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第二章
33.恋の灯火
しおりを挟むーー文化祭が近づき、クラスの出し物の制作に取り掛かり始めた。
我がクラスの出し物は、毎年六年生の恒例のお化け屋敷。
六年生の全クラスがお化け屋敷なので、各クラス個性の出し所が勝負に。
私の担当は内装の迷路作り。
床に座って下書きしてある段ボールをらせん状の線になぞってカッターで切っていた。
「こら、そこの男子! ふざけないでちゃんと真面目にやってよ」
真面目に作業に取り組んでいるノグは、作業をサボってゴミくずを投げ合って教室内を走り回る男子に一喝している。
「はいはい。ちゃんとやりますよ~」
注意されて不機嫌になった男子は茶化したようにそう言いながら後ろ歩きしていると、たまたま後ろで作業をしている愛里紗に当り、その反動で右手に持っているカッターの刃が左手の親指付近に当たってしまった。
「いったっ……」
愛里紗は痛みが走るとカッターを手放して左手を覆った。
親指の付け根からは、瞬く間に血がじわりと滲み出てくる。
血を見た瞬間、顔面蒼白に。
迫り来る恐怖で怖くなり思わず悲鳴を上げた。
「キャーッ!」
教室中に愛里紗の声が響き渡った。
すると、クラスメイトは何事かと食い入るように集合してどよめきに包まれる。
愛里紗は顔が真っ青のままカタカタと身体を震わせていると、心配した友達が次々に周りを囲んだ。
「あーりんどうしたの?」
「なになに? 何かあったの?」
次第に親指付近から血が滲み出ているのが遠目で見ても分かるほど赤く染まって広がり始めた。
怪我の様子を目の当たりにした友達は、事態の深刻さに気付く。
「大変! 手を怪我してる。早く保健室に……」
友達が口元を押さえて悲鳴混じりで叫んだ瞬間、合間をくぐり抜けて現れた翔は、ポケットからハンカチを取り出して血が滲み出ている傷口に当てた。
「大丈夫? 落ち着いて。今から保健室に行こう」
「……うん」
翔は怪我をした反対側の右手を握りしめて愛里紗を保健室に連れて行った。
二人が保健室に到着すると、養護教諭は応急処置を施す。
幸い傷口は浅く済み、隣で見守っていた翔は安心したように眉尻を下げた。
「谷崎くん……、ありがとう」
「怪我が大した事なくて良かった」
怪我した瞬間、一番最初に駆けつけてくれた彼。
そういった優しさだって、心に染みるほど嬉しい。
最初は小さかった恋の灯火は、日を追うごとに温かく。
そして深く……。
心の成長と共に、勢いを増してメラメラと燃え上がらせていく。
処置を終えてから教室に戻ると、ぶつかってきた男子が最初に目の前に現れて、申し訳なさそうに「ごめん」と謝ってきた。
後で聞いたら、ノグはぶつかった男子に雷を落として言い聞かせたとか。
勿論悪気はなかったし、直ぐに謝ってくれたから今回の件は目をつぶる事に。
怪我をして痛い思いはしたけど、彼の優しさに触れた貴重な一日になった。
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