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第一章
13.夢
しおりを挟む「待って! 行かないで。谷崎くんっ……谷崎くんっ……」
だめ、行かないで。
お願いだから何処にも行かないで。
私を街に残したまま遠い所になんて行かないでよ。
一人ぼっちにしないで……。
ブロロロ………
無情にも愛里紗の願いは届かず。
翔の母親はブレーキを踏む事なく自宅方面へと車を走らせた。
ところが、諦めきれない翔は後部座席の窓から身を乗り出すと、小さくなっていく姿の愛里紗に向かって叫んだ。
「オレハ……カナラズ……アリサヲ……」
ブロロロ……
大雨で声がかき消されてしまったせいか、聞き取れたのはそれが限界だった。
「谷崎くん、遠くに行かないで……。離れたくないよ……」
どんなに泣き叫んでも。
どんなに全力で走っても……。
車は止まることなく、雨のカーテンの奥へと姿を消した。
頬を濡らしている涙は雨粒と判別がつかないほど全身ずぶ濡れに。
でも、そんな事が気にならないほど心は崩壊していた。
愛里紗の母親は、娘に傘を差し出して手で簡単に水滴を払うと、慰めるように肩を抱いて家へと向かった。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
ガバッ………
「谷崎くんっっ!」
悲鳴のように名前を叫んだ直後、興奮したまま勢いよくベッドから起き上がった。
消えてしまった彼を探すように辺りをキョロキョロと見回したけど……。
目の前の光景は、普段と何一つ変わらない高校生現在の自分の部屋。
「また……、あの夢か」
徐々に頭が回転していくと、先ほどまで見ていたのは夢だと判明して、ため息混じりで肩を落とした。
またあの夢を見ていた。
何度も繰り返される、小学六年生の頃の彼とお別れをする夢。
特にラストシーンがリアルに蘇っている。
夢と現実が判別できないほど、当時の事を鮮明に覚えている。
夢を見た時は再び彼に会えるのではないかと淡い期待を抱いてしまう。
でも、夢でも翔くんに会えて嬉しい。
何度も同じ夢を見るという事は、初恋に終わりを告げていないのかもしれない。
……いや、まさかね。
あれからもう何年も経っているのに、まだ恋心を抱いてるだなんて……。
きっと彼は私なんて忘れて、新天地で新生活をスタートさせているに違いない。
愛里紗はうなだれながら目を擦ってベッドから立ち上がると、部屋の扉を開けて洗面所に向かった。
私達は引き裂かれるような別れ方をしたけど、あの時約束していた手紙は未だに届いていない。
きっと、部活や勉強など新生活に忙しい日々を迎えしまったせいで、手紙の事なんて忘れてしまったのだろう。
だから、彼が今どこに住んでいるのか、元気に過ごしているのか、私の事を覚えているかなどの情報が入ってこない。
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