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第六章
159.男版和葉
しおりを挟む非常階段の踊り場で告白をされた日の翌日から、吉田のアピール作戦が開始された。
彼は1時間目と2時間目の授業の合間の時間を使って、私に会う為に教室内に侵入してきた。
教卓の正面の列の前から三番目に座ってる私の席の前の空いている席に腰を下ろして私の方に身体を向けた。
「ねぇねぇ、和葉ちゃん。どうして昨日電話してくれなかったの? 君からの電話を一晩中待ってたのになぁ」
吉田は椅子の背もたれに両腕を組んで上目遣いで問いかけてきた。
こうやって違う学年の教室内に侵入するところや、一刻でも早く互いの距離を縮めようとしているところは、つい先日までの自分と同じ。
だから、吉田の気持ちはわからなくもない。
「昨日の……、吉田さん」
「へぇ~、あの紙切れ一枚で名前覚えてくれたんだ。……じゃあ、ちょっとは脈あり?」
「違っ……」
「吉田さんじゃなくて敦士でいいよ」
彼は第一反応を見るかのように、上手く言葉選びをしている。
「でも、昨日知り合ったばかりで名前を呼び合うような仲じゃないし」
「うわっ、めっちゃ他人行儀。ねぇ、つぎ吉田さんなんて言ったら、廊下に出て『和葉ちゃん、愛してるぅ~』って、大声で叫んじゃうかも」
彼はニンマリと意地悪を言ったが、私にはその姿が想像出来て笑えなかった。
「それだけは絶対嫌っ!」
「んじゃ、決まり。名前は敦士だから間違えないでね」
出会ってからまだ二日目だと言うのに、彼特有のペースに巻き込まれていた。
昨日は唐突な告白でそこまで意識していなかったけど、近くで見るとなかなかいい男。
5段階のうちの4じゃなくて、ひょっとしたらその上の4.5かもしれない。
まぁ、拓真に勝る人なんていないけど。
彼は一つ年上の三年生。
仕草一つにも大人の雰囲気を醸し出している。
年下の男は拓真が初めてだけど、年上の扱いには慣れている。
でも、年上に甘やかされっ放しだったせいで、楽な道ばかりを辿ってきてしまった。
お陰で自分から求めていく恋愛がド下手で苛つく。
「ねぇ、和葉ちゃん。今好きな人いるの?」
彼は聞きたい事をどストレートに質問してきた。
この辺も非常に自分とそっくり。
だから、吉田を思ってきっぱりハッキリと伝える事にした。
「いるに決まってるでしょ。一ヶ月くらい前に私が屋上から全校生徒が揃ってる中で男に告白してたの見たでしょ?」
あれは私にとっていい思い出じゃないから言っていて虚しかった。
しかも、その後にチャンスをもらって現在に至るけど、関係はまだまだ平行線だし。
しかし、吉田はそれくらいでは動じない。
俯いた顔の口元からは小さな笑みが溢れている。
「なーんだ、そんな過去のことはよく分かんない。どっちみち今はフリーなんでしょ?」
「……そうだけど」
和葉は上手くいかない現実を指摘されてムクれていると、吉田は突然中指と薬指を使って和葉の短い髪に触れた。
「じゃあ、俺にもチャンスはあるかもね」
そう言って指先からするりと髪を離した後、ちょうどチャイムが鳴った。
すると、吉田は席を立って和葉に手を振りながら教室を出て行った。
二人のやりとりを遠目で見ていた祐宇と凛は、吉田が教室を去った後に鼻息を荒くしながら和葉の傍に駆け寄った。
「彼、なかなかやるじゃん。でも、女慣れしてそう」
「男版和葉って感じ? なかなかいい男じゃん。校内ナンパ?」
「……ま、そんな感じ」
周りから見ると、彼は男版和葉……か。
確かに共通するところは沢山あった。
でも、ちゃんと断ったつもりなのに、どうしてわかってもらえないんだろう。
交際を断っても諦めの悪い敦士に軽く頭を悩ませていた。
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