部屋に、魔法陣が浮かび上がると、いつものようにひょっこりとケイが――魔法使いファナティックが姿を表す。
もはやこのワープ魔法にも慣れた様子で、平然と笑いつつ、コウヤは言う。
「よっ、ケイちゃん。今日も元気そう……でも、ないね? どしたの、暗い顔して」
不安を悟られたことにハッとなり、慌てて、ケイは頭を下げる。
「っ!! す、すみませんっ!! せっかくコウヤ様がお呼びくださったのに、オレ……っ!」
「あはは、別にいいって~。来てくれただけでも嬉しいしさ? とりあえず、浮いてないでこっちおいでよ」
ベッドに腰掛けたコウヤは、自分の隣に座るようにと仕草で促す。いつもならば大慌てで遠慮しまくるケイなのだが――今日ばかりは、本気で参ってしまっていたからか。素直に言葉に甘え、ゆらゆらと地上に降りるとそのままコウヤの隣に座り込んだ。
「……なに、なんか心配事? その調子じゃあエッチするって空気でもないし、よかったら、オジサンに相談してみる?」
「い、いえっ、そんな……。コウヤ様を、煩わせるわけには……」
「いいからいいから! たかだかセフレとはいえ、知らない仲じゃあないんだしさあ。たまにはおれに頼ってよ」
「っ……!」
コウヤはいつものように、どこか気の抜けた調子でへらりと微笑む。暖かく大きな掌が、ケイの頭をゆっくり撫で回していた。
まるで幼子にするかのようなその仕草に、無性に、ケイの心は癒やされてしまう。
(優しい手、優しい声……。好きだ、コウヤ様、だいすき……。この声に……この人の歌に、今まで何度救われてきたんだろう……)
辛いときにはいつだって、コウヤの存在に救われてきた。向こうはそれを知りもしないだろうが、いつだって、コウヤは彼の救世主だったのだ。
こうして、弱りきったところに手を差し伸べられては、縋ってしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
しばらくの間、されるがままに頭を撫でられていたケイだったが――ようやく決心を決めると、震える声で、コウヤに言う。
「じ、実は……その。今日、魔法使い仲間のダチが、失踪した……っぽくて」
「……失踪?」
「状況は、よくわかんねーっすけど……。多分、魔法を暴走させちまって失踪したんだと思います。電話もSNSも連絡取れなくて。アイツは……オレのコウヤ様への気持ちを聞いても笑わずにいてくれた、はじめてのダチだから。ヤベエことに巻き込まれてんじゃねえかと……心配で……」
「ヤベエこと、って?」
「っ、それは、その……」
一瞬、どこまで話していいものかと言い淀む。自分の不安を、悩みを、包み隠さず話してしまえば、コウヤに軽蔑されるかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。
それはとても恐ろしいことだったけれど――それでも、これは、コウヤにだって関わることだ。こんなにも深く闇の魔法使いと関わってしまった彼が、今後、魔法使いの小競り合いに巻き込まれないとも限らないのだから。
なけなしの勇気を振り絞り、ケイは、心のうちを吐露していく。
「オレの……この、魔法の力。ひょっとしたら、なんかヤベエものなのかもしれないんす。えっと、オレたちに力を貸してくれた人がいるんだけど、もしかしたらそいつに洗脳? とかされてるかもしれなくて。マジで何もわかんねえんだけど……オレ、色々怖くなっちゃって。……おかしいっすよね。この力が無けりゃ、こうしてコウヤ様と個人的に会うことだってなかったのに。散々この力使っといて、今更危険性に気付くとか……」
言葉にするほど、己の無鉄砲さや考えのなさに気づいて呆れてしまう。自分の欲望に流されるまま、こんな訳のわからない危険なモノ――闇の魔法のみならず、ケイ自身という危険人物だってそうだ――に、神のように崇めるひとを近づけてしまった罪悪感が、今更ながらに溢れていた。
軽蔑されただろうかと恐る恐るコウヤの顔色を伺えば、そこに浮かんでいたのは、いつもどおりの優しさに満ちた微笑みだった。
「……そっかあ。ケイちゃんも、意外と色々考えてたんだねぇ」
「い、意外とってなんすか!? オレってそんなアホっぽいですか!?」
「あっはっは! 褒めてんだよぉ? 君がその力を、なんの考えもなく私欲のためだけに使うようなヤツなら……うん、いっそ、やりやすかったのになぁ」
ぼそりと、どこか寂しさをにじませた声で、コウヤは呟く。
「へ? コウヤ……さま……?」
「……ごめんね、ケイちゃん。おれはずっと、君を利用してた」
懺悔のようにそう言って――強引に、ケイの唇を奪う。口づけはほんの一瞬で終わった。ぐちゅりと唇が重なった瞬間に、ナニカが体から抜けていく気配を、ケイは感じ取った。
「ッ――♡ い、いきなりっすか!? ……って、あ、えぇえっ!? 待っ……、これ、力、が……!?」
みるみるうちに体から力が抜けていき、ケイは、座っていることすらできず崩れ落ちた。何をされたのかはわからなくとも、ケイの体は、自身に何が起きたのかを本能的に嗅ぎとっていた。
恐らくこれは――魔法の力が少しずつ無くなり、変身を保てなくなっているのだ。
「……ケイちゃん、今言ったよね? 君が使ってた魔法の力、なにかヤバい代物なんじゃないかって」
「コ、ウヤ……さま……?」
「答え合わせをしてあげよっか。……と言っても、闇の魔法使い側の事情には推測も交じるけどね。ええと……なにから話すのがわかりやすいかな……」
まるで別人のように冷たい声で、しかし、ほんのわずかにケイへの同情を滲ませながら、彼は仮面のような笑みを浮かべた。
「……ああ、そうだ。まずはおれの素性から。歌手、歌風コウヤは仮の姿……おれの本当の名前は、『ルビーの王・ホンイェ』。陣営としては、君たちヤンデリオと敵対している立場……光の女神様に従う『妖精』さ」
「ッ……!? よう、せ、い……? ルビー……? え? オレ……、なんの、話か……」
「結論から言うと――おれは、闇の神に、君たちに魔法の力を与えた存在に、自分の力を奪われていたのさ。そして、力を取り戻すために君に言い寄った。君とのセックスを通じて、妖精としての力を取り戻してたってワケ」
露悪的に微笑む彼の元へ、ケイの体内にあった魔法の力が、みるみるうちに吸い取られていく。何が起きたのか、何を言われたのかさえ理解できず、ケイはただ呆然とする他にない。
(はぁっ……!? なに……っ、なんだよこれ!! ワケわかんねえ!! コウヤ様が、人間じゃなかった? 光の女神の手先? オレの魔法の力は……コウヤ様から奪ったモノ、だった……?)
「推測のとおり、君が使ってた闇の魔法は、人間の身にはちと荷が重い。使うたびに心の闇を、封じ込めてきた『欲望』を肥大化させられて、真人間から遠ざかっちまうんだ」
淡々と語るコウヤの顔は、嘘を言っているとは思えない。そもそも一般人ならば、闇の神や妖精のことまで知っているはずもないのだから。
ただでさえコウヤの信奉者であるケイが、彼の言葉を疑うはずもなく。何も知らない彼が理解できたのは、自分が、最愛の人から力を奪った盗人だということだけだった。
絶望に目を見開く彼を、コウヤは、どこか痛ましげに見つめている。
「……ケイちゃん、君は被害者なんだよ。闇の神復活のために利用された捨て駒で、おれだって、力を取り戻すのに君を利用してただけ。だから……罪悪感なんて感じなくていい。全部忘れさせてやるからさ。闇の魔法使いのことも、おれみたいな悪党と関わっちまったことも。大丈夫、ケイちゃんの友達は、おれが責任持って助けてやるから……」
「あ……、こ、うや、さま……」
コウヤの大きな掌が、優しく、ケイの頭を撫でる。壊れ物でも触れるかのように丁寧な動きだ。
ケイの体から、魔法の力がゆっくりと抜けていく。とうとう変身を保てなくなり、眩い光が彼の身を包みこみ――そして。隠していたかった本来の姿、男子高校生・阿神ケイとしての姿に戻った途端。
コウヤが何か魔法をかけようとしているのに気がついて、慌てて、彼は叫んでいた。
「ッ――、だ、駄目ですっ、コウヤ様ッ!! その話がホントなら、オレは加害者だっ!! なんも知らずに、コウヤ様から奪った力で悪事に加担したクソ野郎だ!! ちゃんと罪を償わさせてください!! それに……どんなに辛くても、どんなに苦しくても、たとえコウヤ様のおねがいでもっ! コウヤ様との記憶を消すなんてっ、そんなの、そんなの絶対絶対、認められないっす……!!」
魔法を完全に失ったせいなのか、先程までの気怠さは綺麗さっぱりなくなっていた。
このままだと記憶を消されるかもしれない、コウヤは何もかもを背負ってしまうつもりかもしれない。いてもたってもいられずに、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、彼は叫び続ける。
「ストーカーの罪もちゃんと償います、自首します!! もう二度とコウヤ様に迷惑かけねえし、目障りなら、闇の魔法使いのことが片付いたら死んでお詫びします!! だから、オレのやらかしの尻拭いなんて、コウヤ様がしなくていいんです!! オレなんかに優しくしなくていいんですよ、コウヤさまぁ……!!」
「……え? あ、あの……、ケイ、ちゃん……?」
「コウヤさまはっ、オレの、全てだから……!! い、いくらでも利用してくれていいんですっ!! こんなオレでも、チンポ以外にもコウヤ様のお役に立てて嬉しいし……! だから、コウヤさまはオレのことなんか気にしないで……オレが許せねえなら、厄介事が片付いたら、ちゃんと消えるから……! おねがい……記憶は……消さないでぇ……」
グスグスと、子供のように泣きじゃくる姿に、さすがのコウヤも困惑しているようだった。しばらくは呆けたようにケイを見ていたのだが、ハッと我に返ると、なんとも言いにくそうな調子で切り出した。
「え……っとぉ、あの、ね? 色々と言いたいことあるんだけど……」
「ぐすっ……、は、はいぃ……っ!!」
「ええとぉ……、ケイちゃん、だよね? あの、思ったより随分若いけど……」
「ッッ――!? あ、いやあのっ、これ、違っ……! す、すいませ、オレ……! こんな、こんなつもりじゃっ……! 大丈夫です、コウヤ様にご迷惑は……!」
年齢詐称をしていたことも思い出し、顔面蒼白になるケイ。未成年に手を出したとなればスキャンダルなのは間違いない。だからこそ、ケイは自分の歳を誤魔化していたのだ。
変身していないケイは年相応の外見だし、ましてや、今は制服姿。どうあがいても誤魔化すのは無理だった。
コウヤもまさか、セフレ扱い&魔力運搬装置扱いして利用した男がこんないたいけな若者だとは思わず。大きなため息をつき、頭を抱えている。
「……はぁあ。マジかぁ~。オジサン、こーんな若人の童貞喰っちまったわけか……!?」
「ッ、す、すみませ……っ、オレが、年齢詐称したから……」
「待って待って、別にケイちゃんのこと責めてるわけじゃないから。どっちかっつーと、自分のクズさに落ち込んでるだけ……」
「こ、コウヤ様はクズなんかじゃないですっ!! オレは、コウヤ様のお役に立てるならなんだって嬉しいですし!! むしろ盗っ人のオレに、こんなに優しくしてくれるんだって……嬉しくて、申し訳なくて……!」
涙を拭きながら、必死にコウヤを庇おうとするその言葉に、とうの本人が慌てている。
「え? いや、ちょ、ケイちゃんさぁ……。状況わかってる? 騙されたとか……腹立ったりしないの、おれのこと」
「そんなわけないじゃないっすか!? コウヤ様はオレの救世主で、神様ですから!! 貴方は知らないことだとしても、オレは、いつだってコウヤ様の存在に救われてました。だから……今も、ちょっと状況よくわかんなさすぎてパニクってるっすけど、コウヤ様の力になれたんならそれで全部満足っす……! むしろ罰せられて当然の立場なのに!!」
迷いなく断言する姿は、多少外見年齢が変わっていても、コウヤの知る『セフレのケイちゃん』そのもので。多少歪んでいるかもしれないが、どうしようもなく愚直に向けられるその愛に、自然と微笑みがこみ上げていた。
もはやこのワープ魔法にも慣れた様子で、平然と笑いつつ、コウヤは言う。
「よっ、ケイちゃん。今日も元気そう……でも、ないね? どしたの、暗い顔して」
不安を悟られたことにハッとなり、慌てて、ケイは頭を下げる。
「っ!! す、すみませんっ!! せっかくコウヤ様がお呼びくださったのに、オレ……っ!」
「あはは、別にいいって~。来てくれただけでも嬉しいしさ? とりあえず、浮いてないでこっちおいでよ」
ベッドに腰掛けたコウヤは、自分の隣に座るようにと仕草で促す。いつもならば大慌てで遠慮しまくるケイなのだが――今日ばかりは、本気で参ってしまっていたからか。素直に言葉に甘え、ゆらゆらと地上に降りるとそのままコウヤの隣に座り込んだ。
「……なに、なんか心配事? その調子じゃあエッチするって空気でもないし、よかったら、オジサンに相談してみる?」
「い、いえっ、そんな……。コウヤ様を、煩わせるわけには……」
「いいからいいから! たかだかセフレとはいえ、知らない仲じゃあないんだしさあ。たまにはおれに頼ってよ」
「っ……!」
コウヤはいつものように、どこか気の抜けた調子でへらりと微笑む。暖かく大きな掌が、ケイの頭をゆっくり撫で回していた。
まるで幼子にするかのようなその仕草に、無性に、ケイの心は癒やされてしまう。
(優しい手、優しい声……。好きだ、コウヤ様、だいすき……。この声に……この人の歌に、今まで何度救われてきたんだろう……)
辛いときにはいつだって、コウヤの存在に救われてきた。向こうはそれを知りもしないだろうが、いつだって、コウヤは彼の救世主だったのだ。
こうして、弱りきったところに手を差し伸べられては、縋ってしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
しばらくの間、されるがままに頭を撫でられていたケイだったが――ようやく決心を決めると、震える声で、コウヤに言う。
「じ、実は……その。今日、魔法使い仲間のダチが、失踪した……っぽくて」
「……失踪?」
「状況は、よくわかんねーっすけど……。多分、魔法を暴走させちまって失踪したんだと思います。電話もSNSも連絡取れなくて。アイツは……オレのコウヤ様への気持ちを聞いても笑わずにいてくれた、はじめてのダチだから。ヤベエことに巻き込まれてんじゃねえかと……心配で……」
「ヤベエこと、って?」
「っ、それは、その……」
一瞬、どこまで話していいものかと言い淀む。自分の不安を、悩みを、包み隠さず話してしまえば、コウヤに軽蔑されるかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。
それはとても恐ろしいことだったけれど――それでも、これは、コウヤにだって関わることだ。こんなにも深く闇の魔法使いと関わってしまった彼が、今後、魔法使いの小競り合いに巻き込まれないとも限らないのだから。
なけなしの勇気を振り絞り、ケイは、心のうちを吐露していく。
「オレの……この、魔法の力。ひょっとしたら、なんかヤベエものなのかもしれないんす。えっと、オレたちに力を貸してくれた人がいるんだけど、もしかしたらそいつに洗脳? とかされてるかもしれなくて。マジで何もわかんねえんだけど……オレ、色々怖くなっちゃって。……おかしいっすよね。この力が無けりゃ、こうしてコウヤ様と個人的に会うことだってなかったのに。散々この力使っといて、今更危険性に気付くとか……」
言葉にするほど、己の無鉄砲さや考えのなさに気づいて呆れてしまう。自分の欲望に流されるまま、こんな訳のわからない危険なモノ――闇の魔法のみならず、ケイ自身という危険人物だってそうだ――に、神のように崇めるひとを近づけてしまった罪悪感が、今更ながらに溢れていた。
軽蔑されただろうかと恐る恐るコウヤの顔色を伺えば、そこに浮かんでいたのは、いつもどおりの優しさに満ちた微笑みだった。
「……そっかあ。ケイちゃんも、意外と色々考えてたんだねぇ」
「い、意外とってなんすか!? オレってそんなアホっぽいですか!?」
「あっはっは! 褒めてんだよぉ? 君がその力を、なんの考えもなく私欲のためだけに使うようなヤツなら……うん、いっそ、やりやすかったのになぁ」
ぼそりと、どこか寂しさをにじませた声で、コウヤは呟く。
「へ? コウヤ……さま……?」
「……ごめんね、ケイちゃん。おれはずっと、君を利用してた」
懺悔のようにそう言って――強引に、ケイの唇を奪う。口づけはほんの一瞬で終わった。ぐちゅりと唇が重なった瞬間に、ナニカが体から抜けていく気配を、ケイは感じ取った。
「ッ――♡ い、いきなりっすか!? ……って、あ、えぇえっ!? 待っ……、これ、力、が……!?」
みるみるうちに体から力が抜けていき、ケイは、座っていることすらできず崩れ落ちた。何をされたのかはわからなくとも、ケイの体は、自身に何が起きたのかを本能的に嗅ぎとっていた。
恐らくこれは――魔法の力が少しずつ無くなり、変身を保てなくなっているのだ。
「……ケイちゃん、今言ったよね? 君が使ってた魔法の力、なにかヤバい代物なんじゃないかって」
「コ、ウヤ……さま……?」
「答え合わせをしてあげよっか。……と言っても、闇の魔法使い側の事情には推測も交じるけどね。ええと……なにから話すのがわかりやすいかな……」
まるで別人のように冷たい声で、しかし、ほんのわずかにケイへの同情を滲ませながら、彼は仮面のような笑みを浮かべた。
「……ああ、そうだ。まずはおれの素性から。歌手、歌風コウヤは仮の姿……おれの本当の名前は、『ルビーの王・ホンイェ』。陣営としては、君たちヤンデリオと敵対している立場……光の女神様に従う『妖精』さ」
「ッ……!? よう、せ、い……? ルビー……? え? オレ……、なんの、話か……」
「結論から言うと――おれは、闇の神に、君たちに魔法の力を与えた存在に、自分の力を奪われていたのさ。そして、力を取り戻すために君に言い寄った。君とのセックスを通じて、妖精としての力を取り戻してたってワケ」
露悪的に微笑む彼の元へ、ケイの体内にあった魔法の力が、みるみるうちに吸い取られていく。何が起きたのか、何を言われたのかさえ理解できず、ケイはただ呆然とする他にない。
(はぁっ……!? なに……っ、なんだよこれ!! ワケわかんねえ!! コウヤ様が、人間じゃなかった? 光の女神の手先? オレの魔法の力は……コウヤ様から奪ったモノ、だった……?)
「推測のとおり、君が使ってた闇の魔法は、人間の身にはちと荷が重い。使うたびに心の闇を、封じ込めてきた『欲望』を肥大化させられて、真人間から遠ざかっちまうんだ」
淡々と語るコウヤの顔は、嘘を言っているとは思えない。そもそも一般人ならば、闇の神や妖精のことまで知っているはずもないのだから。
ただでさえコウヤの信奉者であるケイが、彼の言葉を疑うはずもなく。何も知らない彼が理解できたのは、自分が、最愛の人から力を奪った盗人だということだけだった。
絶望に目を見開く彼を、コウヤは、どこか痛ましげに見つめている。
「……ケイちゃん、君は被害者なんだよ。闇の神復活のために利用された捨て駒で、おれだって、力を取り戻すのに君を利用してただけ。だから……罪悪感なんて感じなくていい。全部忘れさせてやるからさ。闇の魔法使いのことも、おれみたいな悪党と関わっちまったことも。大丈夫、ケイちゃんの友達は、おれが責任持って助けてやるから……」
「あ……、こ、うや、さま……」
コウヤの大きな掌が、優しく、ケイの頭を撫でる。壊れ物でも触れるかのように丁寧な動きだ。
ケイの体から、魔法の力がゆっくりと抜けていく。とうとう変身を保てなくなり、眩い光が彼の身を包みこみ――そして。隠していたかった本来の姿、男子高校生・阿神ケイとしての姿に戻った途端。
コウヤが何か魔法をかけようとしているのに気がついて、慌てて、彼は叫んでいた。
「ッ――、だ、駄目ですっ、コウヤ様ッ!! その話がホントなら、オレは加害者だっ!! なんも知らずに、コウヤ様から奪った力で悪事に加担したクソ野郎だ!! ちゃんと罪を償わさせてください!! それに……どんなに辛くても、どんなに苦しくても、たとえコウヤ様のおねがいでもっ! コウヤ様との記憶を消すなんてっ、そんなの、そんなの絶対絶対、認められないっす……!!」
魔法を完全に失ったせいなのか、先程までの気怠さは綺麗さっぱりなくなっていた。
このままだと記憶を消されるかもしれない、コウヤは何もかもを背負ってしまうつもりかもしれない。いてもたってもいられずに、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、彼は叫び続ける。
「ストーカーの罪もちゃんと償います、自首します!! もう二度とコウヤ様に迷惑かけねえし、目障りなら、闇の魔法使いのことが片付いたら死んでお詫びします!! だから、オレのやらかしの尻拭いなんて、コウヤ様がしなくていいんです!! オレなんかに優しくしなくていいんですよ、コウヤさまぁ……!!」
「……え? あ、あの……、ケイ、ちゃん……?」
「コウヤさまはっ、オレの、全てだから……!! い、いくらでも利用してくれていいんですっ!! こんなオレでも、チンポ以外にもコウヤ様のお役に立てて嬉しいし……! だから、コウヤさまはオレのことなんか気にしないで……オレが許せねえなら、厄介事が片付いたら、ちゃんと消えるから……! おねがい……記憶は……消さないでぇ……」
グスグスと、子供のように泣きじゃくる姿に、さすがのコウヤも困惑しているようだった。しばらくは呆けたようにケイを見ていたのだが、ハッと我に返ると、なんとも言いにくそうな調子で切り出した。
「え……っとぉ、あの、ね? 色々と言いたいことあるんだけど……」
「ぐすっ……、は、はいぃ……っ!!」
「ええとぉ……、ケイちゃん、だよね? あの、思ったより随分若いけど……」
「ッッ――!? あ、いやあのっ、これ、違っ……! す、すいませ、オレ……! こんな、こんなつもりじゃっ……! 大丈夫です、コウヤ様にご迷惑は……!」
年齢詐称をしていたことも思い出し、顔面蒼白になるケイ。未成年に手を出したとなればスキャンダルなのは間違いない。だからこそ、ケイは自分の歳を誤魔化していたのだ。
変身していないケイは年相応の外見だし、ましてや、今は制服姿。どうあがいても誤魔化すのは無理だった。
コウヤもまさか、セフレ扱い&魔力運搬装置扱いして利用した男がこんないたいけな若者だとは思わず。大きなため息をつき、頭を抱えている。
「……はぁあ。マジかぁ~。オジサン、こーんな若人の童貞喰っちまったわけか……!?」
「ッ、す、すみませ……っ、オレが、年齢詐称したから……」
「待って待って、別にケイちゃんのこと責めてるわけじゃないから。どっちかっつーと、自分のクズさに落ち込んでるだけ……」
「こ、コウヤ様はクズなんかじゃないですっ!! オレは、コウヤ様のお役に立てるならなんだって嬉しいですし!! むしろ盗っ人のオレに、こんなに優しくしてくれるんだって……嬉しくて、申し訳なくて……!」
涙を拭きながら、必死にコウヤを庇おうとするその言葉に、とうの本人が慌てている。
「え? いや、ちょ、ケイちゃんさぁ……。状況わかってる? 騙されたとか……腹立ったりしないの、おれのこと」
「そんなわけないじゃないっすか!? コウヤ様はオレの救世主で、神様ですから!! 貴方は知らないことだとしても、オレは、いつだってコウヤ様の存在に救われてました。だから……今も、ちょっと状況よくわかんなさすぎてパニクってるっすけど、コウヤ様の力になれたんならそれで全部満足っす……! むしろ罰せられて当然の立場なのに!!」
迷いなく断言する姿は、多少外見年齢が変わっていても、コウヤの知る『セフレのケイちゃん』そのもので。多少歪んでいるかもしれないが、どうしようもなく愚直に向けられるその愛に、自然と微笑みがこみ上げていた。
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