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第二章
15.吊り上がっていく金額
しおりを挟む金は好きだ。
むしろ嫌いなんて奴は今まで見た事も聞いた事もない。
でも、金で人の人生を操るのは間違っている。
この世は金が全てじゃないと思っているし、貧乏且つ大家族で育ってきた俺には、金以上の充実感や喜びを経験してきたからこそ言える。
しかし、彼女は諦めずに切実な目を向ける。
「お願いします。レンタル彼氏では言い方が良くないし、私には時間が残されていないので、丸々一ヶ月間の契約彼氏になって下さい」
「え、レンタル彼氏? 契約…カレシ? 何それ?」
「包み隠さず申しますと……、実はあなたに恋してます」
「あんた……、以前から俺を知ってたの?」
「はい。今こうしてるのは急に思い立ったからではありません。それに、契約彼氏は誰でもいい訳ではありません。あなたにお願いしたいんです。一つで足りないなら二つでどうですか?」
彼女はそう言いながら、ハンドバッグの中から二束目の札束を覗かせた。
俺はハンドバッグから金を覗かせる度に胸がドキッとする。
帯付きの札束を実際に見たのは初めてだったのに、まさか二束目も同時に目に映す事になるなんて。
でも……。
根本的にそういう問題じゃない。
彼女がお金持ちであっても、金で人の心は操れない。
だから、自分が間違いに気付かせてあげなければならないと思って言った。
「好意を寄せてくれているのは嬉しい。でも、契約彼氏って月極の駐車場じゃないんだからさ……。無理なもんは無理だよ。それに、俺は金で揺らぐような男じゃない。これでも真っ直ぐに生きて来たんだ」
俺はすかさず彼女との間に境界線を引いた。
もし、彼女の言う通り彼氏契約になったとしても、金以外のメリットを感じないし、その先の代償に立ち向かえる勇気がない。
確かに、給料が安定しないフリーター生活だし、物価高になってからは更に生活が困窮してるけど、それ以外はそこそこ満足しているから敢えて冒険する必要もない。
「そうですか。これじゃあ足りないですか……。なら、もう一つ足して三つでどうですか?」
彼女は俺の言葉に物応じせず、再びハンドバッグに手を入れて三束目の札束を取り出した。
その額合わせて300万円。
いま彼女の手元にはサラリーマンの年収に近いくらいの金額がある。
それをポンっと差し出せるくらいの財力に思わず言葉を失った。
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