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第一章

6.悪い噂

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  ーー紫陽花が街中の景色を彩り、蒸し暑さが肌で感じるようになった、6月上旬の朝。

  愛里紗は学校の最寄駅の改札で、背後から元気な声で小学生の頃のアダ名で誰かに呼び止められた。



「おはよー、あーりん。今日から夏服だね!」



  振り向くと予想通り。
  そこには、小学校から高校まで同じ学校に通っている友人ノグの姿が。



「あーりんはいい加減やめてよ。恥ずかしいってば。私達はもう高二なんだし」

「はいはーい、ごめんなさい!  愛里紗さま~。……ところで、もうすぐ中間テストだけど勉強してる?」


「私が二週間も前から勉強すると思う?」

「だよね~。愛里紗が必死に勉強してる姿なんて見た事ないし」


「言ったなー!  さすがにそれは言い過ぎ!」



  通学途中で合流したノグとは、仲良くふざけ合いながらも一緒に登校する事に。
  ノグは話に軌道が乗り始めたところで一息つくと話題をシフトした。



「あのさぁ、愛里紗の親友の駒井さんってどんな人なの?」

「あぁ、咲?」


「うん」

「んー、そうだなぁ。誰に対しても優しくて甘えん坊の妹タイプかな?」


「アタシは駒井さんと一度も話した事がないからよくわからないけど、この前たまたま聞こえちゃったんだ。一組の女子三人組が駒井さんの悪い噂をしててさ」

「何でだろう。誤解があるのかな。咲はすごくいい子なのに……」



  正直、親友の悪い噂を立てられるのは気分が悪い。
  ひょっとしたら咲が可愛いから僻んでるのかな。



  愛里紗は嫌な気分になったが、そこまで深く追求しなかった。
  違うクラスのノグとはそれぞれの下駄箱へ向かう為にバイバイしてその場を離れた。

  教室に到着すると、咲は頬を赤く染めながら駆け寄って来た。



「愛里紗、おはよ!  昨日彼がね……」



  悪い噂を立てられてる事実を知らない咲は、初デート話を幸せそうに報告してきた。


  まるで世の中の幸せを両手いっぱいにかき集めたかのように、目をキラキラと輝かせている。
  きっと、私が想像していたよりも何十倍何百倍も幸せなひと時を過ごしたのだろう。



「そんなに自慢ばかりすると、咲の彼にヤキモチ妬いちゃう!」

「あははっ、愛里紗の事だって負けないくらい大好きだよ。愛里紗の良い所は人一倍お人好しで優しいところ。そんな愛里紗がぜーんぶ、ぜーんぶ大好きなんだもん!」


「ありがとね……。照れるなぁ」

「えへへっ」



  彼氏に取られた感じで子供みたいにヤキモチ妬いちゃったけど、咲は今日もいつもと変わらず私を大切にしてくれる。

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