LOVE HUNTER

伊咲 汐恩

文字の大きさ
303 / 340
第十一章

303.予防線

しおりを挟む



  自宅の縁側で腕を組んで立っている拓真は、畑で目をこすりながら草むしりを続けている和葉を遠目から見つめていた。

  瞳の中に映し出されている間は、和葉の事だけを考えてる時間。

  知り合ってから賭けで近付いたと知ったあの時の事までを思い描きながら葛藤している時間でもあった。



  昼食の片付けを済ませたお婆さんは再び居間に現れて拓真の横に立つと、後ろで手を組んだまま声をかけた。



「和葉ちゃん、草むしりをしながら泣いてるみたいね」



  拓真は泣いてる理由がわかっているだけに、話から逃げるように振り返って部屋を出ようとして足を進めた。

  一方のお婆さんは、朝から二人の距離感を心配していて解決策を模索していた。
  仲が良かったあの頃の二人を、もう一度見たいと思っていたから。



「何があったか知らないけど、暫くご無沙汰だった和葉ちゃんがわざわざここへ来てまで伝えたい話があったんじゃないかね」



  お婆さんの目線は和葉へ向けたままだが、同時に拓真の心と足を引き止めている。



「話を聞いてあげないの?  二人に何かあったとしても、こうやって話をする為に来てくれたのに今朝からまともに喋ってないでしょ」

「……」


「人間という生き物はね、相手を腹立たしかったり憎らしく思っていても、簡単に縁を断ち切る事が出来ないんだよ。あんたがこうやって何かを思うように、和葉ちゃんも色々思い巡らせているんだよ」

「……」


「沈黙を続けていても解決にはならない。せめて話を聞いてあげたらどうだい?  はるばる2時間かけて会いに来てくれたんでしょ」

「……俺は、あいつに話す事なんてないから」



  口を尖らせた拓真は、ふてくされた態度でボソッとそう吐き出した。
  しかし、お婆さんはその言い草から、なんとなく拓真が一方的に意地を張ってるのではないかと思い始めた。



「頑なに拒む理由は一体何なんだい?」

「婆ちゃんには関係ないだろ」



  拓真はこれ以上突っ込まれないように予防線を張った。
  今は自分の事で目一杯だから、人にわざわざ指摘されたくない。



「どうやら、私には話したくなさそうだね。でもね、私にはあの子の謝りたいという意志が伝わって来るの。あんたには見えないのかい?」

「……」


「頑固になってないで、一度真剣に向き合ってごらんなさい。それとも、あんた自身が向き合う自信と覚悟がないのかい?」

「……っ!」



  俺は和葉から逃げてるつもりはないし、向き合う自信や覚悟がない訳ではない。
  ただただ、これ以上の迷惑は被りたくないと。



「人間は間違いを正しながら成長をしていく生き物なんだよ。いい事と悪い事を分別しながら大人になっていく。最初から完璧な人間なんていない。だから意固地を張ってないで、時には相手の言い分に耳を傾けるのも人として成長していく過程の一つなんだよ」


 
  ……俺が耳を傾ける?
  アイツは俺の気持ちをもてあそんだのに、天地がひっくり返ってもあり得ないだろ。



「過去を振り返ってごらんなさい。バイク事故を起こした時、栞ちゃんは寛大な心であんたを許した。それは、あんたが連日謝意を示していたからこそ、誠意が伝わったんじゃないかね」



  最近、栞のお陰で心の傷は回復しつつあったが、お婆さんのそのひと言は、過去に過ちを犯した自分と、対話を望まない今の自分を両天秤にかけているように思えた。



「栞ちゃんの身体の傷と心の傷を一度思い返してみなさい。それと同時に今の自分を考えてみなさい。そうすれば自然と答えは出て来るはずだよ」



  お婆さんはくるりと振り返って拓真の横まで足を進めた。



「これ以上余計な事を言わないから、後はあんたが自分で判断しなさい」



  と言い残して、隣の自分の部屋へ戻って行った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...