契約彼氏とロボット彼女 〜100万円から始まる100%の恋〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
108 / 121
最終章

107.監禁

しおりを挟む



ーー結婚式から二日後。

  自室に監禁されている沙耶香は、涙でただれている目のまま窓の外をぼーっと眺めていた。


  思い描かれているのは、ホテルのリネン室で引き裂かれてしまった瞬間の颯斗の顔。
  颯斗とはあの日を境に会えなくなってしまった。



  窓から離れて机に向かい、机上のノートを開いた。
  そのノートには、颯斗と暮らしていた時の幸せいっぱいな思い出が書き綴られている。
  毎晩、颯斗が寝静まってから書き溜めておいたものだ。



  ページが進む度に膨らんでいく想い。
切り捨てなきゃいけない恋心。
  そして、最終ページに書き綴った悲痛な叫び。



「颯斗さん……、会いたい……。今どこにいるの」



  ノートを押さえてる指の隙間にポタポタとこぼれ落る涙。
  左薬指にはめられているシルバーのケーブルタイは、あの日から身につけたまま。
  指にはめてもらった時は最高に嬉しかったはずなのに、幸せに浸る余裕などなかった。


  騒動を起こした後、右京と左京と菅は共犯者として業務停止命令を受けていた。

  だから今は味方がいない。




  一方の颯斗は、リネン室から引きずり出された後、ホテルの一室に連れて行かれて監禁されていた。
  扉の外には監視員が二人。

  シェフパンツのポケットにはスマホが刺さっているが、沙耶香の連絡先は当然知らない。


  颯斗は枕に頭を落として天井を眺めながら沙耶香の事を思い描いていた。



サヤ……。
いま元気にしてるかな。
寂しい思いをしてないかな。


毎日同じ飯を食って、
毎日一緒に銭湯へ行って、
毎日一緒に居酒屋で働いて、
毎日身体を縮こませながら小さな布団に身を寄せ合った。


  裕福な家庭で育ったサヤにとって貧乏生活は苦痛でしかないのに、白旗を上げるどころか馴染む努力まで。



  俺は二日前に監禁されてから、夜を迎える度に窓の前に立って夏の大三角形を眺めていた。
  こうやってホテルから空を見上げているように、サヤも部屋から空を見上げているんじゃないかなって。

  もし見つめているところが同じなら、描いてる未来も同じだと願っている。




  即席で書いた恋人業務委託契約書。
サインをしてもらう前にポケットの中に戻ってきてしまった。
  最初にサヤが書いた契約書も結局サインはしないまま。
  元々、無理に拘束する気は無かったのだろう。



  あの日に渡すはずだった名前入りの指輪は自宅に置きっぱなしのまま。
  テレビを開封した際に適当に指に巻いたケーブルタイを指輪代わりにするなんてダサいよな。
  家を飛び出す時に持っていけば良かったのに、そこまで頭が回らなかった。

  空回りばかりの言動に嫌気がさすばかり。



次はいつ会えるのかな。
いまどうしてるんだろう。


もしかしたら、既に窪田の嫁に?


それだけは無理。
もし二人が結婚していたら、これからどうしたらいいか……。






  俺は絶望感に陥っていた。

結婚式をぶち壊してしまった事も彼女に会えなくなった要因だけど、まさか監視付きの部屋にぶち込まれる事になるとは……。


  仕事も放ったらかしだし、途方に暮れる日々。
きっと、サヤの両親は俺達を許さない。
だから俺達はおり姫とひこ星のまま。



  颯斗はやりきれない気持ちと闘いながら、ベッドの上に座って頭をぐしゃぐしゃとかきむしっていると……。

ガチャ……


  部屋の扉が開く音がした。
ゆっくりとした目つきで扉の方に振り返ると。



「えっ……」



  思わず声が漏れてしまうほど驚いた目線の先には……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

鬼隊長は元お隣女子には敵わない~猪はひよこを愛でる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「ひなちゃん。 俺と結婚、しよ?」 兄の結婚式で昔、お隣に住んでいた憧れのお兄ちゃん・猪狩に再会した雛乃。 昔話をしているうちに結婚を迫られ、冗談だと思ったものの。 それから猪狩の猛追撃が!? 相変わらず格好いい猪狩に次第に惹かれていく雛乃。 でも、彼のとある事情で結婚には踏み切れない。 そんな折り、雛乃の勤めている銀行で事件が……。 愛川雛乃 あいかわひなの 26 ごく普通の地方銀行員 某着せ替え人形のような見た目で可愛い おかげで女性からは恨みを買いがちなのが悩み 真面目で努力家なのに、 なぜかよくない噂を立てられる苦労人 × 岡藤猪狩 おかふじいかり 36 警察官でSIT所属のエリート 泣く子も黙る突入部隊の鬼隊長 でも、雛乃には……?

処理中です...