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第四章
39.彼女の記憶
しおりを挟む二人は帰宅してから就寝準備に取り掛かった。
沙耶香が台所で歯磨きをしている間、颯斗はこの家にたった一枚しかない布団を敷いている。
沙耶香はその様子を見て思った。
布団は自分の為に敷かれているものだと。
七月上旬とはいえ、体育座り状態で身体を休ませるのは身体に良くない。
だから、言った。
「颯斗さん、今日から同じ布団で寝ませんか?」
「えっ!」
颯斗は交際経験のないサヤの無鉄砲な提案に胸がドキッとした。
「颯斗さんは丸一日働いて疲れが溜まっているのに……。横になって休まないと疲れが取れません。昨日みたいに体育座りのまま寝たら身体に良くないですよ」
沙耶香は初めての仕事で身体を駆使したからこそ思う言葉だった。
「でででっ……も……、男女が一つの布団に入るんだよ? (ってか、眠れる自信がない!)」
「構いません。恋人なら一つの布団くらい」
「サ……サヤがいいと言うなら……」
ーー時計の針は1時50分。
照明を落としてから、俺達はそれぞれ背中を向けて一つの布団の中に入った。
タイマーがかかってる扇風機の音が耳に触る。
背中から漂ってくるぬくもりと気配。
しかも、本物の彼女でもない女の子が同じ布団の中に。
当然、眠気などやってくる気配は感じられない。
ドックン…… ドックン……
やべぇ、暴れ狂うハートビートで理性を失いそうになる。
ほんのりと漂ってくる女の子の香り。
彼女の身体が僅かに動く度に緊張感に包まれる。
俺は本能をむき出しになる前に理性を呼び覚ました。
「ねぇ、サヤ。起きてる」
「普通に眠れません」
「だよな……。一つ質問があるんだけど、聞いてもいい?」
「何ですか」
「俺の事をどこで知ったの?」
お嬢様のサヤが貧乏人の俺と知り合う確率は0%に近いし、二十二年間の記憶を遡ってもサヤと知り合った記憶が思い出せない。
すると、彼女は背中側からポツリと呟いた。
「それは言えません」
「どうして?」
「颯斗さんに思い出して欲しいからです。……じゃあ、おやすみなさい」
サヤはそれ以降話してくれなかった。
言いたくないのか。
若しくは言えない事情があるのか。
迷宮入りしたサヤとの出会い。
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ピクリとも笑わない事も何か関係しているのだろうか。
それに、昨日言ってた言葉がどうも引っかかる。
『優しい言葉をかけてくれたり……。可愛いよって言ってくれたり……。手を繋いだり……。サヤも目一杯恋を楽しみたいので……』
サヤ……。
君は一体何者なんだ。
どうして身元を隠すんだろう。
俺は残りの二十六日間でその答えを見つけていきたい。
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