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第六章

45.手柄

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  ーー肝試し最終組の怜が山林から戻って来て受付係にキーワードを伝えた。
  その際、戻った証にクラス名簿の名前欄の自分の箇所に丸をしたが、美那の名前に目をやると丸が付いてない事に気づく。



「もしかして、美那はまだ戻ってないの?」

「えっ、だって壺内くんが一緒に周ったんじゃないの?」


「途中で夏都のグループと合流したいって言って、先に行っちゃって……。嘘だろ……」



  怜はこの瞬間、美那が山林に取り残されていると知り、順次ホテルに戻ってきたお化け担当者に次々と声をかけ始めた。



「ねぇ、待機してる時に美那を見なかった?」

「さぁ」


「大山は?」

「見てないけど」


「渡邉は?」

「俺も見てない」



  怜が血相を変えながら1人ずつ美那の姿を見たかどうか確認していると、異変に気付いた夏都は怜のひじを引いて聞いた。



「ねぇ、それどーゆー事?  詳しく教えて」

「最初は2人で行動してたんだけど、美那っちが前方でお前の姿を見た途端、合流したいと言ってお前たちの方へ走って行ったんだ。だから、てっきり合流したのかと……」


「つまり、お前は美那とはぐれたまま1人で戻って来たって事?」

「……美那っちが先に戻ってると思ってたから」



  夏都は美那がまだ山林から戻って来てない事を知ると、血相を変えて山林へと向かった。
  怜は夏都の背中を見て競うように後を追う。



「美那~!  美那~!  どこにいるの?  聞こえたら返事して」

「美那っち~~! 美那っち~~!  美那っち~~!」



  夏都と怜は別々の方向を見ながら山林に足を踏み入れた。
  虫の音が2人を包み込む。
  すると、空からポツリと雨が降ってきて、次第に雨足が強くなって視界を遮った。

  教師やレスキュー隊も捜索を始めてから15分。
  夏都のTシャツが透けそうなほどの強い雨。
  それによって急激に体温が下がって身震いする。

  見つかる気配のない絶望感が押し寄せている怜は無責任な自分に苛立つと、気持ちをぶつけるかのように足元の石を川辺に投げつけた。

  ーーところが、落下した石の先には岩の間に挟まれている人の姿が。



「み……な……」



  驚くあまりそう呟くと、そのひと声に反応した夏都は怜の目線を辿って人影を発見すると、崖を滑り下りて川へ入った。
  怜も夏都の背中を見て崖を滑り下りる。


  雨によって増水している濁流が岩に引っかかっている美那の身体を包み込んでいる。
  お陰で流されずに済んでいるが、美那の意識はない。

  夏都はバシャバシャと膝までの水を踏みしめながら美那の元に到着すると、左腕で上半身を支えて大きな声で呼びかけた。



「美那!  おい、美那!  意識はある?」



  すると、声に反応した美那はゆっくりと薄目を開ける。



「滝原くん……。助けに来てくれたんだ……」

「……っ。よかったぁ……、お前が無事で」


「ごめん……な……さい。迷惑かけて……」



  美那は全身ずぶ濡れ状態で意識が朦朧としながら返事をすると、夏都はすくい上げてお姫様だっこをする。
  怜は傍で様子を見届けると、捜索に着手している教師の元へ向かって発見の知らせをした。


  夏都が水を滴らせながら美那を抱っこしたままホテルに向かうと、怜は後を追って声をかけようとするが……。
  申し訳なさとやるせなさで声をかける事が出来ない。

  一方、ホテルのロビーで美那の無事を祈っていた澪は、そんな怜の姿を見て恋の本気度を知った。

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