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第一章
7.理玖
しおりを挟むーーある日の朝。
愛里紗は通勤通学ラッシュの時間帯で最寄り駅構内でホームに向かっていると、改札を越えたところで人と肩がぶつかった。
ドンッ……
「痛っっ……」
衝撃によって手離してしまったファスナー全開のカバンの中身がコンクリートの床に散乱した挙句、派手に尻もちをついた。
すると、ぶつかってきた男性は背後から速やかに声をかける。
「ごめんなさい、大丈夫でしたか?」
人々が行き交う階段脇で視線が集中する中、愛里紗は焦りながら散らばった荷物を手早くかき集めながら言った。
「あっ、はい。でも荷物が……」
頭頂部で返事をしながら荷物をカバンの中に突っ込んだ。
すると、ぶつかった相手も背中合わせで散乱した荷物を一緒に拾い始める。
全て回収し終えると、彼は教科書やノートをトントンと床で綺麗に揃えてから、しゃがんでいる愛里紗の目の前に立って拾った荷物を差し出した。
愛里紗は男性の足元が視界に入ると顔を見上げる。
「よそ見をしていてすみませんでした」
「こちらこそボーッとしていて、ごめんなさ……」
愛里紗が男性の姿を目に映した瞬間、言葉を失った。
何故ならそこには……。
ツンツンと乱雑にスタイリングしてある茶髪。
耳にはシルバーリングのピアス。
目は大きくてパッチリ二重。
スッと通った鼻筋。
手入れがしてあるキリリとした眉。
透き通ったキメ細かい白い肌。
そして、紺のブレザーにエンジ色のネクタイに、グリーンベースのチェックのズボン。
中学三年生の頃に交際していた、元彼の橋本 理玖が立っていたから。
約一年振りに再会して、お互い目が合った瞬間、二人の間の空気が固まった。
お互い高校生の姿を見たのは今日が初めて。
フリーズした口が閉じるまで、およそ20秒の時が刻まれた。
「理玖……」
「愛里紗…………、マジかよ」
家が近所だからいつ会ってもおかしくなかったけど、それが今このタイミングだなんて……。
最悪…………。
彼は昔からイケメンでかなりモテていて、学校ではちょっとした有名人だった。
卒業式の日から音信不通だったせいもあって、何とも言えぬような空気に。
だが、お互いの目線は離さない。
自然消滅後振りの再会。
正直どんな顔で接したらいいか分からないから、早くこの場から立ち去りたかった。
「ごめんっ! 荷物ありがとう」
愛里紗は理玖から荷物を奪い取ると、ザザッと乱雑にカバンの中に放り込んだ。
勢いよく立ち上がって立ち去ろうとして背中を向けた瞬間、理玖はすかさず愛里紗の手首を掴んだ。
「…………っ!」
愛里紗は驚きざまに振り返ると、理玖はムスッと不機嫌な眼差しを向ける。
「お前は全然変わってない」
そう言うと、少し苛立ったように背中を向けてホームへ向かって行った。
それは、衝撃的な再会を迎えてから2分もかからない出来事だった。
『お前は全然変わってない』って、一体どーゆー意味?
この時は言葉の奥にどんな意味が隠されているのかわからなかった。
だけど、何故か心の中でやまびこのようにこだましていた。
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