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第四章 「マリナ」のお店
第63話 ズレちゃん病
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麻璃奈は児童養護施設「清い水」で、スタッフやボランティアの職員から日本語を学び、7歳になる頃には周りの者たちと普通に会話ができるようになった。
その頃、麻璃奈は自分の感覚と他人の思考にズレがあることを、何となく理解し始めた。
「清い水」の仲間たちからも、「麻璃奈はズレている」とよく言われた。特に、優しさや厳しさ、悲しみ、楽しさ、美味しさ、不味さなどは皆と同じだが、美的な感覚についてはズレがあるとよく指摘された。
その頃は、麻璃奈が外国人の血を引いているからだろうと、あまり気にされなかったが...。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「清い水」での生活は決して悪くなかった。虐めも虐待もなく、スタッフ、特に戸部施設長がみんなを守ってくれているのが感じられた。
両親がいるのかいないのかさえ分からない境遇だったが、その分、同世代の沢山の仲間と一緒にいられるこの環境に、麻璃奈は満足していた。
特に仲の良かった美佳は、再婚した父親のDVから保護され、「清い水」にやってきた子だ。
美佳は保護された当初、すべての大人を恐れていた。しかし、戸部施設長とそのスタッフたちの手厚く、粘り強い支援のおかげで、7歳を迎えた頃にはすっかりと明るい少女に成長した。
美佳は、「本当にうちを虐めた再婚ブタ、むかつく!大人になったら見返してやる!」と、いつも強い口調で言っていた。
美佳は麻璃奈と同じ学年で、チャキチャキとした女の子だ。関西人では無いのに、自分のことをうちと言う。後輩に対しても姐さん肌で、面倒見がいい。そして、もちろん麻璃奈のことも放っておけなかった。
麻璃奈は美佳に、「『再婚ブタ』の『ブタさん』って、あのピンクで可愛くて、カッコイイ生き物の事?」と尋ねた。
さらに、「『ブタさん』って可愛らしい生き物じゃないの?好ましくないなら、『トラさん』とか『ライオンさん』じゃないの?」と、美佳によく尋ねていた。
美佳にそんなふうに尋ねると、いつも「は~。また麻璃奈の《ズレちゃん病》が始まったよ」と、ため息混じりに言われることが多かった。
施設の子たちはその様子を見て、時折微笑みながらも、どこか不思議そうな表情を浮かべていた。
「いい、麻璃奈?こんな田舎だから、格好いいメンズなんてめったにいないけど、うちがイケている男の基準を何度でも教えてあげるわ!まず、身長が高くて、二重でパッチリお目目、う~ん、奥二重もいいわね。スリムの細マッチョがうち好みね。あと唇もポイントよ、厚すぎずにしっとりと...」
この頃の麻璃奈は、いつも美佳からズレちゃん病克服レッスンを受けていた。
麻璃奈の美的感覚のズレは、年々ひどくなっていった。周囲の者が「可愛い」や「カッコイイ」と称賛する物や人物に対して、彼女は逆に違和感や嫌悪感を抱くようになった。
どうしてみんなは私と真逆なものが好ましく思うのだろう?と、彼女はいつも不思議に思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
麻璃奈が中学に進学した頃、彼女の身体は春の花が咲くように成長し、ますます大人っぽく、女性らしさが増していった。その姿はまるで絵画の中の美しい女性のようで、周囲の人々の目を引きつけた。
だが、麻璃奈の「ズレちゃん病」はますます悪化し、他の人が「可愛い」や「格好いい」と思う人や物が、麻璃奈の目にはまるで異形の存在のように見えるようになった。
彼女にとって、それらは「ブサイク」で「不気味」なものに過ぎなかった。そして、その感覚は自分自身の外見に対しても同じだった。
鏡に映る自分の姿を見つめるたびに、彼女はその違和感と向き合わなければならなかった。
14歳となった麻璃奈は、大人びた雰囲気を持ち、身長も170cmを優に超えた。胸のふくらみも他の誰よりも目立っていた。そのため、水泳の授業中に不審者が校舎に侵入し、問題を引き起こす事件が後を絶たなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
麻璃奈は、誰もが認めるこの地区でNO.1の美少女となった。
しかし、当の本人は鏡を見るたびに深い悲しみに包まれていた。
なぜ自分は小顔で、しかも目がやたら大きく二重なのだろうか?そのわりに鼻が小さいし...。唇もうっすらとしているし...なんでもっと腫れぼったくならなかったんだろう?
体型ももっと丸みが帯び、可愛らしい土管型のブタさんの様になりたいのに...。身長と胸ばかりが成長して、肝心の内臓脂肪が育たない、凹凸のある体型になってしまった。
そして、他の女性よりも身長が高く成長し、さらに男性並み、いやそれ以上の力や瞬発力を発揮することができた。
ボクシングや他の格闘技を見ても、動きが遅く感じてしまう。それは、パンチのスピードやキックの軌道、さらには選手たちの動きの一つ一つ全てにおいて言える。
パンチが繰り出される瞬間、空気を切り裂く音が聞こえる前に、その軌道がはっきりと見える。キックの一撃も、ゆっくりとした動きで迫ってくる。選手たちの一つ一つの動作が、まるで映画のワンシーンのように、細部まで鮮明に見えるのだ。
私なら、もっと倍以上の動きが出せるといつも思うし、実際にできてしまう。
そのため、スポーツをする時はいつも力を抜いていた。そうしないと、記録を簡単に塗り替えてしまい、目立ってしまうからだ。
さらに困ったことに、毎日のように告白を受ける。それも複数からだ。しかも、私が苦手とする、ヒョロヒョロなもやし体型で二重。目がパッチリとして鼻筋が通っている人達が殆ど。そんな人たちから学校以外でも毎日のように声をかけられた。
「こんなブサイクな私に何で告白してくるの?」と聞き返したかったが、美佳のアドバイスで、「『清い水』では男女交際が禁止なの。ごめんなさい」と、いつも断っていた。
その頃、麻璃奈は自分の感覚と他人の思考にズレがあることを、何となく理解し始めた。
「清い水」の仲間たちからも、「麻璃奈はズレている」とよく言われた。特に、優しさや厳しさ、悲しみ、楽しさ、美味しさ、不味さなどは皆と同じだが、美的な感覚についてはズレがあるとよく指摘された。
その頃は、麻璃奈が外国人の血を引いているからだろうと、あまり気にされなかったが...。
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「清い水」での生活は決して悪くなかった。虐めも虐待もなく、スタッフ、特に戸部施設長がみんなを守ってくれているのが感じられた。
両親がいるのかいないのかさえ分からない境遇だったが、その分、同世代の沢山の仲間と一緒にいられるこの環境に、麻璃奈は満足していた。
特に仲の良かった美佳は、再婚した父親のDVから保護され、「清い水」にやってきた子だ。
美佳は保護された当初、すべての大人を恐れていた。しかし、戸部施設長とそのスタッフたちの手厚く、粘り強い支援のおかげで、7歳を迎えた頃にはすっかりと明るい少女に成長した。
美佳は、「本当にうちを虐めた再婚ブタ、むかつく!大人になったら見返してやる!」と、いつも強い口調で言っていた。
美佳は麻璃奈と同じ学年で、チャキチャキとした女の子だ。関西人では無いのに、自分のことをうちと言う。後輩に対しても姐さん肌で、面倒見がいい。そして、もちろん麻璃奈のことも放っておけなかった。
麻璃奈は美佳に、「『再婚ブタ』の『ブタさん』って、あのピンクで可愛くて、カッコイイ生き物の事?」と尋ねた。
さらに、「『ブタさん』って可愛らしい生き物じゃないの?好ましくないなら、『トラさん』とか『ライオンさん』じゃないの?」と、美佳によく尋ねていた。
美佳にそんなふうに尋ねると、いつも「は~。また麻璃奈の《ズレちゃん病》が始まったよ」と、ため息混じりに言われることが多かった。
施設の子たちはその様子を見て、時折微笑みながらも、どこか不思議そうな表情を浮かべていた。
「いい、麻璃奈?こんな田舎だから、格好いいメンズなんてめったにいないけど、うちがイケている男の基準を何度でも教えてあげるわ!まず、身長が高くて、二重でパッチリお目目、う~ん、奥二重もいいわね。スリムの細マッチョがうち好みね。あと唇もポイントよ、厚すぎずにしっとりと...」
この頃の麻璃奈は、いつも美佳からズレちゃん病克服レッスンを受けていた。
麻璃奈の美的感覚のズレは、年々ひどくなっていった。周囲の者が「可愛い」や「カッコイイ」と称賛する物や人物に対して、彼女は逆に違和感や嫌悪感を抱くようになった。
どうしてみんなは私と真逆なものが好ましく思うのだろう?と、彼女はいつも不思議に思っていた。
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麻璃奈が中学に進学した頃、彼女の身体は春の花が咲くように成長し、ますます大人っぽく、女性らしさが増していった。その姿はまるで絵画の中の美しい女性のようで、周囲の人々の目を引きつけた。
だが、麻璃奈の「ズレちゃん病」はますます悪化し、他の人が「可愛い」や「格好いい」と思う人や物が、麻璃奈の目にはまるで異形の存在のように見えるようになった。
彼女にとって、それらは「ブサイク」で「不気味」なものに過ぎなかった。そして、その感覚は自分自身の外見に対しても同じだった。
鏡に映る自分の姿を見つめるたびに、彼女はその違和感と向き合わなければならなかった。
14歳となった麻璃奈は、大人びた雰囲気を持ち、身長も170cmを優に超えた。胸のふくらみも他の誰よりも目立っていた。そのため、水泳の授業中に不審者が校舎に侵入し、問題を引き起こす事件が後を絶たなかった。
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麻璃奈は、誰もが認めるこの地区でNO.1の美少女となった。
しかし、当の本人は鏡を見るたびに深い悲しみに包まれていた。
なぜ自分は小顔で、しかも目がやたら大きく二重なのだろうか?そのわりに鼻が小さいし...。唇もうっすらとしているし...なんでもっと腫れぼったくならなかったんだろう?
体型ももっと丸みが帯び、可愛らしい土管型のブタさんの様になりたいのに...。身長と胸ばかりが成長して、肝心の内臓脂肪が育たない、凹凸のある体型になってしまった。
そして、他の女性よりも身長が高く成長し、さらに男性並み、いやそれ以上の力や瞬発力を発揮することができた。
ボクシングや他の格闘技を見ても、動きが遅く感じてしまう。それは、パンチのスピードやキックの軌道、さらには選手たちの動きの一つ一つ全てにおいて言える。
パンチが繰り出される瞬間、空気を切り裂く音が聞こえる前に、その軌道がはっきりと見える。キックの一撃も、ゆっくりとした動きで迫ってくる。選手たちの一つ一つの動作が、まるで映画のワンシーンのように、細部まで鮮明に見えるのだ。
私なら、もっと倍以上の動きが出せるといつも思うし、実際にできてしまう。
そのため、スポーツをする時はいつも力を抜いていた。そうしないと、記録を簡単に塗り替えてしまい、目立ってしまうからだ。
さらに困ったことに、毎日のように告白を受ける。それも複数からだ。しかも、私が苦手とする、ヒョロヒョロなもやし体型で二重。目がパッチリとして鼻筋が通っている人達が殆ど。そんな人たちから学校以外でも毎日のように声をかけられた。
「こんなブサイクな私に何で告白してくるの?」と聞き返したかったが、美佳のアドバイスで、「『清い水』では男女交際が禁止なの。ごめんなさい」と、いつも断っていた。
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