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第八章 異世界での新たな出会い
第119話 ”カエン”を支える者たち
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「大丈夫ですか?女将さん?」
俺はしゃがみ込み、床に落ちた皿をそっと拾い上げながら声をかけた。女将さんは壁に片手を添え、揺れる心を押しとどめるように、静かに呼吸を整えていた。指先は木目に触れ、わずかに震えている。
「すみません...お話があまりに衝撃的で。それに、本当にありがとうございます。キッチンフロアまで、こんなに綺麗にしてくださって...」
壁に預けた手をそっと引き寄せながら、女将さんは笑みを浮かべた。その表情には礼儀と感謝が滲んでいたが、どこかぎこちなく、心の揺れがまだ残っているようだった。
俺は拾った皿を棚に戻し、女将さんの方へ向き直ると、声を柔らげて言った。
「それは良かったです。それより、もしよければ皆さんも一緒に食事をしませんか?宿の裏には、オークやコカトリスの肉がまだたくさん残っていますから」
俺は、女将さんと従業員をご飯に誘った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
幻影の指輪で姿を取り繕ってはいるものの、彼らの本来の顔色はどこか青白く、頬もこけている。痩せているのは顔だけではない。身体全体もガリガリだ。
それでも料理に手を伸ばさず、つまみ食いひとつしないのは、女将さんへの忠誠心が深いのだろう。
「そんな...悪いですから。従業員とお客様が同じ席で食事をするなんて」
女将さんはそう言って遠慮の意を示したが、その声にはわずかな揺らぎがあった。従業員たちは黙したままだが、視線が雄弁だった。殺気こそないものの、期待のこもった眼差しが女将さんの背に突き刺さる。
まあ、なかなか言いづらいよね。「では、ありがたく頂戴します」なんて言えないわな。
だからこそ、俺は一歩踏み出すことにした。
「この料理を作って下さった方々にも、一緒に食事に加わってもらうことにした!みんな、一緒に楽しもう!」
そう言いながら、俺は少しばかり強引に従業員たちを会場へと促した。戸惑いを見せながらも、彼らの足取りにはどこか軽やかさがあり、幻影の指輪の奥に潜む期待が、ほんのりと滲んでいた。
「わぁ!一緒に食べよう!」
「若いのに、こんなに美味しい料理を作るなんてすごい!」
「作り方、教えて!」
俺たちの仲間は歓迎ムード一色であった。
仲間たちは口々に声をかけ、従業員たちを温かく迎え入れた。場の空気は一気に華やぎ、料理を囲む輪がゆるやかに広がっていく。従業員たちはちらちらと女将さんの方を見て、“本当にいいのか?”と視線で問いかけていた。
その様子を見て、俺は最後の一押しとして女将さんに声をかける。
「女将さん、よろしいですか?」
女将さんは一瞬、ためらうように視線を泳がせたが、やがて静かに頷き、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
従業員たちの表情も、ようやく安心したようにほころび始めた。こわばっていた雰囲気が少しずつほどけ、顔つきにも穏やかな色が差していく。
そんな俺が、半ば強引に彼らを会場へと連れてきた様子を見て、シュリンが呆れたように肩をすくめる。
「こういうことの察しはいいのに、どうして女心が分からないのかしら?」
すると、カレンが愛おしそうに俺を眺めながら、うっとりとした表情で口を開く。
「でも、それがまた素敵なんですよね♡」
その横で、ルミナが「うん、うん♡」と深く頷いていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ドリューやメリシーをはじめとする仲間たちが、料理や酒を次々と勧めるうちに、彼らの緊張も遠慮も、炭火の香ばしい煙とともに、ゆっくりと空気に溶けていった。
従業員が加わったことで会場の熱気は一段と高まり、笑い声と興奮が絶え間なく場を満たしていく。料理人たちの変わりとして、クラシアルをはじめとする料理上手な仲間たちが、快く引き受けてくれた。
とはいえ、クラシアルが解体してくれたオークやコカトリスの肉を、炭火で軽く炙るだけのシンプルなもの。それでも、香ばしい肉の匂いが食欲をそそり、シチューやパン、果物などと並んで、立派なごちそうとなった。
従業員たちは目を輝かせながら、それらの料理を次々と口に運ぶ。中には、一枚三百グラムはありそうなステーキを十枚以上たいらげる猛者もいた。
メリシーやドリュー、ラン、アルたちは、従業員と飲み比べや食べ比べを始め、場の賑わいはさらに増していく。キッチンホールのあちこちで、種族の垣根を越えた笑い声が響き渡り、空間全体が祝祭のような熱気に包まれていた。
ただし一部の者を除いてだが...。
酔いつぶれた者、食べ過ぎて動けなくなった者は、もはや宴どころではなかった。
何名かは酒に呑まれ、意識も朦朧としたまま、割り当てられた部屋へと、半ば引きずられるようにして運ばれていった。
また、バーの端っこで「うーん、うーん」と唸っている者など、様々である。
その中の一人、ジュードは樽を抱きしめるようにして、すやすやと眠っていた。頬には微かな紅潮が残り、口元には満足げな笑みが浮かんでいる。まるで夢の中でも宴を楽しんでいるかのようであった。
そして源さんは、犬とは思えぬ仰向けの姿勢で四肢を投げ出し、苦し気に唸っていた。
「苦しいわん、苦しんわん。この肉は...強敵だわん」
腹をさすりながら呻くその姿は、まるで海水に続く新たな敵に敗れた戦士のようである。
ジュードも源さんも、時間が解決してくれるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
”カエン”で働く従業員たちは、次々と皿を空にしていく。どんどん楽しんで欲しい。そんな思いで見守る中、人族では到底考えられない量の肉を平然とたいらげる様子に、俺たち以上に女将さんの方が気を揉んでいるようだった。
そんな女将さんも、クラシアルのいる厨房に呼び寄せ、ご飯を召し上がって頂くことにした。
“幻影の指輪”で姿を取り繕ってはいるものの、その細い手首やこけた頬は、俺やクラシアルの目には隠しきれない。長らく満足な食事を取っていなかったのだろう。
従業員と一緒に...という訳にはいかないだろう。それに、聞いておきたいことも、確認しておきたいこともある。
「本当に申し訳ありません。従業員ばかりか、私にまでお気遣いを頂いて...」
女将さんは、申し訳なさそうに頭を下げた。声には遠慮と戸惑いが滲んでいる。
「まあまあ女将さん、いいじゃないですか。理由が何であれ、お互いに敵対の意志がなければ、一緒にご飯を食べるくらい、構わないでしょう...?」
俺はそう言って、少しだけ含みを持たせた。
俺の言葉に、女将さんははっと目を見開いた。瞳の奥に走った驚きは、やがて静かな覚悟へと変わり、観念したように小さく頷いた。
「いつから...気付いておられましたか?」
問いかけに、俺は少しだけ間を置いてから答えた。場の空気が静まり返り、ダイニングバーから聞こえる炭火のはぜる音だけが耳に残る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここに入ってからですね。同様に、あと二人も気づいています。ここにいる我が嫁のクラシアルと、酔いつぶれている我が右腕のジュードです」
俺の言葉に、女将さんはわずかに目を細めた。場の空気が一瞬だけ張り詰める。だが、こちらの意図を察したのか、彼女は何も言わずに静かに頷いた。
「ただ、私たちは争うつもりはありません。あなた方が、何か不穏な行動を起こさなければ」
俺はそう言って、やんわりと牽制の意を込めた。“変な気は起こすなよ”と。
女将さんは一瞬だけ目を伏せ、静かに首を振った。そして、少し間を置いてから口を開いた。
「私たちは、争い事を起こすつもりはございません。そんな力は、今の私たちには残っておりません。皆、お腹を減らして、まともに動ける状態ではないのです」
その声は、丁寧で礼儀正しくはあるものの、どこか力なく、空腹と疲労が染み込んだ響きが耳に残った。
「ただ、今回の食事で...本来の力の半分ぐらいまでは、回復できたかもしれませんが...」
そう言った直後、女将さんのお腹のあたりから...。
ぐぅぅぅぅぅぅぅ...
場違いなほど盛大な音が響いた。空気が一瞬止まり、次の瞬間、彼女は顔を真っ赤に染めて叫んだ。
「す、すみませんっ!」
その声は、先ほどまで八十代の女性として振る舞っていた彼女のものとはまるで別人。年齢にそぐわないほど、可憐で澄んだ響きを持っていた。
そして、俺の目の前で幻影の指輪を外し、ゆっくりと本来の姿へと戻っていく。
現れたのは、ルミナと同じくらいの年頃...十七、八歳ほどの少女だった。
身長はおよそ一六〇センチ。狭めの二重が穏やかな印象を与え、鼻筋はすっと通り、唇は弓のようにしなやかな形をしている。均整の取れた長い手足に、すらりとした体つき。肌は褐色に近いが、近くで見ると栄養不足のせいか、どこか血色が乏しく、頬も少しこけていた。
外見だけを見れば、ほとんど人族と変わらない。魔族らしい特徴は見当たらなかった。
そんな彼女が、俺の前でいきなり...。
「私は第三十二代魔王、ワルツの娘、クリストローネと申します」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彼女は深く頭を下げ、声を震わせながら言葉を続けた。
「急なお願いであることは重々承知しております!ですが、どうか話を聞いて頂けませんか?そして、もし可能であれば...私の父、ワルツを助けて頂きたいのです!」
そう言って、彼女は再び俺の前で深々と頭を下げた。声には切実な思いが滲み、揺れる瞳がその願いの重さを物語っていた。
助けるのは構わないが、理由が気になるな。
洋服の店”ホルン”女将さんの話では、”カエン”は高齢の人族のご夫婦が切り盛りしていたはずだ。けれど、だ。
ご夫婦はどうした?魔族がここにいる理由は?宿と魔族の関係は?そのあたりを説明してもらわないと、話を進めるわけにはいかない。
悪い人たちじゃなさそうだし...まずは、話を聞いてみるか。
俺はしゃがみ込み、床に落ちた皿をそっと拾い上げながら声をかけた。女将さんは壁に片手を添え、揺れる心を押しとどめるように、静かに呼吸を整えていた。指先は木目に触れ、わずかに震えている。
「すみません...お話があまりに衝撃的で。それに、本当にありがとうございます。キッチンフロアまで、こんなに綺麗にしてくださって...」
壁に預けた手をそっと引き寄せながら、女将さんは笑みを浮かべた。その表情には礼儀と感謝が滲んでいたが、どこかぎこちなく、心の揺れがまだ残っているようだった。
俺は拾った皿を棚に戻し、女将さんの方へ向き直ると、声を柔らげて言った。
「それは良かったです。それより、もしよければ皆さんも一緒に食事をしませんか?宿の裏には、オークやコカトリスの肉がまだたくさん残っていますから」
俺は、女将さんと従業員をご飯に誘った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
幻影の指輪で姿を取り繕ってはいるものの、彼らの本来の顔色はどこか青白く、頬もこけている。痩せているのは顔だけではない。身体全体もガリガリだ。
それでも料理に手を伸ばさず、つまみ食いひとつしないのは、女将さんへの忠誠心が深いのだろう。
「そんな...悪いですから。従業員とお客様が同じ席で食事をするなんて」
女将さんはそう言って遠慮の意を示したが、その声にはわずかな揺らぎがあった。従業員たちは黙したままだが、視線が雄弁だった。殺気こそないものの、期待のこもった眼差しが女将さんの背に突き刺さる。
まあ、なかなか言いづらいよね。「では、ありがたく頂戴します」なんて言えないわな。
だからこそ、俺は一歩踏み出すことにした。
「この料理を作って下さった方々にも、一緒に食事に加わってもらうことにした!みんな、一緒に楽しもう!」
そう言いながら、俺は少しばかり強引に従業員たちを会場へと促した。戸惑いを見せながらも、彼らの足取りにはどこか軽やかさがあり、幻影の指輪の奥に潜む期待が、ほんのりと滲んでいた。
「わぁ!一緒に食べよう!」
「若いのに、こんなに美味しい料理を作るなんてすごい!」
「作り方、教えて!」
俺たちの仲間は歓迎ムード一色であった。
仲間たちは口々に声をかけ、従業員たちを温かく迎え入れた。場の空気は一気に華やぎ、料理を囲む輪がゆるやかに広がっていく。従業員たちはちらちらと女将さんの方を見て、“本当にいいのか?”と視線で問いかけていた。
その様子を見て、俺は最後の一押しとして女将さんに声をかける。
「女将さん、よろしいですか?」
女将さんは一瞬、ためらうように視線を泳がせたが、やがて静かに頷き、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
従業員たちの表情も、ようやく安心したようにほころび始めた。こわばっていた雰囲気が少しずつほどけ、顔つきにも穏やかな色が差していく。
そんな俺が、半ば強引に彼らを会場へと連れてきた様子を見て、シュリンが呆れたように肩をすくめる。
「こういうことの察しはいいのに、どうして女心が分からないのかしら?」
すると、カレンが愛おしそうに俺を眺めながら、うっとりとした表情で口を開く。
「でも、それがまた素敵なんですよね♡」
その横で、ルミナが「うん、うん♡」と深く頷いていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ドリューやメリシーをはじめとする仲間たちが、料理や酒を次々と勧めるうちに、彼らの緊張も遠慮も、炭火の香ばしい煙とともに、ゆっくりと空気に溶けていった。
従業員が加わったことで会場の熱気は一段と高まり、笑い声と興奮が絶え間なく場を満たしていく。料理人たちの変わりとして、クラシアルをはじめとする料理上手な仲間たちが、快く引き受けてくれた。
とはいえ、クラシアルが解体してくれたオークやコカトリスの肉を、炭火で軽く炙るだけのシンプルなもの。それでも、香ばしい肉の匂いが食欲をそそり、シチューやパン、果物などと並んで、立派なごちそうとなった。
従業員たちは目を輝かせながら、それらの料理を次々と口に運ぶ。中には、一枚三百グラムはありそうなステーキを十枚以上たいらげる猛者もいた。
メリシーやドリュー、ラン、アルたちは、従業員と飲み比べや食べ比べを始め、場の賑わいはさらに増していく。キッチンホールのあちこちで、種族の垣根を越えた笑い声が響き渡り、空間全体が祝祭のような熱気に包まれていた。
ただし一部の者を除いてだが...。
酔いつぶれた者、食べ過ぎて動けなくなった者は、もはや宴どころではなかった。
何名かは酒に呑まれ、意識も朦朧としたまま、割り当てられた部屋へと、半ば引きずられるようにして運ばれていった。
また、バーの端っこで「うーん、うーん」と唸っている者など、様々である。
その中の一人、ジュードは樽を抱きしめるようにして、すやすやと眠っていた。頬には微かな紅潮が残り、口元には満足げな笑みが浮かんでいる。まるで夢の中でも宴を楽しんでいるかのようであった。
そして源さんは、犬とは思えぬ仰向けの姿勢で四肢を投げ出し、苦し気に唸っていた。
「苦しいわん、苦しんわん。この肉は...強敵だわん」
腹をさすりながら呻くその姿は、まるで海水に続く新たな敵に敗れた戦士のようである。
ジュードも源さんも、時間が解決してくれるだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
”カエン”で働く従業員たちは、次々と皿を空にしていく。どんどん楽しんで欲しい。そんな思いで見守る中、人族では到底考えられない量の肉を平然とたいらげる様子に、俺たち以上に女将さんの方が気を揉んでいるようだった。
そんな女将さんも、クラシアルのいる厨房に呼び寄せ、ご飯を召し上がって頂くことにした。
“幻影の指輪”で姿を取り繕ってはいるものの、その細い手首やこけた頬は、俺やクラシアルの目には隠しきれない。長らく満足な食事を取っていなかったのだろう。
従業員と一緒に...という訳にはいかないだろう。それに、聞いておきたいことも、確認しておきたいこともある。
「本当に申し訳ありません。従業員ばかりか、私にまでお気遣いを頂いて...」
女将さんは、申し訳なさそうに頭を下げた。声には遠慮と戸惑いが滲んでいる。
「まあまあ女将さん、いいじゃないですか。理由が何であれ、お互いに敵対の意志がなければ、一緒にご飯を食べるくらい、構わないでしょう...?」
俺はそう言って、少しだけ含みを持たせた。
俺の言葉に、女将さんははっと目を見開いた。瞳の奥に走った驚きは、やがて静かな覚悟へと変わり、観念したように小さく頷いた。
「いつから...気付いておられましたか?」
問いかけに、俺は少しだけ間を置いてから答えた。場の空気が静まり返り、ダイニングバーから聞こえる炭火のはぜる音だけが耳に残る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここに入ってからですね。同様に、あと二人も気づいています。ここにいる我が嫁のクラシアルと、酔いつぶれている我が右腕のジュードです」
俺の言葉に、女将さんはわずかに目を細めた。場の空気が一瞬だけ張り詰める。だが、こちらの意図を察したのか、彼女は何も言わずに静かに頷いた。
「ただ、私たちは争うつもりはありません。あなた方が、何か不穏な行動を起こさなければ」
俺はそう言って、やんわりと牽制の意を込めた。“変な気は起こすなよ”と。
女将さんは一瞬だけ目を伏せ、静かに首を振った。そして、少し間を置いてから口を開いた。
「私たちは、争い事を起こすつもりはございません。そんな力は、今の私たちには残っておりません。皆、お腹を減らして、まともに動ける状態ではないのです」
その声は、丁寧で礼儀正しくはあるものの、どこか力なく、空腹と疲労が染み込んだ響きが耳に残った。
「ただ、今回の食事で...本来の力の半分ぐらいまでは、回復できたかもしれませんが...」
そう言った直後、女将さんのお腹のあたりから...。
ぐぅぅぅぅぅぅぅ...
場違いなほど盛大な音が響いた。空気が一瞬止まり、次の瞬間、彼女は顔を真っ赤に染めて叫んだ。
「す、すみませんっ!」
その声は、先ほどまで八十代の女性として振る舞っていた彼女のものとはまるで別人。年齢にそぐわないほど、可憐で澄んだ響きを持っていた。
そして、俺の目の前で幻影の指輪を外し、ゆっくりと本来の姿へと戻っていく。
現れたのは、ルミナと同じくらいの年頃...十七、八歳ほどの少女だった。
身長はおよそ一六〇センチ。狭めの二重が穏やかな印象を与え、鼻筋はすっと通り、唇は弓のようにしなやかな形をしている。均整の取れた長い手足に、すらりとした体つき。肌は褐色に近いが、近くで見ると栄養不足のせいか、どこか血色が乏しく、頬も少しこけていた。
外見だけを見れば、ほとんど人族と変わらない。魔族らしい特徴は見当たらなかった。
そんな彼女が、俺の前でいきなり...。
「私は第三十二代魔王、ワルツの娘、クリストローネと申します」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彼女は深く頭を下げ、声を震わせながら言葉を続けた。
「急なお願いであることは重々承知しております!ですが、どうか話を聞いて頂けませんか?そして、もし可能であれば...私の父、ワルツを助けて頂きたいのです!」
そう言って、彼女は再び俺の前で深々と頭を下げた。声には切実な思いが滲み、揺れる瞳がその願いの重さを物語っていた。
助けるのは構わないが、理由が気になるな。
洋服の店”ホルン”女将さんの話では、”カエン”は高齢の人族のご夫婦が切り盛りしていたはずだ。けれど、だ。
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