初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
21 / 226
第二章

19.優しい彼

しおりを挟む


「もしかして、誰かに隠されたの?」

「隠されたかどうかはわからない……。だけど、学校に来たら私の上履きだけがなくなっていて……」



  愛里紗は声にならないくらい小さな声で精一杯返事をした。

  すると、翔は履いている上履きを脱いで愛里紗の足に片足ずつ履かせた。
  愛里紗は予想外の行動に驚く。



「これを履いていれば、少しは気分が落ちつくかもしれないから」



  翔の優しさに触れた途端、頬に流れていた涙がピタリと止んだ。
  先程まで翔が履いていた上履きの温もりが足のつま先までじんわり伝わった瞬間、情けなさと申し訳なさで胸いっぱいに。


  翔は愛里紗の足に上履きを履かせ終えると怒りでワナワナと身を震わせながら、クラスメイトに向かって、まるで犯人に言い聞かせるかのように怒鳴り始めた。



「誰だよ、江東の上履き隠した奴は!」



  教室内に声が響き渡ったと同時に緊迫感が生まれた。
  先ほどまで騒々しかった教室内は、一気にシンと静まり返る。

  普段から口数の少ない翔が感情を露わにすると、クラスメイトは不穏な空気に包まれた。



「犯人出て来いよ!  上履きを隠された江東の気持ちになってみろ!  江東がなんか嫌な事をしたのかよ!  早く上履きを返せよ!」



  翔が顔を真っ赤にして感情を顕にしながら怒っていると……。

  ガラッ……


「一体何があったの?」



  廊下を歩いていた担任が翔の声に反応して、顔色を変えながら教室内へ入った。

  教卓前に足を運ばせた担任に、クラスメイトが騒動の事情について説明する。
  すると、それまで凍りついていた教室内は一旦落ち着きを取り戻した。


  生徒達がパラパラと着席している間、担任は職員室から持って来たスリッパを愛里紗に渡した。
  愛里紗は脱いだ上履きを翔に返して言った。



「あのっ……、ありがとう」



  本当は感謝の言葉以上の気持ちが胸に溢れ返っている。
  彼の正義感は、奈落の底に突き落とされた私の心を救い出してくれた。

  一方の翔は、犯人が見つからなかったせいか、納得のいかない様子で愛里紗から上履きを受け取る。



  五時間目はたまたま道徳の授業だった。
  テーマは私の上履きが紛失した件について。

  この事件に関して、生徒達から様々な意見が寄せられた。
  上履きが隠された以外にも、自分でどこかに置き忘れたとか、他の人が履き間違えているとか。

  当然、上履きを隠した犯人が最後まで名乗り出る事は無く、当人の私には煮え切らない一日に。



  ーーでも、翌日。
  無くなっていたはずの上履きが何事もなかったかのように下駄箱内に収まっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...