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第二章
37.告白
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チャンスは今しかない。
今さら引き下がれないし、引き下がるつもりもない。
愛里紗は指先の色が変わるほどギュッと拳を強く握りしめて嘘偽りない気持ちと向き合う。
恋を育んできたこの神社という特別な場所を選び、今日まで一日も欠かさず温めてきた恋心を思い切って伝える事に。
「私、谷崎くんが好きっ!」
「えっ……」
告白がストレートに届けられると、翔は大きな目を更に見開いた。
しかし、思い切って気持ちを伝えたところまでは良かったが、翔の驚愕している表情を見た瞬間、良からぬ考えが脳裏を過ぎった。
神社で二人きりで過ごす事が当たり前になって、過ぎ行く日々と共に恋心を育んで幸せを噛み締めていた。
それは、お金には変えられないくらい価値がある時間。
だけど、逆読みすると大事なものを一瞬にして失ってしまうリスクがあった。
もし告白が失敗してしまったら、友達関係すら厳しくなってしまうだろう。
告白に後悔はない。
ただ、失敗する事を考えたら。
二人の関係がこの瞬間に崩れてしまったらと思ったら急に怖くなった。
愛里紗は不安のあまり俯き加減で瞳に涙を浮かべた。
いま少しでも顔を動かしたら涙が溢れてしまいそうなくらい。
ところが、そんな胸中など知らない翔は、愛里紗にそっと顔を近づけて上目遣いで顔を覗き込んだ。
「ありがとう。嬉しいよ。俺もずっとお前が好きだったから」
まるで太陽のように温かい笑顔で愛里紗にニコリと微笑んだ。
それまで感情の渦に巻き込まれていた愛里紗だが、翔の優しい表情を見た瞬間、全身の力がフッと抜けた。
「えっ………」
愛里紗は聞き間違いじゃないかと思い、聞き返した。
だが、翔は無言でコクンと頷く。
「俺、お前が転校してきた時から気になってたんだ。話してみたいなって思った時、ちょうど神社に来てくれて……」
愛里紗は信じられない気持ちに包まれながらも、震える唇を手元で押さえながら翔の話に耳を傾けた。
「気付いたら目で追ってた。でも、それに気付いたのは最近だけどね」
「谷崎くん……」
翔の気持ちが次々と明かされていくと、愛里紗は緊張の糸がほぐれてしまったせいか、瞳に溜まっていた大粒の涙が頬を伝った。
すると、翔はオロオロと戸惑う。
「泣くなよ」
「……ゴメン」
「お前が握ってくれたおにぎり、めちゃくちゃうまかったよ。……マジで」
「うん」
人生で最も幸せな瞬間なのに涙が邪魔して視界がぼやけている。
好きな人に思いが伝わるって、こんなに幸せなんだね。
翔はほうきとチリトリを地面に置いて、ズボンのポケットをガサゴソと漁ってみたが、ハンカチは見当たらない。
涙を拭うものがないかと考えた結果、ジャンパーの袖を伸ばして愛里紗の涙を拭き始めた。
「泣いてる顔より、笑った顔の方が好きだよ」
と言って、袖口からフワリと香りを漂わせた。
彼と結ばれたこの瞬間、どうしようもないほど嬉しくて幸せで、溢れんばかりの涙が止まらなかった。
こうして、私達はクリスマスイブの日に恋人として始まりを迎えた。
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