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その日は、いつものように九龍城のサイファで仕事だった。普段と変わりない客の入りだった。私はバーカウンターでそれなりに忙しく仕事をしていて、時々ヤンと会話したりしていた。
夜10時ごろに差し掛かった時、息を切らしたキョンの仲間が慌ててサイファに駆け込んできた。不安げな目でサイファの店内を探し、ヤンの姿を見つけると駆け寄ってきた。
「ヤン、、、!ボスが撃たれた」
ヤンは吸っていたタバコを投げ捨てると引き攣った顔でつぶやいた。「まじかよ、、、」
仲間は早口で続ける。
「誰がやったかわかんねえ、、。今は病院に運ばれて手術してるらしい。とりあえず病院に行くぞ。ついてこい」
ヤンは頷きそのまま行こうとしたが、思い出したかのように慌てて私にむかってこう言った。
「ジェイド姐さん、やばいことになった、、、!ボスがやられたんで、とりあえず行かなきゃならねえ。帰りはオーナーに送ってもらうといい。、、、キョンの兄貴も、たぶんしばらく会えないかも、、、。姐さんも気をつけて!」
キョンは私の手を取り握って、真剣な眼差しでうなづくと、仲間と共にすごい勢いで出ていった。
その様子を見ていたオーナーが私のそばに来てつぶやいた。
「、、、気をつけろ、ジェイド。争いが起きるかもしれない」
「オーナー、、、」
「ジェイド、今日は私が家まで送っていくよ。君も気をつけたほうがいい。もう無関係ではないのだから」
・・・無関係ではない。その言葉の重みを感じる。私はもう13K(サップセイケイ)と無関係ではない。そのメンバーのリーダーの恋人なのだ。いつ、巻き込まれてもおかしくはない。
できるだけ自分の身は自分で守らなければ。
その日は、オーナーに家まで送ってもらい、キョンからの連絡を待った。私の家の電話が鳴らないかと、期待と不安が入り混じった気持ちで長いこと待った。
・・・結局、その日は電話は鳴る事はなかった。私はいつの間にかテーブルに座りながら眠ってしまっていた。
その次の日も、キョンからの連絡はなかった。
日中は母さんの病院に行き、元気そうな様子の母さんとおしゃべりをした。母さんと話していると気が紛れる。心の中は、キョンからの連絡がないことで不安でいっぱいだったけれども。
「最近、彼とはどうなの?欣怡」
母さんは、私の心の中を見透かしたかのように聞いてきた。
「ん・・・。なんか最近忙しいみたいで、会ってないの」
「そうなの、、、お仕事忙しいのかしらね。まあ、またすぐ会えるわよ」
母さんは微笑んだ。
「母さん、、、。母さんは調子良さそうね!」
「ええ、本当に。最近は調子がとてもいいの。お医者さんからも、もうすぐで退院できるって言われたわ」
「え!本当に??」
母さんは嬉しそうに頷く。
「ええ、そうしたら色々考えなければならないわ。今後のこと」
「今後、、、?母さん何をする気なの?」
「まあ、色々とね、、!欣怡にばっかり迷惑かけて生きていくわけにはいかないし」
「そんな、、、迷惑だなんて思ってない。母さんの面倒見るのは当たり前のことよ」
母さんはわたしの手をギュッと握ると、力強い声でこういった。
「あなたは自分の人生に集中しなさい。まだ若いんだから、ね?」
「母さん、、、」
私はため息をついた。
「今度、、、、いつになるかわからないけど、彼に会ってくれる?」
「ぜひ会いたいわ。、、、彼はなんていうお名前?」
「キョン」
「、、、キョン。いい名前ね」
今度キョンと会う時は必ず母さんのところに連れてこよう。早くキョンから連絡が来るといい。強く願わずにいられなかった。
キョンからの連絡が途絶えて1週間たった。
私のところには大した情報は入っていなかった。撃たれたキョンのボスが危ない状態だとか、意識が戻らず昏睡状態だとか、いろんな情報が錯綜していた。キョンの姿も九龍城で見かけることはなかった。ただ、ピリピリとした雰囲気をまとった彼の仲間が、九龍城の中を歩いているのを見かけた。九龍城の中には緊迫した空気が漂っていた。
、、、『何かが起こる』そんな雰囲気だった。
私の心は灰色で塗り固められたコンクリートのように重かった。キョンと会えなくなって、こんなに時が経つのが長く感じるのは初めてだった。何をしていても、キョンのことを考えてしまっていた。
その日仕事が終わると、私は1人モンコックへ向かった。地下鉄に乗って、賑やかな繁華街を1人で歩いた。そしてあのいつか来た雲呑麺の店に辿り着いた。
いつもと同じ老板が屋台に立っていた。お客は1人もいなかった。
私は屋台に座って注文した。
「雲呑麺ひとつ」
「あいよ」
老板は手際良くいつもの雲呑麺を作り始めた。
あっという間に、雲呑麺が出来上がり、私の前に置かれた。湯気がたち、いつものように美味しそうだった。
「、、、今日は一人なのかい?お嬢さん」
私は食べようとした手を止め、頷いた。
「そうなんです、、、。今日は一人できました」
「最近あの兄さん来ないから、どうしたのかと思っていたところさ。また来るように伝えておくれよ」
「、、、私も会えていなくて。」
「そうなのかい。」
溢れ出しそうになる涙をこらえ、箸を取り麺をすすった。
相変わらず美味しかったが、この前キョンと来た時に食べた時の方が何倍も美味しかった。不思議なものだ。食べ物は、1人で食べるよりも誰かと食べた方が美味しい。そして、大切な人と食べる事でもっと美味しくなる。
老板は話を続けた。
「あの兄さんは、何かワケアリだろう?心配になることもあろうな、、。でも、この前お嬢さんを初めて連れて来た時、とてもお似合いの2人だと思ったよ。、、、何、すぐ会えるさ。若い2人だ。まだまだこれからだよ」
老板は優しく微笑んだ。
私は無理矢理笑顔を作り、「そうですよね、、!早く会いたいです。、、、雲呑麺、また2人で食べに来たいです。」と言った。
そして元気を出そうと、すごい勢いで雲呑麺を平らげた。
雲呑麺で少し気分が晴れた私は、少し老板とおしゃべりをして帰路についた。今日も、キョンからの連絡はなかった。一体彼らのボスはどういう状況なのか、彼のグループはどうなっているのか知りたかった。
マンションに着いた。2階にある私の家は、階段を上がって一番奥の部屋だった。
階段を上がると、マンションの灯りの下で私の部屋の前で誰かが壁にもたれて立っているのが見えた。
私は足を止めた。
目を凝らして見ると、それはキョンだった。
「、、、キョン?」
私の心臓が途端に早くなる。キョンだ。いつもと変わらない、派手なシャツをきたキョンだった。
彼は少し不貞腐れた顔で、私を見た。
「、、、おせえよ。」
「キョン、、、!」
私は駆け出して、彼に抱きついた。たった一週間離れていただけなのに、彼の匂いが懐かしかった。キョンは私をその腕で抱きしめると、「どこ行ってたんだよ」と聞いた。
「雲呑麺食べてた、、1人で」
「はあ、、?1人で雲呑麺食べてたって?、、、お前って本当に呑気なやつだな。俺がどんな状況にいたかも知らないで」
「あなたが連絡くれないからじゃない!それに、、、何が悲しかったって、あなたと食べた時の雲呑麺の方が何倍も美味しかったことよ」
「、、、、、、ごめんな」
キョンは私を抱きしめている手で頭を撫でてくれた。
堪えていた涙が溢れ出した。
彼と会えた時、話したいことはたくさんあったはずだ。でもこんなことしか言葉が出てこなかった。そんな私をキョンは黙って頭を撫で続けてくれていた。
「・・・ボスが撃たれた。意識は回復しているが、重症だ。やったのはミンのグループだ。ミンのグループは超えてはいけない一線を越えた。、、、争いは避けられない」
私は顔を上げた。
「どうなるの、、、?もう会えないの?」
「わからない。ただ、俺はリーダーとして、その渦中の中心にいるということだ」
わかっていた。彼は14K(サップセイケイ)リーダーだ。何か争いごとがあった時に見にかかる火の粉を浴びるのは彼だ。時には命を落とすかもしれない。ただ、こんな急にその事態が来るとは思っていなかった。キョンと離れるかもしれないその日が、こんな急に来るとは思っていなかった。
「とりあえず中に入って話そう」
私は彼を家に招き入れた。
キョンは少し疲れているかに見えた。ボスが撃たれてから、グループのアジトの一つに滞在し、ボスのそばについていたとのことだった。ミンのグループが、キョンのグループを潰そうとしているらしい。抗争にはまだなってはいないが、13Kのボスをやられてこのまま黙っている訳が無い。
私はテーブルにキョンの好きなサンミゲルのビールを置いた。キョンはそれを黙って一口飲んだ。
「ボスは抗争になるだろうと言った。」
私は何も言えなかった。私が口を出すことはない。ただ、私が願っていることはただ一つ。
生きていて欲しかった。私からいなくなってもいい。ただ、どんなことがあっても生き延びて欲しかった。死んでほしくはなかった。
「お前は、とりあえずここから離れろ。巻き込みたくない」
「、、、、、嫌。離れない。九龍にいる」
キョンが私の腕をつかみ、睨んだ。
「言うことを聞け!お前に何かあったらどうするんだ!」
「あなたと生きていくって決めた時、後悔しないって言った!どんなことになろうとも、そばにいる。私、決めたの」
一歩も引かない私の態度に、キョンは舌打ちをして横を向いた。
「、、、全く。なんでこんな強情ばりな女、選んだんだか、、、」
キョンはタバコに火をつけた。イラついたようにタバコの煙を吐き出した。
沈黙が流れた。
私もため息をついて椅子に座った。
「でも、、、」
キョンが口を開く。目は合わせないままだ。
「お前のその自分自身で運命を選ぶ力、、。意志の強さに俺は好きになったんだ」」
そう言って、穏やかな表情で微笑んだ。
私の好きなキョンの笑顔だった。いつもはあまり笑わないけれど、笑うととびきり魅力的だという事、私は知ってる。
私、キョンが好きだ。
大好き。彼で心がいっぱいになってしまうぐらい、自分にも危険が及ぶ可能性があってもそばにいたいくらい。
「キョン、、、」
私は彼の派手な柄シャツの袖をつかむ。
「あなたが行く前に、、、、私を抱いてほしいの。これが最後かもしれないから。あなたの事、覚えておきたいから、、、」
彼のシャツをつかむ私の手は震えていたかもしれない。キョンは立ち上がると私の手を引き、ベッドへ連れていった。私をベッドに横たわらせ、彼はとても優しく私の頭から顔を撫でた。
「、、、そんなこと言うな。離れるのがつらくなる」
そして顔を近づけて、キスをした。
朝起きると彼の姿はなかった。昨日の事は夢だったのだろうかとさえ思ったが、テーブルの上の灰皿に置かれたタバコの吸い殻とサンミゲルの瓶を見つけて、彼がいたのは夢ではなかったと悟った。
夜10時ごろに差し掛かった時、息を切らしたキョンの仲間が慌ててサイファに駆け込んできた。不安げな目でサイファの店内を探し、ヤンの姿を見つけると駆け寄ってきた。
「ヤン、、、!ボスが撃たれた」
ヤンは吸っていたタバコを投げ捨てると引き攣った顔でつぶやいた。「まじかよ、、、」
仲間は早口で続ける。
「誰がやったかわかんねえ、、。今は病院に運ばれて手術してるらしい。とりあえず病院に行くぞ。ついてこい」
ヤンは頷きそのまま行こうとしたが、思い出したかのように慌てて私にむかってこう言った。
「ジェイド姐さん、やばいことになった、、、!ボスがやられたんで、とりあえず行かなきゃならねえ。帰りはオーナーに送ってもらうといい。、、、キョンの兄貴も、たぶんしばらく会えないかも、、、。姐さんも気をつけて!」
キョンは私の手を取り握って、真剣な眼差しでうなづくと、仲間と共にすごい勢いで出ていった。
その様子を見ていたオーナーが私のそばに来てつぶやいた。
「、、、気をつけろ、ジェイド。争いが起きるかもしれない」
「オーナー、、、」
「ジェイド、今日は私が家まで送っていくよ。君も気をつけたほうがいい。もう無関係ではないのだから」
・・・無関係ではない。その言葉の重みを感じる。私はもう13K(サップセイケイ)と無関係ではない。そのメンバーのリーダーの恋人なのだ。いつ、巻き込まれてもおかしくはない。
できるだけ自分の身は自分で守らなければ。
その日は、オーナーに家まで送ってもらい、キョンからの連絡を待った。私の家の電話が鳴らないかと、期待と不安が入り混じった気持ちで長いこと待った。
・・・結局、その日は電話は鳴る事はなかった。私はいつの間にかテーブルに座りながら眠ってしまっていた。
その次の日も、キョンからの連絡はなかった。
日中は母さんの病院に行き、元気そうな様子の母さんとおしゃべりをした。母さんと話していると気が紛れる。心の中は、キョンからの連絡がないことで不安でいっぱいだったけれども。
「最近、彼とはどうなの?欣怡」
母さんは、私の心の中を見透かしたかのように聞いてきた。
「ん・・・。なんか最近忙しいみたいで、会ってないの」
「そうなの、、、お仕事忙しいのかしらね。まあ、またすぐ会えるわよ」
母さんは微笑んだ。
「母さん、、、。母さんは調子良さそうね!」
「ええ、本当に。最近は調子がとてもいいの。お医者さんからも、もうすぐで退院できるって言われたわ」
「え!本当に??」
母さんは嬉しそうに頷く。
「ええ、そうしたら色々考えなければならないわ。今後のこと」
「今後、、、?母さん何をする気なの?」
「まあ、色々とね、、!欣怡にばっかり迷惑かけて生きていくわけにはいかないし」
「そんな、、、迷惑だなんて思ってない。母さんの面倒見るのは当たり前のことよ」
母さんはわたしの手をギュッと握ると、力強い声でこういった。
「あなたは自分の人生に集中しなさい。まだ若いんだから、ね?」
「母さん、、、」
私はため息をついた。
「今度、、、、いつになるかわからないけど、彼に会ってくれる?」
「ぜひ会いたいわ。、、、彼はなんていうお名前?」
「キョン」
「、、、キョン。いい名前ね」
今度キョンと会う時は必ず母さんのところに連れてこよう。早くキョンから連絡が来るといい。強く願わずにいられなかった。
キョンからの連絡が途絶えて1週間たった。
私のところには大した情報は入っていなかった。撃たれたキョンのボスが危ない状態だとか、意識が戻らず昏睡状態だとか、いろんな情報が錯綜していた。キョンの姿も九龍城で見かけることはなかった。ただ、ピリピリとした雰囲気をまとった彼の仲間が、九龍城の中を歩いているのを見かけた。九龍城の中には緊迫した空気が漂っていた。
、、、『何かが起こる』そんな雰囲気だった。
私の心は灰色で塗り固められたコンクリートのように重かった。キョンと会えなくなって、こんなに時が経つのが長く感じるのは初めてだった。何をしていても、キョンのことを考えてしまっていた。
その日仕事が終わると、私は1人モンコックへ向かった。地下鉄に乗って、賑やかな繁華街を1人で歩いた。そしてあのいつか来た雲呑麺の店に辿り着いた。
いつもと同じ老板が屋台に立っていた。お客は1人もいなかった。
私は屋台に座って注文した。
「雲呑麺ひとつ」
「あいよ」
老板は手際良くいつもの雲呑麺を作り始めた。
あっという間に、雲呑麺が出来上がり、私の前に置かれた。湯気がたち、いつものように美味しそうだった。
「、、、今日は一人なのかい?お嬢さん」
私は食べようとした手を止め、頷いた。
「そうなんです、、、。今日は一人できました」
「最近あの兄さん来ないから、どうしたのかと思っていたところさ。また来るように伝えておくれよ」
「、、、私も会えていなくて。」
「そうなのかい。」
溢れ出しそうになる涙をこらえ、箸を取り麺をすすった。
相変わらず美味しかったが、この前キョンと来た時に食べた時の方が何倍も美味しかった。不思議なものだ。食べ物は、1人で食べるよりも誰かと食べた方が美味しい。そして、大切な人と食べる事でもっと美味しくなる。
老板は話を続けた。
「あの兄さんは、何かワケアリだろう?心配になることもあろうな、、。でも、この前お嬢さんを初めて連れて来た時、とてもお似合いの2人だと思ったよ。、、、何、すぐ会えるさ。若い2人だ。まだまだこれからだよ」
老板は優しく微笑んだ。
私は無理矢理笑顔を作り、「そうですよね、、!早く会いたいです。、、、雲呑麺、また2人で食べに来たいです。」と言った。
そして元気を出そうと、すごい勢いで雲呑麺を平らげた。
雲呑麺で少し気分が晴れた私は、少し老板とおしゃべりをして帰路についた。今日も、キョンからの連絡はなかった。一体彼らのボスはどういう状況なのか、彼のグループはどうなっているのか知りたかった。
マンションに着いた。2階にある私の家は、階段を上がって一番奥の部屋だった。
階段を上がると、マンションの灯りの下で私の部屋の前で誰かが壁にもたれて立っているのが見えた。
私は足を止めた。
目を凝らして見ると、それはキョンだった。
「、、、キョン?」
私の心臓が途端に早くなる。キョンだ。いつもと変わらない、派手なシャツをきたキョンだった。
彼は少し不貞腐れた顔で、私を見た。
「、、、おせえよ。」
「キョン、、、!」
私は駆け出して、彼に抱きついた。たった一週間離れていただけなのに、彼の匂いが懐かしかった。キョンは私をその腕で抱きしめると、「どこ行ってたんだよ」と聞いた。
「雲呑麺食べてた、、1人で」
「はあ、、?1人で雲呑麺食べてたって?、、、お前って本当に呑気なやつだな。俺がどんな状況にいたかも知らないで」
「あなたが連絡くれないからじゃない!それに、、、何が悲しかったって、あなたと食べた時の雲呑麺の方が何倍も美味しかったことよ」
「、、、、、、ごめんな」
キョンは私を抱きしめている手で頭を撫でてくれた。
堪えていた涙が溢れ出した。
彼と会えた時、話したいことはたくさんあったはずだ。でもこんなことしか言葉が出てこなかった。そんな私をキョンは黙って頭を撫で続けてくれていた。
「・・・ボスが撃たれた。意識は回復しているが、重症だ。やったのはミンのグループだ。ミンのグループは超えてはいけない一線を越えた。、、、争いは避けられない」
私は顔を上げた。
「どうなるの、、、?もう会えないの?」
「わからない。ただ、俺はリーダーとして、その渦中の中心にいるということだ」
わかっていた。彼は14K(サップセイケイ)リーダーだ。何か争いごとがあった時に見にかかる火の粉を浴びるのは彼だ。時には命を落とすかもしれない。ただ、こんな急にその事態が来るとは思っていなかった。キョンと離れるかもしれないその日が、こんな急に来るとは思っていなかった。
「とりあえず中に入って話そう」
私は彼を家に招き入れた。
キョンは少し疲れているかに見えた。ボスが撃たれてから、グループのアジトの一つに滞在し、ボスのそばについていたとのことだった。ミンのグループが、キョンのグループを潰そうとしているらしい。抗争にはまだなってはいないが、13Kのボスをやられてこのまま黙っている訳が無い。
私はテーブルにキョンの好きなサンミゲルのビールを置いた。キョンはそれを黙って一口飲んだ。
「ボスは抗争になるだろうと言った。」
私は何も言えなかった。私が口を出すことはない。ただ、私が願っていることはただ一つ。
生きていて欲しかった。私からいなくなってもいい。ただ、どんなことがあっても生き延びて欲しかった。死んでほしくはなかった。
「お前は、とりあえずここから離れろ。巻き込みたくない」
「、、、、、嫌。離れない。九龍にいる」
キョンが私の腕をつかみ、睨んだ。
「言うことを聞け!お前に何かあったらどうするんだ!」
「あなたと生きていくって決めた時、後悔しないって言った!どんなことになろうとも、そばにいる。私、決めたの」
一歩も引かない私の態度に、キョンは舌打ちをして横を向いた。
「、、、全く。なんでこんな強情ばりな女、選んだんだか、、、」
キョンはタバコに火をつけた。イラついたようにタバコの煙を吐き出した。
沈黙が流れた。
私もため息をついて椅子に座った。
「でも、、、」
キョンが口を開く。目は合わせないままだ。
「お前のその自分自身で運命を選ぶ力、、。意志の強さに俺は好きになったんだ」」
そう言って、穏やかな表情で微笑んだ。
私の好きなキョンの笑顔だった。いつもはあまり笑わないけれど、笑うととびきり魅力的だという事、私は知ってる。
私、キョンが好きだ。
大好き。彼で心がいっぱいになってしまうぐらい、自分にも危険が及ぶ可能性があってもそばにいたいくらい。
「キョン、、、」
私は彼の派手な柄シャツの袖をつかむ。
「あなたが行く前に、、、、私を抱いてほしいの。これが最後かもしれないから。あなたの事、覚えておきたいから、、、」
彼のシャツをつかむ私の手は震えていたかもしれない。キョンは立ち上がると私の手を引き、ベッドへ連れていった。私をベッドに横たわらせ、彼はとても優しく私の頭から顔を撫でた。
「、、、そんなこと言うな。離れるのがつらくなる」
そして顔を近づけて、キスをした。
朝起きると彼の姿はなかった。昨日の事は夢だったのだろうかとさえ思ったが、テーブルの上の灰皿に置かれたタバコの吸い殻とサンミゲルの瓶を見つけて、彼がいたのは夢ではなかったと悟った。
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