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第四章
19.王子様系の奏
しおりを挟むーージャージ事件の日の翌日。
二時間目に高梨先生の数学の授業があった。
返却されたばかりのノートを開くと、秘密の付箋を発見。
誰にも気づかれないように付箋を剥がしてポケットにこっそりしまう。
今日は密会の日かな?
なぁんて胸を躍らせながら、先生の心地よい授業を聞いていた。
授業が終わると現実に戻り、蓮が飼い犬のように私の席へとやって来る。
「ごめん、今からトイレに行くから」
と、言って席を立ってからトイレに駆け込んだ。
別に蓮を避けてる訳じゃなくて、単にメモの内容が気になってただけ。
個室に入り、胸を弾ませながら秘密のメモをポケットから取り出して開く。
《ごめん。午後から出張だから今日は会えない。夜、電話するね》
なーんだ……。
会える事を期待していたのに、残念なお知らせの方か。
メモは再びポケットの中にしまい込み、トイレを出た。
ガックリ肩を落としながら廊下を歩いていると、イケメントリオの王子様系 奏が久しぶりに声をかけてきた。
「おーおーおー! 梓じゃ~ん。相変わらずしけたツラしてんなぁ」
「失礼ね……。あれ、いま一人? 珍しく隣に女子がいない」
「わかってないな~。俺様が一人の時は人一倍輝いてる瞬間なの」
「は? ……あ、はぁ。(何言ってるかさっぱりわかんない)奏は未だに二股かけてるの?」
「二股じゃない。今は一人減って四股!」
「それって自慢できる事じゃないんだけど……」
私達二人はいつもこんなくだらない会話をしていた。
奏とは結構久しぶりに会ったけど、相変わらず女好きなようで。
イケメントリオは確かにモテる。
三人ともそれぞれ個性的だし、口はうまいし、ため息が出るほど美しい容姿だ。
だけど、基本みんなチャラい。
蓮は私と交際してから落ち着いたものの、最終的には浮気をした。
金髪で短髪のワイルド系イケメン 大和は、交際するのが面倒なタイプでいつも日替わり彼女。
来るもの拒まずだけど、結局は使い捨て。
その割には人の恋愛に首を突っ込んでくる。
茶髪でウルフカットの王子様系イケメン 奏は、大和と同じく来るもの拒まずだけど、彼の場合は簡単に手放さない厄介なタイプ。
だから、二股三股は日常茶飯事。
「トイレで手ぇ洗ったからハンカチ貸して~」
「彼女に借りればいいでしょ」
「俺はいまハンカチを使いたいの~。いま~」
奏は駄々をこねるようにおふざけ口調で顔を20センチまで近付かせてきたから、思わず足が二歩遠退いた。
付近にいる女子三人組からは羨ましそうな目線。
だけど、本性を知ってる私には関係ない。
彼の場合、人懐っこいというより単に私をバカにしてるようにしか見えないけど。
「ハンカチくらいちゃんと持ち歩いてよ」
「どうして? 女がいつも持ってるから持ち歩く必要がないし」
「あっそ……」
呆れ顔でそう言いながらハンカチを貸そうとして、しぶしぶとブレザーのポケットから取り出した。
ーーが、次の瞬間。
同じポケットに入っている秘密の付箋が、ハンカチを取り出したと同時にヒラリと足元へ落ちた。
奏はすぐさま気付いて、ヒョイと拾い上げて目を通す。
「ねぇ、ポケットから何か一緒に落ちたけど、これなぁに?」
「……え、何か落ちた?」
そう言った時には既に遅し。
奏は拾った付箋をヒラヒラと見せつけながら、まるで弱みを握ったかのように口元をニヤつかせた。
「何コレ。『ごめん。午後から出張だから今日は会えない。夜、電話するね』って。お前センセーと付き合ってんの?」
一瞬で頭が真っ白になった。
あんなに注意深く扱っていた付箋をあっさり落としてしまった挙句、奏に読まれる隙を与えてしまうなんて……。
「やっ……、やだなぁ。違うよ。返して。」
すかさず反論しつつも、寒気がするほど全身の血の気が引いた。
「しらばっくれんなって。誰だよ、午後から出張に行ってるヤツ。教師と生徒の禁断の恋……。ヤベーな」
「ちょ……ちょっと、奏ったら! 付箋を返してよ!」
奏が高々と上げた付箋は取り返そうとして必死にジャンプをしても小さな身長では届かない。
意地悪な奏はほくそ笑む。
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