魔法少女♂とヤンデリオ

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

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そして歯車は動き出す

②-4

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 ――その昔、光の女神と闇の神が仲違いをして、争い合うようになった。ざっくばらんに言っちゃえば痴情のもつれってヤツかな? 光の女神に告白したのにフラレちまった闇の神が、腹いせに戦争を仕掛けたわけ。
 おれは元々、闇の神の手先として生み出された悪魔だった。淫蕩を司り、他者を魅了し惑わす魔性として生まれたんだ。……けど、戦争は明らかに女神様率いる妖精たちのほうが優勢でね? 負け戦なんかしたくなかったんで、父上闇の神を裏切って光の女神様について、妖精を名乗るようになったってワケ。

 そういうわけだからおれは、妖精の中でも異端で――あまり居場所がなくってね。ほら、ケイちゃんも知っての通り淫乱ビッチだし。
 こっちの時間で数十年前、乱交パーティーしまくってたら『光の国の風紀が乱れるからいいかげんにしなさい』って女神様に怒られて、追放刑にされちゃった。妖精としての力を封じた上で、父上が封印されてるこの世界に堕とされて、人間に紛れながら、封印に異常がないか見張る役目を仰せつかったんだ。

 元々、人を魅了するのは俺の得意分野だ。最低限の戸籍だけは用意してもらえてたから、アイドル事務所のオーディション受けて、人間「歌風コウヤ」として生きるようになった。

 父上の封印にも問題はなかったはずなんだが――異変を察知したのが半年前。急いで女神様や故郷の妖精たちにも知らせたけど、その直後、光の国が襲撃を受けた。
 わずかに封印が緩んだ隙に、父上はこの世界の人間を操って、闇の魔法を使わせたらしい。多分だけど、ヤンデリオのボスってやつじゃないかな?
 召喚された悪魔が光の国を襲って……光の女神様は傷つき、仲間の妖精たちも力を奪われた。女神様に没収されてたおれの力も、そのとき奪われちまったみたいだね。

 闇の神の完全復活には、相当なエネルギーが必要らしい。ケイちゃんが集めさせられてた『人間の欲望エネルギー』もだけど、それだけじゃ足りない。恐らくはおれたち妖精を生贄に捧げて、膨大な魔力を得る算段なんだろう。
 今のところ、おれも仲間たちも力を奪われただけで、命は無事だけど……そろそろ危ういなと思ってるんだよ。

 女神様が魔法で教えてくれたんだが、襲撃から逃げ延びた妖精が二人いて、そいつらがこっちの世界の人間の力を借りて、闇の神の封印に動き出してるらしい。多分、ケイちゃんの知ってる魔法少女とかのことだと思う。
 おれたちの力はこの世界だと弱体化しちまって、それを補うのに、この世界の人間が持つ心の力はかなり強力だから。

 ちなみに、逃げ延びた妖精二人は、戦場でめちゃめちゃ頼りになるタイプでね。表立って直接対決するなら、おれより、あいつらのほうが適任だと思った。だから、しばらくは人間のフリして潜んで、仲間がおれの力を取り返してくれたら動くつもりで、こっそり情報収集に勤しんでた。
 そんな矢先――ケイちゃん、君が現れたんだ。


 最初はブッたまげたよ? 明らかにおれの力を持ってるヤツが目の前に現れたから、ひょっとして、おれの素性に気づいて近寄ってきたスパイかもって。それならそれで骨抜きにしてやるつもりで、そうじゃなくても、どさくさに紛れて魔力を返してもらおうと思って、君をセフレとして利用したわけだけど。
 ……ああ、勘違いしないで、ちゃんとエッチも楽しんでたよ♡ 見た目が好みだったからさぁ、どうせ魔力返してもらうんなら、おれも君も楽しいほうがイイかなって。

 結局、君はスパイでもなんでもなくて、おれの元には予定より早く力が戻ってきた。一方、ケイちゃんの話から察するに、あっちの二人……光の魔法使い陣営はちょいと不利な状況にありそうだ。
 恐らく闇の神の狙いは、光の魔法使いを仕留めることで、彼らが借りてる妖精の力を奪うことにある。このまま彼らが倒されたりしたら、闇の神が復活して、この世界までめちゃめちゃにされちまう。……光の女神様への八つ当たりで、そーゆーことやらかしちゃうタイプの男なんだよ。あの神は。

 もちろん、最悪のことが起きたとしても、俺が生きてて力を持ってる限りは、闇の神の復活には至らないだろう。おれが隠れているだけでも時間稼ぎにはなるはずだが……いつまで隠れ切れるのかは、正直わからん。

 ……だからケイちゃん、君には、おれの手足となって働いてほしい。
 ヤンデリオの……闇の神の根城を見つけ出し、その情報やおれの指示を、光の魔法使いに伝えてほしいんだ。ついでに洗脳されてる闇の魔法使いたちを正気に戻せりゃ上出来だが、そっちは、難しいかもってのはわかってる。
 なんにせよおれたちには時間が無い。うかうかしてたら闇の神が復活して、くっだらねえ八つ当たりで、この世界が危険に晒されちまうんだ。

 ケイちゃん……おれと一緒に戦ってくれるか?
 今まで以上の危険に晒されるとしても、おれのために、君の力を使ってくれる? おれだけの……ヒーローに、なってくれるかい?





 語られたコウヤの――妖精『ルビーの王』の過去と、すぐそこまで迫っている危機の大きさに、ケイは、言葉を失っていた。
(コウヤ様は……、ずっと、たった一人でこの世界で頑張ってたんだ。半年前からは、闇の神に命を狙われながら……なんとか、この世界を守ろうと……。それなのにオレは、コウヤ様から奪った力で、コウヤ様に仇なすようなことをしてたなんて!! 知らなかったじゃ済まねえだろッ、クソッ!!)
 こみ上げるのは、何も知らずに闇の魔法を使っていた己への怒り。そして、こんな罪深い自身を許し、この手を取ってくれるというコウヤへの深い敬愛だった。

 ゆっくりとコウヤの瞳を覗き込み――深く息を吸い、覚悟の決まった瞳で、ケイは言う。
「オレは、いつもコウヤ様の歌に、ダンスに、お芝居に、その存在に救われてきました。それなのに、何も知らねえとはいえコウヤ様を裏切っちまった」
「っ、ケイちゃん……」
「……だから!! 命に代えてもオレはっ、あなたのために戦いますっ!! 世界とか闇の神とか、よくわかんねえしどーでもいいって思ってたクズ野郎のオレでも……コウヤ様のためなら、コウヤ様が望むなら、世界だってなんだって救ってみせますっ!! オレは、コウヤ様を守るヒーローに、なりたいっす!!」
 良く言えば献身的な、悪く言えば狂信的な愛をぶつける情熱的な言葉。それは本来ならば『光の魔法使い』としては不適格な、ヒーローらしからぬ言葉だったかもしれない。
 だが、妖精としてどこか欠落したコウヤは。悪性をもって善をなす彼は。己のパートナーとして、これほど最適な男もいないだろうと微笑みを浮かべる。
「……ふふっ、ケイちゃんらしいね? ありがとう――今ここに契約は結ばれた!!」

 コウヤが、ケイの掌を握りしめた。途端に、ケイの体に情熱的なエネルギーが……先程失ったばかりのソレに似たものが流れ込んでくる。
「おれの力だ、受け取れよ、ケイちゃん! 《ルビーパワー! 魔装展開!!》」
「ッ……!?」
 コウヤが呪文を唱えた瞬間、真紅の光がケイを包み込んだ。闇の魔法使いとして変身したときとは真逆の、暖かく、癒やされるような力が体に流れ込む感覚がある。
(これ、は……、コウヤ様の力? オレが奪ってた、コウヤ様の、ルビーの魔力……? ホントは、こんなあったかい力だったのか……。まるで、コウヤ様に抱きしめられてるみてえで……ッ、やべえ、ちょっとドキドキしてきた……!?)

 ――ケイがアホなことを考えている間に、すっかり光は収束していた。
 ふと、室内にあった鏡を見れば……そこにいたのは、今まで通り・・・・・の魔法使い姿をしたケイである。
「これは……っ、えっ、えええっ!? なんで変わってねえの!? だ、だって今っ、これまでと違う感じで、フワーッ……って……!?」
「おお~! 良かった、上手くいったみたいだねえ♡」
「はい!? なにがっすか!?」
「今ね、ケイちゃんにおれの魔力を貸して、光の魔法使いに変身させたんだけど……ちょっとズルして、闇の魔法も使えるように改造しちゃった♡ あ、ちゃんと闇の神の支配下からは抜けてるから大丈夫だよ~」
 テヘペロ、とぶりっ子をして笑いながら、コウヤは説明をする。
「……闇の神は、おれたち妖精から奪った力を無理矢理に人間の体に注ぎ込み、闇の魔法使いに変える。そしておれたち妖精は、自ら認めた人間に力を貸し与え、光の魔法使いとして変身させる。ケイちゃん……君はそのどちらでもあり、どちらでもない。その魔法は、君が奪ったモノでもあり、おれが与えたモノでもある。闇でも光でもない、どちらにもなれるハイブリッド魔法使いの誕生、ってわけだ!」
「つまりどういうことっすか!? なにがどうなってるんすか、コウヤ様ぁ!?」
 説明されてもさっぱり自体が飲み込めず、ケイは混乱しているようだ。

「あはは、本来ありえない反則技なんだけどね~。君が元々闇の魔法使いで、おれが元々悪魔だからできた技だ。君と契約するとき貸し与える魔力に、ちょ~っと細工したんだよ。結果、君は闇の神の眷属でもあり、光の女神の使徒でもある、極めて特殊な状態で魔法を使えるようになったワケ」
「は、はあ……。えっと……、そんなのアリなんすか!? てか、そもそも魔法に違いとかあるんすか!?」
「ん~、単純に、光の魔法は浄化と治癒特化。攻撃魔法も闇の魔法使い相手にしか効かない浄化技なんだよね~。逆に闇の方は攻撃とか破壊とか、洗脳催眠に盗聴盗撮とか? そういう攻撃的なことしかできねえの。今のケイちゃんは、一応光の魔法使いなんだけど、反則技でセキュリティ突破して闇の魔法も使える状態になりました~! って感じかな」
 しれっと、大したことでもない様子で言っているが、どうやら普通ではないことを引き起こしたらしい。
 ほんの少し考え込んだのち、ケイは問う。
「もしかして今のオレ、いわゆるチートっすか?」
「チートだねえ。魔力の気配も弄っといたから、パッと見、闇の魔法使いにしか見えないだろうし」
「……つまり、闇の神とかボスには、オレが正気に戻ったのがバレない? スパイ役?」
「お、察しが良いねえ~! いやあ……本来なら、力を取り戻したおれが、闇の神の側に寝返ったフリしてスパイするつもりだったんだよ? こーんな危険なコト、さすがに人間の子にさせられないかなって」
「コウヤ様は命狙われてるじゃないっすか!? なんでそんな危ないことしようとしたんですか!? うわああ良かったああオレがいて!!」
「君だって命狙われるかもしれないのは一緒だろうに……」
 呆れ混じりに苦笑したのち、コウヤは、キュッと表情を引き結ぶ。

「……信じてるからね、ケイちゃん? 必ず生きて帰って、おれの命令を果たすこと」
「っ……! はいっ!!」
 頷きあった二人は、改めて、今後の作戦について会議をはじめた。



 ――そして、事態は大きく動き出す。
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