魔法少女♂とヤンデリオ

嶋紀之/サークル「黒薔薇。」

文字の大きさ
43 / 60
そして歯車は動き出す

③-3

しおりを挟む
 不審な非通知着信は、普段であればイタズラ電話だろうとスルーするところだが――なにかに引き寄せられるように、ノブユキは通話ボタンをタップしていた。

「……誰だ」
『やあ! 晶水ノブユキ……いや、魔法少女スイートクリスタル、と呼ぶべきかな?』
「っ!?」
 電話口の向こうから聞こえたのは、ボイスチェンジャーを通したような、奇妙に低い声。こちらを嘲笑うかのような態度に、自然と、ノブユキの体はこわばってしまう。
「っ……、おまえは誰だ!? 答えろ!!」
『おや、そういえばはじめまして、になるのかな? 僕の名はフレンジィ……ヤンデリオを統べる長、闇の魔法使いの代表だよ』
「ッ!!」
『突然だが、八雲チアキの身柄はこちらで預かっている。命が惜しければ、君の妖精を我々に差し出すことだ。……ふふっ、正義の味方様には難しい要求かもしれないねえ? 君には選んでもらうよ、八雲チアキの命か、この世界の平穏か……2つに1つだ』

 提示されたのは、荒唐無稽とも言える選択肢だ。冗談のような話だったが、フレンジィ――ヤンデリオのボスを名乗る男の声は真剣そのもので、ノブユキは背筋が凍るのを感じる。
「なにを、馬鹿なことを……!!」
『君たちが思い合っているのは誤算だった。僕たちの行動理念は《愛》だからね……愛し合う者を引き裂くのは本意じゃないのさ。だから君に、チャンスをあげようと思って』
「な……ッ、なに、を……!」

 ボイスチェンジャー越しにも伝わる、全てを見透かし、見下すような残酷な声。チアキへの恋慕を言い当てられ、ノブユキは冷静さを失っていく。

『君が八雲チアキを選び、我々の軍門に下るなら、なにがあっても君たちの命は助けてあげよう。あくまでも敵対すると言うのなら……ふふ、そうだねえ、八雲チアキに命じて君を始末させるとするかなあ?』
「ふざけるな……!! おまえのような悪党が愛を語るな!! 八雲は、八雲は無事なのか……!?」
『交渉決裂かい? ……ならば、君の思いはそれっぽっちということだね』
「は……!?」
『僕たちは、愛する者のためならば世界を壊したって構わない。他人を消すことだって厭わない。だって、それが愛だろう? 誰かを選び、愛し、特別扱いするということは、それ以外を粗末にするのと同義じゃないか! 君にとって八雲チアキは、世界と引き換えに見捨てられる程度の……軽い存在だったということだよねえ?』

 男の声が、ゆっくりとノブユキの脳をかき混ぜていく。頭では滅茶苦茶な論理だとわかっているのに、なぜだか否定の言葉が出てこない。
 根っからのヒーロー気質である彼の、プライベートを犠牲にしてでも魔法少女としての使命を果たそうとする彼の、唯一の例外がチアキだった。
 チアキを助けるためならば、自分はどんなに苦しんでも構わない。命をかけて彼を助けられるというのならば、迷いなく死を選ぶ覚悟はある。
 けれど――善良で、真っ当であるがゆえに、不特定多数の他人を犠牲にしようとは思えないのも、晶水ノブユキという男だった。


 すっかり黙り込んでしまった彼を、電話の相手は、さも愉快げな声で煽る。
『おっと、僕らを倒す、なんて馬鹿なことは考えないでくれよ? 八雲チアキの命はこちらが握っているんだ。君が我々に敵対したなら……彼は、いったいどう思うだろうね? きっと、君に裏切られ、捨てられたのだと思うんじゃないかな……?』
「ッッ……! 貴様……!」
『僕の提案に乗るのなら、3日後、妖精を連れて指定の場所までやってくるといい。場所は追って指示しよう。……それでは、良い返事を期待しているよ?』
「待てッ、おい、八雲は無事なのか!? せめて――せめて、あいつの声だけでも――!!」
 ノブユキの叫びも虚しく、通話はそこで途切れてしまう。
 呆然とする彼の手から取り落とされたスマホが、ごとりと、床に叩きつけられた。

(そんな……、八雲、八雲が……、)
「……ノブくん? なにがあったの? 今の電話は、いったい……」
(めけは……、友として俺を支えてくれた人だ。それに、めけを差し出すということは、世界の平和を差し出すということだ。奴らの取引に乗ったところで、約束通り八雲を助けてくれるとも思えない。考えずともわかる。真に受ける必要もない話だ。わかってる、わかってる……のに……)
 尋常でない様子を察知しためけが、心配そうに問いかける。なんとか絞り出した返答の声は掠れていた。
「……ヤンデリオを名乗る者からの電話だった。内容は、内容、は……」
 素直に、『八雲を人質に、めけを差し出せと脅された』と言いかけて。ノブユキの脳裏に、ヒーローらしからぬ思考がよぎってしまう。
(もしも……もしも、取引の内容をめけに知らせなければ。何も知らないめけを連れ出して……引き換えに、八雲を助けられるかもしれない……? ……いや、何を考えてるんだ俺は!! そんなの、ヒーローとして絶対やってはならないだろう!?)

 めけに頼まれてはじめたヒーロー業――魔法少女だが、戦い続けたのはノブユキの意志だ。愛するチアキが生きる世界を守りたくて、正義の味方になることを決めた。その在り方に後悔はない……はず、だった。
(だが……俺が、変に格好つけてばかりいたから、魔法少女としての役目ばかりを優先していたから、八雲が狙われたんじゃないのか? 俺がもっとあいつを見ていたら、こんなことは起きなかったはずだ。俺は……、俺は、どうしたら……)
 自分が魔法少女などでなければ、そもそも、チアキが危険な目にあうこともなかったのではないか。
 フレンジィの言い分を認めるわけにはいかないが、しかし、チアキを思う心が足りなかったからこそこんな事態を招いたのではないか。
 一度浮かんでしまった思考はなかなか消えず、ノブユキの心に暗い影を落としていく。

「……電話の内容は、俺への、脅迫だった。大丈夫だ……めけが気にすることじゃない」
「ノブくん……? でも、」
「放っておいてくれ!! これは……っ、俺の、俺と八雲の問題だから……!!」

 ――結局、ノブユキは、電話の内容をめけに話すことができなかった。
 拒絶の姿勢を見せた彼を心配しながらも、めけは、その場をあとにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...