23 / 50
22.傷ついた心
しおりを挟む――俺は、何をやってるんだろう。
矢島が担任に頼まれてゴミ捨てに行ってからなかなか教室に戻ってこなかったせいか、無意識のうちに探していた。
廊下から見える一階通路はゴミ捨ての際に絶対通ることを知ってるからボーっと眺めていると、矢島が誰かと一緒にいるのがわかった。
身を乗り出して見てみると、相手が木原だと判明する。
しかも、困惑している矢島にしつこく何かを言っていたから、じっと耳をすませた。次第にそれが遊びに誘われているとわかった瞬間、足元に落ちていたテニスボールを力いっぱい投げて二人の真横に叩きつけた。
木原は俺からまた大切なものを奪おうとしている。
それは、二度目じゃなくて、次で三度目に……。だから、この瞬間に釘を打っておこうと思った。
矢島が教室に戻って来ると、俺は彼女の手を取って教室を出る。
階段を上って四階の踊り場へ行き、彼女の手を離して言った。
「これからは、大地から二メートル離れてくんない?」
「えっ、どうしてですか? 座席の関係で無理な時もあります」
「……っっ! それでも避けろ。……いいか、俺があいつに沙理を奪われたのを見ただろ? あいつは俺の女を狙ってる。俺を傷つける為に意図的に女に近づいて奪っていく。あいつは女にはいい顔してるけど、それくらい卑劣な奴なんだよ」
俺はプイッと背中を向けると、拳をワナワナと震わせた。
――正直、矢島は取られたくない。
別に恋愛感情がある訳じゃないけど、俺には木原に女を取られる恐怖が襲いかかっている。
あいつは顔がいい上に饒舌だから、女はあいつのひとこと程度でコロッと傾いてしまう。そして、一度傾いた女は二度と戻って来ない。
「そんなことないと思います。……私は遊ぼうと言われただけだし、普通に友達として誘っただけみたいだし」
「それが無理」
「えっ、どうしてですか?」
「お前がいないと沙理にヤキモチを妬かせる計画通りにいかなくなるだろ」
「…………そう、いうことですか。さっきは加茂井くんが木原くんから引き離してくれたからぬか喜びしてました……」
彼女は段々と語尾が小さくなっていき、シュンとうつむいた。
俺らは恋人を演じてるだけなのに、そんな悲しそうな顔をされるとこっちまで気分が落ちていくのはなぜだろう。
「ごめん……。深い意味で言った訳じゃない。そんなに落ち込むと思わなかったし」
「いいんです。でも、木原くんから赤城さんを引き離せば復讐になりますよ」
「俺はそんなに簡単な復讐をするつもりはないから」
矢島は何も悪くないのに、俺はさっきから何をイライラしてるんだろう。
もしかしたら、木原に百発百中女を取られてるから気が焦ってるのかもしれない。
矢島は俺のことを好きでいてくれるから簡単になびかないと思うけど、二度に渡って傷ついた心は簡単に修復しないようだ。
0
あなたにおすすめの小説
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる