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第十二章
329.重大な話
しおりを挟む祐宇と凛は和葉よりも先に校門に向かって待ち伏せをした。
校舎に設置されている時計は、既に16:45を指している。
暦は春へ向かっているのに、風は頬が痺れそうなほど冷たくて夕日が沈み行く空は薄暗い。
下校時刻を大幅に過ぎていて、校門を出て行く生徒は指折り程度。
しかし、部活動の生徒の声だけは耳に入ってくる。
二人が校門の裏で待機し始めてから、およそ15分後。
直前まで泣いていたかのように赤く目を腫らした和葉が肩を落としながらトボトボとした足取りでやって来た。
和葉がすぐ手前までやって来ると、祐宇と凛はアイコンタクトを取って二人同時に和葉の前で足を止める。
二人に気付いた和葉は少し驚いた顔を見せた。
「えっ、なになに? 下校時間はとっくに過ぎているのに、まだ帰っていなかったの?」
だが、二人は問いに答えようとしない。
普段は見られないような寂しい目をしている。
「和葉……。今日はバイト休みだよね」
「……あ、うん。シフトは入ってないけど」
「じゃあ、時間あるよね。少し話をしよっか」
頬をピクリとも動かさずにそう言った凛は、和葉の手を取って少し強引気味に駅と逆方向へ歩き出した。
「えっ、何? ねぇ、これから何処に行くの?」
「……」
凛は無言のまま。
手をぎゅっと握りしめたまま先を行く。
そして、祐宇は凛と和葉の後ろを黙って歩いている。
和葉は凛が何の話をしようとしているのか予測がつかない。
凛は栞と三人で話し合いをした河原へ足を運ばせた。
この場所を選んだ理由は、余計な雑音を耳に入れたくなかったから。
凛が先に学生鞄をベンチに置いてから腰を下ろすと、和葉も同じくベンチに腰を落とした。
祐宇は和葉の前を通り抜けて凛の横に座る。
三人座ったタイミングを見計らうと、凛は口を開いた。
「その黒髪は一体どういった経緯で染めたの? あんなに金髪がお気に入りだったのに」
和葉は深刻な雰囲気のまま河原に連れて来られて内心ドキドキしていたが、髪の毛の話題に触れると表情が砕けた。
「なぁんだ、今さらその話? 二人の表情があまりにも深刻そうだから、もっと重大な話かと……」
「重大な話って例えばどんな?」
凛は冷静な眼差しのままストレート球を投げる。
拓真とも張り合えるほどの強い眼差しに、和葉は戸惑いを隠せない。
「『例えばどんな』と言われても、急に思いつかないよ。でも、過去の話をする為に呼び出したの?」
先ほどまで拓真の事を思い描いていたが、少しでも拓真絡みの話題から外れようと思って一旦話を濁らせる事に。
「冗談で聞いてるんじゃないよ。はぐらかさないで」
「凛……?」
今日の凛はいつもと違う。
まるで心の扉をこじ開けるような勢いに、背中がゾクゾクと震え上がった。
しかし、黒髪になった原因を答えられない。
その理由は、一年前のトラウマが目の前に立ちはだかっているから。
そして、沙優と同じように恋愛話を面白おかしく言い広げられてしまったら、いま頼るものが一つもなくなってしまうから。
「どうして黒髪になった理由を言えないの? 大した質問でもないのに」
「あのっ、それは……」
和葉は早くこの話から抜け出したいが、凛は引けを見せないし、曖昧な返事を続けているうちに深みにはまっていく。
夕日が落ちて辺りは暗闇に包まれているが、街灯に照らされている気まずい表情は隠せない。
凛の鋭い目線は、まるでスナイパーが銃の引き金に指をかけているかのよう。
逃げ隠れも出来ないほど真っ直ぐ向けられた銃口は、弱りきっている心臓へと向けられている。
それは、私が白旗を上げるのを今か今かと待ち構えているかのよう。
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