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第二章
39.照れ笑い
しおりを挟む午後、自宅で昼食を済ませてから彼と神社の鳥居下で待ち合わせた。
午前と比べて気温が一層下がって、しっとりと頬に吹き付ける風に痛みを感じる。
傘に積もる雪を傘の内側から指で弾き落とし、シャリシャリした雪を長靴で踏みつけて自分なりに満喫しながら神社へ向かった。
先に到着していた彼は、真っ白な雪景色に包まれて腕を組んで寒々と身体を揺れ動かしながら鳥居の下で待っている。
赤く染まった鼻頭と頬は長く待っていた証拠。
彼の元へ一心不乱で走り行く私。
降りしきる雪なんて視界の外。
彼は雪をザッザッと踏みつけながら駆け寄る足音に気付くと、持っている傘をグルリと傾けた。
「ゴメン、待たせちゃった?」
「そんなに待っていないよ」
最も恋人らしい会話にちょっとばかし照れ臭い。
普段通りに振舞ったのに、恋人になってから恥ずかしくてお互いの顔を直視できないし、些細な会話でもドキドキして寒さなんて忘れちゃう。
頭いっぱい胸いっぱいだけど、彼の赤く悴んだ手を見て本来の目的を思い出した。
「今日、谷崎くんの誕生日でしょ?」
「知ってたの?」
驚くのも無理はない。
何故なら彼は誕生日の話を一度も口にしなかったから。
私は彼が気になるようになってから、無意識に彼に関する情報を嗅ぎ回っていた。
雪で濡れぬように被せてきたビニール袋の中から、お年玉で買ったプレゼントを取り出して、右手で風を切るように真っ直ぐ向けた。
「あのね。全然大したものじゃないんだけど……。これ、誕生日プレゼント」
口元が緩むほど恥ずかしくて直視できなかったから、つむじを向け手をギリギリまで伸ばしてプレゼントを差し出した。
すると、彼はプレゼントを受け取り、私は手から離れる感触で下げていた頭を上げる。
彼は傘を首で支えて袋のリボンをスルスルとほどいて包み袋を開けた。
中からは、紺色で手の甲の部分に白く結晶の模様の入った手袋が顔を覗かせる。
手袋を手にした途端、瞳をキラキラと輝かせた。
「嬉しい! ありがとう」
彼は手袋をはめて嬉しそうに眺めたり、両手をこすったり、手袋に白い息を吐いたりして、髪に雪がかかってる事に気付かないほど新しい手袋に夢中になっていた。
プレゼントを喜んでくれている姿を見たら、自分もつい嬉しくなって頬が緩んだ。
賑やかな二人に気付いた神社のおじいさんは、本殿側から雪道をゆっくり踏みしめて二人の方へ近付く。
「外は寒いから中で甘酒でも飲んで温まりなさい」
「はーい」
「谷崎くん、寒いから早くおじいさんちに行こう!」
外は震え上がるほど寒かったけど、照れ笑いをしている私達にはいつも以上に暖かく感じた。
ところが、二人の温かくて幸せな日々は長くは続かず、お別れの日は無残にも刻一刻と迫っていた。
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