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第二章
32.勝手に動いた足
しおりを挟むピピッ……
37度8分
ーー今は自宅の部屋のベッドの中。
目覚めてから身体がだるくてキッチンに下りた際に母親に熱っぽいと伝えたら、一度部屋に戻った私に体温計を持って来てくれた。
熱を計り終えて体温計を見たらやっぱり熱が。
体温計に表示されている数字以上に身体が火照った感じがして節々に痛みを感じる。
「今日は学校を休んでゆっくり身体を休めないとね。先生には電話しておくから」
母はそう言って、朝食後に常備薬を用意してくれた。
薬を飲んでから二階に上るが、熱があるせいか足取りが重い。
家でのんびり寝込んでいる暇じゃないのに。
昨日、相談に乗ってくれた友達に勇気をもらったから、今日学校に行ったら谷崎くんに先日の件を謝ろうと思っていたのに。
母親に言われた通り、大人しく布団に入って枕に頭を埋めても頭痛が治らない。
谷崎くん、まだ怒ってるかな。
あの日の事を謝ったら許してくれるかな?
次第に薬が効いてきたせいか、そのまま意識を失うように昼まで眠った。
その間少しだけ夢を見た。
神社で谷崎くんが鯉に餌をやりながら穏やかな眼差しで微笑んでくれる幸せな夢を……。
ひと眠りしてから枕元の時計を見たら15時半になっていた。
今朝、薬を飲んだ後に眠り込んだ様子。
その間お昼をまたいでいるけど、熱があるせいかお腹は空いていない。
お母さんは眠ってる姿を見て敢えて起こさなかったのかな。
学校……。
普段ならもうとっくに下校している時間だね。
愛里紗は枕元の時計を眺めながらそんな事を考えながら、ゆっくりベッドから起き上がった。
少し眠ったけど元気になった訳じゃない。
頭痛はするし、身体の節々の痛みは治まっていない。
それなのに、どうして外出の準備をしているの。
どうして、お母さんの目を盗んで家を飛び出したの。
どうして、足はいま神社へ向かっているの?
谷崎くんに謝りたい一心だったせいか、体調不良のクセに頭よりも先に身体が動いていた。
気付けば神社へ走り向かっている。
愛里紗が神社の鳥居をくぐり抜けると、翔は普段と変わらぬ様子で池の鯉に餌をあげている。
しかし、学校を休んだ愛里紗が鳥居の向こうからフラフラしながら歩いているところを発見すると、餌やりの手を止めた。
頬がピンク色に染まっている愛里紗は、ボーッとした目つきで翔の前で足を止める。
「谷崎くん……」
「お前……、学校休んだくせにこんな所で何やってるんだよ」
愛里紗は心配の言葉を受け取ると、ホッとする。
谷崎くんは学校を欠席した私が来たから呆れているけど、先日の件は怒ってないみたい。
良かった。
「谷崎くんにどうしても謝りたくて……。この前は気持ちも考えずに暴走しちゃってごめんなさい」
「わざわざそんな事を言いに来たの? 体調が悪いんだから別に今日じゃなくてもいいだろ」
「一日でも早く謝りたくて……。目が覚めた後に気付いたら神社に向かっていたの」
愛里紗は反省心を見せると、翔は表情をフッと和らげた。
「俺の方こそゴメン。怒鳴ったりして悪かったよ」
「ううん……」
愛里紗は瞳から安堵の涙がじわりと浮かぶ。
仲直り出来て良かった。
また以前みたいに神社に来れるかな。
また笑い合える日々を送れるかな。
手の甲で涙を拭う愛里紗に対して翔は照れ臭そうにポリポリと頭を掻く。
「まだ具合良くないだろうし、お前んちまで送るよ」
翔は愛里紗の腕をギュッと掴みながら家まで送った。
家に到着すると、黙って家を出て行ってしまったせいか母親はお冠状態に。
平謝りした後、部屋に戻って倒れこむようにベッドに横になった。
熱や頭痛は辛かったけど、谷崎くんと仲直りする事が出来て本当に良かった。
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