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第十章
281.仲直りのチケット
しおりを挟む恋という大きな石につまずいてしまったまま、冬休みを迎えた。
今日はクリスマス。
サンタクロースに変装した親が深夜に子供の枕元にプレゼントをこっそり置いたり、友人同士や家族はプレゼントやケーキや豪華な料理を囲んで楽しいパーティーをしたり、恋人は大切な相手と幸せな時間を過ごすという、世界中に伝わる一大イベントは、夢溢れている幸せな一日になるはずなのに……。
今日の私は寒空の下、サンタクロースの衣装を着て山田と一緒にコンビニの店頭でクリスマスのホールケーキとチキンを販売している。
冷えは美の大敵だから背中にカイロを貼っているけど、身体が温まりきらないのは心が冷え込んでしまっているせいかな。
毎年、交際期間が短すぎて名前も思い出せない程度の彼氏とクリスマスを過ごしていたけど、今はひとり身のまま働いている。
短時間勤務だけど、パートアルバイト従業員は基本クリスマスは全員出勤。
通常勤務に加えてクリスマスは店頭でケーキとチキンを販売しなければならないのだから、通常よりも人手が多い。
きっと、幸せを撒き散らしているこの店は、不幸な時間を皆平等に分かち合おうとしているつもりだろう。
虚しいけど、クリスマスは繁盛期だからこれが現実と自分を宥めるしかない。
最近、人生二人目の彼女が出来た山田は、「今日はこれから彼女とデートなんっス」と、不幸な私に余計な置き土産を添えて18時に上がって行った。
勤務で顔を合わせる度に心の中で何度も思っているけど、彼はいつになったら空気を読んでくれるんだろう。
非常に地味でシンプルな不幸が襲いかかって来るのが毎回嫌で仕方がない。
いま過去最大級の不幸が襲いかかってしまっているだけに、人の幸せを素直に喜べない卑屈な自分がいる。
しかも、山田が早々と帰って行ったせいで、人員が減った上に私の仕事は更に忙しくなった。
もし、サンタクロースにクリスマスプレゼントを貰えるとしたら、拓真と仲直りチケットを迷わず選ぶ。
今は仲直りするだけで十分。
それ以上のお願いは、今の自分には贅沢過ぎるから。
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