オレ様黒王子のフクザツな恋愛事情 〜80億分の1のキセキ〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
6 / 115
第一章

5.爆発した心

しおりを挟む


「阿久津くん?  ……どうしてここに?」

「その卵焼きくれるの?  くれないの?」


「あっ、うん。どうぞ……」



  ポカンとしながら返事をすると、彼は壁面に設置されているハシゴを降りてから私の隣に座り、マスクをずらして無防備に口を開けた。

  初コミュニケーションが『その卵焼きちょうだい』だなんて変な人。
  しかも、口を開けてるという事は私に食べさせて欲しいのかな。
  
  マスクをずらした姿を見るのは初めてだけど、血色のいい唇に整った歯並び。
  想像してたより整っている顔。
  箸でつまんでいる卵焼きを口の中に放り込むと、彼はもぐもぐとかみ砕く。



「うめっ……。これ自分で作ったの?」

「ううん、お母さんが」


「だよな。お前のような隠キャが作り出す味じゃないし」

「……」



  なにこの人……。
  喋ってから3分後には毒舌?
  自分だって隠キャなのに初っ端から失礼だな。

  咀嚼そしゃくしてる様子をじっと見ていると、彼は何かを示すかのようにあごをクイッと前に向けた。



「ねぇ、そのゲーム面白いの?」

「えっ?」


「床に置いてあるスマホに映っているその王子様キャラのやつ」

「あっ、あああっ!!  これはっ!!」



  指摘されたのは、開きっぱなしにしていたドキ王。
  これ以上突っ込まれたくなかったから、スマホを鷲掴みにしてスカートのポケットにしまった。
  お弁当を開く前に床に置いてた事をすっかり忘れていた。
  しかも、焦り狂う様子に「プッ」と笑われる始末。

  しかし、そんな彼が気になっていたのは卵焼きでもなくリア王でもなく……。



「お前さ、いつも渡瀬に都合よく使われて悔しくないの?  職員室にノート持って行けとか、黒板消しといてとか、ジュース買って来いとかさ」



  杏との複雑な事情だった。
  その話題を挙げた意図がわからないけど、心の傷口が少しずつ開いてく。



「……阿久津くんには悔しくないように見える?」

「わかんない。俺の席からはあんたの背中しか見えないから」


「席、一番後ろだもんね」



  私はクラスで透明人間のような存在だから、  誰にも気にされてないと思ってた。
  でも、見ている人がいると知ったら、それはそれで複雑な気持ちに。



「言い返さないの?」

「えっ……」


「お前の都合のいいようにこき使ってんじゃねーよって素直に言えばいいじゃん。それとも、言い返さないって事は何とも思ってないの?」



  心の傷口が抉られていく度に、もう1つの感情が距離を置く準備を始めていた。

  嫌な事をされて何とも思ってない訳じゃない。
  毎日毎日考えてるし、自分でも改善しなきゃと思ってる。
  でも、その仕方がわからないから今日までたっぷり悩んできた。

  それに、表面的な所しか見てない人に心の問題に触れて欲しくない。
  私の心の深部は想像以上に傷ついているから。

  結菜はひと口も食べていないお弁当箱に蓋をして袋にしまって立ち上がった。



「人の事情を知らないくせに口を挟まないでよ!  阿久津くんには私の気持ちなんてわかんないからっ……」



  拳を握りしめたまま不機嫌にそう吐き出すと、彼から逃げるように走り去った。

  彼は悪くないのに、何故か気持ちを爆発させていた。
  本当は黙り続けている事がもう限界だったのかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

処理中です...