契約彼氏とロボット彼女 〜100万円から始まる100%の恋〜

伊咲 汐恩

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第三章

24.余計なひとこと

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  颯斗は無頓着のまま土足で部屋に踏み上がる沙耶香にパーの手を突き出した。



「ちょっと待った!  家の中は靴を脱いでくれ」



  すると、沙耶香はキョトンとした目で振り返る。



「どうして靴を脱ぐんですか?」

「日本人なら家の中で靴を脱ぐのは常識だろ」


「常識なんですか?  我が家はみな靴を履いてますけど」

「えっ、どうして?」


「靴を脱いだら足が汚れるじゃないですか」

「は……はぁ。じゃあ、俺んちでは脱いでくれないかな。あんたの家とはルールが真逆だから」



  俺は彼女との生活レベルの差に頭を抱えた。
確かに家はキレイな方じゃないけど、三日に一度は掃除をしてる。
  でも、普段から靴を脱ぐ習慣がないと言われてしまえばそこまでだ。

  しかし、この悩みはこれから始まる生活ギャップのほんの序章に過ぎなかった。



「部屋の中なのに蒸し暑いですね。もしかして、空調システムは故障中ですか?」

「え、空調システム?  なにそれ」


「……知らないんですか?  一年中適度な温度と湿度に自動設定されるシステムの事ですよ。空気清浄機の役割も果たします」

「それを知ってる方が珍しいよ……。俺んちはあの扇風機一台しかないよ」



  そう言ってちゃぶ台の横で首を振っている扇風機に指をさした。



「……冗談を言ってるんですよね?  扇風機とは風を部屋に循環させるだけの機械ですよ」

「冗談じゃない。生活が苦しいからエアコンすら買えないの。だから、帰ってくれ」



  俺は彼女を追い出すチャンスだと思って、少し強めの口調で言った。

しかし、彼女は……。



「嫌です。あっ!  それなら今から空調システムを設置しましょう。今から電話で業者を呼ぶのでちょっと待ってて下さいね」



  諦めるどころか小さなハンドバッグからスマホを取り出して、何処かに電話する素振りを見せた。
  俺は焦って声を上げる。



「やめろ!  頼んでない。設置しなくていいから」

「でも……」


「空調システムを設置したら部屋に入れてやらないからな」



  昨日の100万円の件を思い返した瞬間、彼女ならやりかねないと思って言った。
  設置なんてされてしまったら、自動的に彼女の条件を受け入れなければならなくなる。

  しかし、彼女は更にうわ手を行く。



「じゃあ、設置しなければ部屋に入っていいと言う事ですね」



  メガネを光らせながらそう言うと、スタスタと部屋の奥に進んだ。

  すると、彼女のボディーガードが大家への支払いを終えて部屋に上がる。
  二人が玄関で靴を脱いでいるところを確認すると、一般常識がないのは彼女だけだと知った。



  沙耶香は狭ぜましい室内を物珍しい目で見回す。



「リビングはどちらですか?」

「リビングはここ。あんたがいる場所」


「こっ、ここがリビング……。もしかして、インテリアはジャングル風をイメージされてるとか」

「……失礼だな。窓際に置いてあるグリーンは家庭菜園なの。水菜、豆苗、パセリ、葉レタス。ベランダには人参、さやえんどう、じゃがいも、椎茸、ミニトマトが栽培してある」


「凄い。颯斗さんのベランダは農家なんですね」



  多分、貧乏が物珍しくて言ってるんだろうけど、一言一言がグサリとくるのは何故だろう。

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