魔法少女♂とヤンデリオ

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

文字の大きさ
42 / 60
そして歯車は動き出す

③-2

しおりを挟む
 ところ変わって、夢ヶ丘総合病院――先日の小火騒ぎで軽い火傷を負い、気絶していたノブユキの運ばれた病院にて。
 怪我自体は軽いものだったが、精神的ショックで意識を失った彼は、数日間の入院を言い渡されていた。

 魘される彼の側に寄り添うのは、中性的な雰囲気の美人。人間姿になった妖精、めけであった。早く回復するように、と、こっそり治癒の魔法を使っている。

 彼女の祈りが通じたのか、ノブユキは、ぴくりと瞼を動かした。
「ぅ……、うぅ……」
「……ノブくん?」
「っ……、やく、も……っ、八雲っ!! 八雲は……ッ!?」
 がばりと飛び起きた彼は、全身の痛みに僅かに顔を歪め、そして見覚えのない部屋にいることに首をかしげた。

「……? ここ、は……?」
「よかった……、目が覚めたんだね」
「めけ!? なあ……、いったい、なにがあったんだ……?」
 ノブユキの問いかけに、めけは、表情を曇らせつつも返答する。

「……君は、あの男の子の……闇の魔法使いジェラシィの攻撃を受けて、気絶した。多分、彼も自分で魔法をコントロールできてなかったんだと思う。苦しそうにしながら、自分の魔法に飲み込まれるように転移して……姿を消した。あのあとすぐ、他の人が異変に気づいたみたいで。ノブくんは病院に運ばれて……、学校では原因不明の出火による小火、ってことになってるみたいだよ」
「っ……、八雲は……無事なのか? あれから何日経った!?」
「まだ一日しか経ってないよ。あの子は……ゴメン、ボクも、どうなったのかわからない。学校で情報を探ってみたけど、まるで元からいなかったみたいに、痕跡一つ残さず消えていて……」
「それって……、蒼井さんと同じじゃないか!? やはりまたヤンデリオの……、闇の神の仕業なのか? なんでっ、なんで、八雲が……!」

 パニック状態のノブユキに痛ましそうな視線を向けつつ、どこか言いづらそうに、めけは問う。
「……ノブくん、彼は……その、闇の魔法使いだった。その事実はわかってるよね?」
「っ……、やっぱり、そうなのか……? ジェラシィが……アイツが、八雲……」
「おそらくは彼も、闇の神に洗脳されている。ノブくんと戦うことになったのは、きっと彼の意思じゃないはずだよ……」
「だが……! だとしても、俺は八雲にたくさん酷いことを言った!! 操られているだけのアイツを敵と思い込み、攻撃だってしてしまった!! ……気付けるタイミングはあったはずなんだ、アイツが、俺の味方をしてくれたときとか……。なのに俺は、俺は……っ!!」
 めけのフォローの言葉も、彼には届かない。ノブユキの脳裏によぎるのは、これまでのジェラシィとの――チアキとのやりとりだった。

『おれの……目的は。先輩を、貴方を愛することです。ごめんなさい、好きです……好きなんです、先輩……』
 はじめてノブユキの前に姿を見せた『闇の魔法使い・ジェラシィ』は、泣きそうな顔でそう言っていた。
 思えば、多少痩せたり髪が伸びたりといった変化はあったものの、あの姿にもチアキの面影はあったのに。己を優しく『先輩』と呼ぶ声は、紛れもなくチアキのものだったのに。彼の素性に気付くことなく、困惑と恐怖を示してしまった。
(……そもそもアイツは、最初から、他の魔法使いから俺を守ろうとしてくれていたのに。どうしてすぐに気づけなかったんだ!!)

 変身後のチアキは身長も体重も別物で、おまけに闇の魔法には認識阻害の効果もあった。気づくほうが難しいことだった。それでもノブユキは己を責める。

『ずっと、ずっと見てました。先輩は知らないでしょうけど。時間の許す限りずっと、密かに、貴方を思ってました……』
『まさか、ストーカー、か……?』
『……そう思われても、仕方ないと思います』
 チアキはどんな思いで、ストーカー呼ばわりを受け入れたのだろう。
 彼から見られていたなんて大歓迎なのに。ノブユキだって、校内ではチアキが近くにいないかつい探してしまって、見つけたら目で追ってしまっていたのに。

 暴言を吐いたのみならず、そのあとは、追いすがる彼にキック攻撃まで仕掛けてしまった。
 怪我をしないよう防護魔法をかけていたし、相手を敵だと思い込んでいたあの状況では当然の行いだったとしても、ノブユキは自分が許せない。
(……慎ましやかで引っ込み思案な八雲のことだ、きっと、俺がやっていたようなささやかなことにすら、後ろめたさを感じていたんだ。クソッ、なのに俺は……アイツを傷つける言葉を吐いたばかりか、攻撃までしてしまった……!)
 実際には、チアキはノブユキのバイト先をこっそり調べて同じ場所で働き始めるだとか、学年も違うのになぜか交友関係を把握しているだとか、そこそこ重めなこともしていたのだが。例えそれを知ったとしても、ノブユキならば、喜んで受け入れたことだろう。

(いつだって八雲は、俺のために行動してくれていた。健気に、懸命に、たった一人で戦ってくれていた。なのに俺は何も知らずに、仲間になってほしいなんて言って、余計に八雲を追い詰めてしまった……)
『……光栄だからこそ、おれは相応しくないって思います。おれなんかには、先輩の隣は不釣り合いなんです。それに……先輩にこんな危ないことさせてる、その、妖精って人たちのこと、素直に信じられません。ごめんなさい、先輩……』
 どこかぎこちない笑みで答えた彼は、あの時点で、闇の魔法使いになっていた。その事実を言えないようにされていたのは間違いないし、あの時点で洗脳されていたのかもしれない。
 違和感を見過ごしてしまったことへの自責がこみ上げる。

(俺はたくさん、八雲に酷いことを言ってしまった。誤解させるようなことをしてしまった。なのにアイツは、あの遊園地の日だって、俺と一緒に戦ってくれて……)

『おれはただ……先輩の力になりたいだけです! 先輩に加勢しに来たんですっ!! あなた一人で、危ないことをしてほしくないだけなんです……! それに、先輩の大切な場所を、お花と笑顔に満ちた場所を壊すなんて、ジャネープも先生も許せないっつーか……!』
『気付いたら、闇の魔法使いになってて……先輩が、貴方が魔法少女になって、危険な戦いをしていると知って。この力で、なんとか助けになりたくて――』
 健気に己に愛を伝えてきたジェラシィの声が、姿が、頭の中で素のチアキと重なっていく。

 あんなにも懸命に、そしてときに苛烈に、ジェラシィはノブユキへの愛を示していた。闇の魔法で感情のタガが外れてしまったせいもあるだろう、繰り返し『好き』だと、『愛している』と、同じ思いを返してくれとは一言も言わずに。
 しかしノブユキは、相手が最愛の人だとは気付きもせずに、チアキに操立てしているつもりでジェラシィの告白を袖にして、結果として彼の心をひどく傷つけて――。

「――ッ、ま、待て。八雲が、ジェラシィ? ということは……あの言葉もこの言葉も、え、え?? 八雲が……お、俺に……!?」
 回想と自責の念に飲み込まれかけていたノブユキの意識が、一気に覚醒する。
 彼の安否を思う気持ちや、闇の魔法使いだったということへの衝撃が勝って気付くのが遅れたが――チアキがジェラシィということは。あの熱烈な告白の数々は、紛れもなく、チアキからノブユキに向けられたもので。
 つまりは、八雲チアキは、晶水ノブユキを愛している、と。当人以外にはわりと筒抜けだった事実に、この鈍感朴念仁はようやく気づいたわけである。

(八雲も俺を……好きだった……!? 両思いだったのか!? なのにっ、闇の神なんかが介入してきたせいで、俺はアイツの告白に気づけなくて……それどころかあんな酷いことをしてしまって……! それでも八雲は、俺のそばにいてくれて。勘違いでなければ、きっと、少しずつ俺を信じてくれていた。側にいることを許してくれていた。なのに、また……!!)
 両思い疑惑に浮かれたのは一瞬のこと。当事者であるチアキが行方不明なのだから、当然といえば当然だ。
 チアキが己を思っていてくれたならば。ジェラシィとして告げてくれた愛の言葉が真実ならば。なおさら、腑抜けている暇などないのだ。

 チアキが目の前で消えたショックと後悔に打ちのめされていたノブユキだったが、そんなことをしている暇はないのだと、チアキを愛する気持ちが彼を一気に奮い立たせる。

「……めけ!!」
「うわっ!? ど、どうしたの? 黙ってたと思ったら、急に大声で……」
「すまん……腑抜けている暇はないよな。俺は、一刻も早く八雲を見つけ出し、闇の神の魔の手から救ってみせる!! 今更謝ったところで八雲を傷つけるだけかもしれないが……今度こそアイツを守りたい。この気持ちを受け入れてもらえなくてもいい。八雲に誤解されたまま、アイツを傷つけたままお別れなんて、絶対に駄目だ……!!」
 病室のベッドから身を乗り出し、隣のめけに縋る彼の瞳には、いつもどおりのヒーロー然とした――否、それ以上の熱意が戻っていた。

「めけ、俺はどうすればいい? どうしたら八雲を助けられる!?」
「ノブくん……! そうだよね、落ち込んでる暇があるならまずは行動しなきゃ、だよね!! ……正直、あまり状況は良くないけど……」
 パートナーの復活に、めけも、力強く頷きを返す。今はまだ敵の情報が掴めていなくとも、ここから、挽回はできるはずだ。

「奴らのアジトはわからないのか? 根城がわかれば、そこまで殴りこみに行けば……」
「ええと……ノコちゃんはユウゴさんの行方を探してるけど、あまり状況は芳しくない。ユウゴさんも、チアキくんも、監禁されてる可能性は高いと思うんだけど……」
「いっそ、他のヤンデリオを見つけて聞けばいいのか……? だが、どうやって接触したら……」
「……一応、闇の神の狙いはわかるんだ。神の完全復活には、ボクたち妖精の命が必要らしいから。もしかしたら、ユウゴさんやチアキくんを人質に、ボクらの身柄を求めてくるかも」
「!? それは駄目だろう、八雲を助けたとしても、そのあと闇の神が復活したら……! 世界が大変なことになったら困るっ、俺は、八雲と共に生きたいのに……!」

 下手すれば己を犠牲に、などと言いかねない雰囲気のめけを、慌ててノブユキが止めた、その時だ。
 鳴り響く無機質な着信音。ノブユキのスマホからだった。

「電話? 誰から……って、非通知……?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...