280 / 340
第十章
280.背中から届いた泣き声
しおりを挟む今日は絶望を味わった日の二日後。
拓真に弁解をしたい一心のこのタイミングで、二学期の終業式の日を迎えた。
あの日から丸二日間、拓真は校内でバッタリ会っても目すら合わせてくれない。
僅かな休み時間に拓真のクラス付近に出向いて栞がいない隙を狙って「話をしよう」と、声で引き止めたりしたけど……。
私が透明人間になってしまったのような扱いに。
少し前に話したそうにジッと見つめていた頃の拓真はもうどこにもいない。
今は出会った頃以上に最低最悪な状況を迎えている上に、ここ二日間は生きた心地がしなかった。
しかし、先日父親にアドバイスしてもらったように、しっかり誠意を尽くしてこの状況を打開しなければならない。
いま以上に嫌われても構わないから、せめて誤解だけは解きたい。
でも、誠意とはどのように尽くしたらいいのか……。
布団に潜り込んで二晩考えても答えは見つからなかった。
何故なら、この17年間一度たりとも人に誠意を尽くした事がないから。
幼い頃から母親に放ったらかしにされて、男にちやほやされて生きてきたから、誠意を尽くすという言葉自体無縁だった。
適した答えが見つからない和葉の心は再び迷宮入りに。
下校時刻はとっくに過ぎていたが、和葉は北校舎一階の非常階段に腰を下ろして、一人で泣きべそをかいていた。
今日は友達と一緒に帰る気分になれなかった。
それに、HRを終えてからすぐに帰宅しなかった理由は、拓真の事が名残惜しかったから。
明日からいよいよ冬休み。
休み明けまで二週間ほど弁解するチャンスを失ってしまう。
拓真はもうとっくに下校しただろうし、こんなところで泣いていても無意味なのに、気持ちが足を引き止めている。
和葉が非常階段でシクシク咽び泣き始めると、開きっぱなしの非常階段の扉の裏側で腕組みしながら壁にもたれかかってる敦士の耳に泣き声が届いた。
敦士は、肩を落としながらふらりと教室を出て行った和葉を見かけたと同時に、いてもたってもいられなくなって後を追った。
泣き声がこもったように小さくなっていくと、敦士は扉の向こうから少し顔を覗かせた。
すると、和葉は踊り場から3~4段上の非常階段に座って両手で顔を覆って肩を震わせたまま静かに泣いていた。
敦士には、和葉が失恋したあの時と同じように、今にも消えて無くなりそうなほど精神が崩壊しているように思えた。
「またあいつ泣いてんのかよ。……参ったな」
思わずひとり言が漏れて苦笑すると、再び扉の裏側に回って右手でくしゃくしゃっと髪をかいた。
失恋して相手を忘れられないのは、和葉だけじゃない。
敦士も和葉が忘れられず毎日のように苦しんでいた。
だから、泣き顔や消沈している姿を見ると、自然と気分が沈んでしまう。
しかし、これは和葉が一人で乗り越えなければいけない試練。
だから心を鬼にして静かに見守らなければならない。
「俺、人一倍お節介で損な役割ばかり買っていたけど……。こうやってお前が一人で泣いていても、もう手ェ貸さないよ」
背中越しに泣き崩れている和葉に手を差し伸べない理由は、自分の為でもある。
そして、和葉が今後自分の力で未来を切り開く力を得ていく為に、自分達にはこの距離感が必要だと思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写と他もすべて架空です。
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる